【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇   作:スターダイヤモンド

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部長の憂鬱

 

 

 

「あの…その前に…」

 

自分の気持ちを伝える前に、聴いておきたいことがあった。

 

「花陽先輩こそ、どうしてここにいるんですか?」

 

 

 

「へっ?私?」

 

 

 

「だって、いくらアイドル研究部が好きだからって…さすがに…」

 

私は…部活が休みでも『先輩はきっといる!』…という確信はあった。

でも…『何をしに来ているのか』…という答えは見つからないでいた。

 

『それが花陽先輩だから』…では、やっぱり漠然としすぎだ。

 

 

 

「あはっ、そうだよねぇ…バカみたいだよね?よっぽどヒマみたいで…」

 

「いえ、そんなことは言ってないですけど…」

 

 

 

「私はね…反省会をしてたの」

 

 

 

「えっ!?反省会?」

 

 

 

「どうして、雪穂ちゃんたちを、本大会に導けなかったんだろう…って。勝ち上がったチームの映像をチェックして、雪穂ちゃんたちに何が足りなかったんだろう…って」

 

 

 

「…先…輩…」

 

 

 

「ごめんね、情けない部長で。雪穂ちゃんたちの実力なら、絶対に行ける!って思ってたのに…」

 

 

 

まさかの理由だった。

 

 

 

どう考えても、私たちの力不足だ。

花陽先輩の責任なんかじゃない。

 

 

 

それなのに…

 

 

 

「だけど…ごめんね…わからないの…」

 

「えっ!?…」

 

「やっぱり…冷静な分析ができなくて…どうしても身贔屓しちゃうんだよね……」

 

「そ、そんな…謝らないでください!私たちが本大会に進めなかった理由なんて、自分が一番わかってます!私たちはただ単に、実力がなかっただけで…」

 

「そんなことないよ!!」

 

「先輩…」

 

「そんなことない!…雪穂ちゃんも亜里沙ちゃんも、最高のパフォーマンスだったよ!…だって…手応え…あったでしょ?」

 

「…えぇ…それは…まぁ…やるだけやったというのはありますけど…」

 

「だけど…もし…もし今回の結果に理由を付けるなら…『音ノ木坂のスクールアイドル』ってことで、周りがハードルを上げすぎちゃったのかな…って…それは少し思うんだ」

 

「あっ…」

 

「これが他校のスクールアイドルだったら…文句なくトップ通過だったんじゃないかな…って。もう1チームも音ノ木坂じゃなかったら、最終予選までは進めたんじゃないか…って」

 

 

 

「…」

 

私は言葉が出なかった。

 

 

 

それはずっと感じていたこと。

 

 

 

もちろん覚悟はしていた。

 

もう1チームのことはさておき、この道に進んだ以上、どうしても『μ'sメンバーの妹』という『フィルター』を通して見られるのは仕方ないことだと思っていた。

 

それが、同級生の部員との距離が縮められなかった原因でもあるし…どこに行っても、何をやっても…まずお姉ちゃんたちと比較される。

 

まったく別の人格であるにも関わらず、私たちに求められたのは、やはり『姉のコピー』だった。

ネットなんかでも、散々「なんか違うんだよなぁ」的な言葉が並んだ。

 

私はわりとそうでもなかったけど、亜里沙は…お姉ちゃんが絵里さんだったから、そのギャップに相当苦しめられた。

 

 

 

絵里さんは、絵里さん。

亜里沙は亜里沙…。

 

 

 

それなりに私の個性を認めてくれて、ファンは付いたけど…μ'sのファンからはなかなか認めて貰えなかった。

 

そこで、先輩たちは…そのイメージを払拭すべく『ほぼ真反対の』キャラクター付け、楽曲、衣装…をプロデュースしてくれた。

 

最初は、なかなかその方向性を受け入れて貰えなかったけど…徐々にファンも増えていき…ついには最終予選まで勝ち上がれたんだ。

 

私には、そこまでのことをしてくれた先輩たちに感謝すらしても、文句を言う筋合いなどない。

 

 

 

「花陽先輩…」

 

「…」

 

「亜里沙も私も…自分で選んだ道だから、そのことについては後悔してないですよ。だから、もう…それは忘れてください」

 

 

 

「ごめんね…私がしっかりしてれば…」

 

 

 

「もう…先輩…謝り…すぎ…で…す…」

 

どうして、この人は、こんなに優しいのだろう…。

 

先輩の言葉に、思わず涙がこぼれた。

敗退が決まっても、泣きじゃくる亜里沙を見ても…お姉ちゃんに励ましの言葉を掛けられても…ガマンできてたのに…。

 

自分の事を犠牲にして、常に私たちのことを気に掛けてくれたのは、先輩なんだから…。

 

 

 

「…雪穂ちゃん…」

 

「ははは…おかしいですよね…私が泣くの…」

 

「…ううん…」

 

「あ、あのね…雪穂ちゃん…」

 

「は、はい…」

 

「私ね…もうひとつ、謝らなきゃいけないことがあるの…」

 

「ないです!」

 

「えっ?」

 

「先輩が謝らなくちゃいけないことなんて、何ひとつないです!」

 

「雪穂ちゃん…」

 

「だから、そんな悲しい顔をするのはやめてください!」

 

「う、うん…」

 

「あ、すみません、生意気なことを…」

 

「ううん…。じゃあ、謝らないから…ひとつだけ、いいかな?」

 

「?」

 

「μ'sが解散してから、穂乃果ちゃんたち3年生も、私たち2年生も…ステージに立つことはなかったでしょ?」

 

「は…い…」

 

「それがどうだったのかな…本当に良かったのかな?って」

 

「…それは…」

 

「にこちゃん達にはスクールアイドルを続ける!って誓ったのにね」

 

「後悔…してるんですか?」

 

「後悔か…それがよくわかんないんだよね…でも…」

 

「…でも?…」

 

「雪穂ちゃんたちと一緒にステージに立ってあげられなかったことが…どうだったんだろう…って」

 

「…えっと…」

 

「そもそも雪穂ちゃんたちと、他の3人と別々にしちゃったことだって、正しかったのかどうか、わからなくて…」

 

「…」

 

「ダメな…部長だな…って…」

 

 

 

「どうして…どうしてそんなことを言うんですか?」

 

 

 

「?」

 

 

 

「花陽先輩が部長でいてくれて、良かったです!」

 

 

 

「雪穂ちゃん…」

 

 

 

「当たり前です!花陽先輩以外、あり得ないです!」

 

 

 

「…優しいね…」

 

 

 

「な、なに言ってるですか…私が優しいだなんて…」

 

花陽先輩に『優しい』だなんて…そんなことを言われるのはおかしい。

 

私は、先輩がいなかったら…恐らくスクールアイドルを続けることができなかったのだから。

 

先輩の優しさ、気配りにどれほど救われてきたことか…。

 

 

 

今日、私はそのことを伝えに来たんだ。

 

そして…

 

もっと大切なことを。

 

 

 

そう思った瞬間『無情にも』部室の扉が開いた。

 

 

 

 

 

それは…私にとって招かざる人々の登場だった…。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

この作品の内容について

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