【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇   作:スターダイヤモンド

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ふたりの先輩

 

 

 

「かよち~ん!」

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

「ほらね!凛の言った通りにゃ」

 

「私だって、ここだと思ってたわよ」

 

 

 

部室にやってきたのは、凛先輩と真姫先輩。

 

私と先輩の…ふたりだけの時間…を邪魔する『無粋なコンビ』。

 

 

 

「凛が遊びに誘ったら『用があるから』って断った…って言うから」

 

「学校に行ったんじゃないかな…って思ったにゃ~」

 

「それでここに来てみれば、案の定…」

 

「さすが凛ちゃんと真姫ちゃんだね…」

と花陽先輩は恥ずかしそうに、笑みをこぼした。

 

「まったく…休みの日くらい、ちゃんと休みなさいよ」

 

真姫先輩はそう言って、ひとつため息をつく。

怒っているというか、呆れているというか…でも、どこか微笑んでいるようにも見えた。

 

「そうにゃ!そうにゃ!」

 

「うん…ありがとう…」

 

「何をしに来たかは敢えて訊かないけど…最終予選のビデオチェックってとこかしら?…あ、これ差し入れ」

 

「シュークリームにゃ!」

 

「えっ!いいの?…うわぁ!これ、新しくオープンしたお店のでしょ?わざわざ買ってきてくれたの?」

 

「べ、別に…わざわざ…花陽の為ってわけじゃ…」

 

「差し入れ…ってそういう意味じゃないのかにゃ?」

 

凛先輩のツッコミに

「い、いいのよ、余計なことを言わなくても!」

と照れる真姫先輩。

 

私たち後輩には…皆無ではないけど…あまりこういう表情は見せない。

そもそも、真姫先輩を茶化せるような人なんていないもん。

 

 

 

「あ、それなら、お茶入れるね!」

と花陽先輩が席を立った。

 

部長であっても、真っ先にこういうことに気が付くのが先輩だ。

いや逆に『お茶入れは先輩の専売特許』みたいになってるフシがある。

 

 

 

それじゃいけない!

 

 

 

「あっ!わ、私がやります!」

 

「いいよ、雪穂ちゃんは座ってて!」

 

「でも、先輩にやらせる訳には…」

 

 

 

「あっ、雪穂ちゃんも来てたんだ…」

 

「あら…」

 

 

 

「こ、こんにちわ…」

 

先輩ふたりは、ここにきて、ようやく私の存在に気付いたみたい。

先客は私なのに、何故か気まずくなって

「あっ…私もたまたま『部室に』用があって…」

とか、言い訳めいたことを言ってしまう。

 

 

 

でも、私の言葉はたいして気にも留めなかったようで

「そう…ちょうど良かったわ」

と真姫先輩が呟く。

 

その意味は…どうやら『それ』を花陽先輩の為に『多く買ってきた』…ということだったらしく、その流れで私もご相伴にあずかることになった。

 

もちろん、遠慮はしたけど、場の雰囲気を壊すのもイヤだから…。

私もそれなりに、気は遣っているんだ。

 

 

 

「はい、どうぞ!」

と先輩が湯飲みにお茶を注ぎ、3人に配ってくれる。

 

私も和菓子屋の娘だから『その辺りのこと』は、結構『厳しい』のだが、先輩の淹れてくれるお茶は、いつも美味しい。

熱すぎず、温すぎず…お茶の薫りと甘味を絶妙に引き出している。

 

だから…というわけじゃないんだろうけど、前の代から『お茶入れは花陽先輩』っていうのが、習慣付いたらしい。

 

 

 

「やっぱり、花陽のお茶を飲むとホッとするわね」

 

「そうかな?それは、外が寒ったからじゃないかな?」

なんて先輩は謙遜するけど、私も真姫先輩と同意見だ。

 

それはきっと、お茶を飲むという動作以外に

「美味しいね!美味しいね!」

を連発して、幸せそうに食べる先輩の顔が見られるからだ。

 

その表情を見ていると、微笑ましいというか…自然にこっちの心まで穏やかになる。

お姉ちゃんがパンをムシャムシャと頬張っていても、こんな気分にはならない。

やっぱり、先輩は特別な力を持っているんだ。

 

 

 

「それで…どう…少しは落ち着いた?」

 

ひとしきり、ティータイムが終わると、真姫先輩が私に訊いてきた。

 

 

 

一応、心配はしてくれてるらしい。

 

いや、それはあまりに失礼か…。

『捻くれてるのは、私』なんだから。

 

 

 

「はい…私はそこまで、落ち込んでないので…。どっちかと言えば、亜里沙の方が…」

 

「亜里沙…号泣してたものね…」

 

「そっかぁ…。明日か明後日、1年生全員と『残念会』を、やろうと思ってるんだけど…無理そうかにゃ?」

 

「残念会…ですか…」

 

「みんなでラーメン食べに行こうと思ってるにゃ!」

 

「私は別に…ラーメンじゃなくても、いいんだけど…」

 

「じゃあ、真姫ちゃんちで、パーティーするにゃ!」

 

「なんで、私の家なのよ!」

 

「大きいからにゃ」

 

「意味、わかんない…」

 

「あはは…真姫ちゃんと凛ちゃんは、いつも通りだね」

 

「花陽?」

 

「ん?…あ…なんでもない…」

 

「言いたいことはわかるけど…私たちが落ち込んでても、しかたないでしょ!」

 

「うん!その方が花陽も助かるよ」

 

 

 

そう、先輩たちは何ひとつ、変わらない。

私が入部する前から、ずっとこんな感じだった。

 

 

 

その中に、割って入ろうとしているのは…私。

 

 

 

正直、先輩たちに『恨み』など一切ない。

だけど、こういうシチュエーションが訪れる度に、一瞬にして『憎悪の念』のようなものが、私の中に沸き上がる。

 

アウェー感に襲われる…とでも言うのかな?

居心地が悪くなって、逃げ出したくなるんだ…。

 

 

 

「で、かよちんはどうするにゃ?」

 

「残念会?」

 

「うん」

 

「花陽もそれは考えていたんだけど…まだ、そんな気分にならない…っていうか…」

 

「アナタがそんなことで、どうするのよ?」

 

「そうにゃ!もう、終わったことだよ。気持ちを切り替えないとダメにゃ!」

 

「うん、そうだね…ごめん…」

 

「雪穂ちゃんは、どうにゃ?」

 

「えっ?…私はもちろん、構わないですけど…」

 

「じゃあ、亜里沙たちに連絡お願いね。詳細はあとで伝えるわ」

 

「は、はい…」

 

「あっ、それなら…明後日にしてもらっていい?」

と花陽先輩。

 

「別に構わないけど…」

 

「明日は…にこちゃんと一緒に出掛ける予定があって…」

 

「アナタも忙しいわね…」

 

「えへへ…」

 

「先週は希ちゃんとデートしてたにゃ」

 

「デートだなんて…一緒に焼き肉を食べに行っただけだよ!」

 

「ちなみに今日、このあとは?」

 

「えっと…ことりちゃんに誘われています…」

 

「かよちん、引っ張りだこにゃ!」

 

「本当、モテる女はツラいわね…」

 

「そんなことないけど…」

 

 

 

そう、現役のことりちゃんはまだしも、引退したにこさんも、希さんも花陽先輩を引っ張り廻している。

先輩は人が好いから、どんなに忙しくても断れないんだ。

 

余計なお世話かもしれない。

 

でも、このままだと、いつか先輩が倒れちゃうんじゃないかと不安になる。

 

それを止められるのは、私しかいない。

 

そう思ってた。

 

 

 

花陽先輩はタフだ。

そのパワーの源が、並外れた食事の量と、それに負けないくらいのアイドルへの情熱だということはわかっている。

 

それでも朝、5時半には起きて、自分のお弁当を作っているというし、部活が終わったあとも、先輩たちの打ち合わせで忙しい。

 

休日だって、卒業生とデートしたり、私たちの知らないところで学校に出てきて、部活をしていたりする。

 

ステージには立たなくなったけど、定期的に自主トレもしていて、プロポーションの維持にも努めてるみたいだ。

 

 

 

本当にこの人はいつ休んでるんだろう…と思う。

 

 

 

時には、私たち1年生との食事に付き合ってくれたりもする。

というより、これは亜里沙以外の3人が誘うことが多いんだけど…。

 

私は「そんな、先輩だって忙しいんだから、迷惑だよ」なんて注意するけど

「雪穂も亜里沙もお姉さんがμ'sなんだから、いつでもお話しできるでしょ?私たちはそういう訳にはいかないんだから…」

なんて、反論されると返す言葉がない。

 

私は至極、まっとうな事を言っているつもりだけど、何%かは…いや、半分以上は嫉妬も入っている。

私はそんなに簡単に、先輩を食事に誘うなんてできないんだから。

 

もちろん花陽先輩は、私のそんな気持ちなど知らぬまま、困った顔もせず、街へと繰り出していく。

 

 

 

でも、そんな日の夜は必ず先輩からLINEにメッセージが届く。

 

『心配してくれて、ありがとう』って。

 

ただ、それだけだけど…私の嫉妬心は、このメッセージひとつで吹き飛んでいく。

 

だって、それは唯一、先輩が私だけにくれた言葉。

大切な、大切なプレゼントなのだから…。

 

そして、その日はなんとも言えない優越感に浸りながら、眠りに就くのだった。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

この作品の内容について

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