【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇 作:スターダイヤモンド
「さて、そろそろ私たちは帰るけど…花陽はまだいるの?」
私が回想している間に、お茶を済ませた真姫先輩が立ち上がった。
「うん…もう少し…。色々、思うところがあって…」
「凛でよかったら、相談に乗るよ!」
「うん、ありがとう」
「そうね。あんまり無理しないで。あなたの悩みなら、みんな親身になって聴いてくれるだろうから…」
「うん…」
「…私を頼ってくれても…いいのよ…」
真姫先輩は小さな声でボソッと言ったあと、顔を真っ赤にした。
「真姫ちゃん、なに照れてるにゃ?」
「べ、別に…照れてないから!ちょっと、身体に熱が入って、熱くなっただけ!そんなことより、凛、行くわよ!」
「ふたりはこれから、どこに行くの?」
「勉強よ、勉強!花陽がいればどこか行こうかと思ったんだけど…」
「真姫ちゃんに拉致監禁されるにゃ…」
「そんな言い方ある?私だってヒマじゃないんだけど…」
「だから、かよちんに教えてもらうから…」
「凛!!」
「にゃっ!?」
「いい加減、怒るわよ!花陽にこれ以上負担を掛けないって約束したじゃない!」
「うぅ…それはそうなんだけど…」
「それとも、来年、雪穂と同級生になる?」
「それは…」
「凛ちゃん、ごめんね…」
「あなたが謝ることじゃないの!これは凛の問題なんだから!」
「ははは…そういうわけで…行ってくるにゃ…」
「う、うん、頑張って!」
こうして凛先輩は、真姫先輩に引き摺られるようにして、部室を出ていった。
…まったく、どうしようもない先輩だ…
そのやり取りを見て、ちょっと苦笑いをしてしまった。
それは私が幼い頃から見てきた光景が、オーバーラップしたから。
今のシーンはまるで、お姉ちゃんたちの日常そのものだった。
お姉ちゃんが、凛先輩。
お姉ちゃんを甘やかすことりちゃんが、花陽先輩。
お姉ちゃんを厳しく管理してくれる海未ちゃんが、真姫先輩。
ほらね。
まったく違和感がないでしょ?
最近は目が慣れてきたから、言われることは少なくなったけど、少し前までは、結構『お姉ちゃんと凛先輩って容姿が似てる』って言われてたんだよね…。
そんなグータラな性格まで似なくてもいいのに!
だからこそ…
凛先輩を見ていると、ときどきイラッとしてしまう。
花陽先輩に依存しすぎだから。
「お願いだから、先輩に迷惑を掛けるのはやめて!」…なんて思ってるのは、私のひとりよがり?
先輩はそんなこと、これっぽっちも思ってないかも知れない。
ううん、そんな風に考えてたら先輩じゃない。
だからこそ、周りが気が付いてあげなきゃいけないのに。
「…ちゃん?…」
「?」
「雪穂ちゃん?」
「えっ?…あっ、はい!」
「そういえば、さっき私に話があるって…」
「あっ…えっと…」
…今日こそ伝えなきゃ!って思って家を出てきたけど…
…さっきのふたりに水を挿されたというか…
…やっぱり…
「あ、あの…勉強を教えてもらおうかと思って…」
「へっ?私に?」
「お姉ちゃんはあの通りだし…っていうか、今、海未ちゃんに教えてもらってる立場だから…」
「えっと、それなら真姫ちゃんの方が適任だと思うけど…さっき一緒にお願いすればよかったのに」
「そ、そうですね…。でも、私が先に声を掛けたのは先輩だったから…あっ、でも、このあと、ことりちゃんと出掛けるんですよね?だったらいいです。またにします」
「…う~ん…そうしたら、一緒に来ない?用が済んだら、私もことりちゃんに教えてもらうから」
「いいです!いいです!そうまでしてすることじゃないですから!…あ、あぁっ!…今日、店番頼まれてたんだ!帰らなくちゃ…じゃ、じゃあ、そういうわけで…失礼しま~す!!」
「えっ、雪穂ちゃん!?」
逃げて来ちゃった。
…はぁ…
…自己嫌悪…
こんなことしたら、また心配掛けちゃうじゃない。
…もう…
…バカなんだから…
でも、先輩も酷なことを言うなぁ。
花陽先輩とことりちゃんと一緒に勉強だなんて、あんな『ぷわぷわ』した空間にいられるわけないじゃないですか!
…だけど…
先輩とふたりきりなら『ぷわぷわ~お』したいです!
そうしたら、あんなことしてもらって…こんなことしてもらって…
むふっ!
「あら!?雪穂じゃない!」
「!?…え、絵里さん!?」
「どうしたの?ニヤニヤしちゃって?」
「ふぇ?そ、そんな顔してました?」
「うん、すごく幸せそうだったわ」
「…えっと…えっと…気のせいです!」
「?」
「それより、亜里沙はどんな感じですか?」
「ありがとう、だいぶ落ち着いたわ…。ごめんなさいね、心配掛けて…」
「いえ、当然のことですから。むしろ、そうならない、私の方がおかしいんだと思います」
「そんなことないわよ。亜里沙はちょっと入れ込みすぎただけだから」
「ピュアなんですよね」
「世間知らずなのよ…」
「そんなこと…なくはないか…」
「ふふふ…雪穂は正直ね」
「あ、すみません」
「いいのよ…あなたが傍にいてくれてるから、コンビでバランス取れてるんだと思うし…」
「ははは…そうですね…」
亜里沙の部屋には数えきれないほど行っているし、絵里さんともその度に顔を会わせるけど、こんな風にふたりだけで道を歩いたことはない。
少し新鮮な感じだ。
「あっ!そうだ。今から、少し、お伺いしてもいいですか?」
「うちに?別に構わないけど…」
「先輩たちが明後日、残念会を開催してくれるっていうから、その事を伝えようと思って」
「残念会?」
「さっき、部室に凛先輩と真姫先輩が来て、そんな話を…」
「あら?今日練習あったの?」
「いえ、実は…」
と私はさっきまでの出来事を説明した。
「なるほど、そういうこと…。うん、じゃあ、一緒に行きましょ!私もいた方が話し易いでしょ?」
「はい、お願いします…。えっと…絵里さんはどこかの帰りですか?」
「えぇ、ちょっとチョコレートを買いに」
「チョコレート…ですか?」
「ふふふ…」
「そういえば亜里沙がよく言っていますね。『お姉ちゃんは美味しいチョコレートの為なら、どこまでも出掛けていく』って」
「うふっ…恥ずかしいわ」
「いえ、絵里さんっぽいかと」
「私っぽい?」
「チョコレートってところが、可愛いっていうかなんていうか…絵里さんの雰囲気に合ってるかな…って」
「そんなことないわよ」
「いつでも、どこでもパンを咥えてるお姉ちゃんとは大違いです」
「穂乃果は穂乃果でいいところがあるじゃない」
「え~!お姉ちゃんのいいところですかぁ?」
「えぇ」
「例えば?」
絵里さんは、少し考えてから
「ないわね…」
と答え。
「ですよね!」
「…なんて…嘘よ」
と笑った。
「はぁ…」
「穂乃果がいなかったら、今の私はいないんだから…あの娘には感謝しかないわ」
「お姉ちゃんに感謝しか…か…。みんなそう言ってくれるけど、妹としてはいまだ信じられないです」
「まぁ、そこは姉妹だし、難しいところよね。わかるわ」
「でも、亜里沙と絵里さんはそんなことないですよね?」
「あるわよ。やっぱり、姉妹だもの…色々…」
「あるんですか?」
「私は穂乃果と違って、直接、見てあげられないから…つい、心配になって、アレコレと口出ししちゃうのよね」
「お姉ちゃんも、生徒会と勉強が忙しくて、部活に顔を出さないですけどね」
「それについては、私に責任があるわ。生徒会長のあとを押し付けちゃったから」
「出来もしないのに安請け合いするのがいけないんです」
「雪穂は、本当に穂乃果に厳しいのね…」
「μ'sのリーダーじゃなかったら、絶縁してたかもしれません」
「はぁ…冗談でも、そういうことは言わないでほしいわ」
「絵里さん…」
「穂乃果は穂乃果で、あなたのことはかなり気を遣ってるわよ…」
「…それは…わかってますけど…どうしても素直になれないっていうか…」
「わかるけど…だからって、ことあるごとに『花陽先輩がお姉ちゃんだったらな』って言うのもやめなさい」
「あっ…」
「穂乃果が知ったら、傷付くわよ。落ち込むときは、とことん落ち込むタイプなのは、あなたが一番知ってるでしょ」
「…」
「まぁ、花陽には本当に頭が上がらないのは、その通りなんだけど」
「えっ?」
「よく、纏めてくれてると思うわ」
「は、はい!」
「初めて会った頃は…私とも距離があって…ううん…私がそれを縮めることができなかったんだけど…」
「みんな怖がってましたから」
「ふふふ…」
「あ!…えっと…今のは…その…聴かなかったことにしてください!」
「そういうところは、穂乃果に似てるわね」
「すみません…」
…恥ずかしい…
「いいのよ、事実だから」
「うぅ…」
「でも、あの花陽が、まさか、ここまでタフに成長するとは思わなかったわ」
「はい、本当にタフなんです。今日だって、休みなのに…」
「そうね…。まぁ、あの娘から、アイドルとお米を取ったら死んじゃうかも知れないから、本人が楽しんでるなら、それでいいんじゃないかと思うけど…」
「はぁ…まぁ…」
「でも、無理は禁物ね」
「そう、それなんです!」
私は、つい声が声が大きくなってしまった…。
「えっ!」
「あっ…いや…」
「花陽になにかあったの?」
絵里さんの目が、急に不安げになった。
「…いえ…先輩は至って普通です!なんにも変わらないですよ!なんにも…」
「そう…。なにかあったら、必ず伝えて!」
「は、はい…もちろんです」
「まぁ、あの娘には、凛も真姫もいるし…にこも希も気に掛けてるみたいだから、大丈夫だと思うけど…」
すごく複雑な気分…。
私の先輩…。
みんなに愛されてるのは嬉しいけど…だからこそ、それが嫌なの。
「どうか…した?」
「…いえ…」
「雪穂…あなた、なにか悩んでる?」
「いえ、いえ…」
「いいのよ、なにかあったら頼ってくれて…」
「あ、大丈夫です!」
「その断り方はないんじゃない?…どうせ、あなたも『ポンコツエリーチカ』だと思ってるんでしょ」
「わっ!違います、違います!そういう意味じゃ。お姉ちゃんに比べれば、絵里さんなんて全然…」
「…ってことは、少しは思ってるんじゃない…」
「あ…うぅ…それは…『お茶目だ』…っていうことで…」
困ってる私を見て…ぷっ…と絵里さんは笑った…。
~つづく~
この作品の内容について
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