【ラブライブ μ's物語 Vol.3】 雪の中の闇   作:スターダイヤモンド

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寒いけど、暑くて…

 

 

 

 

 

お母さんが材料を奮発したというお鍋。

確かにいつも以上に豪勢な具が並んでいた。

 

お姉ちゃんは

「それだったら、毎食、花陽ちゃんに来てもらえばいいよね?」

なんて同意を求めてきた。

 

「う、うん!そうだね」

 

私は首を縦に振った。

 

 

 

別にお鍋の具材がどう…とか、そんなことは関係ない。

ただ単純に、私は先輩の傍にずっといたい…それだけ。

毎日、一緒に食事ができたなら、こんな素敵なことはない。

もちろん、そんなことは叶わぬ夢…。

 

いや、今、ここに先輩がいることだけでも奇跡だ。

贅沢なこと。

お母さん、いい仕事でしたよ!

 

 

 

お姉ちゃんは、久々に先輩と時間を共にすることができて、テンションが高くなっちゃったみたいで、食事中、一方的に喋っていた。

 

話してる内容は…私からすればどうでもいいようなことだけど…先輩はそれを優しい表情で見守っていて…でも、しっかり胃の中に大量のご飯が消えていくのは、ご愛嬌。

 

 

 

…そういえば花陽先輩…お姉ちゃんとも仲がいいんだった…

 

 

 

昨年の合宿でことりちゃんと一緒に衣装班となって…それがきっかけで3人でユニット作ったり…海未ちゃんに2人で強制ダイエットさせられてたり…。

 

 

 

…しまった!!…

 

…敵は身内にいた…

 

 

 

…凛先輩、真姫先輩、ことりちゃん、にこさん、希さん…

 

…私がケアするべき人物がひとり増えた…

 

 

 

…あっ、そういえば…

 

…海未ちゃんとも『人見知りコンビ』を結成していたような…

 

 

 

…男の人は社会に出たら7人の敵がいるって言うけど…

 

…私は社会に出る前に、そういう状況に置かれていることを知った…

 

 

…もう、先輩、愛され過ぎです!!…

 

 

 

大はしゃぎして鍋を突っつくお姉ちゃんを見て、私は複雑な気分になった。

 

 

 

「ごちそうさまでしたぁ」

 

花陽先輩が箸を置いた。

 

「お口に合いまして?」

 

そうお母さんが尋ねると

「はい、とっても美味しかったです!特に魚介のエキスたっぷりの〆のおじやが、絶品でした!!」

と満面の笑みで答えた。

 

 

 

「ご飯…足りたかしら?」

 

 

 

「ひぇ?」

 

 

 

「…5合炊いたんだけど…」

 

 

 

「は、はい!そ、それはもう…」

 

顔を真っ赤にしている。

 

 

 

「とか言って、おうちに帰って夜食でしょ?」

とお姉ちゃんが弄る。

 

 

 

「そ、そんなことしないよ。ほら、もうお腹パンパンで…」

なんて先輩はおどけたけど、ぽよんぽよ~ん…と大きな胸が目立ってまったくわからない。

 

 

 

「またまた~」

 

 

 

「あ、お片付けしますよ」

 

お姉ちゃんの追及をかわすように、先輩がスッと席を立ち上がった。

 

 

 

「あら、いいのよぅ、お茶でも飲んでゆっくりしてて」

 

「いえいえ、ご馳走になってそういうわけには…」

 

「本当にいいのよ。そもそも穂乃果なんて、そんなことしたことないんだから」

 

「もう、お母さん!私の話は別にいいでしょ!」

とお姉ちゃんが怒鳴るのを、先輩は苦笑いをして見ている。

 

 

 

「では、すみません…お言葉に甘えまして…」

 

「ふふふ…そんなに畏(かしこ)まらないで」

 

「そうそう!花陽ちゃんはじめ、μ'sのメンバーは穂乃果の家族みたいなものなんだから、」

 

「家族だからって手伝わなくてもいい…って理屈にはならないけどね…」

とお姉ちゃんにイヤミを言ってみる。

 

「うぅ…雪穂…」

 

「まぁまぁ、雪穂ちゃん…」

 

「花陽先輩まで、お姉ちゃんを甘やかしちゃダメですよ」

 

「あはは…これじゃどっちがお姉ちゃんかわからないね」

 

「本当に」

とお姉ちゃんは肩をすくめた。

 

 

 

「穂乃果ちゃん、雪穂ちゃん…今日はご飯に誘ってくれてありがとう。やっぱりお鍋はみんなで食べると美味しさが増すねぇ」

 

「あれ?花陽ちゃんちの方が、家族多いじゃん。お爺ちゃん、お婆ちゃんと一緒でしょ?」

 

「うん…それはそうだけど…私一人っ子だから、お姉ちゃんと妹と一緒に食事したみたいで…すごく楽しかったです!」

 

「そっかぁ!花陽ちゃんと2人でご飯食べたことはあるけど、雪穂と3人で…ってないもんね」

 

「うん…そういえば…雪穂ちゃんと食事することもそんなにないね」

 

「先輩…忙しいから…」

 

 

 

…気が付いてくれるかな?…

 

…私は先輩と、ずっとそうしたいって思ってるんですよ…

 

 

 

「そうだよね。花陽ちゃん、忙しいから雪穂と食事なんかしてるヒマなんてないよね」

とお姉ちゃんは笑った。

 

 

 

…こら!…

 

…アンタが言うな!…

 

 

 

お姉ちゃんを睨んだけど、まったく意に介してないみたい。

 

 

 

「じゃあ、私はこれで…」

と先輩が再び立ち上がる。

 

「え~!もう帰っちゃうの?」

 

「もう…って穂乃果ちゃん、結構な時間だよ?」

 

「お風呂入っていけばいいのに」

 

 

 

「お、お風呂?」

 

先輩が素っ頓狂な声を出した。

いや、私も声にはならなかったけど、一緒に驚いた。

 

 

 

「うん!折角だから一緒に入ろうよ!」

 

 

 

…ぶっ!…

 

…先輩とお風呂!?…

 

 

 

「お姉ちゃん、バカじゃないの?今から入って、おうちに帰ったら、先輩、湯冷めしちゃうじゃん」

 

何故か私がフォロー入れた。

 

 

 

「だったらさ、泊まっていけばいいじゃん!」

 

 

 

「泊まるのぉ!?」

 

私と先輩が同時に声をあげた。

 

 

 

…泊まる?…

 

…泊まるの?…

 

…そうしたら…

 

 

 

…どっちの部屋に?…

 

 

 

…どうしよう…

 

…ご飯だけじゃなくて…

 

 

 

…ベッドも一緒に!?…

 

 

 

「きゃあ!」

 

立て続けに私は大きな声を出した。

 

 

 

「何で雪穂がそんなに驚く?」

 

 

 

「へっ?いや…お姉ちゃんっていつも考えなしにそういうこと言うから…」

 

 

 

「う、うん…ごめん…全然考えてなかったから。えっと…そうしたいのはやまやまだけど…今日は準備もしてきてないし…」

 

 

 

…当たり前だ…

 

…そんなわけがない…

 

 

 

「そ、そうですよね!いきなりそんなこと言われても…私だって心の準備ができてないし」

 

「だから、どうして雪穂に、心の準備が必要なのよ」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

…それはその…

 

 

 

「と、とにかく、突然過ぎます…よね?」

 

「え、うん…まぁ…」

 

「あははは…そうだよね!わかった。じゃあ、また今度ってことで」

 

「うん」

 

先輩は…本当にごめんね…という顔。

どこまで人がいいんだろう。

謝る必要なんてないのに。

 

でも、先輩が私のうちに泊まる…なんてチャンスはもう二度とないかも知れない。

 

この結果は良かったのか、悪かったのか…。

 

 

 

「あっ!私、そこまで見送ります!!」

 

 

 

「ん?」

 

今度は先輩とお姉ちゃんが、一緒に首を傾げた。

 

 

 

「あ、えっと…その…お鍋食べたら身体が暑くなっちゃって…少し涼みたいな…って」

 

 

 

「…」

 

花陽先輩は一瞬、私を見た。

不思議そうな表情をしている。

 

でもすぐに

「じゃあ、雪穂ちゃん、そこまで付き合ってくれるかな?」

って言ってくれた。

 

 

 

…さすが先輩!…

 

…私の気持ちを察してくれたんだ…

 

 

 

「暖かい格好をして行くんだよ」

 

「は~い!」

 

お母さんの言葉を受けて、私は部屋にハーフコートを取りに戻った。

長めのマフラーも一緒に手にして、階下へ急ぐ。

 

 

 

「では、ごちそうさまでした」

 

「またいらっしゃい」

 

「はい!その時はお米を持参しますので」

 

「ふふふ、じゃあ楽しみに待ってるわ」

 

「花陽ちゃん、またね!」

 

「うん、お休み」

 

先輩はお母さんとお姉ちゃんと…そんな挨拶を交わして、私と共に家を出た。

 

 

 

 

 

火照った身体を冷ましたい…と言ったのは嘘ではないけれど…暖冬とはいえ、さすがに夜は冷える。

 

ぶるっ…って身震いしたあと、くしゅん、くしゅん…と私はくしゃみをしてしまった。

 

「大丈夫?」

 

「あ、たぶん、お姉ちゃんが私の噂をしてるんだと…」

 

 

 

…昼間も絵里さんにこんなことを言ったっけ…

 

 

 

「雪穂ちゃん…穂乃果ちゃんのこと、嫌い?」

 

「えっ?」

 

「ううん…ちょっと気になったから…」

 

「べ、別に…」

 

「ふふ…真姫ちゃんみたいなことを言うんだね」

 

「そ、そうですね…あははは…」

 

私の乾いた笑いが夜道に響いた。

 

 

 

「うぅ…やっぱり冬だねぇ…」

 

「はい、思ったより寒いです」

 

「寒いねえ…」

 

「えぇ…」

 

「ねぇ…雪穂ちゃん…」

 

「はい…」

 

 

 

「腕、組んでもいい?」

 

 

 

「!?」

 

私は戸惑って、ろくに返事ができずにいたのに…先輩は有無も言わせず腕を絡めてきた。

 

 

 

…肘に胸が当たってます…

 

 

 

恥ずかしくなって、一気に体温が上がった気がする。

 

「だ、大丈夫です!寒くないですから」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

「いえ、寒いんですけど、暑いっていうか…」

 

 

 

…あぁ、何、言ってるんだろう…

 

 

 

「あ、ごめん…迷惑だったかな…」

 

「い、いえ…ごめんなさい!そういうつもりじゃ…先輩にそんなことしてもらうなんて、勿体無いというかなんというか…」

 

「えっ?」

 

「あ、いや…その…」

 

「う~ん…じゃあ、花陽が寒いから、いやじゃなかったら、腕組んでもらってもいい?」

 

 

 

…そんなことを言われたら、断れるわけがないじゃないですか!!…

 

 

 

「は、はい!それは、もう!」

 

若干上ずった声で返事をすると、先輩は

「じゃあ…もぎゅっとLOVEで接近中!!」

なんて言いながら、今度は私の左腕にしがみついてきた。

 

 

 

…せ、先輩!ヤバイです!!…

 

…そんなことされたら、思わず抱きついちゃいそうです!!…

 

 

 

「うん、暖かい、暖かい」

 

「そ、そうですね」

 

「でも、これからもっと寒くなるんだよね?」

 

「は、はい」

 

「今年は雪、降らないのかなぁ…去年みたいなのは困るけど、ちょっとくらいなら…」

 

 

 

「…」

 

正直、途中から先輩の声が耳に入ってこなかった。

 

どう考えても、このシチュエーションはおかしい。

夢の中にいるようだ。

先輩と腕を組んで、冬の夜道を歩くなんて…。

 

 

 

「…ちゃん?」

 

 

 

「…」

 

 

 

「…穂ちゃん?」

 

 

 

「?」

 

 

 

「雪穂ちゃん!?」

 

 

 

「!!…はっ!はい!?」

 

 

 

「今日の雪穂ちゃん…なんだか変だね?」

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

「朝からずっと…」

 

 

 

「な、なんでもありません!!」

 

 

 

「ほら、そういうにムキになるところが…」

 

「いつも私はこんなで…」

 

「ちょっと、寄り道していこうか?」

 

「へっ?」

 

「お話…聴くよ」

 

「わっ……」

 

「私じゃ頼りないかもだけど…後輩の面倒を見るのが部長の役目だから」

 

「頼りないだなんて、全然、そんな…あっ…」

 

「だ~め!!」

 

先輩は絡めた腕を、そのままぐいぐいと引っ張り、私を近くの公園のベンチに座らせた。

 

「ちょっと待っててね?」

 

ピュッとその場からいなくなって…すぐに戻ってきた。

 

 

 

「コーンスープとおでん缶、どっちがいい?」

 

「えっ?あ、あぁ、じゃあ…コーンスープで…」

 

「はい、どうぞ」

 

先輩は私に、熱々の缶を手渡してくれた。

 

 

 

 

 

~つづく~

 

この作品の内容について

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  • 花陽推し、ウザい
  • 更新が遅い

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