仮面ライダーは改人である   作:ふくつのこころ

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死神と呼ばれた男

 とあるヒーローの事務所――。

 

「さあ、華やかなデビューを飾るわ。ホッパー、留守番頼んだわよ」

 

穂波(ほっぱ)じゃありません、岳山先輩。穂波(ホナミ)です」

 

 目元を覆うマスクに角飾り、ボディラインを強調するスーツを身に纏う金髪の美女は窓から見下ろせる風景を一望し、意気込む彼女は眼鏡をかけてパソコンに向かいキーボードを叩く青年に声をかける。

 

「今の私はMt.レディよ。そう呼びなさい。……ていうか、貴方。雇い主で先輩に頭が高くない?せっかく、私が雇ってあげたのに」

 

「先輩がどうしてもって言うから請け負ったんでしょうが」

 

 穂波と呼ばれた青年の反応が気に入らなかったからか、Mt.レディは彼の席に近づいて行き、その端正に整った顔に隠しもせずに不服そうな様子のまま、穂波の顔を覗きこむように顔を近づける。

 ドスの利いた彼女の声に恐れもせず、気にしない様子で事務作業を続けている。

 

 穂波がMt.レディを先輩と呼ぶのは、二人が学生時代からの知り合いであることに一因する。特にこれと言った色恋沙汰もなく、この年まで付き合っているのは穂波自身も予想外であった。

 美人ではあるが、目立ちたがり屋でいいところは必ず掻っ攫っていくし、なによりも自分が注目されないことを嫌い、無視なんて持っての他だ。

 中学三年、受験を控えた時に卒業して行った彼女から唐突に連絡が入ったのをきっかけに学校を卒業しても彼女と関わる羽目になる。

 

『私がヒーローになったら、うちの事務所で働きなさい』

 

ただそれだけメールに書かれていた。

 

 きっかけは、中国で光る赤ん坊が確認されてから。

 

 個性と呼ばれる能力を誰もが生まれもち、フィクションはリアルに身近に存在することとなる。

 その個性を悪用したヴィランの犯罪を解決する、ヒーローが憧れの職業ランキングに入るのは時間がかからなかった。

 

 自分の個性を使い、格好良くヴィランを倒して事件を解決する。

 

 そんな姿に憧れない者は少数派であり、誰もがヒーローに憧れ、ヒーローとなることを志す。

 

 特にその仲でも絶大な人気を誇る、ナンバーワンヒーロー・オールマイト。

 トリコロールのスーツに身を包み、常に笑顔を浮かべ、現場に現れれば、助けを求める人々を安心させる。

 

 

もう大丈夫!なぜって?私が来た!

 

 彼に憧れ、ヒーローを志す者も数知れず。

 

 しかし、穂波はそんな時代の中の少数派(・・・)であった。

 

「あのねえ。……ああ、これからデビューってのに疲れさせないでよね。無個性(・・・)な貴方に職を斡旋したのは私なのよ?」

 

 面倒臭そうに髪をかきあげ、書類が載っているのも気にせず、穂波が作業を行なっている机の上に足を組んで座り、ネクタイを引っ張る。

 

「……だから、先輩に敬意を払えと?人がいないから助けて欲しい、って言ってたのはどこの誰なんでしょうね?」

 

 うっ、とMt.レディは痛いところを突かれ、肩を震わせる。

 

――――こういうところが可愛げがないのよ。

 

 彼女がホッパーと呼ぶ事務職をしている後輩、穂波一(ほなみはじめ)無個性(・・・)であった。

 無個性とは、この世界における個性を持たない普通(・・・)の人々。

 個性が優れていれば優れているほど、その価値は本人の評価に関わってくる現在において、無個性とは一種の障害にも等しかった。

 穂波はその物怖じしない性格と無個性であることから、中学時代はタチの悪い上級生に目をつけられていたこともあった。

 そのときにMt.レディこと岳山優(たけやまゆう)と知り合ったのだが……。

 

『何か用ですか?』

 

 眼鏡のズレを直し、振り返る顔を今でも忘れることはないだろう。

 自分でも自信のある容姿、その優れた容姿を持つ自分に話しかけられているのにもっと喜んだり焦ればいいものの、面倒臭いとばかりに眉を顰めていたのだから。

 

「……もういいわ。留守番、頼むわね」

 

 個性を持つ相手に恐れもせず、真っ直ぐに見つめてくる胆力、もしも穂波が個性を持っていてヒーローを志していたならば、素晴らしい相棒(サイドキック)を務めることができただろう。

 ネクタイを離し、Mt.レディは机を降りて事務所から出て行ってしまった。おおかた、パトロールにでも出かけていったのだろう。

 

「穂波、お前、本当にMt.レディと学生時代に仲良かったのか?」

 

「……別に。向こうから一方的に絡んできただけですから。俺からは特には。面倒臭いんで、その話させないでください。瀬文(せぶん)さん」

 

 Mt.レディが出て行った後、数十分後に隣の席からひそひそと穂波に話しかけてきたのはMt.レディの事務所の事務職の短く髪を切りそろえた男性。

 穂波の同僚の一人、烈度瀬文(れっどせぶん)であった。 

 

「……まあ、そこまで言うんなら深入りしないけどさ。そうだ、お前、近頃良く話を聞くヴィジランテのこと知ってるか?」

 

 烈度瀬文はヒーロー免許を持つものの、その実、ヒーローとならなかった変わり者であった。

『家族を守れるように』と個性をいつでも使用できるよう、というのが彼の免許の取得理由であったらしく、Mt.レディにはぶっきらぼうに話す穂波には好感を持てる男だった。

 

「ヴィジランテ?この辺りにもたくさんいるじゃないですか。妙な奴でも出てきたんです?」

 

 ヒーローがヒーロー活動を行なうには、ヒーロー免許と言うものが必要である。

 いつからか、そんな法律ができたことにより、どんなにヴィラン退治や誰かの役に立っていても個性を無断で使用することは違法行為となっていった。

 違法行為を行うこと、それ即ち、個性で犯罪を起こすヴィランに同じ。そのため、ヴィジランテはヴィランと同一視されていた。

 

「ああ。ヴィランみたいな格好した奴なんだが―――」

 

「おい、見ろ!Mt.レディだ!」

 

『キャニオンカノン!』

 

 瀬文の言葉はそこで遮られることとなる。

 事務所に備えられた大きな液晶テレビに大きな足が巨大なヴィランを蹴り飛ばした様子が流れたのだ。

 さながら、旧時代の特撮ドラマに出てくるような必殺技のように鮮やかな蹴り、勢いとMt.レディのパワーもあいまってか凄まじい威力だ。

 

『本日、デビューとなりました!Mt.レディです!以後、お見シリおきを!』

 

 カメラ越しに巨大になっても変わらない、そのボディラインをカメラ越しに見せ付けるようにポーズを取る。

 愛想を振りまいているが、その中にしてやったり顔が見えたのを穂波は逃さなかった。声が聞こえないが、シンリンカムイの腕が伸びかかっている。

 おそらく、個性を使用しようとした際にMt.レディに見せ場を横取りされてしまったのだろう。コアなファンに「キタコレキタコレ」と撮影されている様子もある。

 

『あとそれから』

 

 何かに気付いたような様子のMt.レディの言葉に事務所中の視線が穂波に向けられる。

 

『キャニオンカノンの感想、聞かせてもらうので』

 

 テレビを良く見ると、生放送とある。

 爆弾発言とも言える彼女の言葉、群がるメディア陣に取り繕うように返すMt.レディ。

 穂波は頭を抱えた。

 

 地上波に乗せて言うことかと溜息をつくと、瀬文が穂波の肩を掴む。

 

「あれ、確か、穂波考案なんだよな?」

 

「ええ。どうしても必殺技が欲しいって言うから。けど、そのまま使うとは思わなかった」

 

「穂波の見ている特撮になかったか?あの技」

 

「ありますよ。あれ、それ参考にしたので。けど、あそこまで出来るとは思わなかったな。流石は性格悪くてもヒーロー。動きとキレが違う。……なに見てるんですか?」

 

 先ほどのやり取りを誰も止めようとしなかったのは、それが毎日見られているような光景だからだ。

 視線を向けていた事務所の面々は取り繕うように自分達の仕事に戻っていった。

 

 

「「「(仲良いじゃないか)))」」」

 

 

 

 日が沈み、数時間が経とうとしている。

 一日の業務を終え、穂波は帰宅準備を始めた。

 

 もう、とっくに瀬文や他の事務所の者は帰宅しており、残されたのは穂波だけだ。

 Mt.レディも直帰していることだろう、

 

「ホッパー、まだいたの?」

 

「おかえりなさい、岳山先輩」

 

 戸締りしやすいように半分ほど照明を消している事務所にMt.レディが帰ってきた。

 しかし、目元を覆うマスクや角飾りを外しているからか、今は素顔を晒している。

 

「頑なにヒーローネームで呼ぼうとしないのね」

 

「真のヒーローなら、手柄を横取りして目立とうなんて考えませんからね」

 

「……」

 

 売り言葉に買い言葉、Mt.レディ――優の方を見もせず、鞄に書類を詰めていく穂波に優は腕組みをして近づく。

 

「どうしたんですか?そんな顔をして」

 

「貴方の言う真のヒーローってなんなの?オールマイトファンだっけ?」

 

「いいえ」

 

 穂波は現在のヒーローに対して良い印象を持っていない。

 もちろん、ヒーローがいるからこそ、人々の安全を保証が出来ているというのは分かっている。だけど、彼自身は現代で言うところの“ヒーロー”には良い印象を抱いてなかった。

 穂波一の考えるヒーローとは、得られるものが一つもなくても進んで危険に飛び込み、人々を守る者。そのため、人気を気にするのはお門違いであるからだ。

 穂波の“憧れ”がそうであるように――――。

 

「送りますよ、先輩。事務所に戻ってきたのだって、忘れ物を取りに来たんでしょう?早く着替えてきてください。事務所、締めるので」

 

「そうね、忘れ物(・・・)を取りに来たんだっけ。気が利くのね」

 

 冷淡に返す穂波、表情一つ変えない様子に優はこれ以上、聞いても何も出てこないこと、学生時代の後輩から触れられるのを拒絶する話題であると悟った。

 それはどうも、と返す後輩がブラインドを降ろしだした時、優自身もコスチュームから着替えるために更衣室の方へと向かうことにした。

 そして、着替え終えた優と同じタイミングで戸締りを終えた穂波の二人は日が出ている頃のように喧嘩のような掛け合いをした後、優の住むマンションのエントランスに送って行った。

 

「それじゃあ、この辺で。また明日ね」

 

「事務所、あんまり建て替えないようにしてくださいね。貯金、したいでしょう」

 

「まだ引き摺るの?それ」

 

 その個性の関係上、都市部では一部の開けた場所でないと使えない優の個性。

 以前、事務所の近くでヴィランが出てきたとき、はずみで事務所が倒壊してしまったことがあった。そのとき、事務所で作業をしていた穂波はなんとかノートパソコンを持って避難したが、事務所のほうはと言うと倒壊してしまったのである。

 

「もちろん」

 

「最近は妙な奴がいるから。死神、って呼ばれてたっけ」

 

「まだ中学二年生が治ってないんですかね、そいつ。先輩、心配してるんですか?俺のことを」

 

 頭を掻きながら、穂波は背中を見せるようにくるりと振り返って帰路につこうとする。

 

「そうかもね。違うわ。昔からの顔なじみに死なれたら、後味が悪いのよ」

 

「そうですか。それじゃあ、お疲れ様です。岳山先輩」

 

「ええ、おやすみなさい。ホッパー」

 

 振り返りもせず、歩き出していく穂波は手をヒラヒラとさせる。

 優はそんな後輩の背中に思うところはあるけれど、上手く言葉にすることが出来ない。

 

  

   ※※

 

「よォ、兄ちゃん。有り金全部置いてけや?」

 

 上半身全裸、ハーフパンツ姿にサングラスをかけたゴロツキはヒグマのような頭部をしていた。

 二人ほど舎弟を引き連れ、路地を歩く眼鏡にスーツ姿の青年――穂波の肩を掴む。

 

「兄貴の言うとおりにしたほうがいいぜ?なんたって、兄貴はこの辺りじゃあ死神と呼ばれて恐れられているんだからなァ?」

 

 舎弟の一人が進み出て、穂波の顔を覗きこむ。

 だが穂波は気にせず、進もうとする。

 

「おい、スカした顔してんじゃねえぞッ!」

 

 顔を覗きこんだ舎弟の一人が穂波の顔を殴りつけると、穂波の眼鏡が吹っ飛んでいく。

 その眼鏡は溝の中に落ち、取りに行こうと歩き出そうとするが、それをチンピラは許さない。

 

「やりかえさねえとは、とんだ腰抜けだな?死神ヒグマの前に恐れ入ったのか?」

 

 ヒグマは手の鋭い爪を街灯の下、光らせる。

 人間の手と熊のそれが入り混じったような、その手で拳を作る。

 

「なんとか言えよ、腰抜け野郎がッ!ヒーロー気取りか!?」

 

 ヒグマは穂波の頬を殴りぬく。

 少なくとも、このいけすかない男の顔の頭蓋骨を陥没させた手応えはあったのだが……、穂波は平気だった(・・・・・・・・)

 

「野郎!今の兄貴のパンチで倒れねえのか!?」

 

「これで十五人は病院送りにしたってのに!」

 

 口を切ってしまい、吹き出す血を拭いながら、穂波は立ち上がる。

 

「十五人?」

 

「そうだ!俺のパワーで腕試し!俺の力を知らしめようと思ってなぁ!昨日の餓鬼なんざ、いい声出してやがったぜ!」

 

「テディベアみたいな面構えしているのに、どこから湧いてくるんだ?その自信は」

 

 穂波はベルトのハート型のバックルの前で腕を交差させた後、胸の前でもまた腕を交差させる。

 

「―――変身」

 

 穂波の身体が変化する。

 昆虫を思わせるフォルムをしていながらも、その顔はどことなく凶悪さを滲ませる。

 バックルの部分は先ほどと同じ、ハート型のバックルのままで変わらない。

 赤い複眼、手にしている鎌は恐らく得物だろうか。

 

 どことなく、その姿は蟷螂に似ていた。

 

 

 サポートアイテムの会社に作らせたものかもしれないが、ヒグマもその舎弟も目の前の怪人(・・)のようなヒーローの名前は聞いた事が無いが、知っていた(・・)

 

 

 

「あ、兄貴!こいつ、死神だ!」 

 

「死神だァ?死神は俺だァ!大人しくしていればいいものの、まさか、ヒーローだったとはなぁ!」

 

 ヒグマが腕を振り上げるよりも早く、怪人はその手首を掴んで地面に叩きつけた。

 ヒグマと大きさは変わらないが、変身前のその細い体躯からは想像できないパワーだ。

 

「……」

 

 ゆっくりと、叩きつけたヒグマを今度は持ち上げると、ヒグマの手下たちの方へと投げつけた。

 

「へぶあっ!?」

 

 舎弟たちはヒグマの下敷きにされる。

 

「――十五人」

 

「え?」

 

「十五人だ。何か言うことはないか?」

 

 動けなくなってしまった舎弟、そして、その上に覆いかぶさる形になっているヒグマ。

 十五人、という数字が自分が作ってきた被害者記録(スコアレコード)だと分かると、ヒグマは額から血を流しながら、凶悪に笑う。

 

「あんた、まるでヴィランだな?ヒーローって言うには、あまりにも残酷じゃないか。へへっ、今夜はお前を殺して、俺の記録にしてやるぜ」

 

 ヒグマが反省の様子を見せなければ、穂波は手にしている鎌を掌で叩くと大きさが大鎌へと変わっていく。

 よくある死神が持っているような、巨大な鎌へと。

 

「――そうか。地獄で罪を数えてな」

 

 そうして、無慈悲に三人のヴィランに振り下ろされる銀色の刃。

 

 穂波一、昼はヒーロー事務所の事務職。

 

 夜は、ヴィジランテ・『仮面ライダー』。 




導入なので、ここまで。
どのように力を得たのか、なぜヒーローにならなかったのかを触れていく
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