「タケヤマって……。ホッパー?あんた、この子も私のことヒーロー名で呼ばないの?」
「準備中の看板が見えなかったんですか?ついにあのアイマスクつけて視界まで悪くなるとは……。だから、やめておけと言ったのに。キャニオンカノンは最高でした、でも、ライダーキックみたいな形になるのはどうしてです?」
美音の反応にMt.レディ――岳山優は部下で学生時代の後輩に助けを求めるが、当の穂波はと言うと呆れた様子で美音や蛇島と接していた時とは違い、慇懃無礼な態度を見せる。
ちゃっかり、彼女と一緒に考えた必殺技であるキャニオンカノンの完成度について褒めていることに気づけば、雇い主の彼女は満足そうに笑った。
「あら?今日もしっかり見てくれてるのね?全く、私のことを先輩と呼んでくれないものだから、そういうのも興味ないものかと思ってたわ?……こんにちは、マスター?お邪魔してるわね」
「CLOSEDって看板出してるはずなんだけどな?まあいいぜ、プロヒーローがメシくいに来てくれるんなら、歓迎だ。それも、こんな美人さんなら余計にな?」
優は蛇島の姿を見せると、笑顔を浮かべて手をヒラヒラさせる。
蛇島も軽く会釈して返すもののの、どことなく口説いているようにも捉えられる父親の言葉に顔をしかめて厨房から顔だけ覗かせた。
若く美しい女性には声をかけるタイプだが、優は息子も同然である穂波の学生時代に親交があった同世代の唯一の相手と言ってもよく、対応が甘い。
「穂波が酷い目に遭っている」、ように見える美音にとっては優への扱いはぞんざいであり、若い女に甘い父親のことは気に入らなかったりする。
「で、こいつはちゃんとやってんのか?」
お父さん仕事しろー、という美音の野次をバックミュージックに蛇島は穂波の肩を掴み、優に尋ねると優はにっこり笑う。
「ええ、もちろんよ。仕事も早いし、たまに毒を吐くことを除けば、優良物件ね。早くホッパーもやってくれたらいいのに」
「何を?」
パンツルックスタイルでカジュアルな上着を羽織る優、ウェーブがかかった金髪もあり、外見だけでは彼女がヒーローをやっているようには見えまい。
モデル体型で出るところが出ていることもあり、どんな仕草をとっていても様になるのが学生時代からの彼女の武器だった。
気に食わないことがあれば、猫を被って誰かに押し付け、自分は楽をしていいところを掻っ攫っていくタイプである彼女にとっては、そういうものが通用しない美音は天敵であった。
同様に美音も派手に着飾った性格のキツイ美人が苦手である為、お互いがお互いの天敵であるという図を作り出していた。
事実、美音は注文のオムライスを調理しつつもちらちらと厨房から様子を窺っているところからも見受けられる。
「俺、ちょっとバックヤード行って来るわ」
何かを察した蛇島が帽子を被りなおし、バックヤードのほうへと向かう。
まだ材料の在庫は残っているはずだが、このタイミングでバックヤードに行くとは、これはいかに?
「マスター、俺も手伝うよ」
「あんたはここに残りなさい?」
がしっと優に立ち上がろうとした穂波は肩を掴まれ、座らされる。
一見すると細身の女性であるが、ヒーローであるので優も鍛えている為、
昔は個性をチラつかせ、無個性である自分に絡んできた上級生を返り討ちにしたことがあったが、あのときに比べれば、「鍛えてますから」で言い訳をしたのを懐かしく思った。
蛇島の姿が見えなくなる頃、蛇島は唇の動きだけで「ご~ゆっくり~」と言っているように見え、優は手をヒラヒラ振って返していた。
美人とは、全く役得である。
「はぁ、疲れた」
わざとらしく、悩ましげに優は溜息をつく。
流石に穂波が手をつけているオムライスを摘まむほどの飢餓状態ではなかったらしく、どことなく構ってほしそうな雰囲気に穂波は露骨に癒そうな顔を見せた。
「何かあったんですか?」
ここでこのように尋ねるのが正解である。
注目を浴びていたい彼女、自分が誰かに無視をされるとは言語道断であると語っていたのを知っているからこそ。
ただし、イケメンを前にしているときの彼女はこの限りではないので穂波はやっぱり優が苦手だった。
「聞いてくれる?ねえ、聞いてくれる?」
「オムライス、お待ちどー」
厨房から不服そうな様子で美音がトレーにオムライスを盛りつけた皿を載せ、優と穂波の間の席に突っ込んできた。
テーブルにオムライスを載せた皿を音を立てずに置き、フルーツジュースを穂波の前に置いた。
フルーツジュースは穂波の好物であり、彼女からの労いの意味をこめた一杯である。あとは、これから相棒として宜しくといった親愛の意味もあるかもしれないが。
「あら、美味しそうじゃない。ねえ、私にもちょうだい?おちびちゃん?」
「いーだっ。タケヤマにはない。オムライスに描いてやった、ドラゴンスクラッシュゼリーのイラストで感謝しろ。見てくれ、ハジメ!会心の出来だぞー?」
優と穂波が美音の作った優のオムライスに目を向けると、確かにドラゴンスクラッシュゼリーのパッケージが描かれている。
ケチャップで器用に描かれており、全くの歪みが見られない綺麗な線はまるでコンピュータのような精密さが窺える。
こうした細やかな気遣いがJacarandaの売上にも繋がっており、美音の懐が潤う源であった。
おちびちゃん、と美音を呼ぶ優は確かに背は高いほうだ。
そして、身長のことは胸囲と同じくらい美音が気にしていることであり、これを父親の蛇島でなく、穂波が指摘することは言語道断であるとされている。
元々、女の兄弟がいた穂波はそんな事をするつもりは毛頭なかったのだが、念押しされたことを思うと相当に彼女の中では重要な事なのだろうと推測できる。
「流石だ、美音」
「えへへへっ、ライダーズ・クレストも描けるからなー?もれなく、Tシャツも販売中だけど、一枚どうだ?タケヤマ!」
「はぁ?らいだーず・くれすとぉ?なにそれ」
ご機嫌な美音はJacarandaのロゴ入りのエプロンの下に着ている、Tシャツを主張してみせる。
穂波の変身する仮面ライダーをシンボルにしたものだが、ヴィジランテという違反者のグッズを作り、仮にもプロヒーローに売りつけようとするのはいかがなものか。
流石に仮面ライダーのグッズである、とは穂波は言えなかったので美音の趣味の創作の一つだと説明すると、優は納得した様子だった。
「そういえば、おちびちゃんの趣味ってそういうの作ることだったわね。どう?今ならMt.レディのグッズ作らせてあげるけど?」
「そういうのって、広報の方に知らせた方がいいんじゃないですか?」
思った以上に優の反応は悪くなかったらしい。
と言うのも、Mt.レディとしての自分がプリントされたTシャツを思い浮かべ、何か思うところがあったようだ。
穂波は至極真っ当なことを言ったつもりだったのだが、歯を剥き出して威嚇されてしまった。
「私がルールよ!?グッズ展開なんて特に。良い、ホッパー?ヒーローは支持率を大切にする物なの。人々の声援あってこそ」
「最後のところはまだしも、前半が最悪すぎる。ご馳走様、美音。皿はあとで水につけておく」
優が意気揚々と返してきたので何を言うかと思えば、
わがままなところは見逃せても、どうもそういうところは好きになれそうにないので、美音の作ってくれたフルーツジュースの入ったグラスを手に厨房へ食べ終わった皿を持って行ってしまった。
「あーあ、ハジメ、怒っちゃった」
「今のでも怒るわけ?仮にもプロヒーローの事務所で事務職してるのに?」
困惑の表情で美音に助けを求めるように見つめる優、しかし、美音は無慈悲であった。
「山女のシャツは私も作らない」
悪ノリというか、ノリは姉妹か何かかな?
美音と優。
ウォズくん強い、さすが我が魔王の熱烈な臣下