仮面ライダーは改人である   作:ふくつのこころ

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守り抜くには

資料室の奥、埃っぽい空気が肌にまとわりつくような薄暗い一角。

古いサーバーラックが低い唸りを上げ続け、古びたモニターに映し出された映像は、まるで時間が止まった十数年前の夜のようだった。

あの日、姉や兄となるはずだった人をハジメが失った夜ーー以降の出来事。

 

 

そこに映っていたのは――血。

 

コンクリートの床に広がる黒ずんだ染み。

折れた鉄パイプ、砕けたコンクリ片、そして……動かなくなった複数の人影。

ヴィランらしき者たちだ。だが、その潰され方は尋常ではなかった。

頭部が不自然に潰れ、胴体が内側から破裂したように膨らみ、骨が外に突き出ている者もいた。

カメラの画質は粗く、夜の闇に溶け込むように黒い影が一瞬だけ映り――次のフレームでは、もう誰も立っていなかった。

 

ただ一人、異形の姿をしたヴィラン殺し(ホナミハジメ)を除き。

 

ハジメはじっと見つめる。

 

忌むべき姿だ。

姉や兄となるはずだった人を亡くし、ただ一人だけ生き残った自分が手に入れた個性(ちから)

無個性であったために姉を不幸にしてしまった先に手に入れた、“遅すぎる個性(ちから)

 

『先生の頼みだからなんだと思っていたが、旧時代のヒーローを無個性の子供で再現しようとはねえ』

『魔王らしくていいだろう?かつての英雄を、民衆の頼みの綱を、悪として従えるんだ。

平和の象徴を名乗るオールマイトにぶつけてやるのさ』

 

意識と無意識の狭間、ただただ身動きが取れない中で泣き叫んでいた時に聞こえた声は頭から離れない。

 

八木は無言で、映像を一時停止させたまま、じっと画面を見つめ続けている。

その横顔は、穏やかな事務員のものではなく、どこか遠くを見ているようだった。

 

長い沈黙の後、ハジメがようやく口を開いた。

 

「……八木さん」

 

「……ん?」

 

「この“ヴィラン殺し”があの時に……」

 

八木はゆっくりと頷いた。

 

「そうだ」

 

ハジメは唇を噛んだ。

 

「正直……思うんです。

ヴィランを、こんな風にしか止められない世界だったら……

必要な存在なのかもしれない、って」

 

八木は静かにモニターの電源を落とした。

部屋がさらに暗くなる。

サーバーのファンの音だけが、まるで心臓の鼓動のように響く。

 

「……ハジメ君」

 

八木はゆっくりと振り返り、ハジメの目を見た。

その視線は、優しく、しかしどこか深い悲しみを湛えていた。

まるで、まだ幼い子に初めて「死」を教える父親のように。

 

「聞いてくれ」

 

八木は一歩近づき、穏やかで、しかし確かな声で語り始めた。

 

「昔ね……世界には、本当に『悪』としか言いようのないものがいた。

笑いながら街を焼き、泣き叫ぶ子供を踏み潰し、命を玩具のように扱う者たち。

あの頃の私は、ただ力で、ただ拳で、それを止めることしかできなかった」

 

彼は自分の右拳を、ゆっくりと握りしめた。

 

「でもね。

いつからか、気づいてしまったんだ。

私が倒した『悪』は、また別の『悪』を生んでいたってことに。

倒せば倒すほど、憎しみが、怨みが、次の怪物を作り出していたってことに」

 

八木の声は、静かだった。

しかし、その静けさの中に、長い年月を背負った重さがあった。

 

「だから私は、決めた。

もう、ただ殴るだけじゃだめだ。

守るべきものを、守り抜くためには……

時には、殴るよりも先に『理解』しなきゃいけない。

時には、殺すよりも先に『救う』方法を探さなきゃいけないって」

 

彼はハジメの肩に、そっと手を置いた。

 

「“ヴィラン殺し”は……確かに、恐ろしい。

血で正義を塗りたくってる。

でもね、ハジメ君。

それは、同時に……誰かが、絶望しきった末に選んだ『答え』でもあるんだ」

 

八木の瞳が、暗闇の中でほのかに光った。

 

「もしあいつが、本当に昔の誰かだとしたら。

私が、昔、助けられなかった誰かだとしたら……

あいつは、今でも『正義』を信じているのかもしれない。

ただ、もう、笑顔で信じることはできなくなってしまっただけなのかもしれない。

『自分以外の誰か』と言うヒーローをさ」

 

ハジメは言葉を失い、ただ八木の顔を見つめていた。

 

八木は小さく微笑んだ。

それは、どこか寂しげで、しかし優しい笑みだった。

 

「だから私は、ただ恐れるだけじゃなく……

あいつを探し出して、もう一度、話がしたい。

『お前は間違っている』と、殴りつけるんじゃなくて。

『お前は、まだ間に合う』と、ちゃんと伝えたいんだ」

 

彼はハジメの肩から手を離し、静かに息を吐いた。

 

「……怖いかい?ハジメくん。

けど、それは誰にも起こりうることなんだ。

誰かに助けてほしいと言えないのは誰にでも起こる。君にも、Mt.レディに言えないことがあるだろう?」

 

ハジメは、しばらく黙っていた。

やがて、ゆっくりと頷いた。

 

「……はい。先輩にも言えないことあります」

 

八木は小さく笑った。

 

「ありがとう、ハジメ君」

 

彼は古い写真をもう一度取り出した。

それは、まだ眉間に皺を刻んでいない若かりし日の八木と精悍な顔つきをした爽やかな青年が笑い合う様子だった。

 

「その彼は?」

 

「旧友だよ。

私は無個性だけど、彼は違う。

旧時代の変身ヒーローのような姿になれる個性でね。……ヴィランに殺されてしまったんだ」

 

資料室の扉が、ゆっくりと閉まる音がした。

 

外では、昼休みが終わりを迎えようとしていた。

だが、二人の足音は、まるで何年も前の夜に続く道を、もう一度歩き始めたかのように、確かだった。




AFO
「無個性の子供にたくさんの個性を束ねて、君が失った友達そっくりな改造人間をぶつけてあげるよ!オールマイト!」

仮面ライダーは息子でもあるわけですね。
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