仮面ライダーは改人である   作:ふくつのこころ

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回想と言うか、過去編をば


なぜ彼は仮面ライダーになったのか

 それは、すべての始まりの日。

 

 一の幼い頃に遡る。

 

 

 

 穂波一(ほなみはじめ)は、幼くして両親を二人とも失った。

 

 彼には唯一の肉親の年の離れた姉がいるが、その姉もろとも親戚中をたらい回しにされたため、姉とその恋人が一の親代わりのようなものだった。

 

「おもしろかったね、姉ちゃん、ばける兄ちゃん」

 

「良かったわね、一。今日は我儘言っても大丈夫だからね、(ばける)が叶えてくれるから」

 

 怜悧な印象を抱かせる一の姉、亜麻色の髪の女性穂波音々(ほなみねね)はどことなく頼りなさそうな恋人の変身化(かわりみばける)を睨む。

 間に手を繋いでいる幼い弟の一には柔らかい表情を見せ、胸元に光っている映画の入場特典のバッジが光る。

 

「ね、音々……」

 

「あら、嫌なの?」

 

 一から見れば、音々は優しい姉だった。

 

 しかし、彼女はほとんど笑うことがなかった。

 笑うことがなかった、と言うのもは一は姉の心からの笑顔を見たことがなかったのだ。

 彼女はいつでも弟を心配させまいと取り繕ったような笑顔を浮かべ、一に向かい合ってくれる。

 もちろん、時には厳しいこともあるが、彼女はいつだって弟のことを大切に思っていた。

 だからこそ、幼心ながらに一は姉には幸せになって欲しかった。

 

 身寄りのない二人に親身になってくれ、姉に笑顔を齎してくれた“ばけるにいちゃん”ならば、大好きな姉を幸せにしてくれると思った。

 

 一年に一度、姉や一の誕生日には三人でどこかに出かけることになっている。

 

 今日は姉の誕生日、見たかった映画を見て、これからはどうしようかと言った化に対し、「何も考えてないのね」と冷たい視線を向ける姉にあたふたする“ばけるにいちゃん”。

 音々が大人びて見えるが、化のほうが年上である事実は二人の関係を見ていると掻き消えてしまいそうな事実である。

 

 その後、化の奢りで訪れた値段の張るレストランで食事をした。

 

 普段は行ったことがないような、お洒落な場所で美味しいものを食べることが一にはたまらなく楽しかった。

 姉は化を困らせているが、それでも、(ばける)は満更でもなさそうだった。

 

 一通りの食事を終え、デザートを食べているときに化は咳払いをした。

 

「音々、誕生日おめでとう」

 

「プレゼント?なにかしら」

 

 取り出したのは小さな包み、その大きさからして指輪ではないかと期待してしまう一。

 ゆっくりと丁寧に包みを剥がしていき、出てきたのは、一の思ったとおりに指輪であった。

 小さな箱を開けると、そこには大きなダイヤモンドが輝いている。

 

「結婚して欲しい。そして、俺は音々の旦那として、一くんの兄として君たちを守って見せる。二度と君たちに寂しい思いはさせない」

 

「元・ヒーローが言うと説得力が違うわね。……ねえ、ハジメ?こんなおにいちゃんでも大丈夫?」

 

 変身化は元・ヒーローだった。

 

 その個性は自分と他者に変身できるというものであり、ヴィランの姿をそっくりそのまま体格ごと模倣してしまう。

 しかし、個性までは模倣することができないので彼自身が強くなくてはならない。

 

 そんな自身の個性から化はメタモルフォーゼからとって、変身ヒーロー・フォーゼを名乗っていた。

 だが穂波姉弟と共に過ごす為、ヒーローを引退し、その個性を生かした変身ショーのスーツアクターとして仕事をしている。

 ヒーローを引退してもなお、一には化は憧れのヒーローであることには変わりなかった。

 

「うん!ぼく、うれしいんだ。ヒーローがおねえちゃんとぼくのかぞくになってくれるんだから!」

 

「そうね、ヒーローだもんね。元ってつくけど」

 

「音々……」

 

 音々はヒーローのことをあまり好ましく思っていなかった。

 自分の事はどうなってもいいが、弟には幸せになって欲しいという思いが強く、ヒーローが大好きな一が両親が亡くなったことで深く悲しんだ時、ヒーローは姉弟を助けてくれなかった。

 そこに現れた変身ヒーロー・フォーゼは、ヒーローと言うにはあまりにも頼りないが、自らの立場を捨ててでも自分達に寄り添ってくれたことが嬉しかったことは確かである。

 

「化。一も、私のことも。大切にしてね」

 

 予想外の音々のデレ、はにかんで伝えられる感謝の言葉。

 意外な彼女の反応に化は少々面食らってしまうが、笑顔で返す。

 

「もちろんだ!音々も、一も俺の家族だからな」

 

 大好きな姉の誕生日、最高のプレゼントを“ばけるにいちゃん”は彼女に贈ったと幼いながらに感じていた。

 

 だが、その帰り道に悲劇は起きる。

 

「その無個性の餓鬼を渡してもらおうか!」

 

 それは、一見するとコートとニット帽を被ったゴロツキであった。

 

 既に化には音々から話していたが、一は無個性であった。

 どこから漏れてきたのか分からないが、無個性であることはハンディであるのと同義である。

 まわりや自分が持っているものを持っていない者がいじめの対象になるのは時間の問題であった。

 

 化と出会うまで、一は学校で無個性を理由にいじめを受けていた。

 

「こ、断る!俺の弟を渡してたまるもんか!」

 

 化が音々と一の前に立つ。

 大きく手を広げ、指一本も触れさせまいという意思が感じられる。

 

「あ、こいつ見たことあるぞ」

 

 ゴロツキの一人が身体を震わせる、化を見て指を指す。

 

「変身ヒーロー・フォーゼ。相手に変身するってだけの個性だったな」

 

「そんな奴いたなあ!成績が振るわなくてやめたんだったか!?」

 

 ぎゃははは、と笑いあうゴロツキ二人。

 その間を貫くように通り抜ける、衝撃波のようなもの。

 

「化を馬鹿にするな!早くそこをどけ」

 

 音々による、個性の使用だった。

 しかし、音々は個性の使用を許可されている免許を持っていない。

 個性の使用に慣れていないのがありありと伝わってくることもあり、一人が口角を吊り上げる。

 

「個性の無断使用は法律では違法だってしらねえのかよ?勇敢な娘さんだが……」

 

「逃げろ、音々!一!」

 

 遮るように化は叫ぶ。

 

「でも、ばけるにいちゃん!」

 

「早く行けというのが聞こえないか!」

 

「……!」

 

 化に怒鳴られたことで一は目に涙を浮かべるも、音々が手を引いて走り出す。

 姉に引っ張られながらも、残された義兄(あに)を見ると、先ほどの表情とは一転して笑っていた。

 

「あとで会おう!一!」

 

 そして、バックルの前で腕を重ね、胸元で交差させると化の身体に変化が起こる。

 大柄な体躯、絵柄が違うような存在感、金色の二本の角のような逆立つ髪。

 トリコロールの衣装、その姿を見て慄くのは当然のこと。

 

「オ、オールマイト、だと!?」

 

「変身ヒーロー・フォーゼの姿にそんなのがあるなんて聞いたことないぞ!?」

 

「当たり前だ。教えるはずもないだろう?それに俺はオールマイトじゃあない。俺は愛する音々や弟の一を守るヒーロー、フォーゼだ!」

 

 月明かりの下、高らかに叫ぶ様子は化らしくもないとも言えるが、それは変身 化なりの自分を奮い立たせる手段であった。

 化はその晩、変身ヒーロー・フォーゼとして一晩限りの復活を果たす。

 獅子奮迅の活躍、多少のブランクはあれども、元ヒーローであることには変わらない。

 鎮圧にはそう時間はかからなかった。

 

「はぁ……、はぁ……。なんとかなったか」

 

 久しく戦っていなかったこともあり、鎮圧は早く出来たものの、息切れしてしまう。そろそろ、穂波姉弟のほうの姿が見えなくなる。

 このまま、仲間がやってこないように自分も向かわなければ、と足を動かす。

 

 発砲音が響く。

 

「なんだ、これは……。変身が……」

 

 オールマイトの姿から変身 化の姿に戻っていた。

 胸を貫かれたことで吹き出す血を押さえ、その場で膝から崩れ落ちる。

 

「いつまで経っても戻ってこないものだから、使う羽目になったな」

 

「ああ。しっかし、変身ヒーロー・フォーゼ?大したことがなかったな」

 

 うつ伏せに倒れ伏せてしまう、化の頭を掴む狙撃手の男。

 その様子をこともあろうに一は目撃してしまう。

 

「個性の発動を抑える弾丸か。無個性の俺達が使えば、銀の弾丸も同じってか?」

 

 今度はその照準が一を捉えると、即座に躍り出る音々が出てくれば、超音波を放つ。

 ほとんど同時にまた弾丸が放たれた。

 

「ね、おねえちゃんっ!」

 

「さあ、坊や。いい子だから、俺たちと来ようぜ?」

 

 一は怖くてその場から動けなかった。

 大好きな姉も、義兄となってくれた男も。

 

 みんなみんな、死んでしまった。

 

 自分の事を守って。

 

 自分が無個性だから。

 

 自分が個性を持っていなかったから。

 

 次に記憶にあることは、拘束台で目覚めたこと。

 

『おめでとう、君は新しい改造人間――改人に相応しい実験を施す被検体になってもらう』

 

 妙なチューブを貼り付けたようなマスクの男と白衣の老人。

 

穂波一(ほっぱはじめ)から取って、君はホッパー1だ』

 

 身体を弄り回される。

 個性を複数手に入れることが出来ると男はいうが、にわかには信じることが出来なかった。

 穂波一は生まれながらに個性を持っていない、旧時代でよく見られたような普通の人間(・・・・・)

 

『……今日に限ってか。迎え撃ちに行こう。手術は後だ』

 

 工程を終える寸前、建物の中でサイレンが鳴り響く。

 マスクの男と白衣の老人が出払った時、一は自分の中に巡る力を感じることができた。

 すぐ傍に置かれていた、変身 化のハート型のバックルのベルトに写真を確認すると、その拘束を振りほどいて(・・・・・・・)飛び出した。

 

(ごめん……、ごめんなさい)

 

(ぼくにちからがなかったから)

 

(ぼくがよわかったから)

 

(だから、ぼくは――――)

 

 そのときに気づかなかったが、異形に転じた目から涙を流し、夢中になって全てを薙ぎ払ったことは覚えている。

 

 ビギンズナイト。

 

 その夜、少年は涙の痕を隠しながら戦うことを決意する。

 

 仮面を被り、(ヴィラン)にとっての厄の風に乗ってやってくる者。

 

 仮面ライダーとして。

 

   




穂波 音々

個性:超音波(両掌から超音波を放つ。最大出力でスチール缶を破壊することが出来る)

詳細

穂波一の姉。亜麻色の髪をした美人。享年十八歳。
一とは九つほど年の差があり、両親を亡くした後に親戚中をたらい回しになった後は自分で弟を育てていくことを決意する。
そのときに親身になってくれた、変身化(かわりみばける)と付き合うようになる。
それまでに言い寄られたこともあったが、一が無個性と知ると振られたことがあった。


変身 化

個性:変身(相手の姿・声をそっくりそのままコピーする個性。見た物をそのままコピーすることが出来、なにも予備動作は必要ない。一度見た相手は掌に拳を打ちつけることでストックすることができる)

詳細
元ヒーロー、変身ヒーロー・フォーゼ。享年24歳。
頼りなさそうに見えるが、非常に頑固な一面がある。
身長は180cm前後あり、よく音々にたじたじにされていることから想像できないが、腕っ節は立つ。
穂波姉弟と時間を過ごす為、ヒーローを引退した。
馴れ初めは落ち込んでいた音々を慰めたことがきっかけだった。
なお、アプローチは音々からだったそう。
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