仮面ライダーは改人である   作:ふくつのこころ

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まだまだ、ヴィラン寄りのヴィジランテのホッパーさん。
正義とは悪より生まれ出てくるもの、とヒロアカ原作でも言われていましたが、それは仮面ライダーにも言えることですよね。

悪夢の後のアイツとの邂逅です。


ボーダーライン

 夜中、自室で穂波は目を覚ました。

 額には大量の汗が浮かんでおり、なんとなく夢見のほうも悪かったのだろうと予測できる。

 あのあと、ヒグマとその舎弟を簀巻きにして電柱にくくり付けておいたので明日には誰かが通報してくれるだろう。

 プロヒーローの事務所でヴィジランテが事務職をしている、というのは漫画でありそうな話だ。

 2LDKの部屋、食器棚からグラスを取り出して冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してグラスに注ぐ。

 

「あの夢を見なかったことはなかった」

 

 姉と義兄を同時に喪う。

 

 それも、自分が無個性で力がなくて守られるだけの存在だったからだ。ならば、自分が何よりも強くなる必要がある。

 部屋に隠してある伸縮自在の鎌も、蟷螂のような怪人の姿になるのだって時間はかかれども制御する為にひっそりと特訓をしてきた。

 オールマイトのようになることは自分には出来ないけれど、二度と自分のような犠牲者を出さない。

 

 自室は旧時代の特撮ドラマのグッズの他、姉と義兄と三人で撮った写真と岳山優の卒業式に撮った写真の二つが並んでいる。

 中学卒業以降に二度と会うことはないだろうと思っていたが、同じ高校に通うようにと言われたのは昨日のことのように覚えている。

 今の穂波には生き甲斐らしいものがなく、ただ漠然と生きている。

 

 改造された日に身に付けた不思議な感覚、それを頼りに現場に急行してヴィラン退治が日課になっていることくらいか。

 最も、自分もそのヴィランによって生み出された存在であることを思えば、「敵によって齎された力で悪と戦う」と言うコンセプトのヒーローを思い出す。

 

 スマートフォンを開くと、色んな広告が届いている。それらを一つずつ削除していると、同窓会の知らせも見え、それらも削除した。

 時間は深夜一時、街も人も寝静まった頃合いだろう。つくづく、自分が華やかな世界で生きていくのには向いていないと感じる。

 ヒーローの事務所で事務職、というのは現在の若者にしては夢がないと笑われることだろう。

 

 だけど、自分にはそれでいいのだ。

 

 ヒーローとは、賞賛されることがあっても見返りを求めるものではない。

 なぜならば、見返りを求めた段階でそれは正義ではないのだから。

 

 それを現在のヒーローは履き違えている、と感じる。特に学生時代の先輩の女性もそうだが、無私の奉仕者であり、ヒーローとは身体が勝手に動く(・・・・・・・・)ものであることが正しいのだと考える。

 部屋着のタンクトップにパーカーを羽織り、仮面ライダーとして活動する際に使っている道具(ツール)を一瞥したあと、そのまま手にすることなく、戸締りをして街に飛び出した。

 

 暮らしているアパートを出て、夜の街を幽鬼のようにさ迷う様はヴィランや不良の類に見られても文句は言えないだろう。

 あれから十三年、穂波自身もかつての頃に比べれば、かなり変わったように思える。背も伸びたし、体格だってがっしりと引き締まってきた。

 顔つきだって姉によく似た顔をしているが、今の自分の顔を鏡で見ていると無愛想そうに映ることだろう。

 深夜ともなれば、人通りも少ない。なるべく、警察に職質されないように用心をし、公園に訪れる。

 

 昼間は親子連れや小学生で賑わいを見せるものの、静寂が支配する場となっている。

昼間、昼食の時間に事務所から出ることがあるが、幼い子供が駆け回っている公園にはどうしても自分から近づこうとは思えなかった。

 

「あれ?珍しい。こんな時間に誰か居るなんて」

 

 声のするほうに振り向くと、妙な風体の青年がいた。

 年の方は自分と同じくらいだろうか、髪はボサボサで顔を覆う手のようなアクセサリーをつけた黒いラグランシャツでスウェット。

 その手のアクセサリーを外し、ニッと笑って見せるものの、唇がかさかさで肌もお世辞に綺麗とはいえない。

 

 深夜に出会いたくないようなタイプの、不審者に見える。

 

「こんな時間に出歩いている物好きがいるとはね。眠れないのか?」

 

「それはお兄さんも同じじゃないか。職質されちゃうよ?そんなこわーい(・・・・)顔しちゃって」

 

『少しは愛想良くしたらどう?』

 

 青年の言葉と目立ちたがり屋な先輩の言葉が重なり、思わず笑みを浮かべてしまう。

 深夜に出会いたくないタイプの不審者の印象は消えないものの、笑った穂波に対して彼は首を傾げる。

 

「なにやら悩みがあるんでしょ?何かあるなら、話してみたら?知らないからこそ、気持ちが楽になるってこともあると思うし」

 

「旧時代では、こういう時はエスパーだなって言うんだよな」

 

「面白いことを言うね、お兄さん。まるで個性がない(・・・・・・・・)みたいじゃないか」

 

 超常が非日常であった頃の表現はすっかり廃れてしまったのは、非日常だと考えられていたことが日常になったからだろうか。

 

「まさか。個性がない(・・・・・)はずないじゃないか。旧時代の表現が好きな人がいてね、その人の言葉を借りただけさ」

 

「へえ。じゃあ、そんなに尊敬できる人なんだね。俺にもいるんだよ、先生(・・)がさ。迷ったときは教え導いてくれる。どんな人なのか、知りたいな」

 

 先生、と聞いて胸の中で穂波には引っかかるものがあったが、それは気のせいだろうと振り払う。

 

「……凄い格好いい人でね。俺と姉貴の家族だったんだ。いや、家族になってくれるかもしれない人だった。だけど、俺に力がなかったが為に死んでしまった」

 

「……」

 

 ぽつぽつと穂波が語り始めると、青年から視線を向けられているのを感じる。

 話を聞いてくれているのだろうと感じる穂波だが、青年の方はと言うと穂波の話す様子や内容に対して興味津々であり、その瞳を狂喜の光で満たしていた。

 それに穂波が気づくことはなく、話を続けていく。遠まわしに自分が無個性である、と主張しているようなものだが、青年は遮ることをしない。

 

「今でも夢に見るんだ。いつも、あの人や姉貴が死んでしまう。俺は何もできない」

 

 穂波は拳を握り、肩を震わせる。

 誰にも、優にも言ったことがないような過去を話せてしまえることに驚きを感じている。

 穂波が相手にしてきたヴィランの中には、ヒグマのような単純なパワータイプ以外にもカリスマを発揮して集団を統率する者も見られた。

 そうした者を相手にする際は、一言も口を聴かない(・・・・・・・・)ようにして退治する。

 

 時として、言葉はどんな個性よりも強力に効果を発揮することがあるのだから。 

 

 

「そうだ、ヒーローは、アテにならない。だから、俺は変えて行きたいんだ」

 

 青年は穂波の言葉にしっかり頷いた。

 もしも、悪夢を見た後に夜風を浴びに散歩しに外出していなければ、青年がどういったものかはヴィランに容赦しない穂波ならば気づくことができただろう。

 

「今、死神なんて名前のヴィジランテにヴィランが減らされてる。皮肉だと思わない?ヴィジランテって、無免許ヒーロー?みたいな物だろうに殺しもすることから、そんな名前で呼ばれてるんだ。俺は死柄木。死柄木弔(しがらきとむら)。お兄さんも世間に不安を持ってるんだろ?」

 

 青年――死柄木弔はベンチから立ち上がり、穂波の前に手を差し出す。

 オールマイトの浮かべる笑顔が助けを求める人々に安心感を与える笑顔であるならば、死柄木の笑顔は貼り付けていて、どういった真意なのか窺うことができない。

 

「先生なら、お兄さんを導いてくれる。力がないというのなら、先生が力を与えてくれる。弱い個性なら――「いらない」――え?なんて?」

 

 死柄木は両手を大袈裟に広げ、自分の語る先生(・・)と共にいることでどういったメリットが得られるのかを語る。

 しかし、その言葉を穂波は最後まで言わせることはせず、遮ったことで死柄木は何が起こったのか分かっていなかったようだ。

 

「俺は、あのときに見た奴を仕留め(・・・)なくちゃならない。誰かの力じゃ駄目なんだ。それこそ、死柄木の言うように先生から力を貰っちゃ意味が無い」

 

「自分でするからこそ、意味があるってこと?変だね。楽な方法が目の前にあるんなら、それを使ってクリアすればいいのに。ゲームと一緒じゃん。お兄さん、名前は?おもしろいこと言うし、気に入ったよ」

 

 死柄木の言葉は心からのものではなかった。

 口調では平静を装っているものの、望んだ答えを聞けなかったことで気に入らない様子を見せている。

 ここでようやく、穂波は死柄木がヴィランであると確信する。それも、ただのヴィランでなく、もっと性質の悪いタイプであろうと。

 

穂波(ほなみ)穂波一(ほなみはじめ)

 

「ホナミハジメ。格好いいねえ。凄いねえ。まるで、ヒーロー(・・・・)みたいじゃないか」

 

「……俺はこれで」

 

 煽るような死柄木の言葉に穂波が立ち上がって立ち去ろうとすると、死柄木が逃がすまいと左手を伸ばそうとし、穂波は手首を振り返ることなく手首を掴み、首だけを向ける。

 

「どんな個性かは分からない。だからこそ、触れられるわけにはいかなかった」

 

「へえ?それで、もう片方も来るとは思わないのか」

 

「なら、最初からそうすれば済む話だ。触れれば発動する個性ならば、最初から俺に使えばいいだけのこと」

 

 冷静に述べていくものの、死柄木は穂波の目が気に入らなかった。

 自分と似たような目をしている癖にその瞳の奥には、わずかではあるものの、燃える炎が垣間見える。

 

「……腐ってもヒーロー志望かよ」

 

「何か言ったかな?」

 

「いや?帰るなら、早く帰ればいい。また同じ手をしてくるかもしれないぞ?」

 

 小さく死柄木が毒づくと、ホナミの目には強い意思が見える。そして、入り口の方へと歩き出すが、今度はその周囲に隙を感じられないように。

 まるで、変身(・・)したかのように。

 

「黒霧」

 

「良かったのですか?死柄木弔」

 

 死柄木が名を呼ぶと、現れる黒い靄のようなモノを纏う人物。

 黒霧の問いにああ、と死柄木は肯定して返した。

 

「先生やドクターの作った脳無。その失敗作(・・・)が生きているって情報を手に入れたんだから、どんな奴かと思えば。死神と呼ばれているのはセンス感じるし。黒霧、あいつはヒーローよりも俺達(ヴィラン)に近いよ。ヴィジランテなんてやってるけど」

 

「そうでしょうか?それにしては、強い何かを感じたような……」

 

 黒霧の脳裏に浮かぶのは、ヴィランにとっての天敵であり、平和の象徴と呼ばれる男。

 彼らにとって、特に死柄木にとっては心の支えとも呼ぶべき先生(・・)の忌むべき相手。

 それがヒーロー特有のものだと理解するのに時間はかからなかった。

 

「強い意思なら、先生だって持ってる。要するにさ、」

 

 死柄木は再度、ベンチに座ると人差し指を天に向ける。

 

 

「自分の欲望を満たすために復讐がしたいんだよ。だから、そう見えたんだ。穂波の中で煌々と燃え盛る復讐の炎になっているから。けど、気に入らないな」

 

 なんとなく、似ているようなものを感じていたのに裏切られたことで同族嫌悪へと変わっていく。

 

 ヒーローは肝心なときに助けてくれない。

 

 それは、かつての死柄木にも感じていたもので、こちらの領域に足を踏み入れるようになったきっかけだった。

 だからこそ、気に入らなかった。

 

 自分の誘いを蹴ったこと、“先生”の素晴らしさを理解しようとしなかったことももちろんだが、ヴィラン寄りの行動や思考をしているのにヒーローであることにこだわっているのが見える。

 

「先生が作った改人(かいじん)。あれ、脳無がなんで意識がないのに量産されているか分かったよ。意識を持ってると、何かの弾みで死神みたいに故障(エラー)が起きるんだ。今日の出会いは良い収穫だったよ、少なくとも、先生がやろうとしていた『無個性の人間にどれほど個性を受け入れられる器があるのか。また、受け入れた後に正気を保てるのか』の実験は成功したも同然だからね」

 

 死神と呼ばれる、蟷螂男の怪人がヴィランになったところを想像すると興奮してきてしまう。

 もしも、死神であれば、オールマイトを倒す事だって出来るかもしれない。それならば、死柄木の目指す“理想”に必要な存在であるのは間違いないだろう。

 

「『穂波一は改人である。ヴィラン連合によって改造手術を受けた彼は、仮面ライダーとなってヴィランと戦うのだ』……か」

 

 そらで浮かんできた言葉を述べて言った後、懐から取り出した“死神”と穂波一の写真を破り捨てる。

 

「吐き気がするほどにつまらないな。さぁ、早く堕ちてくれよ?死神のような奴には、先生の役に立つことが相応しいんだから」

 

 




死神とは
仮面ライダードライブでチェイスが魔進チェイサーとして登場していた頃、ロイミュードによってつけられた名前。
実際のところはそうではないのだが、ドライブがコアごとロイミュードを破壊することに対し、チェイスが「ドライブこそがロイミュードにとっての死神」であるところから。
穂波の変身する姿については、仮面ライダーカリスに近い。ホッパー1とか呼ばれているけれども。
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