「死神とも呼ばれている俺が?それこそ、首狩りライダーだとか言われるよ。良いマシンがあればいいんだけどね」
「だったら、ナイスなマシンに乗ればいい!だいじょぶ、私も手伝うからさー?天才美音様にお任せって!」
「創作が趣味なのはいいが、バイクまで作り出したら、それこそ本格的だな。……ハジメはそもそも免許持ってるのか?」
「一応は。個性使用許可の免許ないから、身分証程度に」
「それじゃあ、お父さん、ハジメ。はーじまるぞー!」
「ところで、最近はベルトの調子はどうだ?」
「上々だよ。しかし、変身ポーズをすると個性が発動するように働きかけるって凄いよな。そういうヒーローのサポートアイテムはありそうだ」
「ふっふっふ。てんっさい美音様メイドの逸品だからな、わんおふでハジメからの頼みしか受け付けないぞ!」
パスタを食べ終え、穂波が食器を洗っていると、蛇島が尋ねる。
穂波が自分の腰のハート型のバックルに少しだけ目を向けた。
『仮面ライダー』の象徴の一つ、変身の為のベルトは提案は蛇島で作成は美音であった。
一見すると何の変哲も装飾のないシンプルなベルトだが、なにかしらのセンサーが埋まっており、それが特定の変身ポーズを取ることで個性の使用を働きかけるというものだ。
仮面ライダーにはベルトがあったほうがそれらしい、という蛇島の発案を手先と知識の豊富な美音による製作である。
胸を張っている美音、どやぁという擬音が聞こえそうだ。
「今日はメンテナンスしていくのか?というか、泊るからしたほうがいいよな?してやるからな」
「拒否権はないってこと?……泊るかはさておき、頼むよ」
「もう今日は泊ってけ、ハジメ。くれぐれも、美音には手を出すんじゃねえぞ?」
頬杖をつきながら、美音は捲くし立てるようにハジメのほうを見つめる。
有無を言わせない勢い、同じ言い方でもどうしてここまで愛嬌があるのだろうと考える。
「心配無用、しないよ」
「本当か?美音ちゃんに慕われていることを良いことに不埒なことはしないだろうな?」
蛇島の目がキッと鋭くなる。
一見すると胡散臭い喫茶店のマスターだが、時折見せる凄みはただの中年男性にはとても思えない。
生まれ持った異能、個性を持つ人類が人口のほとんどを締めるようになった時代、個性もちの中年男性でもこんな気配を出すことはできないだろう。
たまに目つきが悪くなると、どことなく燃焼系最強のヒーロー、エンデヴァーを思い出すのは何故だろうか。
「これからも仲良くしたいし、手を出すことはしないよ」
食後のコーヒーを楽しむ蛇島の親馬鹿に微笑んで首を振ると、美音が口を開いて唖然としていた。
どうやら、ショックを受けているようである。
「ハジメの馬鹿!もう泊れ!」
美音は頬杖をつくのをやめ、店の奥へと走って行ってしまった。
まだ開店中だというのに大丈夫なのかと思いつつ、食器を乾燥機に入れるとハジメもその後を追う。
「美音!」
そんな二人のやり取りを終始見守っていた蛇島、コーヒーカップをソーサーの上において一息つく。
「あいつららしいっちゃあらしいな。くれぐれも、俺の娘のことを泣かせないでくれよ?」
肩を竦め、蛇島はまたコーヒーに口をつけた。
☆☆☆
「……本当、分からない奴だよな」
穂波からベルトを預かった美音はバックルを外し、調整を行なっていた。
机の上で火花が散り、時折、
自分が仮面ライダーのように優れた頭脳でも持っていれば分かったのではないか、と考えてしまうが、細かい電子回路を見ながらだったり、なにかしらのプログラム言語をパソコンに打ち込みながら作業している美音には完敗である。
美音の部屋は一目見ると、その部屋の主の性別が特定するのは難しいだろう。
お手製のTシャツがハンガーに掛けられ、死神とも呼ばれるヴィジランテ・仮面ライダーの仮面をあしらったマークをプリントアウトして貼り付けている。
机の上にはヒーローのフィギュアが何点か、その中には変身ヒーロー・フォーゼのものがある。
仮面ライダーのフィギュアもあり、その姿はいつ見ても穂波が変身する“仮面ライダー”よりも“らしさ”があった。
「悪かった」
「謝って欲しいんじゃない。ただ、そういう風に言ってほしくないんだ、私も」
あの後、美音に追いついたはいいが、泣き出してしまったことで穂波は何故かベルトを奪われてしまった。
それから着替えて来いと言われ、“仮面ライダー”の顔をシンボル状にしたライダークレストをプリントしたシャツを着て美音の部屋にいる。
店はどうなったのかと聞けば、「お父さんが臨時休業するから」と言っており、厨房に今は立つ気がないらしい。
マットの上に座らされ、穂波の方を見ようともしない美音の小さな背中が視界にはある。
「いつも、ニュースで
「それは、俺がヴィランに対してはそうじゃないからだ。変身して、仮面を被っている俺はお前が思っているような俺じゃない。だから、俺は恐れられる」
「……そうかな。この世界っておかしいよ、ハジメ。なんでいいことをするのに資格がいるんだろ?」
「ヴィランとヒーローに違いをつけるためだろうな。いくら、人助けをしても資格がなければ、ヒーローじゃなくてヴィランも同然なんだ。ヴィランが自分の欲望を満たすために個性を使うように、ヒーローに資格がなければ見分けがつかない」
美音は穂波のもう一つの
しかし、穂波のほうは美音の同情を受け止めながらも、自分がヴィジランテと言う個性の違法使用を行なっている
それでも、穂波がヒーローに“守られるだけ”になりたくないのは意図せずして得てしまった力があったからだろう。
無個性と言う、能力者だらけの世界で障害とも言える状態で生まれた自分には願ってもいなかった力。
なにもできなかった。
そんな後悔をしないために振るえる力。
「それでも、俺は後悔をしたくない。だから、ヴィランを倒す。俺のような境遇の人間を出さない為に」
「ハジメ……」
その身体は、あのマスクの男によって弄られた時から既に人間のそれではなくなっていた。
変身する力、人間離れした身体能力、さらにほかにも能力があることは知っている。それらの力を無個性の身体に何らかの方法で入れられたことで、無個性ではなくなったものの、穂波一というニンゲンは一度死んだ。
「俺はお前やマスター、それに誰かがヴィランでないと言うのであれば、俺は人間でいられる」
「あ、当たり前だ!お前がヴィランなはずがない!」
美音は向き直り、ハジメの手を掴む。
その目には涙が浮かび、馬鹿を言うなと今にも泣き出しそうだ。
「ならば、俺はヴィランじゃない。お前がそうではないと言ってくれているなら」
俺は人間でいられるのだ、という穂波の目はどこか悲しみを湛えているようにも見える。
美音は穂波の過去を良く知らないが、それは自分から聞いても穂波にはぐらかされることが多いからだ。
穂波のヴィジランテ・仮面ライダーの姿は美音の我儘で見たことがあるが、確かにハート型のバックルがなければ、ヴィランと見間違えてもおかしくない姿だ。
そこに親しみやすさとヒロイックを求め、作り出したのが変身ベルト。一見すると無意味な変身ポーズには、穂波にヒーローでいて欲しいという願いを込め、それに反応すると個性が発動しやすくなるように仕掛けられている。
「……うん。ハジメ、あの話の答えは、聞かせてくれないか?」
「答えはノーだ。お前を危険に巻き込むことはできない。メンテナンスだけでもありがたいんだ、俺はヴィラン共の危険に晒したくない」
美音の握る穂波の手は、冷たい。
それは初めて会ったときから変わらない冷たさで、穂波の優しさを感じることはあるけれど、穂波の直接的な温かさ、手の暖かさは美音は感じられなかった。
そういうとき、美音は穂波はニンゲンではないのだと言う現実を突きつけられてしまう。
「……だったら、私が寝るまで私の傍にいてくれよな?ヒーロー?」
「付き合ってないのに、簡単にそういうことは言うもんじゃない」
「む、ハジメ、私の兄貴みたいだな?」
「そういうつもりで接しているんだ。お前はどこか危なっかしいからな」
それはこちらの台詞だ、という言葉を美音は飲み込んだ。
毎日のようにヴィランと戦う男が、いつか知らない間に命を落としそうな気がしていたから。
☆☆☆
その夜、仮面ライダーは、寝静まった町でヴィランを仕留めていた。
そのヴィランは何度も強盗殺人を繰り返しており、被害総数は二桁に届いていた極悪犯であった。
特に幼い子供を手にかけていたということが仮面ライダーの琴線に触れ、その死神の鎌を振り下ろそうとした時に見せた命乞いが仮面ライダーの怒りに触れてしまう。
「お前の殺してきた者たちは、今のお前のように助けてくれ、命だけはと言ったはずだ。そんな者を殺してきたヴィランを、俺は許さない」
「チッ、噂通りの冷酷ぶりだな?死神!知っているぞ、お前はヴィジランテなんかじゃなく、ただの精神異常者だってことがな!お前は俺と同じヴィランに過ぎないんだ!」
鎌の刃を首に近づけてもなお、自分が助からないと見たヴィランは仮面ライダーに毒を吐く。
しかし、仮面ライダーは、その無機質な顔から表情をうかがわせることはなく、大きく地面を左足で踏みつける。
すると、風が巻き起こり、ヴィランの身を切り刻む。
「ッ、グァァァァァ!?この悪魔め!狂っている!狂ってるぞ、お前!ヒーローなら、ヴィランを殺さないようにするんじゃないのかよ!?死神が!」
「お前はヴィランじゃない、ただのクズだ」
地面に伏せたヴィランの背中を踏みつけ、その複眼の奥から冷徹なまなざしが向けられるのをヴィランは感じる。
この死神は、自分の命を刈り取ることに微塵の抵抗を見せることはないだろう。支離滅裂なヴィランに対し、死神はそのヴィランの命を刈り取った。
赤い血が噴出し、仮面ライダーの身体を赤い血で染め上げる。変身を解除すると、タンクトップにネッカチーフの穂波の姿へと変わった。
「いやぁ、鮮やかだった。敵にも容赦がないなんてな、イマドキの奴には珍しいんじゃないか?……しかし、進んでヴィジランテになろうだなんて変わってるよな?ヒーローを目指さないって」
拍手が聞こえれば、穂波はポケットに手を突っ込んだまま、そちらのほうへと視線を向ける。
「誰だ、お前」
「俺か?」
声の主は緑色のバイザー、首周りが宇宙服のようになっている蛇の印象を与える真紅の怪人。
どことなく、赤い蛇を思わせ、穂波にとっては命の恩人とも言えるマスターの顔がよぎるが、それを振り払う。
あんな、娘に頭が上がらない男が浮かんでくるなんてどうかしていると思ったからだ。
「俺はスターク。お前が噂に聞いていた、仮面ライダーか。まぁ、手口からして昼には向かないな。ここら一帯じゃあ死神とも呼ばれてるんだっけか?」
真紅の怪人、スタークは仮面越しに笑ったように見えた。
ビルド、終わってしまいましたね。
去年とはちょっと違うような演出でしたけど、戦兎にとってはある意味では救いだったのではないでしょうか。
美音とのあの話、という部分は色恋沙汰ではありません。
美音は穂波のことを慕っていますが、Mt.レディとは違うベクトルで穂波自身は彼女をそういう目では見れないからです。