仮面ライダーは改人である   作:ふくつのこころ

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やっと、原作主人公と邂逅。
出久に影響を与えたり、与えなかったり


なぜ少年はヒーローに憧れるのか:前編

「しかし、噂のヴィジランテがこんな奴だったとはなあ」

 

「どこかにリークするつもりか?」

 

 そのときに穂波の頭をよぎるのは、ベルトのメンテナンスや作成を行なってくれた美音や住居を提供してくれた蛇島の顔。

 自分がこのスタークに捕まってしまえば、彼らにも迷惑がかかってしまう。ヴィジランテは違法の個性発動を行なう犯罪者(ヴィラン)と見做す法律の前では、彼らもまた犯罪行為に加担していたと見做されてしまうだろうから。

 そんなとき、穂波は雇い主の学生時代の先輩を思い出す。彼女はヒーローとして自分のことを捕まえにくることだろう、そう思うと不思議と気分がスッキリした。

 

「いやいや、話がしたかったと言ってるだろ?最近の奴は血気盛んでいけないなァ、もうちょっと心の余裕をもっとかないと」

 

 頭を振る様子は感情が窺えないフルフェイスのマスク越しからでも、わざとらしく残念そうにしているのが見て取れる。

 親しみやすいとも取れるし、どこか人を食ったような態度を取るスタークに穂波は警戒心を緩めず、今からでもバックルに手をかけていることから、スタークは両手を上げる。

 

「なら、こんな時間に何の用だ」

 

「単刀直入に聞くぜ、“仮面ライダー”、いいや、穂波一(ほなみはじめ)

 

 スタークは穂波の苛立ちに気づくと、ゆっくりと歩いて近づき、やがて目の前にやってくると、人差し指を突きつける。

 

 

「今のお前、自分が正しいと思ってやっているのか?」

 

「どういうことだ?」

 

 スタークの言葉を聞いた穂波が眉を顰め、手を払いのけようとすると、かえって穂波がスタークに腕を掴まれてしまう。

 引き剥がそうとするも、改造されて人間以上の身体能力を持つはずの穂波でも払いのけることができない。

 

 スタークのそのスーツの恩恵によるものだろうか?“仮面ライダー”に変身していない状態の素の身体能力はスペック上では並の人間以上、増強系の個性でかなりの力を引き出さなければ、真正面の殴り合いでは強い方だという自負がある。

 そんな穂波は腕力にも自信があったし、なにより、無理に解こうとしても一向にびくともしないのが不気味だった。

 

「いやな?噂を聞いている限りじゃ、お前のそれってさ、通り魔のようなモンじゃねえか。ヴィラン相手とはいえ、夜に変身して襲い掛かり、最近じゃヒグマなんてヴィランを切り刻んだ後、電柱に括りつけたと聞くぜ。しかも、それでついた愛称が死神だ。――なあ、お前は一体、何のために戦っているんだ?」

 

 それは、世間の“仮面ライダー”への批評であった。

 職場で瀬文や優、Jacarandaでは美音から聞いているが、“仮面ライダー”というのは恐れられているらしい。 穂波は自らが世間からの賞賛を受けないことには関心がなかった、自分がヴィランにとって“恐怖の象徴”となるのであれば、それでいい。

 いつも、幼少期の“人生の特異点”が頭をよぎって離れないのだ。あのとき、あの地獄に引きずりこまれたときから、“ガスマスクの男”を探し出すことが穂波の目標となっていた。

 

 そして、自分のような境遇の者を出さない為に夜は仮面を被って闇に紛れ、ヴィランを狩る。

 

「俺がヴィランと呼ばれようとも、奴らが誰かを傷つけるのが許せないからだ」

 

「それは、我が身が汚名を被ってでもか?」

 

「そうだ」

 

 穂波自身、スタークに戦う理由を語る必要はないと感じていたが、不思議と口から出ていた。

 それは、“死神”としての自分との間で揺れている証拠かもしれないが、それを穂波自身が気づくことはできなかった。

 ただ一人だけ、スタークは穂波の言葉とは裏腹に境界線をふらふらしている危うさを見出し、穂波に興味を持った。

 

「面白い奴だな、ますます気に入ったぜ」

 

 穂波は上機嫌なスタークに何も言わず、フードを深く被って背中を向けて歩き出した。

 一見すると、隙をさらけ出している行為にも見られるが、大鎌の状態にされている“死神”と呼ばれる所以となった武器を手にしていることから、スタークは迂闊に彼に手を出すことはしなかった。

 否、今夜の段階ではスタークは穂波に手を出すことはしないだろう、今日はあくまでも“噂のヴィジランテ”の顔を拝みに来たに過ぎないのだから。

 

 

「あの目を見ていると、なんだか懐かしいぜ。ああいう目をしている奴がいちばん危険なんだが、それに本人が気づいているはずもねえよなぁ」

 

 立ち去るとき、自分を一瞥して去っていった青年の顔つきはヒーローの目でも、ヴィランの目でもなかった。

 

「まだまだ、大人にはなれてねえガキってところか」

 

 子供が怒ったときに見せる表情そのものだったからだ。

 

 ☆☆☆

 

 その日は、緑谷出久にとっては最悪な日と言っても良かった。

 

 幼馴染の爆豪克己に自分がヒーローになったときやこういう個性に目覚めたとき、という前提条件の下に作ったノートを投げ捨てられ、馬鹿にされた。

 

「(だけど、かっちゃんには“ある”んだよな……)」

 

 個性は結婚においても重要視されていたことがある、と個性について研究していく上で緑谷は知っていた。

 両親の個性を受け継ぎ、それがより強いものへと発展していくことから、良い個性を狙った個性婚と呼ばれるものがあるように、個性は社会では必要不可欠なものだった。

 だが、それをかなり珍しい確率で緑谷は持ち合わせておらず、そのせいでいじめられていたことも少なくなく、自分がオールマイトのようなヒーローになりたいという夢を持つことさえ、許されていなかった。

 

 幼馴染は、昔から何でも出来たし、非常に派手で強い個性を持っていた。

 それで自意識過剰なところがあるが、それさえも非常に強い個性を持っていることから、周囲に許されているような風潮さえある。

 そんな“歪さ”には、無個性であっても個性を重視される世界で育った緑谷は敏感に感じることができた。

 

「じゃからんだ……?」

 

 帰宅中にふと見つけた喫茶店、いつの間にか、街外れの方にやってきていたらしい。

 『Jacaranda』と看板を掲げた喫茶店、そこは山にあるロッジのような建物であり、今日のオススメメニューが書かれている。

 夕飯前とは言え、どこかに逃げたくなるような心境の今の緑谷は喫茶店の扉を開けると、ベルが楽しそうに音を立てる。

 

「あ、あの……」

 

「いらっしゃい、お一人様?今は少ないから、好きなところにどうぞ」

 

 中では、眼鏡をかけた青年がカウンターに座っており、Jacarandaと描かれたエプロンをつけており、緑谷が店内に入ると、愛想よく笑った。  

 

「あ、はい……」

 

 青年は緑谷とは正反対の印象を受ける。

 “ナード”と揶揄される緑谷とは正反対な爽やかさを感じさせるのもあるが、なによりも、彼もまた“持っている”人種なのだろう。

 店内を見回すと、客の数もあまり多くない。だから、この青年がカウンターでゆっくりしていたのだろうか?店長と言うには、あまりにも若すぎるが……。

 緑谷が席に着くと、青年が水が入ったグラスとおしぼり、メニューを持ってきた。

 

「また注文が決まったら、お呼びください」

 

「あ、あの、オレンジジュースとサンドウィッチ盛り合わせを」

 

 メニューを見る間もなく、注文を伝える。

 何かを食べようにも、これと言って浮かんでこなかったので、店の前のメニューにあった本日のオススメとオレンジジュースを注文した。

 

「かしこまりました。……オーダー、オレンジジュースとサンドウィッチ盛り合わせを」

 

 青年がまた小さく笑みを浮かべると、厨房の方へと注文を伝える。

 あいよー、と女の子の声が聞こえてくる。

 ここの従業員の一人だろうか?と厨房の方へと目を向けると、先ほどの青年と目があった。青年は視線に気づくと、口元を緩めて微笑んでいる。

 気まずくなった緑谷は店内を見回す。

 

 木の板の床、天井から吊るす形となっている照明、回るプロペラと中学生の自分が訪れるには少々、敷居が高そうなお店だ。

 財布の中身は今月は出費がそんなになかったはずなので、大したことはないと思いたいが、注文してしまった以上は仕方がない。

 ふと、自分がキョロキョロしていることに気づいた緑谷はノートを開いてペンケースからペンを取り、汚れたノートに記入をし始めた。

 

「学生さん?精が出るね。勉強?」

 

「あ、はい。そんなところです。と言っても、個性の研究なんですけど」

 

 あの青年がサンドウィッチとオレンジジュースをトレーに載せ、目の前に立っていた。

 緑谷はノートを閉じ、照れくさそうに笑うと、青年がノートのタイトルを読み上げる。

 

「将来のための……?もしかして、ヒーロー志望?」

 

「あ、あはは。……叶わないと思いますけど」

 

 確かに一般的に見れば、個性の研究に熱心なのはヒーロー志望と取られてもおかしくないだろう。

 それに人気のある職業だ、学生にとっては憧れの的となることは間違いないだろうし、彼の指摘も的を射ていると思うが。

 叶わないだろう、という自嘲に青年は首をかしげた。そのときに見えた彼のエプロンについている名札には『穂波一』とある。

 なんと読むのか、ホナミなのかホッパなのか。ホッパーとも読めそうだ。そんなことを考えていた。

 

「諦めるには早いんじゃない?見たところ、君って中学生だろ?これからじゃないか」

 

 青年は商売口調を投げ捨て、フランクな口調になっていることを緑谷は指摘できなかった。

 なんとなく、怖いような印象を持つのもあるけれど、馬鹿にされていないのははじめてだったからだ。

 

 緑谷自身が無個性であることを知らないからかもしれないが。

 

「そうですかね……、あの、ホッパーさんは、好きなヒーローっていますか?」

 

「うん?好きなヒーロー?フォーゼ。知ってる?」

 

「はい。七変化とも呼ばれてるヒーローですよね。口調・体格・匂い・遺伝情報。それら全てを完璧にコピーできる反面、そのコピー対象の個性までは模倣できないって制限がある。マイナーなヒーローで、ちょっと成績が振るわなくてバッシングを浴びていた時期もあったけど、突然の引退で騒がれたこともあったんだとか。でも、その個性のおかげで検挙できたヴィランも多く、その手の個性持ちにありがちな“自分”との境界線を見失うことがない強靭なメンタルの持ち主で、そのメンタルの強さは最高のヒーロー、オールマイトに並ぶほどと言われていて、メンタルの強さこそがフォーゼの強さとも言われているんですよね!」

 

 緑谷が早口で捲くし立てると、青年は驚いたように目を丸くしていた。

 変身ヒーロー・フォーゼはヒーローについて造詣が深い緑谷は知っているものの、マイナーな部類にあたり、その個性から騙まし討ちが多く、民衆からの支持はあまりよくなかったが、それでも自らの個性を生かしてヴィランのアジトに潜入する様は相棒(サイドキック)の立ち回りと批判する評論家もいるが、フォーゼなりの戦い方を追求した結果なのだろうと緑谷は思っている。

 そして、青年の――ホッパーの好きなヒーローがフォーゼであることに驚いた。最高の人気を誇るオールマイトや知名度の高いヒーローでなく、フォーゼの名前を出すとは、なかなかのヒーローオタクなのでは、と思い、つい早口になってしまった。

 

「あ、ごめんなさい。つい。ヒーローは好きなんですか?」

 

「いや、気にしないで。俺も嬉しかったんだ、フォーゼのことをこんなに詳しく知っている子がいるなんてね。ちなみに俺の名はホナミ・ハジメと読むんだ。ホッパーじゃないよ」

 

「す、すいません!読み方を間違えてしまって!」

 

 どうやら、ホッパと読むのでなく、ホナミと読むらしい。

 大慌てで緑谷は謝った。

 

「よくあることなんだ。悪気もないようだし、別に怒ってないよ。ヒーローが好きなんじゃなく、フォーゼという個人が好きなんだ。良くして貰ってね」

 

「フォーゼと個人的な親交が?ヒーローと親交があったなんて、凄いですね」

 

 穂波は気にしないで、と手をヒラヒラさせた。

 ホッパー、とはよく呼ばれているらしい。

 それにしても、ヒーローが好きじゃないとは珍しい人だ、と緑谷は思った。でも、よくよく考えれば、それは多くの人がヒーローを支持しているものの、それが全てではないと気づいた。

 

 なにより、マイナーとは言え、ヒーローと親交があったとは。

 それはとても羨ましい、ヒーローオタクとして。

 もしも、自分が憧れてやまないオールマイトと親交を持つことが出来れば、それほど幸せなことはないだろう。 

 フォーゼの話をしているときの穂波はどこか生き生きしているように見えた。

 

「うん、ちょっとね。姉貴が仲が良くて。だから、フォーゼは特別なんだ。色々言われているけど、俺にとっての最高のヒーローさ」

 

 なんだか、自分と似ているところがある、と緑谷は感じた。

 

「良かったら、お話しませんか!?」

 

 曇っていた心に一筋の光を射し込んだ穂波、紛れもなく、今の緑谷にとってはヒーローで。

 思わず、口から言葉が飛び出していた。

 

「今はマスターが戻るまで店番を頼まれているんだけど……、その後で良ければ。構わないよ」




店番中の穂波は愛想よくしているので、口調が丁寧じゃなくても営業口調であるのは確か。
ちなみにこの日は非番。
穂波は改造前は無個性として生まれているので、惹かれあうものがあるのかもしれない。
今後の話のため、なぜ少年はヒーローに憧れるのかは前後編でお送りします。
まだまだ、穂波のダーク色が強め。
スタークに引っ掻き回させたいけど、スタークの口調は果たして上手くできているのか……。

ジオウのツクヨミちゃんカワイイヤッター!
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