宝生永夢が全然変わらないと聞くので、凄い気になる……。
お話の振り返りはネタが思いつけば、また再開予定。
スタークとかと違い、原作主人公と今のところ良好なのは無個性繋がりから。
人間辞めている今でも、どことなく重ねるものがあったのかも。
今回は緑谷視点多めでお送りします
その日は夜からの営業が無い事もあり、Jacarandaでは最後の客が店を出て行った後、後片付けを穂波は始めた。
まだマスターは戻ってくる気配がしないが、それでも出来る限りのことはしておこうと思ったのだろう。
喫茶店の仕事の様子はアルバイトをした事が無い緑谷でも一日眺めていても、大変そうなのは伝わってきた。
それでも、時間の合間を縫って自分に話しかけてくれたり、厨房の方で何かを落とす音が聞こえてくれば、すぐに駆けつけて行った。
曰く、料理担当は穂波にとって妹のような少女なのだという。この喫茶店のマスターの娘であり、穂波にとっては家族も同然だとか。
「穂波さんは、ここでアルバイトを?」
大学生のように見える穂波、緑谷は手慣れた様子でモップ掛けをしている穂波に声を掛ける。
「いいや、普段は事務職だよ。まぁ、実家の手伝いみたいなものさ」
「なんだか、意外です。事務所だったんですか。てっきり大学生かと。職場の方は良いんですか?」
「家の手伝いをするのにいちいち許可は取らないだろう?そういうことさ」
人差し指を口元に当てて、しーっとする穂波。
そんな様子に緑谷は穂波にもジョークを言うところがあるのだな、と感じる。
ただ堅苦しいだけの人物ではないことは分かっていたが、それでも、ちょっとこうした抜けている部分はギャップとしてモテるのではないかと思う。
「ハジメの奴、そういうところ、凄くワルいと思うんだよなー。まぁ、でも今日は助かった!私一人じゃ店を回せなかったからな!お父さんにもハジメが大活躍だったって伝えてお……誰!?」
上機嫌な茶髪の少女がにこにこ笑顔で厨房から出てくれば、両手を広げて穂波の元へと近づいていく。
そこで緑谷の存在に気づき、大袈裟なリアクションを見せた後、穂波の後ろに隠れてしまった。
緑谷から見れば、自分より背が低いこともあり、年下にも見えないこともないが……、個性の関係上、身長は極端なものだから、外見だけでは伺うことは安直だ。
声が裏返った少女は穂波の腰に手を回し、がくがくと震えている。エプロンの下から窺えるシャツには何かがプリントされており、その不健康そうな白い肌からはタンクトップらしきものが見える。
無防備なところがあるのだろうか、と恋愛に疎い緑谷は妙に意識してしまって顔を赤くしてしまう。
「えっと、この子は……?」
「蛇島美音。俺の恩人の娘だ。それと勘違いしているかもしれないから言っておく、おまえより年上だからな。17歳のおねーさんって奴だ」
「え、年上!?」
まさかとは思っていたが、少女は緑谷より年上であったらしい。
確かに振る舞いから幼いのではないかと思っていたが、実際のところは緑谷より年上だった。
元から振る舞いが幼いのだろうが、それでも、その顔立ちは結構可愛らしく、もっと細かく言うと綺麗どころと言ってもいいような……。
「漏れてるぞ、中学生」
しまった、と緑谷は口を押さえる。
そういえば、緑谷は穂波には名前を教えていなかった。
「
遅ればせながらの自己紹介、穂波一と蛇島美音の
手を差し出し、何とか笑ってみるが、どうもぎごちなくなってしまう。
その手を取ったのは、穂波の方であった。
美音のほうがよかったかと聞かれれば、その通りなのであるけれど。
「……もじゃくん?じゃ、駄目か。ハジメと被るし。じゃあ、グリーン」
美音は一言二言、独り言を呟く。
大きな丸眼鏡をかけていることもあり、彼女もまた緑谷同様にオタク気質なところがあるようだ。
美音はちょっとくしゃくしゃな穂波の頭髪を見上げると、すぐに首を振って新しい名前を浮かばせた。
そうして、破顔する様子は美少女と言っても差し障りなく。
「ハジメ!私、友達できた!」
「それは良かった。緑谷、仲良くしてやってくれ」
美音が穂波に報告すると、穂波は美音の髪をくしゃくしゃに撫でる。
目を細める様子は小動物のようにも見える。
美音は緑谷をグリーンと呼ぶことに決めたようだが、その“おにいさん”はどうやらそうするつもりもないらしい。
ちょっと旧時代のアメコミヒーローみたいで格好良かったので残念な気がしなくもないが、ここは甘んじて受け止めるしかない。
「はいっ!もちろんです!」
笑みが零れてしまう。
学校生活は幼馴染のせいでお世辞にも良いとは思えなかったけど、受験を向かえる前には友達が出来そうだ。
あとは、自分のヒーローの話について聞いてくれる人だって。
「で、だけどな?ハジメには実は友達が居ない!なので、ハジメの友達にもなってほしい!私からの願いだ。ハジメ、格好良いし、強いし、優しいとどこに出しても……は私が困るので嫌なんだけど、とにかく凄いのに友達居ないから、友達になって欲しい!」
「僕は、別にいいんですけど……」
緑谷はおそるおそる穂波の方を見ると、穂波は美音の額を小突く。あわわわっ、と額を押さえる。
ちょっと貼り付けたような笑みのまま、穂波は手を差し出している。図星だったようだ。
「た、ただいま~~。いやあ、疲れた。……おや、美音ちゃんにハジメ。誰かお客さんか?駄目だよ、CLOSEDにしているのにお客さん入れちゃあ。で、ハジメの友達0人がなんだって?」
疲れたように袋を持ちながら、疲れたような面持ちで蛇島真紅がJacarandaの扉を開けて入ってきた。
穂波は張り付いたような面持ちのまま、美音は穂波の腰に抱きついたまま。なんともやるせなかった緑谷、小さく頭を下げて会釈。
「えーっと、穂波さんと美音さんの友達になりました。緑谷出久です」
後にプロヒーローになった後も、とあるヒーローはこのことは実に印象深いことだったと語るようになる。
「へえ、美音ちゃんはまだしも、ハジメの友達になってくれたのか!」
これまでの流れを聞き、蛇島は驚いた。
美音はこれまでは引っ込み思案なところがあるし、接客が出来ないからと言う理由で厨房で注文の料理を作っているのだが、穂波の方は別の要因で友達が居なかった。
本人が作ろうとしていないのもあるので、それで本当に社会に馴染んでいるのかと親心として心配であった。
今のところ、ようやく友達が出来たことで安堵してはいるものの、まさか年下の、それも中学生が穂波と美音それぞれの友達になるとは思わなかった。
「まあ、グリーンがそうなったのはグリーンの優しさだなー。私が言わなかったら、いつまで経ってもハジメはボッチだったから。それでも、私が居るけどさ」
ここは褒めるところだぞー、と父親の前に頭を差し出す美音。
かわいい娘の我儘とあれば、親馬鹿な蛇島が反応しないはずもなく。
よくやった、と褒めるように頭をなでていると、美音はうれしそうにしていた。
「穂波さん、美音さんとは長いんですか?仲が良さそうなので……」
「うん?そうだな。かなり長い付き合いなんだ。幼馴染と言うよりも、家族のようなものだ。全部、マスターのおかげだな」
「お?ようやく、俺に感謝を示すようになったか!だったら、うちにも稼ぎを入れろよな?とんだ不良息子め」
「十分、繁盛しているじゃないか。それ以上に欲しいのか?」
蛇島親子とのやり取りに緑谷が穂波に尋ねると、穂波はなんでもないように返した。
蛇島はどこか嬉しそうに口端を吊り上げ、穂波の髪をくしゃくしゃに撫でる。
緑谷は自分が踏み込めるようなことではない背景があると感じ取ったが、なるほど、こうしてみると確かに家族だと感じることができた。
その後、緑谷は蛇島家の団欒に暫しの間、加わった。
ほとんど同世代のような美音、あまり自分の話をすることはないものの、話を聞いてくれる穂波、茶化す蛇島となんだか不思議な空気だった。
「……というところがあって、ハジメは格好いいんだ。まさにスーパーヒーローっ!」
「何度、聞かされていると思っているのか分かるかな?美音ちゃん」
それは、美音の語る『ハジメはこういうところが格好良い』と言う話であった。
蛇島はすっかり聞き飽きていたのでへとへとな様子であったが、兄弟がいない緑谷にとってはどこか羨ましいような話だった。
凄まじく早く動いて、倒れそうになった美音を抱えるという話は穂波の個性がそういったものではないかと考察が出来、緑谷は興味を持った。
「つまり、穂波さんってそういう高速で動けるタイプの個性でもお持ちなんですか?」
ヒーローオタクとして、緑谷には逸るものがあり、質問の中でも既に好奇心が抑えられなかった。
「いや、トレーニングしたんだよ。ハッタリに使えるだろ?運動神経が優れていたらさ」
「え、でも……」
信じられない。
しかし、ありえない話ではない。
それでも、個性を持つ人間と言うのは持っていないものと比べても高い傾向がある。
たとえば、かつてのオールマイトの相棒を務めたサー・ナイトアイは予知の個性を持っているのだが、その戦闘向きとは思えない個性を持ちながらも、ヴィランと渡り合えることができる。
それに比べ、無個性の者には、そういったことはない。現在のヒーローの多くは個性を持っており、超常黎明期、ヴィジランテと呼ばれる自警団を名乗っていた者達の中にはそういった無個性で身体能力を極めた者が多かったとされているが、現在のヒーローで無個性は聞いたことがない。
穂波が何かを隠している可能性も考えられたが、個性の制御のことを思えば、そうしたことも珍しくはなかった。
「俺も、ヒーローが使うような個性は持っていない。緑谷は?」
穂波はぽつぽつと言葉を紡ぐ。
「……笑わないでくれますか?僕、無個性なんです。でも、ヒーローになりたくて」
緑谷は目を閉じた。
気前がよく、穂波を加えた優しい蛇島家の人々でも、自分の叶えることが出来ない黄金のような眩い夢には、きっと笑い飛ばされてしまうのではないだろうかと。
ぽん、と手を置かれた。目を開けてみると、穂波だった。かつてないほど、優しい目をしている。
「俺は職業ヒーローなんてものが好きじゃあないが……、緑谷。お前がもしも、誰かが助けを求めている時にすぐに動くことができるというのであれば……」
ヒーローになれる適性は持っているんじゃないか。
穂波の言葉に蛇島は目を丸くしていた、優しい言葉をかけるのは穂波本人の柄ではないのだろう。
プロのヒーローは、身体が勝手に動いていたというようなことがあるらしい。
そういうことがあれば、自分にも素養があるということ。
だけど、そういう時にならなければ、それは分からない。
もしかしたら、“弱虫で気が弱い”自分には一生出て来ないかもしれない。
「じゃあ、また来ます!さよなら、穂波さん!美音さん!マスター!」
それでも、穂波一の言葉は、母親を待たせているからと緑谷がJacarandaを出るときに緑谷を笑顔にさせることには出来た。
「じゃーなー!グリーン!」
「……あんなこと言っていいのか?ハジメ」
美音が緑谷に手を振る傍ら、溜息をついて蛇島は首のうなじを掻く。
「俺だってヒーローに憧れたことはある。俺の尊敬するヒーローは、誰かを笑顔にさせることが出来たんだからな。それに誰かの憧れを貶めるほど、終わっちゃあいない」
「素直じゃねえなあ、全くよ。良し、メシにするぞ!ハジメが作れ!」
「ハジメ!ハヤシライスが良い!」
穂波の表情がどこか寂しそうに見えれば、蛇島は義理の息子とも言える穂波の肩を叩いて店へと戻る。
呆気にとられる穂波を笑顔の美音が手を引けば、つられるようにして引っ張られていく。
こうして、穂波は予期せぬカタチで一人の少年の背中を押すこととなる。
「仕方がないな。……ところで、載せているアレはデミグラスソースだっけ?」
翌日、少年は運命の出会いをし。
穂波の運命は静かに動き出す。