サラサラと紙の上を走るペンの音が響く。紙の上を走るペンに沿うように、黒いインクの文字が綴られていく。
私はペンを止めて深く息を吸い込む。空っぽの肺の中に息が満ちるのを感じ、そして深く息を吐いた。肺の中から吐き出された息につられるように、身体を疲労感が包み込んだ。
両手を組んでゆっくりと前に押し出し、そのまま頭上へと伸ばす。ずっと座り込んでいたからか、油の切れた機械のように、私の身体から音が響いた。机の上に目を下ろせば、書き終えた書類と羽ペンが目に入った。当初は羽ペンどころか万年筆さえも使ったことのない私ではあったが、今では事も無げに使っている。いや、もはやこれでなければ書類が書きづらいとさえ思ってしまう。そう思うと、こいつと長年の付き合いになるのね、と苦笑した。
誰かが言っていたが、時間をかければ馬鹿でも傑作小説が書けるとか。そんな言葉を思い出した。
私は書き終えた書類を取り上げ、別の机に置かれていた紙束の上に載せた。何十枚も重なった書類の束。私がずっと書き続けていた物を見ると、否応なく感慨深く、また哀しい気持ちになる。
どこに行ってもやることは同じなのですね。
そう感じた。
一人孤独に自分の世界へ入ろうとしていた矢先、部屋の扉が叩かれた。私は頭を振って気を取り戻し、扉に向かって声をかけた。
「し、失礼します!」
扉が開き、入ってきたのはブロンドの髪をツインテールにした少女。出で立ちはゴシックロリータと呼ばれているらしい、黒を基調とした服装。ひらひらのスカートにフリルが施された袖。胸元には大きなリボンが特徴だ。
彼女は、私が仕事している際に身の回りの手伝いを買って出てくれた、心優しい子だ。
「あ、あの!私に何かご、ご用でしょうか!」
何故かいつも彼女は緊張している。初めて顔を合わせた際は、身体を震わせ、目を回して倒れた。その後、介抱するために自分のベッドに寝かせたのだが、起きた際に再度気を失ったのだ。
これでも少しずつだが良くなっている方なのだ。原因に関しては未だ判らず、もしかしたら自分が悪いのではないかと心配になっている。
私は彼女に書類の束を指し、これを副総督の部屋へと持っていくことをお願いする。
「め、滅相もないです!こうしてお手伝いできることがわ、私の幸せですから!」
そう言うと、重いだろう紙の束を抱える少女。量が多いせいか、彼女の視線が書類で塞がれてしまった。やはり私が持っていくと伝えると、
「い、いえ!大丈夫です!お手を煩わせることはありません!」
と大声で反対されれてしまった。
ゆっくりと亀の歩みのごとく出ていく少女に、私は運んだ後で私室に来るように伝えた。いつもいつも大変だからクッキーと紅茶で労いましょう。そう考え、すぐに棚から装飾の入ったティーカップセットとクッキーの受け皿を下ろした。
ふんふふーんと鼻歌を歌いながら準備をしていると、紅茶の茶葉がきれていたことに気づく。これではお茶会が出来ないと焦り、私は茶葉を買いに部屋を飛び出した。
焦っているとはいえ廊下を走るわけにもいかず、なるべく早歩きで移動をする。その姿に、通り過ぎる同僚たちは一瞬に呆気にとられていたが、気にせず走り去る。
今回は市販品のもので我慢するしかないと嘆きつつも、目的の店にたどり着くと、私は急いで茶葉を購入した。ふぅ、と安堵のため息を零していると、背後から声をかけれられた。
「珍しいですね、こんなところでお逢いするなんて」
振り返れば、そこには鴉の濡れ羽色をした長い髪を根元で縛り、柔和な笑みを浮かべた女性が立っていた。彼女は最近こちらにやってきた人だ。ちなみに私の上司の奥さんである。
まあ事情を掻い摘んでいうと、家の反対を押し切っての結婚であり、どうしたものかと悩んでいた訳だ。彼女の旦那様である私の上司が悩んでいた時に、たまたまそれを聞いてしまった私が、ならこちらに引っ越してはどうか?と助言したわけだ。
何度か夫婦で相談し、娘のことを考えた結果、こちらに引っ越してきたというわけである。
「あの時はどうもありがとうございます」とお礼を言いに来たのがきっかけに始まり、こうして話し相手というか縁が生まれた。
「そう言えば」と、ふと頭に考えが走り、娘さんはどうか?と尋ねた。なにぶん私が言うのもなんだが、ここは色々と変わっている場所だ。そして仕事場に近いことも相まって五月蠅いこともある。私が見た限り娘さんはまだ幼い。色々と大変ではないか?と。
「そうですねぇ。娘には色々と窮屈な思いをさせてると思います。でも、こうして皆さんが迎え入れてくれたことも解っているようで、我儘言いませんね」
彼女の言葉に、私はそれはいけないと感じ、ならば私でよければ娘さんの相手ぐらいはできますよ、と言う。いやまぁ関わってしまった手前、つながった縁を切るのもどうかと思ったからだ。
「いえ、それではご迷惑をおかけしてしまいます」
その言葉に、私はいえいえとやんわり否定する。私自身、子供が好きだというのは本心だ。それに子守りは慣れている。上司との付き合い
私の言葉を受け、「ならお願いします」という返答に私は笑顔で了承し、では急いでいるので、と店を出た。
話で時間を食ってしまったことを後悔しつつ、私は急いで自分の部屋に急ぐ。まだ帰ってきていないことに安堵のため息を吐き、お茶会の準備を再開。
紅茶良し、クッキー良し、音楽良し、さてこれで準備は整った。そして示し合わせたかのように、先ほどの少女が部屋へと入ってくる。私は緊張している少女を席に座らせ、カップに紅茶を注ぎ、ささやかなティータイムを堪能した。
片づけを終わらせ、一人部屋で音楽を聴いていると、扉の音が開く音がする。ノックもせずに入ってくる人物を私は二人ほど知っている。そしてこの二人が来る場合、ほとんどが厄介なことであることも知っている。
椅子から腰を上げ、入口の方を振り返ると案の定、
「会ってそうそうにそんな顔をするなよ。悪いとは思うけどな。まあなんだ、またお前に頼まなくちゃいけない案件だ」
だったらそのニヤケタ顔をやめていただきたいです。
「手厳しいねぇ。昔はあんなに可愛げがあったのによぉ」
上司の言葉に私の目は鋭くなる。私の視線に気づいたのかそれともあえて無視しているのか、上司は相も変わらず苦笑するばかりだ。
それで今度の案件はなんでしょうか?
私の返答に上司は案件を切り出す。
「まあなんだ、新たに神器の宿主らしい人間が見つかった。なんでもとある森が魔獣の住処になってるみてぇでな。どうもその魔獣らが神器くさい。これ以上他がどうにかする前にそいつを保護してくれ」
上司の言葉は絶対命令である。それがたとえ色々と危険性をはらんでいる場合でもだ。
私は内容についていくつもの質問を行う。そして命令を達成するために準備をするため、上司を部屋から追い出す。
「そんなに心配しなくても大丈夫だろ。なにせお前は、仕事に関しては手は抜かねえからな」
部屋から出る際にチラリと私を見る上司。
「なぁ、レイナーレ」
もちろんです、と私は答えた。
金髪ツインテール
『私』に憧れを抱いている無垢な女の子。『私』のお手伝いを買って出たのも、あこがれの人と一緒に働けると思ったから。
『私』への想いが天元突破のため、想いがハザード、オン!して失神する。なお最終的には、心火を燃やしだす予定。
烏の濡れ羽色の女性
『私』の上司にあたる人の奥様。柔和そうに見えて実はサディストであることが判明。そして上司がマゾヒストであることを知ってしまったため、『私』の胃がクリティカルストライク!した。