出来ることを頑張ったらこうなった   作:SINSOU

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外伝:家族サービス

「休暇を取られてはどうでしょうか?」

 

彼女の言葉に、私はただただ戸惑っていた。私の持つ彼女のイメージからすれば、そういったことを口にするような印象がなかったからだ。いや、これはあくまで私の中の印象でしかない故に、それを彼女に当てはめることが失礼なのだが。

 

私は彼女にその意図を聞いてみた。無表情のまま彼女は、少し呆れたようにため息を零した。

 

「貴方の奥様や娘さんから色々と聞かされるのです。それはもう色々と。特に娘さんは相当我慢しておいでです。こちらに引っ越してまだ日が浅いですし、環境の変化も相まって不安だと思います。ですから、ここは父親としてびしっと家族サービスをされるのがよろしいかと」

 

彼女の言葉に、私は色々と思うところがあった。私と妻のいざこざのせいで、娘を巻き込んでしまったことは今でもすまないと思っている。しかし、だからと言って妻や娘のために仕事を放り投げる訳にはいかない。これでも私は幹部として働いているのだ。私がしっかりしなければ、下の部下たちに示しがつかない。

 

「それに関しては問題ありません。まことに勝手なことをしましたが、総督と副総督からも休暇の許可を得ています。もちろん、私たち臣下からも不満などはありません。休暇をされている間、仕事の引き継ぎ体制はすでに終わっています」

 

彼女の言葉に、私は口を開けて呆然としてしまった。目の前の彼女の行動は、時に私の思考の斜め上を飛んでいく。その上、行動が早いせいで、気付いた時にはすでにことが終わっていた、そんなことも多々あった。

 

「それにずっと働き続けると身体を壊していしまいます。私個人の意見ですが、身体を壊して長期に休まれる方が、短期間の休暇と比べれば大問題です。もっとも、人間と比べれば私たちはそうそう壊れることはありませんが。身体が頑丈と言うのも大概ですね」

 

最後の言葉を言う際、彼女の顔が少し陰って見えたのは気のせいだと思いたい。

だが、私とてこの仕事を任されている身。その引き継ぎもそうだが、やはり休んでしまうことに申し訳なさを感じてしまう。

 

「正直に言いますと、上司である貴方が休んでくださらないと、部下である私たちも休暇を取ることが出来ないんです。負い目を感じるんです。ですから、ここは仕事場の効率、精神衛生面、その他いろいろも含めて休んでいただけると私たちとしては本当に助かるんです」

 

光が反射しているせいか、眼鏡からの目を見ることは出来なかった。だがそこから覗く視線は、まるで刃物のように私に刺さるのを感じた。

 

私はただ、顔を縦に振ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さま!母さま!早く早く!」

 

「あらあら、そんなに急ぐと転んでしまうわよ」

 

ぴょんぴょんとはしゃぐ娘の姿と、その光景に微笑む妻。気が付けば私はあれよあれよと流されるままに休暇を取り、こうして家族サービスをしている。

 

『でしたら、ここやこの場所はどうでしょうか?ここでしたら娘さんも喜ばれると思いますし、ここの旅館は家族サービスがあります。他にもいくつか候補を上げておきました。これは私からの意見でしかありませんので、奥様や娘さんと要相談になると思います。お決まりしだい、私に声をかけてください』

 

そう言って山のような候補地の資料を持ってきた彼女の姿は、長年生きてきた私からしても異常だった。そもそも、いつの間に調べ上げてきたのか、この資料をどうやってまとめたのか、そんなことが気になった。

 

『企業秘密です』

 

その問いに彼女の返答はこれだけだったが。

 

こうして私は妻や娘と話し合い、久々の家族水入らずの休暇を満喫しているのであった。場所は某所にある有名なテーマパーク。娯楽や女心が疎い私ではなかなか決めることが出来ず、この場所を決めたのは妻と娘だ。そのことに男として、父親としてどうなのかと思うところはあったが、こうして二人の幸せな姿を見れたのなら些細なことだったのだと内心で苦笑する。

 

それにしても、人間の考える娯楽も案外馬鹿に出来ないものだと感心する。まるで物語の中に紛れ込んでしまったかのように錯覚してしまうほど、目の前に広がる幻想的な光景。誰もかれもが笑顔だ。

長いこと生きていた私だが、こうした娯楽にほとんど無縁であった。仕事一辺倒だったことも相まってだろう。そもそも、娯楽という意識さえもなかったのかもしれない。だが、今こうして妻と娘を楽しませることが出来るのならば、悪いものではないのかもしれない。

 

「あなた、あの子が呼んでますよ」

 

考え事をしている私は、妻の言葉に意識を戻す。おっといかんいかん、今は滅多に出来ない家族との時間なのだ。仕事は休暇が終わってから考えればいい。そう思い、私は私たちに手を振る娘に手を振る。

 

その後も、一緒にテーマパークのアトラクションに乗り、時にマスコットらしきキャラクターと写真を撮るなど、ただただ家族との時間を過ごした。時にテーマパークの職員であろう、変わった服装を来た少女が娘に風船を渡したり、家族と一緒に来ていた、娘と同じ年の少年が話しかけてくるなど色々とあった。

夜になれば、目の前を通り過ぎていく光輝くパレードに娘がはしゃぎ、妻と私はその姿に微笑む。その後、疲れて眠ってしまった娘をおぶり、私は妻と一緒に旅館へと歩いていく。

 

「楽しかったですね」

 

妻の言葉に、私は「ああ」と返す。妻はその言葉に、苦笑じみた顔になるも、何も言わずに眠っている娘に視線を向ける。

 

「この子も、あなたと遊べることに随分と喜んでいましたよ」

 

「すまん」

 

「謝らないでください。私自身、こうしてあなたや娘と一緒に生きていけることに感謝しているのですから」

 

儚い妻の微笑。周りは未だテーマパークや人々の喧騒が響いているというのに、まるで静かに感じた。

 

「あなたとの契りに関して実家から反対されたことは、私とあなたとの立場故に仕方ないと思います。ですが、私は後悔はしていません。あなたと出会い、愛しい娘に会えたこの幸せは、私が選んだのですから」

 

「すまないな」

 

「でしたら、時にはこうして家族サービスをしてください。娘もそうですけど、私だって寂しいんですよ?」

 

「ああ」

 

妻の少し赤らめた顔に、私は再び惚れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある家族が三人の世界に入り込んでいる一方で、その光景を見つめている影が一つ。その出で立ちは傍から見て不審者。なにせ黒のライダースーツにその身をピッシリと包み、その頭は黒のフルフェイスヘルメットを被っている。どこからどう見ても不審者である。むしろ不審者以外の何物でもない。ヘルメットからこぼれている長い黒髪からして女なのだろう。

だがそれよりも目立つ光景が彼女の足もとに散らばっていた。、女ライダーの足もとには、たくさんの人間が横たわっているのだ。その出で立ちは色々で老若男女問わない。ジャケットを着た男性もいれば、着物と着込んだ老人もいるし、年端もいかない少女も少年もいる。そして彼らの手には、刀や槍、札やオオアサなど、殺すための道具が収まっていること。そしてその持ち物には、全て何かの印が描かれている。

 

女ライダーは目下でうめいている彼らに何度目かのため息を零した。内心、やはりこうなりましたか、と思いである。彼らはこの地域を守護している組織の方々だった。こうなったのは単純だ。上司の家族旅行に関して裏方として動いた結果である。事前にそういった組織へと頭を下げに行き、こちらに敵意も害意もないことを説明して回った。もちろん門前払いどころか、門に降り立った瞬間に攻撃されたことが殆んど。そういった場合は、こちらの旨を書いた手紙と迷惑料として少しばかりの粗品を置いて行った。ちゃんと届いたかどうかは別問題だが。

先に言っておくが、近くの寺社も同じよう事を行った。こちらは時に神格の方に頭を下げ、言を伝えてもらった。

 

だが結果はこうである。裏方に徹して、上司の家族を狙う不届きな者たちを秘密裏に隔離していった。頼りになる臣下や協力者にも手を貸してもらい、彼らの周りで常に様子を窺っていた。

 

『わ、私もがんばります!』

 

『わかった、僕もお姉ちゃんに協力するよ』

 

快く協力してくれたことに感謝の気持ちでいっぱいだ。相も変わらず顔を真っ赤にする部下や、家族と仲直り出来た少年も頼れる仲間である。

 

さて、まだまだ時間はある。明日もまた大変な日々が来る。だが、色々と世話になっている家族の、せっかくの水入らずを邪魔されるわけにもいかない。だからこそ、彼女はため息を零しつつも仕事を全うするのだ。

 

女ライダーは目の前のリーダーらしい老人の頭に、言付けを書いた紙を貼る。まあ、全員気を失うだけにとどめたので、明日になれば目を覚ますだろう。念のため、救急車も手配しておいた。

 

 

「さて、次は京都の方々に頭を下げにいきませんと」

 

彼女は背中から黒い翼を生やすと、空へと飛んで行った。




>私は再び惚れてしまった。

だがサディスト(ご主人様)とマゾヒスト(豚)の関係である。
娘は健全に育ってほしいものです。


>総督(裏話)

農女の野菜料理に一時的だが色々と浄化されたもよう。カリスマダンディ復活である。「どうか安心してくれ。グリゴリ(神の子を見張る者)は私が守る」(時は極まれり系系ダンディ)
危うく堕天使どころか三勢力崩壊の危機に陥りかけたとか。


>迷惑料
グリゴリ饅頭、グリゴリクッキー、農女特製トマトジュースと野菜ジュース(光っている)セット。
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