出来ることを頑張ったらこうなった   作:SINSOU

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聖剣おじさん(本気)

幼い頃、私はおとぎ話に憧れた。光輝く剣を携えた少年が、国のため、民のため、傷つく自身を顧みずに敵を斬り伏せる物語。恐ろしく強大な魔王に、山のように大きな邪龍に、一歩も引かず決して諦めず、ただその一身で立ち向かい、最後に平和が訪れる、幼稚な物語。大人からすれば、取るに足らない夢物語にして子供騙し。しかし私はそれに心を惹かれた。

 

絵本に描かれた、光の剣を掲げた彼の姿。金色に輝く髪を風になびかせ、傷を負い、汚れにまみれた身体とは真逆に、誇り高く描かれた彼の顔。私はその姿に魅了された。彼の姿に、彼の生き様に、彼の心に、私は心底惚れこんでしまった。

物語の彼は私の心を躍らせ、私の心に刻まれ、そして私の指針となった。

彼の姿に加え、私はその彼が振るった剣にも心を躍らせた。その剣は聖剣だった。湖の精霊の力を借り、素晴らしき仲間と共に作り上げた剣。なんと、なんと素晴らしいことか!

 

私は憧れた。いつか、いつか私も、彼のようになりたいと。光輝く聖剣を掲げ、並み居る悪魔を倒す自分を。たとえ自分自身が傷つこうとも、守るべき民のためにその足を止めない絵本の彼のように。

それこそ何度も夢を見るほどに。それほどまでに、私は絵本に、彼に、そして彼と共に歩んだ聖剣に心を奪われたのだ。そして幼少の憧れは未来への指針となり、幼少の夢は未来に続く私の目的となった。

 

聖剣使いになる。それが私の夢となった。

 

まず私は自身を鍛えた。聖剣を振るうために、聖剣に選ばれるために、聖剣に認めてもらうために。

身体を、心を、それこそへし折られては繋ぎ合わせ、すり潰されては鋳ったほどに。細身で貧弱だった自分の身体が、日に日に鋼へと変わることを感じながら、脆弱であった心が、日に日に柳のようにしなやかになることを感じながら。

 

時に、私は聖剣への尽きぬ思いに動かされるかのように、聖剣についての知識をかき集めた。それこそ私の宝物である絵本を始め、伝承、神話などを文献にし、時に発掘現場へと足を運んだ。鍛えた身体のおかげか、時に過酷な旅になったこともあったが、私の心を止めることは出来なかった。聖剣への想いが私を支えてくれたのだ。

 

 

一方で、度重なる困難な試練が立ちふさがった。

『聖剣』は人を選ぶ。それは残酷なことであった。どんなに屈強な戦士であれ、慈悲の深い聖人であれ、聖剣に選ばれる可能性は少ない。逆を言えば、聖剣が認めてしまえば、たとえ幼き子供であろうと『聖剣使い』となるのだ。多くの者がまずはこの事実に心を折られる。

 

だが私はより心を躍らせた。

だからどうしたというのだ。ならば己を研鑽すればいいだけの話なのだ。絵本の彼もそうだった。絵本の彼は最初から聖剣に選ばれたわけではない。最初の彼はただの子供だった。ただ聖剣を持つことが出来ただけの少年だったのだ。そこから彼は度重なる試練を通して自身の無力を嘆き、その嘆きを糧に足を進めつづけたのだ。決してあきらめることのなかった彼だからこそ、、真に聖剣から認められる存在へと至ったのだ。

彼が出来たのであれば、私も立ち止まるわけにはいかない。彼を目指す私が、この程度で心を折るわけにはいかないからだ。だから私は決意した。

聖剣に認められないといけない?ならば『聖剣に認められるまで自身を鍛えればいい』と。そもそも聖剣に認められるということ、それはある種の偉業なのだ。ならばなぜ簡単に出来ると思えるのか?それは慢心であり、傲慢でしかない。そうだからこそ、彼らを聖剣は認めることはないのだ。始めから覚悟すらない者を、誰が認めるのだろうか?

 

しかし聖剣は『聖剣適性因子』を持つものでなければ使うことが出来ない。そして私にはその因子が足りなかった。だが私はこの事実を笑った。だからどうしたと。因子が足りない?それがどうしたというのだ。

その程度のことで、私が歩みを止めるとでも思っていたのか。そんなものは、すでに知っていた。聖剣についての資料を集めるために各地へと足を運んだ時に、その事実を突きつけられていた。だが私の知っている絵本の彼は、この程度の困難など踏み越えている。

適性がない?だから聖剣使いにはなれない?そんなことはいったい誰が決めたというのだ。それは確かに事実だ。だがそれは『今までの』話でしかない。ならば私がその事実を踏み越え、人々の希望になるのだ。『たとえ因子がなくとも、人は聖剣使いになれる』という未来のために。なんと面白いことだろうか!

私はただ絵本の彼に憧れ、彼のようになろうと足掻き、ただ聖剣が好きだというのに、いつのまにか大きな希望を背負っているではないか。私は口元を歪め、大声でこのことを笑う。だが嘲笑でもなければ自虐でもない。これは素晴らしき未来への歓喜だ。そうだ、本気を出せば人は何かを成せる。私のような存在でも、後世のための礎となれる。なんと、なんと素晴らしきことだろうか!

 

ならば、と私はさらなる決意を抱いた。なればこそ、なおさら足を止める訳にはいかないと。自身の中に宿る闘志の火は新たな薪がくべられたことで、更に燃え上がった。私はその偉大な一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼ですが、聖剣を調べている人物と言うのは貴方様で間違いありませんか?」

 

聖剣についての資料を手掛かりに、私は極東の島国へと足を運んだ。東洋の聖剣に関する資料がある寺社へと訪れ、腰を下ろしていた際に突如声をかけられた。顔を上げれば、そこに立っていたのは女だった。だが私はその女性に対して感じたのは違和感。まず先ほどまで、私以外の気配はなかったというのに、目の前の女は突然現れたのだ。それこそ、何もないところから現れたかのように。そしてその出で立ちも奇妙であった。東洋の四季と言うものだろうか、砂漠のような暑さだというのに、なにせ紺色のスーツを纏っているのだ。

彼女の視線は眼鏡で遮られ、その意図を測ることができない。そしてこの暑さだというのに顔からは汗が流れていない。考えれば考えるほど、女の姿に違和感が目立つ始める。

 

だがそれよりも気になったのが、女性から微かに感じる気配。

 

「黒い羽の使いが私に何か用かな」

 

「解っておいでですか」

 

私の言葉に、黒い羽・・・堕天使の顔は変わらない。ただ一つため息を吐くが、だからと言ってその気配が揺らぐことはない。

 

「何故私の前の姿を現した」

 

「総督からの命を受けました。秘密裏に貴方様に接触をしろと」

 

「なるほど、貴様たちのトップからの命令か。それは天界と堕天使が未だ戦争中だと理解しての行動だと?」

 

「はい」

 

「ならば、この接触自体が火種になる危険があることも、この場で斬り捨てられても仕方がないことも解っているということかね?」

 

「はい」

 

私は堕天使を警戒しつつ、隣に置いた鞄に目をやる。鞄の中には、この国で手習いとして私が作り上げた試作の剣がしまっている。他所なりと効果はあるはずだ。しばしの沈黙が場を支配する。風に舞う木の葉の音でさえ響くような静けさ。

 

「ですが」

 

堕天使が口を切り出す。

 

「ですが少々訂正をさせていただけますか?」

 

「ほう、どの辺りをかね」

 

「私は簡単に切り捨てられる気はありません。そして私には交戦の気もありません。総督の命であくまで対話をしに来ただけです」

 

「それを信じられる証拠は?」

 

「では、これを」

 

そして女性は背負っていた鞄から何かを取り出し、それを私に差し出す。

 

「こ、これは!」

 

私はそれにくぎ付けになった。

 

『鋼の英雄』

 

長い間読まれ続けたのだろう、ボロボロの表紙に書かれた題名。それは私が幼き頃に読み、そして今の私を作った絵本(原点)と同じ名前だった。

 

「先に謝罪をさせていただきます。貴方様に接触するに当たり、色々と調べさせていただきました。その際、貴方の旧友からこの本のことを教えていただきました。この本が貴方様のきっかけになったことも」

 

堕天使の口元が柔和に笑う。

 

「偶然かそれとも必然でしょうか。私の愛読書であるこの名を聞いたとき、私は直観いたしました。この本を好きである人なら、悪い人ではないだろうと。いえ、これは私自身の感傷なのでしょう。悪い人ではないと信じたかったのでしょうね」

 

堕天使は、ボロボロになった絵本をいとおしそうに撫でる。

 

「ですから、総督の命を受けたことは渡りに船でした。一度でいい、この本を好きになった方とお会いしたかったのです。そして出来ることならば、互いに語り合いたいとも」

 

彼女は絵本を何もない空間へと押し込む。すると、そこに穴が開いているのか、本が一瞬にして消えた。

 

「しかし、私は堕天使であり、貴方は教会の方。貴方の言うとおり、信じられないと言われればそれだけですし、私は貴方に切られても仕方がありません。もちろん、簡単にさせる気はありませんが」

 

彼女はその柔和な口元をまっすぐに戻し、右手から光の刃を作り上げる。ちょうど彼女の手のひらに隠れるように、刃先だけが覗く。

 

「いや、結構」

 

私は警戒を解くことはしないが、鞄への視線を外した。

 

「少なくとも、同じものを好きなった者同士であることにかわりはない。ならばこの一時だけは、柵を忘れてもよいのではないだろうか。もっとも、戦場では容赦はせんがね」

 

私の言葉に女は少し驚いたのか、彼女の口が少し開いた。が、すぐに元の一文字に戻るが、右手から覗く光の刃先は霧散していた。

 

「では、この先にいい喫茶店を見つけまして、そこで語り合いませんか?紅茶がおすすめみたいですよ」

 

「良いだろう。だが私は珈琲派でね」

 

「失礼、それはこちらも未調査でしたわ」

 

 

そして私と堕天使は、ともに喫茶店での語らいをするのであった。




『鋼の英雄』

子供向けの絵本。なぜか大人にも絶賛されている。読むとメンタルが鍛え上げられるという噂がある。一方で、なんかファンが色々と拗らせているらしい。もちろん堕天使の彼女も拗らせております。

聖剣おじさん(本気)

どうしてそこで諦めるんだ!本気を出せ!本気をだせば聖剣に認められる!彼がまさにそうだあったじゃないか!ならば貴様らも本気を出すべきであろう!本気おじさんは常に聖剣に対しては本気である。

聖剣(試作品)

どういうわけか、本気おじさんが本気で聖剣を作ろう決意。極東の島国で長年をかけて師を仰いで打った。ちなみに材料は本人が文献を調べて自力で確保したもよう。これには教会も絶句である。
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