何のために生まれて、何をして生きるのか。
真っ白な部屋の中で僕は生まれた。何本ものチューブにつながれたガラス管の中で僕は生まれた。ガラス管に満たされた液体の中でぷかぷかと浮かんで生まれた。何も見えない真っ暗な闇の中で、僕は浮遊感を感じていた。そんな中、僕は突然光の世界へと放り出された。浮遊感は消え、墜ちていく感覚が僕を襲った。そして僕は何かにぶつかり、そのまま動けなかった。
力の入らない手足と冷たい床の感触が、僕が生まれて最初に知ったものだった。微かに見えた視界から映ったのは何かの影。眩しい光?に目がなれなかった僕は、それが何か判らなかった。たぶん、影たちはこの施設の研究員だったと、今にして解ったけど。そして彼らは動けない僕を何かの台に載せて、僕をどこかへ連れて行った。ガタンガタンと、床に弾む台の感覚を受けながら、僕は運ばれた。まだ意識がはっきりしていなかった僕は、重くなった瞼に負け、そのまま闇へと沈んでいった。
目を覚ました時、僕は白い布を一枚着せられた。そして僕に
『お前たちは道具だ。お前たちは我ら教会の剣だ。魔物を、悪魔を滅ぼすためだけに生を与えられたのだ。お前たちはそのためだけに生かされているのだ。お前たちは教会のためにその命を捧げることが幸せなのだ』
道具、剣、それだけの存在。僕は自分の役割を知った。悪魔を滅ぼすための
今思えば、まさに狂気的な箱庭だった。
そうした時間を過ごしていた中、ある日僕は先生たちに呼ばれた。なんでも、僕だけに見せたいものがあるという。僕に断る意思などなく、ただカルガモのように後を着いていく。とても頑丈そうな扉を数回通ると、ガラスの板に遮られた部屋が見えた。
「あれを君に見せたかったんだ」
先生の一人がガラス越しに見えるそれを見せた。それは剣だった。大きな部屋の真ん中に置かれた剣。石の台座に刺さったそれは、ガラスの箱に納められていた。
「あれは我々が見つけ出した魔剣、英雄シグルズが邪龍ファーブニルを倒すために用いた魔剣グラムだよ」
別の先生が僕の肩に手を置いた。
「意思のない君に何を言っても無意味だが、我々の目的はあの魔剣を使いこなす第二のシグルズを生み出すことでね。そのために君は生み出されたと言ってもいい。我々はこれまで何度も、優秀なクローンを作り出しては失敗してきた。どうもグラムには意思があるみたいでね、剣を握る前に誰もが発狂してしまった」
先生の声はとても優しかった。
「別に何人も犠牲になろうが構わなかったが、そろそろ結果を出さなければならない。クローンを作るにも、魔剣を研究するにも時間と金が必要でね。上を納得させるためにも、成果が必要になった。ゆえに今回のクローンたちの中で、特別優秀な君を選んだんだ。君なら、たとえ死んだとしても何かしら新しいデータを得られるとふんでね。さあ、行きたまえ」
そしてガラス越しの部屋へとつなぐ扉が開き、僕は背中を押された。
部屋へと一歩入った瞬間、僕は息苦しさを感じた。そう、訓練と称して水中に押し込まれた時の感覚。まるでその部屋の中だけが水で満たされているるみたいに、自分の一挙手が重い。そして剣へと足を踏み出すごとに、その重さが強くなる。息を吸っているのに、肺が満たされる感覚がない。また息苦しさや身体の重さとは別に感じるもの。ガラス越しから見ている先生たちの視線の他に、誰かに見られているのを感じる。それは剣へと踏み出すごとに強くなっていく。そして僕は、囲まれたガラス板一枚を隔てるだけの距離まで、グラムに近づいた。
「ではケースを外すよ」
その声と共に、ガラスのケースが外され・・・・・・剣からあふれ出た闇に呑まれた。
目の前に広がるのは黒黒黒の真っ黒な世界。音もなく、光もなく、臭いも手足の感覚もない、ただの無。目の前にあるはずの剣はなく、周囲を囲っていた部屋の壁さえもなく、ただの闇だけだった。しっかり立っているはずなのに、足の感覚がないので、宙に浮いている気さえしている。
僕はどうなるんだろうか?そんな中で、僕が思ったのはそれだけ。先生たちからデータを取れと言われたのに、肝心の僕は剣を握る前にこうなってしまった。道具として生まれ、剣として死ぬだけの僕なのに、先生たちの役に立つことが出来なかった。
『役立たず』
誰かの声が聞こえた。
『失敗作』
また誰かの声が聞こえた。
『屑』『無能』『失敗作』『欠陥品』『役立たず』『私たちを傷つけてきた結果がこれ』『返して』エトセトラエトセトラ。ありとあらゆる罵声と憎悪が聞こえてくる。そして感じる、首への圧迫感。ぎりぎりとまるで蛇が飲み込んだ獲物を溶かすようにゆっくりと絞まっていく。目を開けると、首を絞めているのは僕だった。空虚な目をした僕が、僕の首を絞めている。まるで機械のようにぎりぎりと絞めていく。死へ近づいていくというのに、僕の中に感じるのは空虚。役に立たない僕は、そのまま消えていけばいい。
僕はそのまま目を閉じ、意識が消えていくのを感じて・・・
『いやだ』
声が聞こえた。
『いやだ』
また声が聞こえた。
『僕はこのまま、何もできずに死にたくない』
僕の右手が動く。
『僕は役立たずとして消えたくない』
消え行く意識の中で、僕の右手はぎりぎりと握り拳を作る。
『僕は、まだ生きていたい!』
右手に何かが当たる感覚と、消える喉への圧迫感。僕は大量に入り込む空気に咽びながら意識を取り戻した。
『じゃあ、何のために生まれて、何をして生きるの?』
気付けば、僕はさっきまでいた部屋の中にいた。壁や地面には何やら線が走っていて、目の前には石の台に刺さった剣。でもさっきと違うのは、その剣の隣に誰かが立っていること。それは人だ。僕たちが施設で着ているような白い布一枚でなく、上下共に真っ黒な服。後で聞いたけど、それはドレスと言うものらしい。腰まで伸びている髪は、僕たちと同じ白色。そして一際目につくのが、その人の顔が真っ黒に塗りたくられていること。顔の部分だけが、まるで塗り絵に失敗したかのように黒色だ。そのせいで表情が読めない。
『黙っていると、私もどうしたらいいのか分からないんだけど』
声のからして女性だろう人影の言葉に、僕は彼女の観察をやめる。
『どうしたNO4900。先ほどから何を立っている』先生たちの声が聞こえた。どうやら、目の前の女性は先生には見えていないらしい。僕は先生たちにそのことを伝える。
『なに?女性が見えるだと・・・!?そうか!良くやったぞNO4900!それは魔剣グラムの意思が形造ったものに違いない!どうやら前の失敗作とは違い、君はやはり優秀なクローンだ。さぁ、次は剣に触れるんだ。そして新たなデータを我々に提供するんだ』
先生に言われ、僕は剣に手を伸ばす。と、目の前の女性が僕の手を両手で掴んだ。か弱い手なのに、握られた僕の手はミシリと音を立てた。
『君は答えを言ってない』
魔剣の意思という女性の言葉に、僕は何を言っているのか解らない。
『君は、何のために生まれて、何のために生きるの?』
僕の目の前に立っている彼女はそう尋ねてきた。その問いに、僕はただ首を傾げることしか出来なかった。何のために生きるのか、何をして生きるのか。その時の僕には、その問いに答えるモノがなかった。そんなこと、僕は今まで考えたことがなかった。考えることさえなかった。そもそも考えることがなかった。何故なら僕は剣だから。何故なら僕は物だから。何故なら僕は人じゃないから。
ただ殺すためだけの存在。それが僕の、僕たちの存在価値だ。先生に言われた通りに動き、ただ壊れるまで、ただ動かなくなるまで使い倒されるだけが、僕たちの価値だったからだ。
『それで満足?』
彼女は問う。まるで黒のペンキで真っ黒に塗りたくられたよう顔、表情が見えない少女の言葉。僕からすれば、初めて出会い、全く知らない少女。しかも顔が見えないからいったい誰かも分からない。
でも彼女の言葉は、空っぽの僕の胸にゆっくりと染み込んでいく。まれで乾いた土に雨粒が染み込むように。ゆっくりと、乾いた心に満ちていく。
ふとなぜか、僕の心にこの言葉が浮かんだ。どうしてか分からない。空っぽの僕なのに、道具しかない僕なのに・・・。僕はゆっくりとその言葉を紡ぐ。
『ん?』
目の前の少女は首を傾げる。僕はもう一度言葉を紡ぐ。
『聞こえないよ?』
でも少女は首を傾げる。でも何だろう。真っ黒に塗りたくられた彼女の顔が、一瞬見えた気がした。だから僕は声を上げる。何度でも、何度でも、彼女へと言葉を投げる。その度に、彼女の顔が見えていく。彼女の口元はゆっくりと笑みを零していた。まるで、聞こえているのをあえて無視しているような、そんな意地悪をしているような顔。
『さあ、答えを聞かせて』
僕は大声で叫んだ。
「 」
『合格だよ、私の
彼女の満面の笑みが見えた。
「これは一体・・・・・・?」
目の前に広がる光景に、堕天使は困惑していた。とある協力者の情報から、教会の一部(裏)で行われている非公式の実験場があると知り、総督の許可を通して調査しにやってきたのだ。だが目の前の光景は、堕天使の思っていた物とは違った。確かに施設らしき建物・・・だったであろう
堕天使は翼をたたんで地に降り立ち、何かないかと周りを見渡して・・・一歩後ろに下がった。その瞬間、彼女の目の前を銀光が走り、側にあった焦げた木が真っ二つになった。仮に遅れていれば、堕天使の開きが出来たであろう。
「殺気が漏れてましたよ」
堕天使は今の実行犯に目を向ける。そこにいたのは、ところどころが煤で汚れた白い服?と着た少年。そしてその後ろには同じような格好と顔の少年少女たち。各々の手には槍や剣などが握られている。だが、堕天使は先頭に立っている少年の手に持っているものを見て。額に汗が伝うのを感じた。
「それは・・・!!なるほどそうですか。教会もなかなかに真っ黒ですね。どうやらここにあったのは、そのための施設と言うことですか」
堕天使はその剣を知っていた。その剣の力とその危険性も含めて。数ある魔剣の中で、一際名が知られているそれを。
「お姉さん・・・誰?」
その剣を持つ少年が喋る。
「申し遅れました、私堕天使のレイナーレと申します。貴方の名前を聞いても?」
「僕はNO4900」
少年の言葉に、レイナーレは自身の考えが正しいことを確信した。そしてその成果が目の前の少年であることも。
「ところで、レイナーレさんでしたっけ?たぶん、彼女の言うことがそうなら、貴女はこの場所を調査しに来たんですよね?」
「ええ、その通りです」
「だったら正解です。ここには僕たちを造った施設がありました。でも僕が壊したからもうありません」
何ともないように言われた言葉に、レイナーレは少年から目を逸らさず、自身の持ってきた物を考える。少なくとも、勝率は五分五分と言ったことだろう。取りあえず、
「なぜですか?」
「生きる目的を見つけたいから」
少年の言葉に、レイナーレは沈黙する。
「僕は、僕たちはただの道具だった。先生たちに言われて使い倒されるだけの物だった。でも、彼女と出会って僕は思いました。僕は嫌だ。僕は僕の生きる目的を見つけたいと」
「だからこれを?」
「そうです。先生たちは僕を道具だと言った。でも彼女は僕を違うと言ってくれた。良いじゃないって言ってくれたんです。だから僕は、みんなに呼びかけて・・・」
「そうですか」
レイナーレは警戒を緩むことはしないが、取りあえず話し合いは出来ると思い、提案をすることにした。ちなみに、こっちも総督の胃を荒れさせるものだ。
「しかし、これからどうするのですか?ここは山の中に建てられているせいで、周囲に町や人が集う場所はありません。そして季節は冬。このままでは何もせずに終わりますよ」
レイナーレの言葉に、少年はチラリと魔剣に目を向ける。その行動に、レイナーレはすかさず言葉を告げた。
「では、私のところに来ませんか?」
そして総督の胃が荒れた。
『総督のお気に入りな玩具①』
試作型光槍刺突機構:通称『杭打機』
堕天使の持つ光の力を槍として形にし、それを対象に打ち込む機械。硬い装甲や皮膚に覆われている悪魔に対し、その守りを砕くことを想定して作った玩具。威力重視のために、一発撃つごとに弾を装填しなければならない。そのため、わざわざそんなものを使いよりも直接光の槍を刺す方が早いとダメ出しを食らいお蔵入り。
しかし、とある堕天使が倉庫整理の際にそれを見つけ、日の目を見ることに。
『魔剣グラム』
『足掻く姿こそ美しい』『頑張る姿にメロメロ』という思想に染まりまくった頭オカシイ魔剣。頑張れば頑張るほどキュンキュンしちゃうチョロイン。デレ度によって能力が解放される、お前どこのゲームキャラだよな性能。
『魔剣の寵愛』:デレ度によって使い手も魔剣も強くなる(好き大好き!)
『足掻く姿にキュンキュン』:瀕死になればなるほどパワーアップ(主様かっこいいわぁ!)
『ドラゴン殺し』:そのまんまの効力(竜は殺す、必ず殺す、特に欲望に塗れた奴は絶対に殺す)
『ドラゴンへの呪い』:ドラゴンと相対した際に、ドラゴンに対してめっちゃデバフをかける(ドラゴンを絶対に逃がさない、主様を絶対に殺させない)
『魔剣の呪い(無効)』:使えば使うほど命を蝕む・・・筈だった(愛の力よ!)
『NO.4900』
魔剣と共に旅に出た
『クローンの行先』
農家「ここで働きたいって?いいわ、立派な農家にしてあげる!」(ペカー)
『総督の胃』
荒れた