とある教会の庭園。
周りを囲むように生い茂った木々が、肌を刺すような太陽の光を退ける。木々の隙間から通り抜ける風は、まるで真夏だということを忘れ去るかのように涼しげだ。教会の中に置かれてた庭園は、建物から感じられる荘厳さはなく、まるでそこだけが隔たれたかのように静かだ。木々に留まる鳥たちの囀りや風に揺れる葉のざわめきが響く程に。
そんな中、ふと何か異質な音が聞こえた。ブォン・・・ブォン・・・と、何かが風を切るような音だ。それは規則正しく響いたかと思えば、次にブォンブォンと断続的に聞こえる。庭園の静寂を侵す音の方に目を向ければ、そこには人影があった。葉の隙間から照らされた光を受け、その人影が姿を写す。年は二十歳を超えていないだろう、幼げな印象が残る身体つきだ。だがその少女の顔つきは年に相応の物ではなく、まる研ぎ澄まされた刃のごとく鋭さに満ちている。そして少女が手に持っているものも少女らしいものではなく、刃を潰された剣であった。
私は一人、訓練用の剣を構える。息を吸い、肺に酸素が満ちるのを感じ、そして息を止める。その瞬間、私の世界は静寂に満ち、視界に映るすべてがゆっくりとなる。風で揺れる木々やそれらが奏でる音、小鳥たちの囀り、風に飛ばされ地へと落ちる木の葉、すべてが遅く感じる。そして木の葉が一枚、私の目の前へと横切り、
ふっ
息を吐くのと同時に、私は剣を振るう。そして肺にたまった空気を全て吐き出し、剣を鞘へと仕舞う。チャキリ、と金属がこすれ合う音が響く。その瞬間、目の前を通った木の葉が細かく散った。
私はそれを見届けると、落ち着けるようにゆっくりと息を吸い込み、吐く。その瞬間、小気味よい疲れが身体を襲う。気づけば私の身体は汗にまみれ、汗を吸った衣類は重く、肌に張り付いている感じがした。だが不快感はない。むしろ達成感に満ち、私の口元に微笑みすら浮かぶ。
これは私が訓練をしたという証なのだ。それをなぜ恥じる必要があるのだろうか?ところが私の数少ない友が言うには、『少しは女の子らしく、格好は気にしなさいよ』とのこと。私自身、自分が女であることは自覚しているが、そもそも『女の子らしく』というのが解らない。理由を言うのであれば、そういったことに触れたことがないからだろう。時折、友人がため息を吐きながらも買い物に誘ってくれる辺り、私はまだまだということか。
いかん、雑念が入ってしまった。私は一呼吸置き、邪念を思考から追い出した。そして訓練最後の締めとして、私は空になった右手をゆっくりと前へ伸ばし、言葉を紡ぐ。
我は汝を解放する。わが声に応えよ、デュランダル!
私の声を合図に、私を中心に地面に魔法陣が描かれる。そして足元から、ゆっくりと剣の柄が現れ次に刃、そして一振りの剣が姿を現した。その瞬間、庭園が光に満ちる。木々は揺れるのをやめ、小鳥たちも囀ることをやめた。あらゆるものが、それを前に止まった。
それはあらゆるものを切り裂くと言われるデュランダル。別の名はドゥリンダナ。天使から授けられ多くの聖遺物を宿した、まさに聖剣の名にふさわしい剣。先代の使い手であった師から譲られた剣。私はその柄を両手で握りしめ、地面から抜き放つ。
その瞬間、私の身体はまるで鎖で締めつけられるように塊、重りをつけられたかのように重くなる。そしてそのまま水の中に沈められたかのように息苦しくなる。必死に酸素を得ようと呼吸をするが、口がまともに動かすことが出来ず意識が遠のく。
まだ、まだ駄目なのか・・・!
私は、未だ私を認めない
ぱたりと意識を失い、庭園の真ん中で仰向けに倒れた少女を、それは見つめている。その出で立ちは一言でいうならば『鎧』。銀色の光を放つ鎧は、冑から覗く隙間から、目の前の少女を見下ろしている。
「いい加減、認めてはどうだ?」
突如庭園に響く声。鎧はゆっくりと声の方へと振り向けば、そこには男が立っていた。男の髪は全て白髪となり、しわが刻まれた顔が、男が初老であることを示している。だが男の身体から溢れる生命力は、決して年老いたものではない。それこそ木のように背が高く、まるで岩のような巨体からは男が老いからほど遠いものであることを窺わせる。
『ストラーダ』
鎧は男に応える。鎧の隙間から覗く眼光変わらず、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。だがそこには
「この子は強い。それこそ並みのエクソシストとは一線を引いている。お前を扱える者はこの子しかおらんよ」
ストラーダは目の前の少女のことを語る。
少女は生粋の『選ばれた者』だ。生まれながらにして聖剣を操る資格、『聖剣因子』を持っている。それはまさに稀代の聖剣使いと言うほどだ。もちろん、少女の実力もそれに恥じることはない。それこそ少女は数多くの魔物を、悪魔を殺し、殺し、殺し、殺し、殺し続け、そして生きて帰ってきた。その果てに彼女は『斬り姫』という二つ名を与えられ、今では彼女の
『解っているはずですよ、
鎧は男の言葉を遮るように、言い聞かせるように言葉を発した。
『だから私は、
「やはりかデュランダル。それにしてもお前は頑固よのぉ」
ストラーダは、鎧、デュランダルの言葉に苦笑する。かつて
『私とてこの子の実力は認めています。ええ、貴方からこの子に継承された後、ずっと見ていましたから』
デュランダルは答える。この子の実力は他の者と一線を引いていると。それはエクソシストとしても、戦士としても、そして兵士としても優秀という意味で。魔物を、悪魔をその身で斬り伏せ、滅し、駆逐する姿は、誰がどう見ても優秀であると認めるものだ。
だが、
『それは命令にただ従うだけの人形です。兵士は、戦士は、ただやれと言われたことをやっているだけの人形なのですよ、私にとっては』
二人の間に沈黙が訪れる。
『だからこそ私は認める訳にはいかない。
デュランダルの声は震えていた。
『私は、使われるならば『人間』に使われたいのです』
「やはりか」
鎧から漏れるデュランダルの言葉に、ストラーダは応え、思い出す。かつてそのままの言葉を自分に向けて言った彼女の姿を。
『私は聖剣です。ですが結局のところ、私は切り裂くだけが取り柄の道具でしかありません。それこそ鋏やナイフとどこが違いますか?紙を、物を切ることが出来る彼らと何が違うというのですか?使い手によっては、人を殺すことが出来る彼らと私は何が違いますか?いえ、むしろ実際に殺してきた私の方が、彼らよりも恐ろしい物でしょう』
デュランダルは両手を頭へと持っていき、覆っているゆっくりと兜を外した。
『私は道具です。それも主によっては、自身が持つ『聖剣』の名さえも犯すことが出来ます。貴方なら、私の恐ろしさを理解しているでしょう?』
バサリと小金色に輝く長髪が現れ、蒼い瞳がストラーダを射抜く。デュランダルの言葉に、ストラーダは沈黙する。それは彼女を使っていたがゆえに理解できてしまうから。
『兵士は、戦士は何も考えません。それこそただその命令を実行するために動きます。敵を殺せと命じられれば、彼らはどうあっても殺します。たとえどんな理不尽なものであろうと、彼らは思考を止めて行います。かつて私はそれをこの身で味わいました』
『ただ言われるがままに私は振るわれ、感慨もなく敵を切り裂きました。この身が血に塗れ赤く染まろうと、私が叫び声を上げようと、彼らは敵を切り伏せました。あれはまさに、私にとっての地獄です』
デュランダルは足もとの少女を見下ろす。その蒼い眼は氷のように冷たく、何もかもを諦めているようで、何かにすがるように揺れている。
『現状、『主のため』という言葉を掲げているこの子には、彼らと同じ狂気を感じます、それこそ、『主のため』というだけで、何も考えずに私を振るうだろうという恐怖さえも。』
デュランダルの視線がストラーダを射抜く。
『聖剣・・・いえ、ただの『道具』でしかない私ですが、私とて『道具』という意地はあります』
「だがそれは今の話であろう」
デュランダルの言葉にストラーダは応える。確かに今のこの子の根幹は『主のため』である。それは私たちがそのように彼女に教育したからと言ってもいい。ゆえに少女は優秀なエクソシストとなった。一方で、それがデュランダルが彼女を拒む理由になるとは皮肉でもある。
だが、
「この子は初めてお前と出会った時の私だ。主の言葉のみを信じていた過去の私だ。だがお前と出会って私は変わった。それこそお前に認められるように。だからこそ、この子を信じてほしい。かつての私のように」
『・・・』
静寂が二人を包み、木々の隙間から吹いた風が、デュランダルの髪を揺らす。
『そうなることを……願います』
その言葉を零すと、デュランダルの影は消える。
「だいぶ治ったと思っていたが、やはりあ奴の傷は未だ残っておるか……」
彼女の言葉にため息を吐き、ストラーダはすっかり眠っている足もとの少女に目を移す。
「この子と言い、あ奴と言い、まだまだ先は長いのぉ」
そういうと、ストラーダは少女を抱きかかえ、起こさないように教会へと戻るのであった。
『聖剣デュランダル』
『拗らせた聖剣②』『人形のような奴に使われたくないと駄々を捏ねる聖剣』
自身は道具であることを理解しているが、一方で『主の名の下に』という理由で、思考を止めた『人形』に使われること嫌っている。使われるならば、そこに『使い手自身の意思』を持って私を使って欲しいと望んでいる。
要は『私はただの道具だ。そして殺すのはお前の意思だ。お前の殺意で私を振るえ』と、あくまで主の意見を尊重する、まさに主思いで聖剣の鏡。そして訳あり拗らせ系ヒロイン。
『ストラーダ』
筋肉モリモリ、マッチョマンの枢機卿。ワンパンで上級悪魔を粉砕できる聖なるワンパンマン。
それこそリジェネレーター(再生者)とか持ってないのが不思議な人間。もしかしたら、どっかで心の臓腑に茨の釘を刺して神様の玩具になりそう。
今作の舞台では、聖剣本気おじさんと何度か聖剣絡みで話し合えるような仲。
『私』
聖剣に認められたいと頑張る女の子。だが自身の根幹を変えないとダメなもよう。
『怨剣エクスカリバー(分割中)』
やべぇ状態。