出来ることを頑張ったらこうなった   作:SINSOU

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外伝:女子会

天井から照らされる、薄くとも暖かな暖色の光。灯りと同じ暖色系の壁紙。少人数しか入れない小さなスペース。そこは場末の飲み屋であった。客の入りは少なく、店内にいるのは一人の女性客。彼女は多人数用の席で一人、お酒をゆっくりと味わっていた。彼女の出で立ちは、紺色のスーツに黒色のハイヒール。灯りにキラリと光る眼鏡の姿は、会社勤めのOLといったところだろうか。彼女の顔はほんのりと朱色に染まっており、少し酔っているのだろうか。彼女の前に置かれたグラスには、琥珀色の液体が満たされていた。

 

カランカランと、入店を知らせる鐘が響く。入り口の方を見れば、そこにいたのは二人の女性。一人は赤茶色のスーツを来たOL。顔には眼鏡を着けている。スーツから覗く彼女の褐色の肌を見るに、ラテン系の血を感じさせる。もう一人は白いローブを羽織っている。ブロンドの髪を肩まで伸ばし、その顔立ちは深窓のお嬢様のような清楚さを纏っている。二人は机に座っている女性を見つけると、手を振りながら歩いていく。どうやら彼女を待たせていたようだ。

 

「私は赤ワインをグラスで。リエルは・・・ジュースだっけ?」

 

「はい。私はお酒が駄目なのでリンゴジュースをお願いします」

 

店員に注文を頼むと、二人は先に飲んでいた友人に声を掛けた。

 

「ごめんねー。仕事が長引いちゃってさ。魔お・・・、上司がまた仕事から逃げ出そうとしてね。捕まえて椅子に縛り付けてたのよ」

 

「すみません。私も迷える信と・・・、道に迷っていた方を案内してまして、気付けば時間が過ぎてまして・・・」

 

「・・・」

 

二人の言葉に、スーツの女性は顔を向ける。きらりと光るレンズのせいか、視線が読めない。しばらく沈黙の後、彼女は掛けていた眼鏡を外す。ガラスに遮られていた彼女の視線を直視し、二人はヒィ!?と声をあげた。

 

「れ、レイナ?レイナさん?レイナちゃーん?いや、遅れたのは悪かったけどさ。私たちも理由があって・・・あ、駄目だ完全に目が据わってる」

 

「あわわわわわわわ・・・」

 

「・・・」

 

慌てる二人をよそに、レイナと呼ばれた女性は店員に一言「アレをお願いします」と告げた。有無を言わさない意思を感じ、店員は逃げるように厨房へと走る。

 

「どどどどうしようリエルちゃん!?レイナ、絶対に怒ってるよこれ!」

 

「どどどどうしましょうレヴィアさん!?わ、私もどうしたらいいのかわ、分かりません!」

 

既に涙目の二人を見据え、レイナはただ黙ってアレが来るのを待っている。剣呑な雰囲気の中、店員が持ってきたのは・・・

 

「お、お待たせしましたぁ・・・。当店の看板メニューの黄金野菜の地獄鍋ですぅ・・・」

 

ぐつぐつと茹っている紅い液体の中に、ぺかー!と光る野菜が盛られた、見るからに辛そうな鍋であった。

 

「で、ではごゆっくりとぉ・・・」

 

スーッと消える様に離れていった店員を余所に、レヴィアとリエルは目の前の光景に目が点になっていた。

 

「なにこの・・・え?あの、これなに?っていうか、この野菜、光ってない?え、ちょっと待ってこれってヤバくない?私、これ食べたらヤバくない?」

 

「あ、あの、これは一体、な、なんですか?それにこのお野菜、なにやら神々しい何かを感じてしまうのですが?」

 

「・・・」

 

二人の意見を無視して、レイナは無言のまま器に鍋の具をよそい、割り箸と共に二人に渡す。渡された器を見ても、二人はいまだ混乱中である。

 

「さぁ、二人とも食べましょう」

 

そしてレヴィアとリエルは見た。レイナの笑顔が、まるで初めて欲しいものを買ってもらった子供のように、光り輝いているのを。

 

「えっと、怒っていないのですか?」

 

「?」

 

恐る恐る尋ねるリエルに対し、首を傾げるレイナ。その顔には何を言っているのですか?という思いが如実に見える。

 

「いやだって、私たち約束の時間に遅れちゃったし、それに目が据わっていたというか・・・」

 

それに続くレヴィアの言葉に、レイナはなるほど、という顔に変わる。

 

「いえ、別に怒ってはいませんよ。急な用事で遅れてしまうのは仕方がないことですから。それに、目が据わっていたというのも、眼鏡のせいで目が凝ってしまいまして・・・」

 

「ああ!それならいいんだ!なぁんだ、私たちの勘違いだったんだ!」

 

「そ、そうなんですね!ええ、良かったです!」

 

「?」

 

何やら二人で嬉しそうな雰囲気に、レイナは再度首を傾げる。

 

「そんなことよりレイナ。これは一体何なの?」

 

「鍋ですよ?この店名物の黄金野菜の地獄鍋です。有名なほどに辛いというので、ぜひ皆で食べようと思いまして」

 

「あの、なぜ野菜が光っているのですか?」

 

「実はこのお野菜、私の会社と提携している農家の物なんですよ。特徴として光るのですが、別に害はありません。むしろ身体に良いものですよ?」

 

訝しげな二人にレイナは、さぁさぁ食べましょう、と薦める。器に盛られた野菜と肉。真っ赤な汁がいかにも辛い印象を与えてくる。ましてや野菜はぺかー!である。これを食せと言われても、素直に箸が進まないのは仕方がないことだろう。

 

「仕方がないですね。では私から」

 

まずはレイナがぱくりと食べ、箸が止まった。口が動き、モグモグと咀嚼する音が聞こえてくる。そしてごくりと呑みこむ音。

 

「ど、どうなの?」

 

恐る恐る尋ねるレヴィアと、不安げなリエル。

 

「普通に美味しいですね。唐辛子の辛さでしょうか、身体が温まっていくのが解ります。それに野菜の歯ごたえも良いですね。お肉もしっかりと味があります。ズズッ・・・ええ、スープも美味しいです」

 

変わらない表情で淡々と感想をいうリエル。その姿に、ほっと息を吐く二人。ではではいただきましょうか、と二人が野菜を口に入れた瞬間。

 

 

辛い

 

二人が覚えているのはそれだけだった。気付けば鍋を食べ終わり、身体中を汗塗れにしていたのだ。レヴィアだけは、目を回してしまってしばらくは横になっていたが、なんとか立ち直した様子だ。頼んだウーロン茶を飲みながら、顔色を戻したレヴィアが口火を切った。

 

「それにしてもレイナは最近どう?」

 

「別に何も変わりませんよ。勤めているところで必死に仕事をしているだけです」

 

「そうなのですね。お恥ずかしながら、私もただ出来ることを必死にやっているだけですね」

 

「私もそうねー。上司が結構好き勝手な奴でねー。バンバン私に仕事を回してくるのよ、それも重要案件も含めてね。私じゃ対処出来ない仕事も回すから、今日みたいに椅子に縛り付けて仕事をさせてるのよ。まったく困ったものよ」

 

「私も迷える人に手を差し伸べたいのですが、それではその人の為にならないといつも我慢しています。それが正しいのか、今の私には判らないばかりで・・・」

 

二人の愚痴を聞きながら、レイナはただ黙ってお茶を飲む。

 

「それにしても、毎回三人で一緒に食べるけどみんな変わらないわねぇ。えっと今回はレイナだから、次はリエルの番だっけ?」

 

「はい、次は私がお店を決める番ですね」

 

キラキラと光を発しながら喜ぶリエル。それに対して、レヴィアは少し困り顔で、レイナは変わらずお茶を飲んでいる。

 

「次はちゃんとした夕食を頼みますよ。前みたいに、じゃあパフェやケーキを食べましょう!と夕食にスイーツを食べるのは大変ですから」

 

「だ、大丈夫です!次は失敗しませんから」

 

そんなことを語りながら、三人は互いに笑いあう。彼女らが出会ったのは偶然の産物だ。偶然、とある店で出会ったレイナとレヴィアが意気投合し、たまたま道端で困っていたリエルに話しかけた結果である。

 

レイナは、とある会社の秘書をしており、来る日も来る日も仕事に明け暮れているという。その甲斐あってか、彼女の下には多くの部下がおり、会社の上司とその家族とは仲が良いらしい。なお、その上司の家族から色々と相談を受けているようで、彼女はなにかと相談役になっているみたいだ。なお、会社の社長は子供みたいで、何かとやらかしているらしく、その尻拭いにも奔走しているとか。

 

レヴィアは結構な地位のお嬢様らしく、昔から色々と習い事をしていたらしい。それもあってか、なんでもそつなくこなす。曰く、昔取った杵柄とのこと。現在は会社幹部の秘書として働いている。何でもその上司が結構な性格で、困った時はリヴィアに仕事を投げてくる。部下もリヴィアを頼ってくる。そのため、仕事後のレヴィアは結構ハッチャケているとのこと。

 

リエルは生まれた時から将来を約束されていたようで、本人いわく「ただ出来ることをしっかりとやるしかなかった」らしい。二人と出会ったのも偶然で、困っていた人に手を差し伸べた結果、厄介事に巻き込まれしまったのだ。「傷つけたくはありませんから・・・・」と悲しげに呟いた顔をみたレヴィアが、リエルを誘ったのこと。今では2人に出会ったことを『主の奇跡です』と言ってしまう程、色々と影響受けてしまったようだ。そう言う度に、恥ずかしいのか気まずいのか、二人は苦笑いしているのだが。

 

「それではまた次の日にお会いしましょう。では」

 

「楽しかったわよー」

 

「二人に良き日が訪れますことを・・・」

 

互いが互いに声をかけ、各々の方へと歩いていく。各々の悩みや愚痴を零し、互いに励まし合う。それを糧に、彼女たちは仕事に勤しむのだ。そして仕事に疲れたらまた互いを励まし合う為に集まる。そうして女子会は続いていくのだった。




「た、倒れられたぁぁ!?」

「はい、目眩、吐き気、腹痛などによる体調不良とのことで・・・」

「も、もしかしてお姉さまのせいで心労がたたって?・・・あ、あば・・あばばばばばばばば」

「し、しっかりしてくださいお嬢様ぁ!!」


「美味しかったんだけどなぁ・・・」(寝込み)
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