転生した少年~俺だけ勇者システムなしとか、ハードモードじゃね?~   作:GRAENA

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一話

神樹館六年二組。

 

最後尾の窓際から二列目が俺の席になっている。風も通りやすく、窓が近いため、意外と温かい。控えめに言って最高。

 

朝のホームルームは一応連絡事項を聞かないといけないため起きてないといけない。頬杖をついてボケーッと宙を見る。そこには半透明のボードが浮かんでいる。

 

 

 

level 15

 

 

 

筋力210

 

耐久200

 

魔力350

 

敏捷300

 

知力290

 

SP400

 

 

 

スキル

 

制御[+魔力制御][+魔力放射] 経験値上昇 能力値上昇 格闘術 剣術 身体強化 直感 空歩 治癒力上昇

 

 

 

SP。つまりスキルポイント。これを支払えば新しいスキルを習得できる。習得できるスキルは、武術系統やら、知識系統やら、技能系統やら、さらには魔法系統など多岐に渡る。ただ、武術系統は日々の修練でも手に入る。知識系統も技能系統も努力でなんとかなる。

 

ただ、魔法系統だけはどうにもならない。魔力は身体強化の練習で今も使っているため扱えるが、魔法は使えない。まぁ、使う予定はないからいいけど。

 

「やっぱり面白いな」

 

今でも思う。自分がゲームの中に入ったような気分だ。スキルを使えば、レベルが上がれば、心臓が高鳴る。興奮が隠せない。自然ににやける。夜が来るのが待ち遠しい。そろそろ、他の県や海の向こうにも足を伸ばそうかな。でも往復分の時間と魔力を考えるとなぁ。

 

今のテレビでは、四国以外のニュースが流れない。神世紀だけしか生きてない人からしたら自然なことでも、平成を生きていた俺からしたら異常にも思える。

 

「何が面白いの?」

 

「ん?鷲尾か」

 

俺の目の前の席の鷲尾須美。大和撫子という言葉がよく似合う少女だ。自分にも他人にも厳しい少女で、男子内での評価と言えば、かわいいけど、少し口うるさい、といったところだ。

 

「おはようございます」

 

「おう、おはよう。いやなに、独り言だ。なんでもない」

 

「そう?それと今日は寝ないようにね」

 

「善処します」

 

俺の返答に呆れたように息を吐く。鷲尾さん?君の横の人もよく寝ているよね?今も鼻ちょうちんが───

 

───パチン

 

───あ、割れた。

 

「わぁー!お母さんごめんなさい」

 

何か慌てた様子で手をわたわた動かした後に手をパンと合わせて頭を下げる。そそっと席を立って乃木の側に近寄り。

 

「許しません」

 

「ほんとにごめんなさい~」

 

まだ寝ぼけているのか、見事に引っ掛かった。周りも少し笑っている。

 

「何やってるの?木川くん。それに乃木さん、ここは教室で朝の学活前よ」

 

「本当だ~。てへへ。おはよう、鷲尾さん、きょーくんも」

 

「おはようございます」

 

「おはよう、乃木」

 

乃木と俺はいわゆるお仲間だ。よく授業中居眠りで先生に起こされる。席も近いので、まあまあ話す。

 

「みなさんおはようございます」

 

おっと、先生も入ってきたし、席につくか。空いている席は一つ。今日も遅刻か。

 

「はざーす」

 

廊下を走る音がしたと思えば、次はブレーキ音。体育会系の挨拶をした女子は、三ノ輪銀。クラス内カーストトップの女子だ。明るく活発な性格で、面倒見もいいので好かれている。俺はあまり話したことはないが。

 

「ま、間に合った」

 

「間に合ってません」

 

ぱしんと手に持っていたバインダーで三ノ輪の頭を叩く。三ノ輪はギャーギャー騒いでいるが、先生は気にした様子もなく、早く席に着くように促され、自分の席についた。

 

つーか、あいつのランドセルの中、空じゃん。何しに学校来たんだ?人のこと言えないけど。

 

「起立」

 

今日の日直は鷲尾か。

 

「礼」

 

くるりと体の向きを変えて手を合わせて礼。これがこの時代の作法。やらなきゃ、異端者扱いされそうだな。

 

「神樹様のおかげで今日も私たちがあります」

 

もう一度、向き直る。今度は神棚の方。

 

「神棚に拝」

 

もう一度頭を下げる。

 

「着席」

 

椅子に座り、寝る準備に入ろうとしたところで違和感に気付く。椅子を引く音も話し声もない。あるのは三人の戸惑う声。

 

鷲尾、乃木、三ノ輪は動けている。他は時間が止まったように動かない。

 

「なぁ、鷲尾、なにこれ」

 

「えっ!?」

 

「何で動けてるの?きょーくん」

 

「何でって言われても」

 

答えに迷っていると、風鈴の音が幾重にも響いて聞こえた。

 

「来たんだ。私たちがお役目をするときが」

 

鷲尾が言う。乃木も三ノ輪も意味が分かってる様子だ。ただ、俺一人だけ置いてけぼり喰らってるんだけど。何?お役目って?

 

分からないことは重なるもので、窓から有り得ない量の光が入ってくる。目を開けることも許されない光の奔流に飲まれる。

 

次に目を開ければ、カラフルな樹海。食べたら腹壊しそうな蛍光色だ。鷲尾は落ち着いているが、乃木と三ノ輪は辺りを物珍しそうに見ている。

 

「なぁ、三ノ輪。急で悪いんだが、ビンタしてくんない?」

 

スキル、直感が現実だと報せてくれるのだが、確認しないと。

 

「あぁ、わかった」

 

パチンといい音が鳴った。ちゃんと痛い。現実だ。前世では画面の中か、本の中にしかなかった非日常。

 

「やべぇ。ワクワクしてきた」

 

「何か言ったか?」

 

「こっちの話だ。それよりここどこだ?」

 

「時間がないから、要点だけ伝えるわ。ここは神樹様の結界の中。これから私たちが戦う敵がバーテックス。世界を滅ぼす外敵。あれが神樹様の元に辿り着いたら世界が滅びる。それを私たちが神樹様の力を借りて勇者となって倒すの。本来勇者になれるのは無垢な少女だけ。木川くんは戦えないの。だから、ここにいて」

 

「なるほど」

 

神様の頑張ってはこういうことか。

 

「あっあそこ見て」

 

乃木が指差した方向に、奇妙な生物がいた。あれがバーテックスか。

 

深い青の玉の左右の斜め下に水色の水の玉がついていて、深い青の玉の下からは白い柱のようなものが生えていて、その先に触手が二本垂らされている。そして、上には真っ直ぐ触手が伸びていて、水の球が絶えず産み出されている。

 

感想としては、強そうに見えない。けど、油断すれば痛い目を見ることになる。死んでも復活するゲームではなく、死んだらゲームオーバーの現実なんだから。

 

さて、俺ならどうする。攻撃方法は水の球を飛ばすぐらいか。

 

「あめつちに きゆらかすは さゆらかす」

 

ん?阿知女作法?

 

後ろを振り返れば、全員がスマホを構えていた。これが勇者になるための儀式か?

 

「かみわかも かみこそは きねきこゆ きゆらかす」

 

「みたまかり たまかりまししかみは いまそきませる」

 

「「「みたまみに いまししかみは いまそきませる」」」

 

読み終えると、スマホの画面をタップした。このあとどうなるかはなんとなくは予想がつく。お決まりの変身だろう。

 

画面の向こうなら少女の変身シーンでも見れるのだが、同級生の変身シーンなんざ見たら犯罪になりそうなので、目を逸らしてバーテックスを眺める。

 

バーテックスは真っ直ぐ神樹様の方向に向かっている。移動速度は意外と速い。

 

俺も準備しておこう。今まで肉眼では分からない程度にしか纏っていなかった魔力。そこにさらに魔力を継ぎ足す。意思を持ったように魔力がうねりを上げて身体を覆う。特に腕と足を重点的に。

 

「よーし、ぶっ倒す!」

 

「ミノさん、私も!」

 

「待ちなさい!二人とも」

 

鷲尾苦労人だなぁ。というか、やっぱり勇者になったら身体能力上がるのか。

 

「さてと、俺も行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くからでも分かっていたが、明らかに勇者劣勢。

 

鷲尾と乃木が吹き飛ばされて三ノ輪が助けに行った。その間、バーテックスを止める役がいないせいで、神樹様の方向にどんどん進行。

 

たまたま俺がバーテックスの進路に入っちゃったせいで矛先が俺に向いた。

 

水玉攻撃の第一波をかわし、全力でバーテックス目掛けて跳躍する。迫り来るのは絶え間なく生産されている大量の水の球。

 

普通ならかわせない弾幕。

 

空歩、発動。

 

足を踏み出した場所に紅い波紋が拡がり、魔力による足場が形成される。空の旅によく使うため、緻密なコントロールも可能となったスキル。

 

一歩、また一歩と宙を舞う。俺のステータスは耐久が低いので、一撃でも喰らってしまえば、戦闘に支障が出てしまう。常に視野を広く、油断なく。

 

そうして、水の球を全てかわしきることができた。目の前にはバーテックス。これで射程圏内。空歩でもう一度宙を蹴って、バーテックスよりも高いところまで上がる。

 

並行して、体に纏っていた魔力のほとんどを拳に集める。右の拳に集められた魔力は大きくうねりを上げる、紅くゆらめくその様は、さながら炎のようだ。

 

「はぁあああ!」

 

裂帛の気合いと同時に渾身の一撃を放つ。やや振り下ろし気味に放たれた紅の鉄槌はバーテックスの身体を大きく抉り飛ばした。

 

拳から解放された紅い魔力がキャノン砲となって地面に叩き付けられ、地面が震撼する。

 

流石に疲れた。初めての戦闘の疲労と魔力の枯渇のダブルパンチだ。高度が下がり、地面が近くなっていく。落ちても死にはしないが、痛いものは痛い。残り少ない魔力を真下に放出し、落下の勢いを殺す。

 

完全に殺しきった頃にはもう地面から五十センチくらいのところ。これくらいならと、魔力の放射を止めて下に落ちる。

 

すとん、と地面に降り立った瞬間に膝から崩れる。がくんと膝を折りながら、前を見る。

 

倒したバーテックスはというと、粒子となって天に上っていった。あんな変な生物の散り方にしては意外ときれいだと思ってしまった。

 

完全に敵が消えたのを確認してから、後ろに倒れこむ。

 

粒子が消えた瞬間に、今まで暗かった空間に光が差し、天から花びらが落ちてきた。バーテックスを倒した後のボーナスステージみたいなものか。

 

だが、それよりも気になるのは脳内で鳴り続ける盛大なファンファーレだ。ファンファーレはレベルアップの合図だ。それにしたって重なりすぎなファンファーレ。ステータス画面を見てみれば、びっくり。

 

 

 

level 26

 

 

 

筋力430

 

耐久250

 

魔力580

 

敏捷530

 

知力350

 

SP620

 

 

 

スキル

 

制御[+魔力制御][+魔力放射] 経験値上昇 能力値上昇 格闘術 剣術 身体強化 直感 空歩 治癒力上昇

 

 

 

 

いや、ホントにびっくり。一気に11も上がった。

 

レベルが上がった分、魔力も回復してきた。お陰で魔力枯渇で起きる頭痛も和らいできた。ただ、大地が俺を離してくれない。

 

それにしても、いつまでここにいるんだろう。

 

そう思っているとタイミングバッチリ、演出が始まった。花びらが巻き上がり、視界を埋め尽くす。視界を遮られてから数秒、花びらが消えて見えたのは見知った天井、男子の友達が覗き込むように見ている。

 

「なんで急に寝転んでんだ?ついに机が嫌になったのか?」

 

身をぐっと起こす。疲労が半端じゃないが、そこは根性で。クラスメイトの皆は慌てた様子でいる。

 

「あぁ、そうだな。どうせなら教室の後ろに布団でも敷こうかと思っているところだ。ところでなんで皆騒いでんだ」

 

「それが、鷲尾と乃木と三ノ輪が消えたんだよ。神隠しか?」

 

ニアピンどころか花丸満点の解答頂きました!神隠し、というより、神(樹)隠しだけど。

 

そんな馬鹿なこと考えてると、安芸先生がパンパンと手を叩いて、皆を黙らせる。

 

「皆さん。落ち着いてください。明日、連絡があると思うので、今日は落ち着いて過ごすように」

 

皆は若干釈然としてなさそうだが、はーい、と返事を返した。

 

皆、今日は勉学に励めそうになさそうだ。俺?俺は寝るから関係ないね。鷲尾がいないから、一から六時間目までぶっ通しで寝れそうだ。腹なんて寝てればすかない。

 

 

 

 

 

 

「木川くん、起きなさい」

 

「ん?あぁ、安芸先生、おはようございます」

 

「もう四時ですけどね」

 

「ありゃ、本当だ。起こしてくれてありがとうございました。それではさようなら」

 

「待ちなさい」

 

真面目な空気だ。説教?心当たりがありすぎて分からない。どれだ?宿題を空白で出したことか?学校に枕持参できたことか?居眠り…………は最早容認されてるから違うな。

 

ここは思いきって聞こう。

 

「説教ですか?」

 

「違います。単刀直入に言います。今から私と大赦に来てもらいます」

 

「え?なんで」

 

口をついて出た言葉に答えるように先生がスマホを取り出した。画面は動画の停止状態。促されるように三角マークを押すと、俺がバーテックスを殴り飛ばすところが、それはくっきりと写っていた。

 

「拒否権は?」

 

「ないです」

 

逃げよう。

 

「あなたのお母さんから伝言で『口答えしたら拳骨ね♪』だそうです」

 

先生、無表情なのに声を弾ませるとは中々器用ですね。それと三十代越えて四十代に差し掛かりそうなおばさんが♪はダメだろ。

 

「さぁ、行きましょう!大赦が俺を待っている」

 

「え、えぇ」

 

俺の手のひら返しに引き気味の安芸先生。だって母さんの拳骨は痛すぎるんだよ。俺の耐久は低いが一般人が全力で俺を殴ったところで痛くも痒くもない。それなのに、俺の母さんは防御力を無視してダメージを与えてくる。生まれてから人から受けたダメージは母さんの拳骨くらいだ。

 

母さんがバーテックスと戦えばいいのに。無垢でも少女でもないけど。

 

そのあと、日が暮れるまで大赦で検査を受けました。結果は、当たり前の勇者適正0。

 

勇者じゃないものが樹海へ入るなど許さんとから言われると思ったら、そんなことはなかった。歓迎もされてないが。なんというか、扱いに困っている感じだ。俺は勇者と同等の扱いだが、勇者とは言われない。まぁ、別にいいけどね。

 

「そうだ、先生。俺、制服で戦わないといけないんですけど、もし破れたら替えとか貰えるんですか?」

 

「はい。大赦がサポートしますので」

 

「ありがとうございます。もう帰ってもいいんですか?」

 

「はい。お送りするので少々お待ちください」

 

なんか、壁を感じる。先生としてではなく、大赦の人間として接してるから仕方ないが、少しだけ寂しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者をステータスで表すと。

 

 

level ──

 

 

 

筋力300~500

 

耐久200~400

 

魔力0

 

敏捷350

 

知力200~300

 

SP──

 

 

 

スキル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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