転生した少年~俺だけ勇者システムなしとか、ハードモードじゃね?~ 作:GRAENA
初めての戦闘から半月後。二体目のバーテックスとの戦闘に苦戦していた。
ただいま台風の真っ只中。暴風吹き荒れ、呼吸もしにくい。
前にいるのはリブラ・バーテックス。天秤座の名を冠するバーテックスだけあって、まんま天秤の姿。皿の代わりに分銅がついてるところ以外、ただの細長い天秤だ。
リブラ・バーテックスは独楽のように回転していて、風を巻き起こし、接近を許さない。
俺は風さらし。防御も支えもない。園子は槍を樹に突き刺して風に耐え、鷲尾と銀は園子にしがみついている。
ちなみに何故名前呼びかと言うと、これから一緒に戦うんだし、親睦を深めるということで、名前呼びになった。
何故鷲尾だけ呼ばないのかと言うと、許可を貰ってないからだ。
「あのぐるぐる。上からの攻撃に弱そうだけど」
「どうしようもない」
「どうしようかなぁ………できるかな」
手を銃の形にして、人差し指をバーテックスに向ける。指先から紅の球体が形成される。ただ初めての試みだが、意外と上手くいった。日々の訓練は大切だなぁ。
パシュンという音のあと、拳銃を撃ったときのような衝撃が腕に伝わる。撃ったことないから分からないけど。
紅の弾丸はバーテックスの胴体に直径十センチぐらいの風穴を開けた。ただすぐに再生する。
「おー。意外と使えるかもな」
「きょーくん。今のでバーテックスの動き止めれる?」
「んー。微妙なところだな。バーテックス痛覚ないし」
「なんとかして止められないのか?」
「少し時間くれ」
魔力を掌に集める。急激に体から力が抜けていくが、抜けた分、掌に紅の球体ができる。大きさはテニスボールより二回りは大きい。
自分の腕は大砲。このイメージで撃ち出す。さっきとは違い、ボンッ!と耳が破壊されそうな音が俺の手から鳴る。肩が外れそうな反動の直後、バーテックスの体が吹き飛ぶ。ついでに女子たちも衝撃波で吹き飛ばされてた。
「回転止まったけど………大丈夫?」
「大丈夫に見える?」
「………銀借りまーす」
「え?」
鷲尾のジト目を流して、銀の膝裏と首に手をやって、空歩を使って空を駆ける。その手際に銀は唖然として、園子は、おぉーと興奮気味。鷲尾は顔を赤くしながら破廉恥よ、と言ってる。
空歩には使い方が二つ。自分の足裏から魔力を流して足場を作るか、あらかじめ足場を作ってそこを踏むか。
前者は普段空を歩くのに使い、後者は空中での方向転換用だ。
他人に使ったことないから自信を持って言えないが、後者の力を使えば他人にも足場を作れると思う。
止まってるなら絶対にできるが、走ってる他人の足場を一個一個作れる気がしない。
要するにこうするしかない。俺は悪くない。
「きょ、恭介」
「我慢してくれ。他人に足場を作る練習はしてないんだ」
「わ、分かった」
バーテックスを見下ろせる位置に着いた頃に、バーテックスは回転を始めた。
お姫様だっこから銀を下ろして、背中を優しく叩く。
「じゃあ銀、行ってこい」
「お、おう!」
銀は躊躇いなく、足場から落ちる。そのまま上からバーテックスを削り倒した。
バーテックスが解体され、粒子となったところでファンファーレが鳴り響く。
今回銀に止めをささせた理由は二つ。近接戦闘系装備だったのでバーテックスの硬度を知っていて貰いたかった。ただこっちは三割程度。
もう七割は味方が倒した場合も自らに経験値が入るのかということ。結果は入る。今回上がったレベルは7。
RPGと同じくレベルが上がれば上がるほど、レベルアップに必要な経験値が必要になる。
そして、この前と同じく俺は他の勇者とは違って時間が止まる前に元いた場所にさっきまでの姿勢で戻される。
とどのつまり授業中の教室に戻った。立ったままの状態のせいで、くすくす笑われた。
課題も見つけたし、今日から新たな訓練を取り入れよう。
level 33
筋力580
耐久290
魔力690
敏捷620
知力380
SP780
スキル
制御[+魔力制御][+魔力放射] 経験値上昇 能力値上昇 格闘術 剣術 射撃術 身体強化 直感 空歩 治癒力上昇
今、何故か知らないけど安芸先生に勇者三人+α(俺)が集められていた。何も悪いことしてないんだけど。
「木川くん。次のお役目はあなたは見てるだけにしなさい」
開幕早々、戦闘外通知。
「えぇ!」
「あなたがいたら他の勇者が育たないのよ」
「先生、|他の勇者が頑張ってるなか俺一人休むのは悪いです《俺のサンドバッグを取り上げないでください》」
「木川くん………」
「先生、そのバカを見る目をやめてください。これでも学年トップなはずですよ」
「それが余計に質が悪いのよね………」
ちょっと鷲尾さん?聞こえないように言ったつもりなのかもしれないけど俺隣だから普通に聞こえてるからな。
「黙れ、ワッシーナ」
「な、何で知ってるのよ!」
「園子から聞いた。アイドルみたいだな。ワッシーナ」
「乃木さん!」
「ひゃー」
「ワッシーナうるさい。先生の話はまだ終わってないぞ」
「脱線させたのは木川くんでしょ!」
「鷲尾さん。落ち着きなさい」
「………はい」
「それであなたたちの中から指揮を取る隊長を決めましょう」
んー。誰でもいい。強いていうなら頭の回転が早い園子が適任かな。
「乃木さん。隊長を頼めるかしら」
「わ、わたし?」
「あたしはそういうの柄じゃないから、あたしじゃなければどっちでも」
銀はどっちかというと、精神的支柱として副リーダーだよな。アフターケアとか上手そう。
ワッシーナは頭が固すぎる。戦闘において、柔軟な思考は常に要求される。つまるところワッシーナには、あまり向いてない。
横のワッシーナは若干不満そうだが、顔にも声にも出さないで賛成の意を示す。
「それで、あなたたちには連携を深めるために合宿に行ってもらいます」
「「「合宿?」」」
「頑張れよ」
「木川くんも参加よ」
「え?マジで?」
めんどくさっ!俺の訓練は基本的に一人の方が効率がいいのですが?
「ええ、本当よ」
「いえ、あの………女子三人の中に混ざるのは恥ずかしいので辞退します」
「お母様にご報告しましょうか?」
「了解です。日程はいつ頃からでしょうか?当日はどこに集合でしょうか?」
そんなことがあって今日が合宿の日。現在、貸し切りバスの中。いや、たかだか四人のためにバス貸し切りとか。
「遅い。三ノ輪さんは何をしているの?」
現在、銀が遅れているせいで鷲尾の機嫌が悪い。それなのに鷲尾の肩に頭を預けて寝てる園子は凄いと思う。
「悪い悪い。遅くなっちゃって」
「遅───」
「次から気をつけろよ。早く出発したいから座れ」
長くなりそうなので、鷲尾の言葉を切る。
「え………あ、うん」
鷲尾が不服そうに俺を見るが、知らんぷりでアイマスクを装着する。
合宿先は海近くの宿。普通に泊まったら相当高そうだが、大赦が金を全て出してくれるらしい。ナイス、大赦。
今は連携の訓練。
バレーボールが発射される機械が砂浜に並んでいる。発射されるバレーボールに当たらずに銀がバスに到達すればOKらしい。
「先生。俺は近距離で銀の支援ですか?それとも遠距離で鷲尾の手助けですか?」
「鷲尾さんの手助けをお願いするわ」
「了解です」
鷲尾の側に移動して、指を構える。魔砲は周囲を巻き込みそうなので魔銃を使う。
「はい、スタート」
安芸先生がパンと手を叩いて、バレーボールが噴出される。
山奥の木を二、三本穴だらけにして手に入れた射撃威力。揺らした木から落ちる木の葉を撃ち落とす射撃技術。
それらをとくとご覧あれ。
パパパパパパン。
両手の人差し指から絶えず魔弾が発射される。魔力を垂れ流しにすれば、少しの間だけ、レーザーにもできるようになった。
……………………
…………
………
「木川くんは見てるだけにしなさい」
「えー!折角特訓したのに」
特訓が仇になったか。
特にやることもないので、適当に過ごすことにしよう。先生にも特訓するので別のところに行ってきますと言っておいた。
歩きながらふと思い出した。
そういえば、結構前に海の向こうへ行こうと思ってたな。よし、行ってみよう。
空歩で宙を歩き、ステータス任せにぐんぐん加速して、そして何かを突き抜けた。体に残る奇妙な抵抗感の余韻が気持ち悪い。
だが、それすら忘れさせるほど目の前の光景は衝撃的だった。
「地獄かよ………」
目の前に広がるのは地獄と形容するのがふさわしい。足の踏み場なんてない、地面が全てマグマで覆われていて火柱も立ってる。
そして絶望的なのは、バーテックスが復活してること。今はまだ全然形になってないが、時間が経てば元通りになるだろう。
なら、今破壊すればいいのでは?
答えは、無理だ。
浮遊する、白い楕円形の体にぱっくり開いた口しかない異形な生物がバーテックスの体と融合して修復している。
あれは要するにバーテックスの細胞だ。バーテックスが星座になぞらえられているなら、星座になれなかったあれはさしずめ星屑といったところか。
星屑は見渡す限り無限にいる。俺が持つすべての魔力を攻撃に使ったところで焼け石に水だ。
ぼんやりしていたのが悪かった。星屑の接近に気付くのが遅れた。目の前までその生物が二体迫っていた。
即座に腕と足に魔力を纏い、前にいたのを迷わずアッパーカット。横から噛みついてきた星屑は回し蹴りで吹き飛ばす。
「吹き飛べ!」
手に魔力を集中させ、魔砲を撃つ。反動を抑えたので、肩が外れることはなかったが、腕がジンとする。
星屑の壁に穴が開く。
そこでファンファーレが鳴り響く。鳴ったのは一回分。
ポジティブに考えよう。周りには
「………ここはまさかのボーナスステージ?」
なるほど理解した。
[SPを50消費して”魔力回復力上昇“を取得します はい/いいえ]
[はい]
[SPを100消費して“武器創造”を取得しますか はい/いいえ]
[はい]
手に刀を作り出す。
「さぁ、狩りを始めよう」
「やばい熱中しすぎた」
今日の訓練、俺は勇者装備はないのでジャージ参加だ。なので、汗でぐっしょりになろうが大赦からの支給品なのでいいか。
外に出た頃には月が出ていた。
いくらテンションが上がっていたとはいえやり過ぎた。
だが、おかげでレベルが4も上がった。さらに熱耐性と気配察知、集中のスキル獲得。
ホクホク顔で宿に戻ると、安芸先生が仁王立ちしていた。風呂に入ったあとのようで、髪が濡れ、顔が上気している。
「どこにいっていたのかしら?」
「ちょっと世界の果てまで」
あながち嘘でもない。これで納得してくれないかな。
「冗談はいいです」
スッパリ!
「本当ですって。なんなら世界の終わりまで見てきましたよ?」
「………神樹様の結界から出たの?」
「多分出ましたね。なんならそこにいた白い奴らも殴り飛ばしてきたぐらいです」
「はぁ。嘘は言ってないようね。入りなさい」
「はい」
「それと───」
「言いませんよ。あいつらには。あまりに残酷すぎる」
「………木川くんは聡明ね」
「学力学年トップですからね」
「その発言さえなければ、ね」
「俺の性格なんで」
そのあと風呂に入ってさっぱりしてから寝ました。熟睡でした。
一方隣の部屋では、こんな会話がなされていた。
「好きな人の言い合いっこしよーよ」
「好きな人って………三ノ輪さんはどうなの?」
「んー。好きな人か分からないけど、気になるって意味だと恭介かな」
「おー、ミノさん大胆!でもきょーくんはクラスの女子からの人気高いよねぇ」
「そうだな。他の男子みたいにうるさくないし、頭もいいし、意外とかっこいいからな。いつも寝てるけど」
「確かに木川くんは頭がいいわね。教え方も上手だわ」
「そうなのぉ?」
「ええ。いつも寝てるのに」
「私の居眠り仲間だからねぇ」
「寝てる方が頭よくなるのか?」
「木川くんと乃木さんが特殊なだけよ、三ノ輪さん」
「きょーくん、休み時間はたまに起きてるんだけどねぇ」
「起きてるときは普通に皆と話してるんだよな?」
「そうだよぉ。たまに抜けてるけど、話は面白いし、話しやすいよぉ」
「そうね。そう考えると、木川くんが人気なのも頷けるわね。凄いときは朝から放課後まで寝てるけれど」
「そういえば、木川くんって勇者じゃないんだよねぇ」
「それなのにあたしらより強いけどな」
「なんで強いんだろうねぇ」
「明日にでも聞いてみようかしら」
主人公はレベル上げ大好きです