転生した少年~俺だけ勇者システムなしとか、ハードモードじゃね?~   作:GRAENA

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三話

朝日が地平線から顔を出して、きらきらと海が光っている。

 

俺は二階の自分の部屋の窓からその様子を少しだけ眺めてから窓枠を蹴って外に飛び出す。

 

大赦の人から借りた釣竿を肩に担いだし、いざ大海原へ。

 

と思ったのだが、こちらを見る視線に気が付いた。今は朝の五時を少し回ったぐらいの時間なので、起きてる奴といえば。

 

「鷲尾?」

 

振り返れば大当たり。鷲尾がこっちを見ていた。見えない階段を下るようにして、鷲尾が手をかけてる窓枠に近付く。

 

「おはよう、木川くん。釣り?」

 

「そ。海のど真ん中で釣糸でも垂らしてのんびりしようかなぁ、と。鷲尾も来るか?」

 

「………そうね。ここにいてもやることないから、お願いしようかしら」

 

「承りました、と。ちょっと待ってろ」

 

魔力回復力上昇の効果で今なら多少魔力を使ったところですぐに回復する。

 

ということで、魔力で道を作る。空中に波紋が広がり、うっすら赤い道が続く。

 

「これは凄いわね」

 

「だろ?体の脱力感で今すぐ崩れそうだけど」

 

「怖いこと言わないでよ………」

 

「冗談冗談。ほれ、靴………は別にいいか。行くぞ」

 

「ええ」

 

おそるおそるといった様子で道に乗り、何回かふみふみしてその強度に驚いてる。

 

ところで、道にはうっすらとした赤色がついてはいるものの、下は基本透けて見える。

 

さっきまでは下が屋根だったから安心感があったようだが、それも終わり、下がコンクリートの地面になった。

 

鷲尾の足が生まれたての小鹿のようになってる。

 

「怖いなら手でも繋いでやるか?」

 

「だ、大丈夫よ」

 

大丈夫そうに見えないのだが?

 

「強がらなくてもいいのに。ほれ、ゆっくりでいいから」

 

鷲尾の手を掴み、鷲尾のペースに合わせる。

 

目的地についたのはそれから三十分後だった。中程まで歩いた頃に、ようやく慣れたのか自分の足で歩けるようになった。横に俺がいないとダメみたいだが。

 

魔力を薄く広げ、四メートル四方の足場を作る。俺は縁に腰かけて足をぶらりぶらりと宙に投げ出しながら、釣竿の先端にルアーを着けて、遠くに投げる。

 

闇雲に投げてるわけではなく、気配察知で魚の群れに放り投げてる。

 

二分に一回のペースで釣れてる。ただ、クーラーボックスは持ってきていないのでキャッチ&リリースだ。

 

釣りスキルを覚えそう。

 

「木川くんは釣りをしたことあるの?」

 

前世でね。なんて言ったら頭のおかしい奴だな。

 

「ネットの大海をサーフィンしまくって覚えただけだから今日が初めてだな。他にもスキューバ、サーフィンぐらいならできると思う。どっちか一つやりたいな」

 

「多才なのね」

 

「出来ることが多いのは良いことだろ?将来の幅が広がるし」

 

「授業中寝てる人とは思えない発言ね………」

 

「寝てても分かるからな」

 

「これで私よりも頭が良いのが腹立たしいのよね………」

 

「ドンマイ!いくらでも教えてやるから元気出せ!」

 

振り向いて、星が出そうなほどいい笑顔でサムズアップしたのだが、頭に手刀を落とされた。

 

「あはは。そうカリカリするな。ほれ釣竿持って、海でも眺めてれば、心も落ち着くぞ」

 

「………そうね」

 

鷲尾が俺の横に座って渡した釣竿を握る。

 

「空から糸を垂らすことなんて、これから先絶対にやらないわね」

 

「これからもっと面白い体験をできるかもしれないぞ?」

 

「木川くんが言うと説得力が違うわね」

 

「俺は面白いこと大好きだからな。それよりもうそろそろ戻るか。朝御飯の時間だ」

 

「もうそんな時間?」

 

「時間を忘れるほど俺といるのが楽しかったのか?」

 

「………そうかもしれないわね」

 

………鷲尾がデレた!

 

「木川くんといると退屈しないわね」

 

そう言って笑う鷲尾は、なるほど純真無垢な女の子だ。俺がロリコンなら危なかったぞ。

 

 

 

 

朝食も終わり、勉強の時間。しかし俺にとっては睡眠時間と同義。

 

「「zzzz」」

 

「次のところ、乃木さん」

 

「はいー。バーテックスが生まれて、私たちの住む四国に攻めてきたんですー」

 

「正解よ。次、木川くん」

 

「バーテックスには通常の武器が効かず、人類の生存圏は四国のみと大幅に減少したんですー」

 

「正解よ」

 

((今ので聞いてたんだ))

 

 

次の座禅でも俺と園子はぐっすり眠りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の訓練も俺はやらなくて良かったので、地獄で星屑と戯れていた。今、右の手のひらでくるくると鉄球を弄りながら、もう片方の手で色々なものを投げる。

 

「よっ、ほっ、とお!」

 

今は投擲術を習得するための訓練中兼武器創造で作り出せる武器の確認だ。

 

今投げたのは、一投目がダーツの矢、二投目がフォーク、三投目がナイフだ。これらは武器として扱われた。基準が広い。

 

星屑に当たっても、怯みはするもそれほどデカイダメージは与えられていない。

 

他にもクナイ、手裏剣、チャクラム、鉄球、ブーメランを投げてみたが、どれもいまいちだった。刺さるものより、衝撃を与えるものの方が有効だ。

 

総じて遠距離系統の武器は効果が薄い。

 

「やっぱ近接戦闘がいいか」

 

刀身一メートル超えの刀を一本。刀の先まで魔力で覆う。

 

人を切り裂けるといっても、星屑にとってはただの鉄の塊でしかない。傷は与えられるかもしれないが、それだけだ。

 

魔力を通して初めて効果を現す。それは己の体でも同じで、魔力を纏わない拳では星屑は倒せない。

 

遠距離系統の武器の効果が薄い理由はこれだろう。投げた瞬間から包んでいた魔力は徐々に霧散する。

 

魔銃や魔砲は内包している魔力量が違う。だが、遠くに行けば行くほど弱くなる。ゼロ距離で放てばバーテックスをまとめて吹っ飛ばせるだろう。衝撃が怖いのでやらないが。

 

魔力を纏った刀で近くにいる星屑を切り裂く。

 

空歩で敵地に突っ込む。周りは一面白景色。

 

半径一メートルに気配察知を集中させる。右手に刀を、左手はいつでも魔銃や他の武器をつくれるように空けておく。

 

一体の星屑が俺の間合いに入った瞬間、体がバラバラになる。

 

続いて四方八方数で押し寄せる星屑を、切り裂き、殴り、蹴り、撃つ。

 

常に死角を作らないように動く。星屑の真価は数の多さ。動きは単調で読みやすい。周りの星屑に攻撃の順番をつけて、効率的に動き、常に向こうの間合いには入らない。

 

俺の耐久の低さでも星屑の攻撃は耐えることができるが、一度体勢を崩されれば、次々に群がり、あの歯で食い散らかされるだろう。

 

この命綱なしの綱渡り。

 

「燃えるねえ」

 

経験値の荒稼ぎはまだまだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

かけてあったアラームが鳴った。ということは向こうでは五時になったということか。

 

刀を放り投げ、両の掌から魔砲を放つ。周囲の星屑は衝撃波で怯み、射出した魔弾の方向を見れば、一直線に道が出来ていた。

 

できた穴が星屑によって塞がれる前に、急いで抜ける。

 

逆方向に魔力を噴出して、速度をブーストする。

 

勢いそのまま神樹様の結界の中に逃げ帰る。

 

何度経験しても慣れない奇妙な抵抗感を感じながら、海上に投げ出される。海にドボンする前に急いで体勢を立て直して、空中にとどまる。

 

今度はしっかりと夕方に戻ってきた。

 

「ふぅー、まずは風呂だな。向こうで戦うときは上半身裸でやるか」

 

絞れそうなまでに汗を吸ったTシャツを脱ぎ、歩いて帰る。テレポートか瞬間移動のスキルが欲しいと切実に思う。

 

 

 

 

 

 

 

砂浜に降り立つ。勇者達は訓練終わりで疲れてるご様子。

 

「お疲れ様」

 

ぐてーとしてるからいつもの三倍やる気無さそうに見える園子。

 

「きょーくんもお疲れ様。なんで上脱いでるの~?」

 

特に顔を赤らめるでもなく、普通の様子で聞いてくる。

 

「汗が凄いんだよ。こちとら勇者装備ないんだから、毎回Tシャツ無駄になる」

 

「木川くん!上を着なさい!」

 

鷲尾が顔を真っ赤にして目を隠してるが、指の隙間から覗いてるの見えてますよ。意外にもムッツリ?

 

「上がないんだよ」

 

「別に大丈夫だろ。恥ずかしがんなよ、須美」

 

銀は特に反応を示さない。というか慣れてる?

 

「きょーくん、筋肉凄いねぇ。細マッチョさんだ~」

 

「鍛えてるからな」

 

「どれどれぇ~………おぉ、すごいすごぉ~い」

 

園子がペタペタと俺の二の腕を触ってくる。

 

「今俺汗ヤバイんだけど」

 

「別に大丈夫だよ~?」

 

「なら、いいや」

 

「あっ、あたしも触らせて。………おぉ硬い」

 

「訓練してるからな」

 

「へぇー。あたしらも訓練してるから筋肉つくかもなあ」

 

「女子としては複雑だよね~」

 

「そうか?重いものなんて持てません、なんて女子よりいいと思うぞ」

 

「そうか?」

 

「そうそう。頑張ってる証だな」

 

「そっか。よし、頑張るぞぉ!」

 

「おぉー」

 

 

 

 

 

level 40

 

筋力800

 

耐久310

 

魔力890

 

敏捷900

 

知力400

 

SP750

 

スキル

 

制御[+魔力制御][+魔力放射] 経験値上昇 能力値上昇 格闘術 剣術 射撃術[+砲術]投擲術 身体強化[+腕力強化][+脚力強化][+集中強化] 直感[+超感覚] 空歩[+天道] [+展拡]集中[+視覚強化][+余剰強化] 気配察知[+範囲拡大][+精密化]武器創造[+創造速度上昇] [+硬度上昇]治癒力上昇 生存本能 熱耐性

 

 

 

 

風呂からあがって、自室で敷かれた布団に寝転びながらステータスをじっと眺める。

 

「凄いスキルなんだよなぁ」

 

自分が強くなっていくのが目に見えて分かるのは嬉しいものだ。ステータスも順調に上がってる。耐久以外。

 

もう素の状態で星屑の体当たりを───止めよう。受けたら、内臓の一つ二つは破裂する。耐久が上がっても死ねば本末転倒。

 

俺の作戦は、かの有名なRPGに習って“いのちをだいじに”しながら“ガンガンいこうぜ”だな。

 

「きょーくん。入っていい~?」

 

「どうぞー」

 

戸を横に開けて中に入ってきたのは、勇者三人。なんか一匹、鳥人間が混ざってるけど。

 

「どうした?大人数で枕投げでもするのか?」

 

「木川くんに聞きたいことがあって」

 

「まあ、とりあえず座れよ」

 

俺は布団を一枚敷くだけなので、テーブルと椅子は寄せてあるが、置いたままだ。

 

茶を差し出しながら、話を聞く。

 

「聞きたいことって何だ?」

 

「木川くんは勇者じゃないのよね?」

 

「そうだな。適正ゼロの一般人だ」

 

「なら何であたしらより強いんだ?」

 

「んー。何で、か」

 

「言いたくないなら言わなくてもいいんだよ~?」

 

「いや、これからも一緒に戦うわけだし。簡単に言えば、勇者以上に身体能力を引き上げる力を持ってるからだな。俺は魔力って呼んでる」

 

手を見せて、魔力を放出すると、最初のバーテックス退治の時みたいな炎が天井の高さまで吹き出る。

 

鷲尾と銀が驚いて後ずさる。対照的に、園子は目を輝かせて食い入るように見ている。これが本当の火だったら焼き鳥だな。

 

鷲尾と銀も熱さがないと分かるとまじまじと見てくる。

 

「これが分かりやすく見せた魔力だ。これを纏えば勇者以上の力が引き出されるんだよ。他にも空中に足場を作ったり、銃弾みたいに飛ばしたりできるから万能だな」

 

「便利そうだな」

 

「実際便利だぞ。重たい買い物袋も楽に持てたり、魔力で覆えば服も汚れないし」

 

「使い方が庶民じみてるわね」

 

「庶民だからな。でも自分の体液に効果がないのがなあ。なんで汗も弾いてくれないかなあ」

 

「いいな~わたしも空を歩いてみたいよ~」

 

「今から行くか?光がないから星が綺麗に見えるぞ?」

 

「えっ!いいの?!」

 

「あっ、あたしも行きたい!」

 

「じゃあ行くか。靴はいいけど、なんか羽織るもの取ってこい。さすがに夜は冷えるからな」

 

「りょうかーい」

 

「待ってよ、ミノさ~ん」

 

元気いいよな、あの二人。あのバイタリティーは羨ましいことで。

 

「行かなくていいのか?鷲尾」

 

「私は………」

 

「お前めんどくさいよなあ。もう少し子供になれよ」

 

「むっ。そういう木川くんももう少し子供になった方がいいんじゃないの?」

 

「そうかもな。とりあえず、あいつらを見習えよ。少しぐらいわがまま言ってもいいと思うぞ」

 

「……き──」

 

「取ってきたぞー」

 

鷲尾が何かを言おうとしたところで、戸が乱暴に開けられる。

 

銀が長ズボンにパーカー。園子は暖かそうなコート。鳥パジャマから着替えたみたいだ。

 

「はい、須美のも」

 

銀が手渡したのは鷲尾の上着。

 

「え、あ、ありがとう。三ノ輪さん」

 

「いいっていいって」

 

「それではご案内致しましょうか」

 

窓をがらりと開けてからぱちんと指をならす。するとどうでしょう。園子たちの足元から、紅の道が夜空へと伸びる。演出は大切だろう。

 

ところで何で銀と園子は躊躇いなくその上を走れるんだよ。鷲尾なんか二回目なのに二人より遅いぞ。

 

海のど真ん中で四人で見る星空はなかなか乙なものでした。

 

三十分ぐらいの天体観測は園子のくしゃみでお開きになった。

 

 

 

 

最終日も星屑のバトルで終わった。バーテックスの再生も大分進んできたので、バーテックス襲来ももうすぐになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

釣りのあとの朝ごはん。

 

 

 

「二人ともどこ行ってたんだ?」

 

朝御飯の席で銀が口を開いた。席は俺の横に鷲尾、前に銀、斜めに園子。

 

「海のど真ん中で釣り」

 

「面白そうだな!」

 

「結構面白かったぞ。でも銀には向いてなさそうだな。じっとしてるの無理そうだから」

 

「そうだね~。ミノさんに釣りは向いてないと思うよ~」

 

「ぐっ、言い返せない………」

 

「それでそれで~?何か面白いことはあったの~?」

 

「鷲尾がデレたこと」

 

あっ、鷲尾がむせた。

 

「ゴホッゴホッ」

 

「大丈夫か?」

 

「誰の…ゴホッ……せい……」

 

「ほれほれ、喋るな」

 

背中を撫でたり、とんとん叩く。ようやく呼吸が落ち着いた頃、園子が核爆弾を投下。

 

「おぉ!夫婦みたい」

 

「ふっ………!」

 

むせたり赤くなったり忙しいな。

 

「鷲尾が赤くなったまま固まった」

 

「からかいすぎちゃった~」

 

「恭介も園子も次のお役目の時は背中に気を付けろよ?」

 

「「りょうかーい」」

 

 

 

 

 

 

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