ナザリックのみんなとアインズ様がほのぼの何かする話を考えていたらこうなりました。
設定とかが正確じゃないところもあると思いますが、ご容赦ください。
「それにしても、まさかシャルティアがあそこまで気に病むなんて思わなかったなー……。」
人払いし、誰もいなくなった執務室でアインズは豪奢な椅子に背中を預けながら癖になった独り言を呟いた。
蜥蜴人を配下に修め、デミウルゴスの王都襲撃作戦も成功した。アインズはここらで守護者や僕に褒美をとらせるべきだと考えていたのだ。
しかしナザリックには全てがあり、そしてそれは解放されている。その上、守護者や僕達は「至高の御方に仕えることこそ喜びであり、これ以上の褒美はない」と素で言い切るワーカーホリック達だ。忠義はありがたいが、社畜時代に愛社精神の欠片もなかったアインズには、ちょっと理解できなかった。
「よく働き、よく遊べ。なんて、昔の人は言ったみたいだけど、俺達の時代は働け、さもなくば死ね。だったからなー…。」
現実の世界を思い出すと、ないはずの胃が痛む気がする。アインズにとって仕事は生きるために仕方なくやるものであって(仕事によって多少の達成感などはあっても)、給料ないわ休みはないわであれだけ仕事に精が出せる僕達は、すごいと思うが同時にちょっと怖い。だからアインズは、自身の思うホワイト企業を理想とし、休みを導入したり褒美を出したりして、僕達に自分に仕える以外の、自分だけのささやかな喜びを見つけて世界を広げて欲しいと思うのだ。
「ふふふ。福利厚生完備のホワイトナザリック…。ヘロヘロさんが見たら何て言うかな…。」
血液ドロドロの社畜スライムを思い浮かべる。
いや、アインズ・ウール・ゴウンは社会人限定ギルドだ。リアル社会のブラック具合に不満がないメンバーなどいない。きっとみんな涙を流してNPCを羨むだろう。
そのためにもなんとか彼らが納得するかたちで褒美を与えてやりたい。けれど。
「アルベドが言ってたんだよなー。信賞必罰は世の常。功には賞を、罪には罰を与えなければならないって。罪をおかしたまま罰せられなかった方はずっとけじめがつけられない、か。」
そのせいでシャルティアは酔いもしない酒に溺れようとまでしたらしい。忠誠心の高さが裏目に出たのだろう。自分なら、ミスして許されたならラッキーだったで終わる話だ。
なのでアインズは、褒美を考える分にはあれやこれやと思い付くが、罰を与えるとなると、さっぱりなんのアイディアも浮かばなかった。
しかし、これはなにもアインズだけが悪いわけではない。シャルティアを椅子にした時に、いや、もっと前から薄々感じていたのだが、アインズが守護者になにかすると、それがなんであれ、彼らにはご褒美になってしまうというのも一因だった。特にアルベドとシャルティア。あとなんとなくデミウルゴスからもそんな雰囲気がする。
「守護者たちがされて一番嫌なことってなんだ…?」
それは勿論アインズから不要と判断され見捨てられることなのだが、アインズがそれをすることはない。かといってそれ以外で、たとえばアルベドにしたように謹慎3日間が最適かというと…
「アルベドは最近放置プレイもそれはそれで乙、とか言い出したからな…。」
アルベド的に謹慎は、離れた恋人同士が愛を深める時間らしい。
「……まったく思い浮かばないな。」
ふぅ、と息を吐き出す真似事をして持たれていた椅子から背中を離す。
「さて、と。…八肢刀の暗殺蟲、リュミエール、入ってよいぞ。」
アインズが告げると、部屋の扉が開き今日のアインズ当番のメイドが入ってきた。八肢刀の暗殺蟲は既に不可視化して天井に張り付いている気配を感じる。メイドは部屋の隅の定位置で静かに命令を待つ姿勢だ。
「…そうだな。リュミエール、それと八肢刀の暗殺蟲から一人、我が前にこい。」
アインズの声に、メイドと可視化した八肢体の暗殺蟲の一人が音もなくアインズの前にでて臣下の礼をとる。
「楽にしてよい。すまんが一つ、お前たちに聞きたいことがあってな。」
「そんな、アインズ様が頭を下げる必要は御座いません!私達で答えられることなら、なんなりとお申し付けください!」
アインズのすまんの一言に過剰に反応するリュミエール。八肢刀の暗殺蟲も隣で深く頷いている。
「そうか。では早速お前たちに聞くが……、まずお前たちが私の前で何か失敗をしたとする。」
「「申し訳御座いません!何卒!この命を以て償いを!!」」
「………。えぇぇ…、あー、いや、お前たちはよく勤めてくれている。それは私が一番わかっていることだ。これはものの例えであって実際に私がお前たちに不満があるわけではない。それと、もし万一があったとしても、いきなり命を差し出さないでくれ…。そんなことでお前たちを失ったら私は悲しい。」
「「はっ。誠に慈悲深きお心遣いに感謝致します!!」」
アインズの言葉に顔を青くさせた二人は、今度はまたアインズの言葉によって瞳を潤ませ、感極まっている。
一方でアインズは相変わらずの振り切れた忠誠心に内心でため息をつく。例えばの話で死なないで欲しい。
「うむ。まぁ、それでだ。例えばなんだが、ミスしたお前たちを、余程の事でない限り私は許すだろう。」
「「アインズ様…っ!」」
「だが、アルベドに言われたのだ。信賞必罰は世の常、賞を与えるのなら罰も与えなければならない。そうでなければ後悔という棘がずっと心に残り、私が許してもきっと本人は自分を許すことが出来ないだろう、とな。」
そう言ってから二人を見ると、確かにそれはそうだという理解の表情が浮かんでいる。
八肢刀の暗殺蟲の表情はよくわからないが、うんうんと頷いているので理解しているのだろう。
「だが、私はお前たちの働きに褒美をとらせることは思い付いても、お前たちを罰することに関してはなかなか思い浮かばないのだ。…ふっ。こんなことでは主人失格だな。」
自嘲気味に少し視線を下にやる。
一方でメイドと暗殺蟲は主人のあまりの慈悲深さに感動していた。主人は至らない自分達を罰するように諌められても、その心根から罰を与えることに心を痛めているのだ。しかも罰せられない自分等主人失格だなどと…。ナザリックに最後まで残り、今なお自分達の上に君臨してくれているこの至高の御方は、こんなにも素晴らしく、仕えがいのある方なのだと大声で叫びながら皆に知らせてまわりたい。そして、この優しき至高の御方を悲しませない為に、より完璧に自分の仕事をこなしてみせると心に強く誓うのだった。
「それでだ。先の質問に戻るが、お前たちがもしミスをして、私から罰を受ける時に、一体何が一番罰になると思う?お前たちは自分の命すら忠誠の為に捧げられる。そんなお前たちに罰を与えるならば何が一番それにふさわしいと思う?」
その言葉に二人はじっと考え込む。勿論一番恐れるのはアインズがこのナザリックを捨て、他の至高の御方々のように去って行ってしまうことだ。だが、この異世界に転移してからアインズと接してきて、それを罰とすることがアインズの選択肢にないことくらいはわかる。
アインズが求めるのはもっと、取り返しのつくレベルのミスに対する罰に関しての話なのだろう。それに一般メイドたるリュミエールや配備されたモンスターである八肢刀の暗殺蟲がこの偉大なナザリックを揺るがすような深刻な被害を与えられると考えるほうが不敬なはずだ。
「なにかないか?」
「恐れながらアインズ様、私はアインズ様を天井から警備することが務め。もし罰を与えられるとすれば、この栄誉ある任を解かれることでございます。」
「私も、アインズ様当番を許されない等と言われたら、恐ろしくて身が震える思いです。」
二人は自分が口に出したことが恐ろしいのか若干震えながら答えた。アインズはやっぱりNPC達は自分の存在理由を剥奪される事に恐怖を覚えるのだな、と納得した。(謹慎させられても悶えるアルベドの事はとりあえず考えないことにした。)
「ふむ…。わかった。二人とも職務を失うことが一番の罰だと思うわけだな?」
実際、アインズは一番の罰が死か仕事を奪われることだろうということは見当がついていた。
しかしそれをどんな小さいミスにも適用するわけにはいかない。そんなことをしていたらナザリックは直ぐに崩壊する。
「では、二番目に罰になるのはなんだと考える?」
「「二番目…、でございますか?」」
「そうだ。簡単に説明するとな、小さな成功には小さな褒美、小さな失敗には小さな罰と言うことだ。たとえばメイドが一つ皿を割った程度で毎回クビにしていたらメイドが何人いても足らないだろう?逆にお前たちが私に敵対する人間を一人始末したぐらいでワールドアイテムを渡したりもしない。何事にもちょうどいい加減というものがあるのだ。だから二番目と言わずとも、罰則としてこういうものがあれば皆がキチンと反省し、また仕事に励むようになる、というようなアイディアを求めているのだ。」
真剣に聞く二人にアインズが更にアイディアを募ろうとしたとき、執務室のドアをノックする音がした。
「アインズ様」
「うむ、行けリュミエール。」
ドアに向かったリュミエールがデミウルゴスの来訪を告げた。
ナザリック一の知恵者であり、ナザリックトップレベルに働くかの者ならなにかいい提案をするかもしれんな。そう考えて入室をゆるす。
「第7階層守護者デミウルゴス、御身の前に。……おや、なにかお話の途中でいらっしゃいましたか?」
デミウルゴスがアインズの前で臣下の礼をとり、そこでいつもなら部屋の隅に控えるメイドと、不可視化して天井にいる八肢刀の暗殺蟲がアインズの近くにいることを認めて首をかしげる。
「あぁ、ちょっとした事で少し意見を聞いていたのだ。」
「アインズ様に意見を述べることを許されるなど、羨ましい限りですねぇ。よければどんなお話なのか伺ってもよろしいですか?」
俺はいつもデミウルゴスには意見を求めてるぞ。と言いたいのを飲み込んでアインズはこの知恵者の顔を見る。
「ふむ。それは構わんが、なにか報告があって来たのではないか?私の話をするのはお前の報告を聞いてからにしよう。悪いが二人は控えてくれるか。」
メイドと暗殺蟲が離れていき、アインズはデミウルゴスに報告を促す。
「はい。それでは__
デミウルゴスからの報告はいつものようにアインズが疑問を挟む余地もない分かりやすいもので、もはやアインズは頷くだけの機械と化している。
「…以上で私からの報告を終わります。」
「うむ。今回も私の思惑以上に事を進めてくれたようだな。さすがはデミウルゴスだ。この調子で引続き任務にあたってくれ。」
「はっ。私のような者の考えなどアインズ様の智謀に遠く及びませんが、アインズ様にご満足頂けるよう励みたいと思います!」
いやいや、ほんとにお前の頭の回転は俺なんかより全然優れてるよ。と叫びたいのを堪えるアインズ。
「さて、次の報告がなければ先程の話の続きをしようと思うが、どうだデミウルゴス?」
「はい。私からの報告はもうありません。是非、アインズ様のお話を聞かせていただきたく思います!」
「そうか?そんなに面白い話ではないと思うが…。まぁいい。三人とも、ソファーの方で話そう。リュミエール、悪いがお茶の用意をしてくれ。あぁ、自分の分も忘れずに持ってこいよ。」
そしてお茶の用意も整い(整うまでに一緒にお茶など不敬だなんだとまたひと悶着あったのだが)、アインズはデミウルゴスに今までの話の大筋を説明した。
デミウルゴスは話の途中で何度も感動に震えながらアインズの話を聞いた。
「というわけだデミウルゴス。……どうした?顔が赤いようだが?」
「は、いえ、これはなんでもございません。しかし流石は至高の御方々のまとめ役である智謀の御方。我々僕に対しそこまでのお考えをもっていただけるとは、このデミウルゴス、改めて御身に畏敬の念を持たずにはおれません。」
「あ、あぁ。まぁ、それぐらいは考えてやらねばお前たちの主人足り得ぬからな…。はは…。」
(そこまでの考えって!?なにも考えてないから意見を募ってるんですけど!?)
アインズはこの聡明すぎる部下がどんな答えを導きだしたか全く見当がつかないが、取り敢えず上位者のロールプレイで取り繕っておく。
「では私はこの話を守護者各位、並びに主要な僕達に通達し、アインズ様のお考えに沿うような制度を作成いたしましょう。」
「そうか。すまないなデミウルゴス。忙しいお前に更に重荷を背負わせるようなことをして。だが、期待しているぞ。」
「はっ!!お心遣いありがたく存じます!どうか我が身など気にせずお任せください!」
アインズがデミウルゴスを労いつつ肩を叩いてやると、デミウルゴスは何時もより大きな声でそう答えやる気に満ちた目で部屋から去っていった。
「さすが守護者一の知恵者は我々と違い、アインズ様の考えを理解しているのだな。」
「えぇ。でも私たちも普段のアインズ様の側に控える者として、もっとアインズ様の事を理解できるように頑張らないと行けませんね。」
ソファーに残ったメイドと暗殺蟲はデミウルゴスに感心しきりだ。
(ほんと、デミウルゴスの頭の回転の一万分の一でも俺にあればよかったのになー。正直デミウルゴスが何を任されたのかさっぱりわからん。)
そして至高の御方もなにかが自分の手を離れて進み始めたのだということしか理解できていなかった。
「さて、デミウルゴス。説明してもらいましょうか。外に出ている守護者までここに集める必要がある会議の内容とやらを。」
ここはナザリックにいくつかある会議室の一つである。デミウルゴスはアインズの部屋を出た後、直ぐに伝言の魔法でアルベドを始めとしたメンバーをこの部屋に集めていた。
「しかも最優先レベルだなんて、なにか重大な問題でも発生したのでありんすか?」
「武力ニ関スル問題デアレバ、ワタシガ行ッテ解決シテモイイゾ。」
アルベドを始め、集められた面々がデミウルゴスに疑問を投げ掛ける。いまナザリックは総出で色んな方面に工作を仕掛けている。本来なら 会議に参加している場合ではないと考えている者も多い。しかしあの知恵者デミウルゴスが最優先レベルで集合をかけたから何事かと飛んできたのだ。
この部屋に集まったのは守護者統括、各階層守護者、セバス、プレアデス、ペストーニャである。
「うん。まずは急に皆を呼び出してすまなかったと謝らせて欲しい。それとコキュートス、気持ちはありがたいが武力が必要な議題でもないから安心してくれ。」
「ソウカ。ナライイノダガ。」
「議題というのは先程、私がアインズ様から任された件なのだ。」
「アインズ様が!?」
どよどよといろめきだつメンバーを片手で制し、デミウルゴスが続ける。
「そうです。先程、私が聖王国の件でちょっとした報告に伺った際にアインズ様はメイドと八肢刀暗殺蟲と歓談中でございました。」
「メイドと八肢刀の暗殺蟲がアインズ様とご歓談!?羨ましいぃぃ~!」
「アルベド、気持ちはわかりますが抑えてください。話が先に進みません。」
「そ、そうね。ごめんなさいデミウルゴス。それでアインズ様は何をお話されていたのかしら?」
「メイドや暗殺蟲と話していたのでありんすから、そこまで大事なことでありんすとはおもえないんでありんすけど。」
「そうだよねー。大事なことならまずアルベドかデミウルゴスに話がいくと思うんだけど。」
「私も最初は3人で雑談されているのかと思ったんだがね。その後話を聞いて考えを改めたよ。私の視野がこれ程までに狭かったとはまったく、不忠の極みだ…。」
やるせなく頭を振るデミウルゴス。メンバーは知恵者と名高い彼の様子に一体どんな話がされたのかと背筋を伸ばして続きを待つ。
「アルベド、貴女はシャルティアの件でアインズ様に罪には罰を、と進言したそうだね。」
「えぇ。したわ。シャルティアが目も当てられない状態になっていたし、私がシャルティアでも罰を頂きたいと思ったでしょうから。それが?」
「関係大有りなのだよ。今回はまさにその件が引き金になっていると言ってもいい。」
「んひゅっ!!」
ガンッ!
なにか硬質な音が部屋に響いた。
シャルティアが勢いよく机に突っ伏したのだ。
音は頭が机に激突したものだ。
「うぅああぁぁ…、やっぱりアインズ様は私に失望しているんでありんすねぇぇぇ…」
「ちょっとシャルティア!しっかりしてよ!まだデミウルゴスの話が終わってないでしょ!」
「えぇ、そうです。今回はシャルティアをどうこうという話ではありませんでした。」
「えっと、じゃあどういうお話だったんですか?」
「それをいまから説明するところだったんだがね。まったく守護者が誰より先に取り乱してどうするんだね…。でだ、アインズ様は今後、ミスを犯した僕に対して罰を与える考えのようだ。まぁ、当たり前の話だね。」
うんうん、と集まったメンバーも納得している。
「ところで君たちはアインズ様が何を考えて君たちのミスに罰を与えると思うかね?…セバスはどう思うね?」
「やはり、今後同じミスを犯さぬよう、戒める為に与えるのではないですか?」
「そうだね。他に思いつく者はいるかい?」
「あの…、アインズ様は私に罰を与える前にお前の心に刺さった刺を抜いてやるとおっしゃっておりんした。だからアインズ様が罰を与える時は…、きっと私たち僕が罪の重さから立ち直れるように考えてくださっているのだと思いんすけれど…。」
おずおずとシャルティアが意見を述べた。デミウルゴスはその宝石のような目をカッと開き、そして天を仰いだ。
「ドウシタ、デミウルゴス?」
「あぁ、すまないコキュートス…。私は今、猛烈に感動しているのだよ…。至高なるアインズ様の慈悲深さは、そうあれと創られた我等の心すらも成長させることができるのだとね。いまシャルティアが言ったことはまさにアインズ様のお心に叶うものだ。言い方は悪いが少し前のシャルティアなら考え付くとは思えない!
…さて、アインズ様は私たちにこう話してくれたのですよ。」
デミウルゴスは先程アインズから感銘を受けた話をメンバーに伝える。
はじめは静かに聴いていたメンバーだったが、その内目頭を押さえて涙を堪えるような仕草を見せはじめる。特に最近アインズに負い目を持ったシャルティア、コキュートス、セバスの三人とモモンと冒険者をしながら毎回ツッコミを入れられているナーベラルはブルブル震えていた。
「……アインズ様の智謀は冷静な計算だけではなく、私達に対する深い愛情にも現れていたのですね。」
誰からともなく呟かれた言葉にデミウルゴスは満足げに頷く。
「そうです。私は少し恥ずかしい思いでした。私はアインズ様が他の御方のようにここを去り、私達を置いていってしまうことばかり心配していた。だからこそ任務で成果を上げ、自分たちはこんなにも御方の役に立つのだと証明し続けねばならないと。そうでなければ我々は必要としてもらえないのだと。しかしアインズ様は私達が存在するだけで深い愛情を与えてくださる。罰でさえ私達の成長を促すならばと、その心を痛めながら与えてくださる。」
デミウルゴスはもはや涙を抑えることができない様子で続ける。
「そんな慈悲深いアインズ様は最後にこうおっしゃったのです。私はお前たちに報いる褒美をとらせることは思い付いても、愛するお前たちに与える罰として相応しいものを、考えることすら苦痛に思う。こんなことではお前たちの主失格だな、と。」
「あぁ!偉大にして慈悲深きアインズ様以上に我等の主に相応しき御方はおりません!!」
「コノコキュートス、如何ナル時モ御身ニ捧ゲル忠誠ガ変ワラヌコトヲ誓ウ!」
「私はこの偉大なるアインズ・ウール・ゴウンに存在を許されることに改めて喜びを感じます。 」
「アインズ様にそんなに思って頂けるなんて、ボクた…、私達は幸せ者ですね。」
「本当にそうね。私はこれからも私のすべてをアインズ様に捧げることを誓うわ!」
全方位から感動の言葉が聞こえてくる。彼らのアインズへの好感度は限界を超え、超えて高まったそのさらに高みへと果てなく上昇していた。
「でもデミウルゴス様ぁ、今日はぁ、アインズ様のお話を聞かせたくてわたしたちを集めたのですかぁー?」
しばらくの熱狂の後、エントマがふと問いかけた。デミウルゴスはハッとして顔を真剣な表情に引き締めた。
「そうでした…。どうも私も平静ではいられなかったようです。お恥ずかしい。すみませんねエントマ、助かりました。さぁ、皆さんも少し落ち着いて下さい。……アルベド、シャルティア、顔がお見せできない感じになってますよ。」
「「はっ!?」」
蕩けてえらいことになっていた二人も、顔を守護者モードに引き締める。
「さて、集まっていただいたのはアインズ様がなぜこんな話をメイドと暗殺蟲にしていたかということに繋がるのですが、アインズ様は我々が万一しくじったときに与える罰としてなにが相応しいか、たまたまそこにいたメイドと暗殺蟲に自分たちの職務ならどんな罰が効果的か、と意見を聞いていたのです。そこに私が訪問し、皆への意識調査、罰則制度の草案製作を仰せつかったわけです。」
「なるほど。では今日は意識調査の件で我々を集めたと言うわけですな。」
「でも私、アインズ様から頂けるものなら罰だって悦びだわ…。だってアインズ様からの愛を感じられるんですもの!くふーっ!」
「…アルベド様は最近だいぶヤバイっすねー…。」
「この前ー、八肢刀の暗殺蟲が凄く疲れた様子だったからぁ、なにかと思ったらぁ、アルベド様を取り押さえるのに苦労したってぇ、言ってたぁ。」
「あぁ、それはあの時ね…。確かアインズ様から羽根の艶を誉められて舞い上がってそのまま押し倒して謹慎三日間を言い付けられた時…。」
「あら、アインズ様が執務にお忙しくて、手が四本あれば、なんて御冗談を言った時に、二人羽織りすれば手は四本ですわ!とか言ってアインズ様のローブに潜り込もうとして謹慎二日間を言い付けられた時じゃないの…?」
「違う…。アインズ様の机の下に隠れて…、アインズ様の生足を舐めようとして…、謹慎三日間の時…。」
「アルベド様とシャルティア様が二人でアインズ様が入っている浴室に突入して一週間の謹慎を申し付けられた時だと思います……ワン。」
「…ア、アルベド、貴女私が不在の時にアインズ様に何をしているのですか?」
「くふーっ!アインズ様から冷たい口調で話しかけられるのが最近クセになってしまっているの!くふーっ!だってあのちょっと私を怖がる感じがいとおしいんですもの!くふーっ!」
「うわぁ…、アルベドってちょっと頭が変なんじゃないの…」
「お姉ちゃん…、あの、どういう意味…?」
「アルベドガシテイルコトハ、御方ニ対して不敬デハナイノカ?!ドウナンダデミウルゴス?」
「安心したまえコキュートス、君の意見は正しいよ。アルベド!いい加減戻ってきたまえっ!」
デミウルゴスがいつかの魔樹の時のように鳩尾に一撃をいれる。
「なぁにデミウルゴス、乙女の柔肌に気安く触れるのはよくないわよ…?」
「いえ、どこが柔らかいっていうんだこの腹筋…、なんて思っていませんよ。と、とにかく!皆さんには一度自分や、自分の部下がもしも罰を受けなければならない失敗をしたときの事を考えて欲しいのです。それを参考にナザリック罰則規定を作成し、アインズ様のお考えの一助として役立てていただこうと考えております。なにか質問がある方は……、おられませんね。いいですか、安易な死は償い足り得ず、むしろ御身の心を傷付ける行為だと知りなさい。では、今日は集まってもらって感謝致します。」
デミウルゴスが恭しく一礼し、会議は解散となった。皆、その胸に先程ニトロをぶちこまれた忠誠心を燃やして部屋を後にした。
「……おや、シャルティア、先程から静かにしていると思っていましたが、どうしました?どこか不具合でも?」
「いえ、そのぉ、アインズ様のお話に感動して、だいぶ下着がすこぉし、不味いことになってありんして……。」
「はぁ…、またですか貴女は…。まぁ落ち着いてから貴女も調査にあたってください。貴女の守護階層は広いのですから大変だとは思いますが、よろしくお願いしますよ。」
デミウルゴスは肩をすくめた後、襟をただすと自分の階層へ去っていった。
それからしばらく月日がたった頃、アインズはアルベドの要請で六階層の円形闘技場に来ていた。
「この度は私共の為に時間を割いていただき、感謝の言葉もございません。」
「よい、アルベドよ。いつもお前達を好きに呼びつけているのだ。これぐらい応じなくてどうする。それで、守護者全員が集まっているが、今回はどう言った話なのだ?」
「はっ。アインズ様、ここからはこのデミウルゴスがご説明致します。」
「ほう。というとあの件か。」
「そうでございます。」
「そうか。あの件だな…」
にこやかに答えるデミウルゴスに対し、実は内心冷や汗をかいているアインズ。デミウルゴスに任せてある仕事が多過ぎてどの件で呼ばれたのか、任せた仕事にこんなフルメンバーを用意するようなものがあったのか、どうだったか思い出していないのだ。
「では報告を受けよう。それで、今回は何故皆がここに集まっているのだ?」
まさかナザリック地下大墳墓至高の御方不信任案提出とかじゃないよな…、と変わらない表情の下でびくついているのは内緒である。
「はい。ご説明の前にこちらをご覧下さい。マーレ、アインズ様にアレを。」
「はい!あ、アインズ様!どうぞ!」
「うむ…。」
なんだこれ?魔導書?
マーレから渡されたのは黒皮表紙の分厚い本だった。ひょっとしてこれが死獣天朱雀さんが言っていた旧世紀にあったっていうコージエーンなる辞書なんだろうか。
「これは…?」
「はい、そちらはアンケートの結果を纏めたものにございます。」
えぇ……、分厚ぅうい…。
なんのアンケートをとってきたか知らないがこれは読むだけでも相当時間かかるやつだぞ…。
「ほう。これほどの厚みだ。どれ程の人数分集めて来たのだ?」
「はい。ナザリックの知性を持つ者全員分でございます。」
…正気か?
「最初は我ら守護者、領域守護者、その他主要な僕を調査対象にしたのですが、僕達がアインズ様のお役にたちたいと殺到した結果、このような厚みになりました。これもアインズ様の威光の強さを表すものでございましょう。」
「あぁ…、そうか。ならばじっくり目を通さねばお前達に失礼だな…。」
「失礼などと、アインズ様が気にする必要はございません!それに、アンケート結果を纏めた物を御用意しております!アウラ!」
「はい!アインズ様!こちらをご覧下さい!」
ガラガラとキャスターを引きずってアウラがホワイトボードを運んでくる。ナザリックの雰囲気にそぐわない現代的な物だが、会議室を作ったときに一緒に設置したものだ。
そこに円グラフが書き込まれている。そのホワイトボードには表題として「ナザリック罰則規定草案策定会議」と書かれていた。
(あれかぁーー!!)
アインズの中でこれがなんの集まりなのか繋がった。と同時に僕全員にアインズが罰則で悩んでいたことが知れ渡ったことに気付いて精神が沈静化した。
「ではアインズ様、我々が纏めた罰則規定に関する提案を御報告させていただきます。が、その前にアインズ様を立たせたままというのも申し訳ないので僭越ながら椅子を御用意いたしましたのでお掛けください。」
パチッとデミウルゴスが指をならすと、アインズの後ろに椅子が現れた。いつか見たことのある骨の椅子が。
「これはあの時の…。」
「はい。あの時のものより更に御身に相応しくなるよう素材から改良を加えております。」
どうぞお掛けください!とデミウルゴスから凄い期待の目で見られて、アインズは覚悟を決めざるを得なかった。
(うひぃ…、気持ちわる……、なんだこれめっちゃ座り心地いいなこれ…)
「うむ。すまないなデミウルゴス。よい座り心地だ。お前の気持ちが伝わってくるようだぞ。」
「はっ。ありがとうございます!これ以上ない御言葉です!」
「うむ。では早速報告を聞こうか。」
そしてデミウルゴスの報告が始まった。
まずは大まかにアンケート回答の傾向が示され、各階層守護者から階層毎に纏めた際の実感、種族による違いや特徴的な回答が紹介された。
「と、このようにナザリックの僕として全員が強固な結束を誇っていますが、やはりカルマの善悪、種族による価値観の差が浮き彫りになった形となっております。」
「なるほど中々面白い結果が出てきたようだが、これでは一律で罰則を作るのは難しいのではないか?」
「はい、重大な罰則については仕事の剥奪やアインズ様への謁見禁止等、おおむね共通だったのですが、軽微な罰則となるとばらつきが出ますね。人間へ親切にすることが罰になったりならなかったりという具合です。」
「そこでアインズ様!私アルベドが守護者統括としてこのようなものを御用意いたしましたわ!」
「あぁ!ちょっと!それはみんなで考えたやつでしょ!!アルベド!勝手に自分の手柄にしないでよ!」
「そうでありんす!横暴がすぎるでありんすよ!!」
「なによ!元々の発案は私なのだからアインズ様にお褒めいただくのは私よ!!」
「だからといって完成に漕ぎ着けたのは私達で色々話し合ったからでしょ!?…シャルティアは役に立ったか知らないけどぉー?」
「おチビ!わたしの意見は今回はアルベドよりマシだってデミウルゴスも言ったでありんすよ!!」
「なによ!やるっていうの!」
アルベドがごそごそと何かを取り出そうとしているようだが、アウラとシャルティアに文句を言われている。それは見る見るうちに口喧嘩になり…、まぁ正直見慣れた光景ではあるのだが、だからと言ってずっと見ていては実力行使のターンになってしまう。内心でため息をつきながらアインズは止めに入ることにした。
「児戯は止めよ。アルベドよ、守護者全員が集まり話し合ったのだろう?大元がどうであれ、成果を独り占めにするようなことは止めよ。」
「も、申し訳御座いません…。」
「アウラとシャルティアも、気持ちはわかるがもう少し穏便にな。」
「ごめんなさい…」
「気をつけるでありんす…」
「よろしい。ではアルベドよ、皆で話し合ったという成果を見せてくれるか?」
三人まとめてシュンとしたところで、アインズは話の続きを促すことにした。
「はい。これは懲罰対象となった者の体をボタンに接触させることで魔法が発動し、自動的にその者の種族、カルマ値などを調べ、こちらの円盤に罰則の候補を映し出すというアイテムのプロトタイプでございます。ボタンが3つございますが、これは罰の重さによって触れるボタンを変えることで表示される罰則の候補が変わるようになっております。私の発案のもとに、守護者全員で仕組みを考え、デミウルゴスとパンドラズ・アクターが陣頭指揮を執り完成させました。」
「ほぉ。面白いものを作ったようだな。」
とは言ったものの、それを見たアインズの印象は(これ昔TVで見たダーツを投げて当たった位置で賞品や罰ゲームが決まるあの円盤にそっくりだな…。)というものだった。
「こちらを使っていただければ、アインズ様のお手をあまり煩わせず、最適な罰則を選んでいただけると考えております。」
しげしげとアイテムを眺めていたアインズにデミウルゴスが利点をプレゼンしてくれる。
「デミウルゴスよ」
「はい。アインズ様。」
「ダーツはどこだ?」
「………はい?ダーツ、でございますか?」
「そうだ。このデザインで作ったからには勿論ダーツがあるのだろう?」
自分がダーツを投げる役ができるなんて、とちょっとウキウキしながらデミウルゴスに訪ねる。
「こ、コキュートスさん、アインズ様はダーツなんて何に使うのかなぁ?」
「ヌゥゥ、スマナイマーレ。ワタシニモサッパリワカラヌ。御方ハダーツデ誰カ射殺スツモリナノダロウカ…」
アインズの背後でマーレとコキュートスが声を落として話している。あれ?と思いデミウルゴスを見ると、彼は彼でなんとも微妙な表情だ。
「そうか…。私の思い描く使い方とお前達のそれの間に少し違いがあったようだ。デミウルゴスよ、ダーツの件は忘れてよい。すまなかったな。」
どうやらダーツは投げないらしいと理解し、アインズは間違えてごめんね、とばかりに頭を下げた。
「ハッ……、いえ!アインズ様の至高なるお考えに思い至らなかった我々をお許し下さい!そしてアインズ様!よろしければアインズ様のお考えを我々に教えて頂けないでしょうか!」
「う、うむ。まぁ、考えというほどのことではないのだがな。ずっと昔、ギルドのメンバーとテレビのバラエティー番組でこれにそっくりな物を見たと話が弾んだ事があってな。」
「なんと!至高の御方々が!」
「うむ。まぁ使い方はやって見せた方が理解が早いだろう。……メッセージ。パンドラか?そうだ。用がなければ第6階層に来い。たのんだぞ。ではな。」
「アインズ様っ!わたくし、アインズ様の忠実なる息子っ!!パンッッドラズッ・アクターがっ!馳せ参じましてございますっ!!」
メッセージの魔法が切れるか否かのタイミングで椅子の陰からシュバッと軍服の黒歴史が現れる。
「はやっ!!……ゴホン。いや、よくきたなパンドラズ・アクターよ。お前もこのアイテムの製作に関わったのだろう?」
「はっ!統括殿の案のもと、デミウルゴス殿が設計を、私が宝物殿から余り物のアイテムを材料として提供し、完成させました!」
「どうりで見覚えのあるパーツがちらほらあるわけだ。まぁ、この辺のものは使ってもらって構わんが。それでパンドラよ、この文字盤の部分だが、回転するようにできるか?」
「さっすが!父上はお目が高い!こちらの盤はこのロックを外すことで回転させることがっ!できっ!まぁっす!!」
ほぉ~らくるくるーっとなぜか自分も回りながらゴソゴソアイテムをいじくる。うん、実にイタい。アインズはそんなパンドラから皆の目を逸らすため、道具創造でダーツの矢を守護者の人数分作り、一つずつ配る。
そして、パンドラズ・アクターが作業完了したのを見計らってアイテムから少し離れた場所に立った。
「ではパンドラよ、そのボタンを押すと同時に全力で文字盤を回せ。」
「かっしこまりましたアインズ様っ!!ではポチッとな!そぉ~れ!」
掛け声と共に文字盤が回転する。パンドラの全力で回されただけあって、回転する文字を見ることは出来ない。
「よし。ではアウラよ、ダーツをもってここに立て。」
「は、はい!こうですか?」
適当にアインズが足で引いた線の前にアウラを立たせる。
「うむ。そうしたら、ダーツをこう持ってな、そうだ。で、利き脚を前にだして、肩幅に開いて、うむ、そう、で、こうやって…」
「あ、あわわわわアインズさまっ!!」
アインズは立たせたアウラの手を取り足を取りダーツを投げるフォームを作っていく。
何故かアウラが赤面しっぱなしで、後ろからアルベドとシャルティアの悲鳴が聞こえてくるが、アインズは文字盤の回転が止まる前にと急いでフォームを整える。
「よし!アウラ!あの回転する文字盤に向かってダーツを投げよ!」
「は!はい!えいっ!!」
バシュッッ!
かわいい掛け声に反してえげつないスピードでダーツが飛び、文字盤を射抜いた。
「当たりましたアインズ様!」
「よし!パンドラよ、文字盤を止めよ!」
「かしこまりましたアインズ様っ!!」
パンドラが無意味に大袈裟なアクションで文字盤を止める。
「ふむ。パンドラへの罰は『目の前でアイテムを無駄遣いされる』か。」
「おおぉぉ!それはなんと恐ろしい罰でございましょう!」
「ふむ。アルベド、このアイテムをパンドラの目の前で使え。」
懐から取り出したものをアルベドに渡す。アルベドは恭しく受けとるが、何の使い道もないゴミアイテムだ。
「よろしいのですかアインズ様、御身の貴重なアイテムでございましょう?」
「ていうか、わたし何も悪いことしてないと思うんですがそれは……」
「構わん。私には不要の余り物のアイテムだ。あと、パンドラよ。こういうのは罰が決まったからには逃げられぬのが定めだ。あきらめろ。」
「ンンンン~ッ!無慈悲ッッ!!」
「では失礼してパンドラ、私は飲食不要のアイテムを装備しているのだけれど、この一時的に飲食不要になるアイテムを使うわ!」
「ンなぁぁ!?なんて無意味な!止めてください統括殿!!」
「ごめんなさいねパンドラ。アインズ様のご命令なの!」
「あぁぁぁぁぁアインズ様ぁー!御慈悲をー!!」
「うむ。アルベドよ、そこまででよい。」
「はい、アインズ様!」
「デミウルゴスよ。」
「はい。」
「私はこのようにダーツを使って罰を決めるのかと思ったのだ。まぁちょっと遊びのようになってしまったがな。」
「なにをおっしゃいます!このデミウルゴス、アインズ様の知慧に心打たれるばかりでございます!我々の考えなど既に織り込み済だったとは!!」
(なんか物凄く感動してるー!?こんな遊びみたいな物にどんな知恵が込められてるって言うんだよー!?)
と、内心で物凄く焦りながら、それを悟らせないよう重苦しい雰囲気を纏ってアインズはうなずく。
「う…む…、そうか。いや、お前達の考えが私を刺激し、このような形になったのだ。これはお前達との共同製作と言えるだろう。ここからお前達が更なる改良を加えてもよいのだ。」
(そう、もっと『アインズ様の知慧』ってのが俺に伝わるようにな!!)
「さぁ、皆にもせっかくダーツを渡したのだ。適当に投げてみるといいぞ。アルベド、デミウルゴス、あとパンドラズ・アクターよ。」
「「「はっ」」」
「罰の決定方法については概ねこのままの方向性でよいだろう。あとはデミウルゴスが先ほど感じた私の考えを元に細かいところを詰めていくように。」
「かしこまりましたアインズ様。我ら守護者一同、必ずやアインズ様にご満足いただける物に仕上げることを御約束致します。」
「うむ。お前たちを信じているぞ。私は冒険者の仕事に戻る。ではな。」
「はっ!!!行ってらっしゃいませ!!」
守護者達の声を受けてアインズは漆黒のモモンとしてエ・ランテルへと向かうのだった。
それからまた暫く時が経ち………。
「ルプスレギナ!!!お前には失望したぞ!!!」
玉座の間にアインズの怒号が響き渡る。
震え、泣きそうになるルプスレギナ。
アインズが発する重圧に誰もが息を飲む中、この場の雰囲気に全くそぐわない軽薄な音楽が鳴り響いた。
ちゃ~ら~ら~ららら~ら~
「な、なんだ!?」
バターン!
アインズがこのよく分からない事態に動揺していると、今度はいきなり玉座の間の扉がけたたましい音をたてて開く。
ででっでーででーだらららー
そして鳴り響く音楽に乗ってあの罰則ダーツルーレットがパンドラズ・アクターによってかっこよく運ばれてきたのを目にして、アインズの精神は強制的に沈静化した。
「アインズ様がッ!お怒りと聞いて!わたくしッ!パンッッドラズ・アクター!この断罪罰則マッシーーン改13を持って!馳せ参じましてございますよーっ!!」
「雰囲気台無しだろ!!帰れ!!」
「アイヤご辛辣ゥゥゥゥ!!」
結局この件の後、このアイテムが公式に使われることはなく、拷問部屋で捕らえられた人間や亜人相手に拷問内容を決める手段として重宝されるようになったという。
一方でアインズは、褒賞も罰も支配者が頭を悩ませて決めてこそ皆の心に響くというものだと思い直したという。
終わり
誤字報告、感想等ありがとうございます。
まだ使いなれてなくて機能をいかしきれてませんがなんとかなれていきたいと思います