金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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お待たせしました、File6更新です。

ご感想ありがとうございます。

テンポアップしたいんですが、伏線も消しそうでなかなか出来ずもどかしい…。


露西亜人形殺人事件 File6

 はじめが浴室から出た時、取り乱した宝田が白馬に掴みかかっているところだった。

「じ、神明(じんめい)先生が殺されたってどういう事です?!」

「落ち着いてください、宝田さん…!」

「落ち着いていられるような状況じゃないでしょう!?」

「取り乱しても状況は変わりませんよ…。」

 カツン…と、微かな足音と共に現れ、宝田に言い聞かせるはじめに、その場にいた者たちの視線が引き寄せられる。

「き、金田一さん…!」

神明(じんめい)さんが殺された、これは紛れも無い事実です。それも、暗号に“見立て”られて、ね……。」

 説明してくれ、と言わんばかりの宝田に一瞬視線を向けつつも、容疑者を絞り込む為に、その場にいる全員に告げる。

「“見立て”…?」

「はじめさん、どういう事です?」

 誰もが動揺を露わにしている中、冷静だったのははじめと一緒に遺体を確認した白馬と、“スカーレット・ローゼス”のみ。

神明(じんめい)さんの遺体は、首が完全に切断されていました。そして、遺体と一緒にバスタブに浮かんでいたんですよ。この“イワン”がね…。」

「それは…?!」

「“コントラバスのイワン”!?あの暗号文の…?!」

 はじめが掲げたロシア人形に、最も動揺の激しかった宝田と梅田が酷く狼狽(うろた)える。

「成る程?“コントラバスのイワン”は暗号に使われているロシア人形の中で最も背が低い…。そして、暗号の“楽団は朝礼で前から順に首を刈られた”の通り、コントラバスを担当する神明(じんめい)先生の首も、その通りに刈られていた、という訳ですか。」

「そうなるかな…。」

 この場では酷く不釣り合いな、美しいと言える程の微笑みを浮かべる“スカーレット・ローゼス”に、顔を顰めながらもはじめが頷く。

「で、でも、あの人形は“時計の塔”にある(はず)じゃ……!?」

「行ってみましょう!!」

 ハッとしたような幽月(ゆづき)の言葉に、犬飼が叫ぶ。

「?!犬飼くん、待ってください!!」

 それに反応した者たちがバタバタと部屋を飛び出して行く中、その場に残ったのははじめと“スカーレット・ローゼス”の2人のみ。

「……1つ確かめたいんだけど、この殺人、お前の仕業じゃないだろ?」

「おや?疑われていたとは心外ですね…。」

 はじめの唐突な質問に、面白そうな声音で返す“スカーレット・ローゼス”に、はじめもまた失笑で返した。

「疑う?まさか…。むしろ確信してるよ。お前の仕業じゃあり得ないってね…。」

「…意外ですね。どうやらあなたは私の事を警戒していらっしゃるようでしたから。そんなに信頼してくれているとは…。」

「信頼?笑わせないで…。()()()()だけだ。仮にお前が手を下したと言うなら、もっと派手に“舞台”を()()している(はず)…。こんな()()()且つ()()()に事を進める訳が無い。……そうでしょ?“地獄の傀儡師(くぐつし)”、高遠(たかとお)遙一(よういち)……!!!」

「……やれやれ。まあ、とっくに見破られているとは思っていましたけどね…。金田一さん!」

 そう言って仮面を外す“スカーレット・ローゼス”、否高遠(たかとお)遙一(よういち)に、はじめが吐き捨てる。

「…バカにしてんの?そんなお粗末な変装であたしの目を騙し切れるとでも?」

「仕方が無いでしょう?何せ、君と出逢ったのはこの私にとっても予想外でした。現に、君以外の人たちは私の事に気付きもしなかったでしょう?私の素顔と声を知っている(はず)の、七瀬さんや佐木くんもね。」

「ふん…。」

 鼻を鳴らすはじめに、高遠(たかとお)が興味深そうに尋ねた。

「それより、どうして真っ先に私を容疑者から外したんです?一般的に見れば、最も疑わしいのはこの私…。まぁ、()ったか()っていないかで言えば、全く心当たりはありませんがね…。」

「さっき言った通りだよ。お前が殺したにしては()()()無かった。…まぁ、もっともらしく言うなら、バスタブの水かな。」

「水?」

神明(じんめい)さんの遺体は水が流しっ放しのバスタブに浮かべられていた。通常、あのサイズのバスタブに水を満杯に溜めるなら30分はかかる…。蛇口は全開だったから、もしかしたらもっと早かったかもしれないけど、たまたまタオルが排水溝を塞いでしまった事で浴室内に溜まった水はほとんど排水されずに脱衣所にまで溢れていた。それを考えると、あの溢れ具合から察するに少なく見積もっても40分近く経っていた(はず)…。」

「ええ、それ位はかかるでしょうね…。でも、あらかじめ神明(じんめい)を殺すつもりでバスタブに水を溜めていたのかもしれませんよ?」

「時間的に無理があるね。午後10時の鐘が鳴った直後に山之内恒聖(こうせい)のメッセージDVDが公開されて、それから5分位して神明(じんめい)が部屋に戻ったから、逆算して神明(じんめい)が殺されたのは午後10時5分から10時30分の間といったところ…。あたしが異常に気付いたのは午後11時の鐘が鳴った少し後だけど、少なくとも夕食の始まる午後10時30分には田代さんと桐江(きりえ)さん以外の客人は既に食堂にいた。色々と動き回っていた田代さんと桐江(きりえ)さんの動きがはっきりとしないから何とも言えないけど…、少なくとも夕食が始まってからは遺体を切断する程の時間は無かっただろうし、殺されたのと首が切断されたのはほとんど間は空いていない(はず)…。そして、お前と幽月(ゆづき)さん、宝田さんはDVDの再生が終わってから、すぐにあたしたちと一緒に食堂に移動してる…。10時30分になる前にそれぞれトイレだと言って5分位席は外したけど、5分で神明(じんめい)を殺して遺体を切断し、もう1度食堂に戻って来るのは無理がある。…仮に、あらかじめバスタブに水を溜めて、遺体を浮かべた後で再度蛇口を開いたのだとしても、遺体の首を切断するのに数分で済むとは思えないね。いかにお前が人を殺し慣れていて、死体の解体の経験があったとしても時間的に無理があるだろ?」

「ごもっとも。…フフッ、どうやら思考能力は鈍っていないようで安心しました。先程は少々ぼんやりされていたようですし…。これでも少々心配していたのですよ。私が唯一の“平行線”と認めた君が、万が一腑抜けていたらどうしよう、とね…。」

 はじめの推理に安心したような笑みを浮かべる高遠(たかとお)に、はじめが心底嫌そうな顔をした。

 “平行線”。

 それは、高遠(たかとお)がはじめとの関係を示すのに好んで使用する言葉だった。

 曰く、“常に隣りにありながらも、決して交わる事の無い”関係だと。

 その言葉通り、お互いがお互いの思考を良く理解している。――――――もっとも、()()はしていても()()は全く出来ないが。

 はじめは時々思う事がある。

 もし、祖父が自身の解決した事件の事をはじめに全く伝えず、犯罪の恐ろしさもそれが生み出す悲劇も悲哀も全く教えず、ただその“血の宿命”から遠ざけるだけだったなら。

 もし、はじめの両親が彼女の“才能”を受け止める事が出来ず、はじめが親の愛情を受ける事が出来なかったなら。

 もし、はじめの全てを受け止め、寄り添ってくれる美雪という親友が傍にいなかったなら。

 もし、両親や美雪が卑劣な人間の手にかかって殺され、そいつらが法の裁きも受けずにのうのうと生きていたなら。

 ()()にいたのは、自分(はじめ)だったかもしれない、と…。

 そして、それは高遠(たかとお)にも同じ事が言えた。

 もし、彼が幼少期に親の愛情を受ける事が出来ていたら。

 もし、彼の傍にもはじめにとっての美雪のような存在がいたなら。

 もし、彼を復讐に駆り立てた近宮玲子が殺されずに生きていたなら。

 ―――――――2人の立場は、全くの逆だったかもしれない。

 だからこそ、高遠(たかとお)ははじめに執着する。彼女を自分と同じ場所に堕とす為に。

 だからこそ、はじめは高遠(たかとお)を特別視する。ifの自分だったかもしれない男を止める為に。

 

 2人の間に漂う緊張感は、強制的に壊された。高遠(たかとお)が再び仮面を着け直し、扉を振り返った事によって。

 その理由は、直後にはじめも悟る。

「先輩、たいへんです!暗号のロシア人形が……!!!」

「はじめちゃん!人形が1つも無いわ!!」

 バタバタと部屋に駆け込んで来た、佐木と美雪の声に。

 扉側に立っていた高遠(たかとお)は、この2人の足音を聞き付けたらしい。

「全部?イワンだけじゃなくて?」

「全部です…!“時計の塔”には1つも…。」

 佐木の肯定に、はじめもまた“時計の塔”へと走った。

「あ、待ってはじめちゃん!」

「置いてかないでくださいよ~…!」

 バンッ!

 はじめが“時計の塔”の、人形が置かれていた部屋に辿り着いた時、他の4人の候補者たちは有頭(ありとう)や白馬と共に、田代と桐江(きりえ)が振る舞うロシアンティーで一息()いていたところだった。

「金田一さん…!」

 飛び込んできたはじめに、まだ青い顔をしている宝田が立ち上がる。

「先輩、置いてくなんて酷いっスよ~…!」

 追いかけてきた佐木たちが、はじめが開けっ放しにしていた扉から入ってきたのを確認しつつも、宝田に視線を戻した。

「人形が消えたと聞きましたが…。」

「は、はい。金田一さんの持っているイワン以外全部……!」

 宝田の視線の先、5体のロシア人形が置いてあった筈の暖炉の上には、人形と一緒に置いてあった一対の電灯のみが置かれていた。

(あれ……?)

 先程DVDを見た時とは、明らかに何かが違う。その違和感が、この事件を解く鍵を握っている。

 はじめは、そう確信した。

「に、人形が無くなって、神明(じんめい)先生が暗号文に見立てられて殺されたって事は、まさか次に殺されるのは2番目に背の低いチェロのエミール…次は私なんじゃ…?!」

「ちょ、ちょっと待ってよ…!まさか、そんな小説みたいな事……?!」

 取り乱す宝田に、梅園も怯えたような声を上げる。

「まさか。そんな事がある筈ないわよ。金田一さんも人が悪いわ。神明(じんめい)さん1人が殺されただけでまるで次々殺人事件が起こるみたいな言い方して…。小説じゃあるまいし、見立て殺人なんて馬鹿馬鹿しい…。」

 場所が変わったからか、温かいロシアンティーを飲んで人心地付いたのか、落ち着きを取り戻した幽月(ゆづき)が不穏な空気を一変させるかのように笑い飛ばす。

 しかし、それを否定したのは犬飼だった。

「…果たしてそうでしょうか?思い出しませんか?山之内先生の初期の代表作“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”を!あの小説では、集まった5人の人間がロシア人形に見立てられて次々と殺されていき、そして最後には誰もいなくなってしまった。ただ1人、真犯人“指揮者(コンダクター)”を除いては―――――!!!」

「“指揮者(コンダクター)”……?」

 山之内の小説を読んだ事の無いはじめを除き、残った3人の候補者たちがハッとする。

「“指揮者(コンダクター)”というのは、山之内先生の書いた小説“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”の犯人ですよ。まるでオーケストラの指揮者の如く自分の思うままに殺人を成し遂げた、ね…。」

「ふぅん…。」

 白馬の説明に、はじめが相槌を打つ。

「…まぁ、今は小説よりも、目の前で起きた事件が大事だ。田代さん、警察に連絡はしましたか?」

「あ、いやそれが…。」

 田代に目を向けるはじめだったが、田代は額の汗を拭きながら言い淀む。

「それは出来ません。」

「……どういう事ですか?有頭(ありとう)さん。」

「山之内先生のご指示で、遺産相続レース終了の5日後の山之内先生の誕生日の午前0時まで、外部との連絡は一切取る事が出来ないのです…。」

「人が殺されたんですよ?遺産どころじゃない。」

「しかし、遺言状に“何があっても続行する”という指示がされている以上、この指示が守られなければ5人の候補者の相続権は消失し、先生のご遺産は全て国に寄付される事になっているんです。その為、この相続レースに合わせて屋敷内の電話は撤去し、5日後の朝になるまで迎えも来ない事になっています…。」

 はじめの若干責めるような言い方に、有頭(ありとう)も不本意らしく、汗を拭きながら弁明した。

「候補者以外の人間が携帯で連絡を取る事も出来ないんですか?」

「…申し訳ありませんが、候補者の助っ人としていらした以上、白馬さんも、金田一さんたちも、“スカーレット・ローゼス”さんもその指示に従っていただきます。それだけでなく、田代さんや桐江(きりえ)さん、私もその対象です…。」

 白馬が問いかけるが、その為に携帯電話をお預かりしたのだ、と言われてしまえばはじめたちよりも先に、梅園が声を上げた。

「冗談じゃないわ!私はお金が必要なのよ?!国に寄付だなんて、それじゃ何のためにこんな所まで来たのか……!!あなたたちだってそうでしょう?!」

「そうですね…。今更取り繕っても仕方が無い。僕も、遺産が必要なんです。それが無いと、僕の犬たちが…。」

 梅園の悲鳴のような抗議に、愛犬たちを借金の担保にされている犬飼が同意した。

「そうね…。あたしも一緒よ。どうしてもお金がいるの。弟の治療費がね…。」

 そして、弟が植物状態で入院している幽月(ゆづき)が続く。

「わ、私は……。」

 顔を青くさせた宝田が口を開こうとした時、0時を告げる時計の鐘が鳴り響く。

 リーンゴーン…!

 リーンゴーン…!

 リーンゴーン…!

「0時の鐘が…。もう遅いですし、話は明日に持ち越してそろそろ部屋に戻りませんか?まずは皆さん落ち着かれた方が良いかと…。金田一さん、すみません…。」

「はい?」

「イワンを貸していただけませんか?この人形も暗号の一部ですから、出来るだけ元の通りにしておくべきかと…。」

 有頭(ありとう)が話を一先ず切り上げる事を提案し、はじめが手に持ったままだったロシア人形のイワンを暖炉の上に戻すように伝える。

「ちょ、ちょっと弁護士さん!その人形、死体と一緒に浮かんでたんでしょ!?そんな所に置いといて良いんですか?!」

 それに待ったをかけたのが宝田だった。神明(じんめい)の死が余程ショックだったのか、その顔色は既に倒れそうな程に青い。

「しかし、遺言状にはどんな事があってもこの相続レースは期限が来るまで実行するように、との指示がされています…。続けるか続けないかは明日皆さんで良く話し合ってもらう事にして、それまでは出来るだけ元の通りにしておかないと…。」

「そうよ!こんな事で諦めてたまるもんですか!!」

 有頭(ありとう)の言葉に、顔色をやや青くさせながらも頷いたのが梅園。犬飼と幽月(ゆづき)も、同意見のようで梅園の後に続くように頷きを見せていた。

「では、私は先に休ませてもらいますか…。明日からの推理合戦に備えてね。GoodNight!“四重奏(カルテット)”の皆さん!」

 真っ先に、余裕すら滲ませて部屋を出て行った“スカーレット・ローゼス”を見送った後、後を続くように立ち上がる4人の候補者たちにはじめが釘を刺す。

「部屋に戻ったら、必ずドアと窓の施錠を確認してください。それと、誰かが訪ねていっても、絶対に不用意に開けたりしないように…!」

「ちょっと?!それってどういう意味よ!?」

「分かってるでしょう?梅園さん。この屋敷は湖によって外界と切り離された言わば天然の密室!外から殺人者が侵入した可能性は極めて低い―――…。つまり、神明(じんめい)さんを残虐なやり方で殺した犯人――――、“指揮者(コンダクター)”はこの中にいるかもしれない。」

「そ、そんな…。」

「用心するに越した事はありませんよ。犬飼くん、はじめさんの言う通りに…。」

 はじめの断言に、ショックを受けた様子の犬飼を白馬が宥めるように肩に手を置く。

「宝田さんも。良いですね?」

「は、はい…。」

 宝田に念を押し、念の為と田代に確かめる。

「田代さん!この屋敷内の鍵は、あたしたちそれぞれが持つものの他は、マスターキーしか無いんですよね?」

「はい、その通りでございます。普段マスターキーは鍵付きのキーストッカーに保管しておりますし、ストッカーの鍵はこの通り…。私が常に肌身離さず持っています。」

「それなら安心ね…。誰かが訪ねてきても、鍵を開けさえしなければ安全だわ。」

 田代の断言に、幽月(ゆづき)がホッとしたように微笑む。

「それでは、皆さま…。明日の朝食は8時からとなっておりますので、どうかそれまではごゆっくりとお休みください…。」

 田代の言葉を最後に、それぞれが割り当てられた部屋へと戻る。

 

 ―――――――不穏な気配を察しつつも、それぞれが部屋で1人の夜を過ごした。

 自身がいつ眠ったのかすら気付かずに…。

 その翌日、本当に新たな犠牲者が出るとは知らぬまま、それぞれが(ひと)時の深い眠りについていた――――――。

 

 




感想でも指摘されましたが、はじめちゃんが女の子だと、高遠のヤバみが増し増しですね…(汗)
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