金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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お待たせしました、File8更新です。

ご感想、評価ありがとうございます。

今回、ちょっと急展開…。

しかし、私事ですがちょっと今週末からパソコンが使えない状況になる予定でして、しばらくの間スマホでちまちま書き溜める事になるので次回更新が少々遅れるかもしれません。どうかご了承ください…。


露西亜人形殺人事件 File8

 “時計の塔”の、山之内の遺言DVDが公開された部屋で、はじめは暗号を解読する手掛かりである露西亜(ろしあ)人形を眺めていた。

 現在は5体のうち3体の行方が知れず、暖炉の上に置かれているのは神明(じんめい)と共に見付かった“コントラバスのイワン”と、宝田と共に見付かった“チェロのエミール”のみ。

「嫌だわ…。今日も凄い霧…。人殺しのあった館に閉じ込められて、ただでさえ気が重いのに……。こんな霧を見てると、全て時間が止まってもう永久にここから出られない―――――、そんな気がしてくる…。」

 窓の外、湖に立ち込める白い霧に、美雪が溜息を()いた。

「あたしたち、無事に帰れるかしら?ねぇ、はじめちゃん…。」

 イワンとエミールを見詰めながら考え込んでいたはじめが、美雪の声に振り返った。

「大丈夫…。もし、5日を過ぎてもあたしから何の連絡も無かったら、剣持(けんもち)のオッサンか明智さんに連絡してくれるようにいつきさんに頼んでる。後4日…、無事に生き延びさえすれば帰れるさ……。だから美雪、絶対に1人では出歩くなよ?」

「うん…。」

 はじめの断言に安心したように美雪の表情が和らぐ。

 ガチャッ!

「先輩!!ありましたよ、この館の平面図!!棚の奥にあったのを田代さんに引っ張り出してもらいました!」

 勢い良く扉を開けて入ってきた佐木と、後に続いてきた田代にはじめが歩み寄った。

「サンキュ…。田代さんも、ありがとうございます。」

「いえいえ。古い物なのでかなり傷んでますが――――…。しかし、金田一さんこんなもので何が…?」

 ガサガサと保管用の茶封筒から書類を取り出しながら問う田代を、ソファに誘導しながら答える。

「例の暗号ですよ。暗号を解く鍵として用意された5体のロシア人形―――…。犯人は、どうしてあの2人を暗号に見立てて殺したのか?成り行き?狂気?憎悪――――…?私はその謎を解き明かさなきゃいけない。いえ、必ず解き明かします。ジッチャンの名にかけて…!その為には、もっとこの奇妙な館の事を知らなきゃいけない―――。そう思ったんです。」

 テーブルの上に広げられた館の平面図を見詰めながら、決意を新たに断言するはじめの姿に、田代がわずかに気圧された。

「あたしたちが今いるのはこの“時計の塔”ね!」

 中庭を中心に、五角形のような形で建つ塔の図を見ながら美雪が呟く。時計回りに“西の塔”、“北の塔”、“時計の塔”、“東の塔”、“南の塔”という形で配置されている。

「佐木!お前のビデオ見せてくれない?この館に到着した時のヤツ。」

「はいっ!ただいま!」

 はじめの頼みに、佐木が満面の笑みで頷き、求められた場面までビデオを巻き戻す。

「どうぞ。」

 差し出されたハンディカムの画面を覗き込み、館を正面から写した場面を静止して確認した。

「この“時計の塔”が1番大きくて高いんですね~。」

「でも、良く見ると塔の高さは全部バラバラね…。デザイン上の問題かしら?」

 佐木の言葉に美雪が呟く。

 確かに画面を見る限り、1番高いのが“時計の塔”で、高さは全てバラバラになっており、1番低いのは“南の塔”だった。

「この塔には時計がありますから。どの塔からも、それが見えるように工夫してあるのかもしれませんね。」

「――――高さの違う5つの塔か…。」

 田代の推測を聞きながら、はじめが思考を巡らせる。

「高さが違うって言えば、佐木!そう言えば、お前に例のロシア人形の写真頼んでたよな?」

 それどころじゃない事が立て続けに起こったせいで、確認するのをすっかり忘れていたが。

「はい!バッチリ撮ってますよ!!もちろんビデオにも映ってます。」

「悪い、借りたデジカメ部屋に置いて来ちゃったんだ。その映像、すぐに出せるか?」

「もちろんですよ♡ちょっと待ってくださいね。え~っと…。あ、出ました!」

 手早くハンディカムを操作した佐木が、はじめの望む映像を静止させて見やすくする。

「サンキュ。…っ?!」

 静止画になった事で、はじめが昨夜から感じていた違和感の正体が明らかになった。

(そうか…。だからあの時……!)

 1つ、重要な手掛かりを得る事が出来た事に、それまで(もつ)れた糸のようにごちゃごちゃとしていた思考がスッとクリアになるのを感じる。

 まるで進むべき方向を見定めたかのように…。

「こうして見ると、確かに“コントラバスのイワン”が1番小さくて、2番目が“チェロのエミール”ね。」

「ホントだ!すると3番目は“ビオラのオリガ”…。いや、“第2バイオリンのターニャ”かな…?あれ、どっちだろ?」

 はじめが自身の思考に沈んでいる間に、美雪と佐木もまた静止画の中のロシア人形に注目していた。

「…こうして見ると、ターニャとオリガって服装は全く違うけど良く似てるよな…。」

 顔も背丈もそっくりな2つの人形に、佐木が混乱するのを見てはじめが呟く。

「そう言えば、何か背格好といい双子みたいにそっくりね!」

 頷く美雪にはじめが尋ねる。

「…なぁ、美雪。どっちがビオラでどっちがバイオリンなの?あたしは全く見分けがつかないんだけど…。」

「そうねぇ、あたしにも良く分からないけど…。」

「大きさが違うのよ!」

 困惑する美雪に助け船を出すように、後ろから声がかけられる。

幽月(ゆづき)さん!」

 いつの間に部屋に入って来たのか、美雪の背後にいたのはビオラを担当する幽月(ゆづき)だった。

 驚くはじめたちに、クスッと笑みを漏らし、自身の担当楽器であるビオラを掲げて見せた幽月(ゆづき)が続ける。

「あたしのパートのこのビオラは、65から66cmでバイオリンよりも少し大きいの。因みに、バイオリンは60cm、チェロになるとグッと大きくて120cm、最低音を担当するコントラバスに至っては180cmから2mもあるわ。」

「へぇ、知らなかった…。バイオリンとビオラってパッと見の大きさの違いが分からない位なんですけど、音も違うんですか?」

 興味を惹かれた様子で尋ねてくるはじめに、幽月(ゆづき)が頷く。

「当然よ!バイオリンはビオラよりも弦の調律が完全5度ずつ高いの。同じように、5つそれぞれの楽器が異なった音域を担当しているのよ。そして、これがビオラの音…。」

 そう言ってビオラを構え、試しに一小節奏でて見せた幽月(ゆづき)にその場に居合わせた者たちは思わず聞き惚れる。

 確かにバイオリンよりも音がわずかに低いが、普段全く音楽に興味の無いはじめが素直に綺麗な音だ、と感嘆する程だった。

「へぇ…。」

「綺麗な音…!!」

 はじめと美雪の反応に気を良くした幽月(ゆづき)が続ける。

「でしょ?バイオリンみたいに主旋律に使われる事は少ないけど、中音域を担当するこのビオラがあるのと無いのでは、曲全体の重みと厚みが全く違うのよ。言ってみれば、小説の挿絵みたいなものね。挿絵を目当てに小説を買う人はいないけど、良い挿絵が入っているのとそうでないのでは、作品の面白さが大きく違うわ。少なくとも、あたしはそう思ってる。」

 穏やかな語り口の中に、高いプライドのようなものを感じ、思わず黙って耳を傾ける。

「でもね、時々ふと虚しくなる事があるのよ。地味なレパートリーからはみ出して自己主張をしてみたくなる事がね…。」

「自己主張?」

 相変わらずビデオを回している佐木が幽月(ゆづき)をアップにしながら尋ねる。

「ええ!ちょっと前の事なんだけど…。あたし、実は山之内先生の小説の挿絵を描いた時、トリックの答えみたいなものを挿絵にこっそり描き込んじゃった事があるの!」

「ええっ!?」

「そ…、それってマズいんじゃ……!」

「魔が差したっていうのかな……。」

 ミステリーに厳禁である(はず)のネタバレを行った、という暴挙とも言える幽月(ゆづき)の行動に、美雪と佐木が引く。

「トリックはミステリーの命みたいなもんだって、充分分かってたつもりなんだけど、連載小説で毎号毎号原稿を渡されてそれにあった挿絵のデザインを考えるうちに、ふとその作品のトリックの答えに気付いてしまってね――――…。そうしたら、居ても立っても居られなくなって、この答えを誰かに話したくて話したくて…。とうとう我慢出来なくなって、挿絵でそれを表現しちゃったのよ…。そうしたら、それに気付いた読者からどっとクレームが来ちゃって。焦ったなぁ、あの時は…。何しろ、その作品は山之内先生が久しぶりに入れ込んで書いていた自信作だったみたいで……。」

 当時を思い出しながら溜息を()幽月(ゆづき)に、その様子を知っている田代が苦笑する。

「ああ、あの時ですか…。ちょっと大変な騒ぎでしたね。」

(白馬が言ってたのはこれか…。)

 幽月(ゆづき)と初めて顔を合わせた時、白馬が言っていた言葉がはじめの頭によぎる。

『山之内先生のファンの間ではある意味有名ですから…。』

 確かに、そんな暴挙に出たのであればあの意味深な白馬の様子にも納得がいく。

「でも、山之内先生は笑って許してくれたわ…。流石(さすが)、編集者からも読者からも人格者として慕われている山之内先生だけあるなって、あたしその時は大感激したけど…。今にして思えばどうだったのかしらね…。」

「……どういう意味ですか?」

 幽月(ゆづき)の言葉にピクリ、と反応したはじめが問う。

「――――――本当はあたしの事、殺したい位憎んでたんじゃないかなって……、ちょっと思うのよ。人格者で通ってた手前、許すふりをせざるを得なかったけどホントは……。」

「そ、そんなまさか!山之内先生はそんな方ではございません!!私のような使用人にも謙虚で気遣いを忘れない方で……。」

「―――――本当にそうですかね?」

 幽月(ゆづき)の言葉を否定する田代に、はじめが割り込んだ。

「先輩!?」

「は、はじめちゃん、急に何を言うのよ…?」

 田代の言葉を完全に否定するような言葉に、佐木と美雪がぎょっとしてはじめを振り返る。

「年頃の女の子の部屋を覗き穴で覗いているような男が人格者とは、あたしには思えないんですよね。それに、この遺産相続戦だってそうだ。本当に候補者たちの事を考えていた、というならむしろわざわざ争わせるような真似をする必要は無いでしょう?5人平等に分配したって良い(はず)だ。」

 桐江(きりえ)の部屋に隠されていた覗き穴と、そもそもの事件の発端である遺産相続戦について言及(げんきゅう)する。

「そ、そう言われると確かに…。」

「い、いや覗き穴の事は先生ご自身も気付いておられなかったという可能性も…!!」

 はじめの言葉に思わず納得しかける美雪に、田代が慌ててフォローに回った。

「それに、用意されていた遺言の収められたDVD…。あの時、候補者それぞれに宛ててあったメッセージもそうだ。わざわざ人のプライベートを調べ上げて、それを他の候補者たちに公表するなんて趣味が悪過ぎる…。とてもじゃないけど、人格者には思えない。」

「あたしもそう思うわ。人格者の仮面の下に隠れた、陰湿で執念深くて好色(こうしょく)で……。――――そして、強欲で残忍な素顔が見えて来る気がする………。」

 はじめに同意し、幽月(ゆづき)が続ける。

「もっとも、それはこの館に集まった連中にも言える事だけどね!あたしだってほら!」

「!?」

「っ……!」

 言って長い前髪で隠していた顔の右半分を見せる幽月(ゆづき)に、間近で見ていた美雪とはじめが思わず息を呑む。

 彼女の顔の右半分は、無残に焼け(ただ)れていた。左側には全く傷も無く、滑らかな肌をしている為余計に火傷の後が際立つ。

「びっくりした?酷い火傷でしょ。以前、火事に巻き込まれてね…。その時、弟は一酸化炭素中毒で意識を失い、今も植物状態で病院に…。山之内先生がDVDで言ってた事は本当なの。だから、あたしはどうしても遺産が欲しかった。どんな手段を使っても手に入れたい!もちろん、今もそう思ってるわ…。」

 そう言いながら部屋を出て行く幽月(ゆづき)を、思わず黙って見送る。

 そして、同時にその気持ちを弄ぶような“ゲーム”を仕組んだ山之内恒聖(こうせい)への嫌悪感が増した。

「あ、あのDVDで言ってた事って本当だったんですね…。」

「…みたいだな。」

 呆然としたように呟く佐木に頷く。

「それでは、私は仕事に戻らせていただきますので、何かご用がありましたら遠慮無くお声がけください。」

「ありがとうございました。」

「いえ、これも仕事でございますから…。」

 一礼して退室する田代を見送り、はじめが美雪に尋ねる。

「そう言えば美雪、あたしが昨日頼んどいた人形と楽器の大きさ、測っといてくれた?」

「あ、そうそう!渡そうと思ってたの。はい、これ。ちゃんと測っといたよ。」

「サンキュ。」

 はじめが預けておいたメモ帳とボールペン、メジャーを美雪がポーチから取り出して差し出す。

「え~と、“コントラバスのイワン”が20cm、“チェロのエミール”が30cm、“ビオラのオリガ”と“第2バイオリンのターニャ”が40cm、最後に“第1バイオリンのコンスタンチン”が50cm…。でも、楽器は全部20cm……。」

「あ、それあたしも不思議だったの!だからどの人形がどの楽器だったかなって余計にこんがらがるのよね。」

「っもしかして……!」

 先程、幽月(ゆづき)から聞いた情報が頭をよぎる。

『このビオラは、65から66cmでバイオリンよりも少し大きいの。因みに、バイオリンは60cm、チェロになるとグッと大きくて120cm、最低音を担当するコントラバスに至っては180cmから2mもあるわ。』

 バッ…!

 カリカリカリ…

 暖炉の上にメモ帳を置き、思い付いた事を書き綴る。

 数分間集中していたはじめだったが、ピタリ、と動きを止めて呟いた。

「そういう事…!」

「はじめちゃん?何か分かったの?」

「暗号が解けたよ。」

「?!ホントですか?!!」

「うん、それと“第2の遺書”の隠し場所もね…。犯人も見当は付いてるんだけど……。」

「ええ?!」

「ウソ?!本当、はじめちゃん!?」

「ただ、分からない事も多いんだ。動機と、わざわざ人形を見立てに使った理由もさっぱり…。」

「でも凄いですよ!!流石(さすが)先輩ですね!!!」

 佐木が興奮して喜ぶが、全てを解き明かす事が出来た訳では無い為か、はじめの反応は鈍い。

「佐木、もう1回お前のビデオ最初から見せてくれる?出来ればあのプレイヤー使って。記憶を整理させときたくて…。」

「あ、はい!!」

 暗号が解けた、というはじめに興奮していた佐木だったが、部屋に設置されたテレビとDVDプレイヤーを指差すはじめに意識を切り替えてバタバタと準備を始めた。

「先輩、どうぞ!」

「サンキュ。」

 もう1度、館に着いた当初からの映像を最初から見返す。

 館の正面、候補者たちとの初対面、5体のロシア人形、と順に見ていった時、はじめがハッと目を見開く。

「雨……?!」

「え?ああ、2回目のDVDが公開される少し前に急に降ってきた時の映像っスね。」

 ちょうどはじめが空腹と低血糖でフラフラになっている時ではじめには記憶に無かったが、その時振り出した雨を佐木のビデオはしっかりと捉えていた。

 降り出した雨と、消えた人形たち。そして見立てられた遺体。

 バラバラだったパズルのピースが組み上がったかのように、はじめの頭の中で明確な形を作っていく。

「そうか…。これで全てが繋がった……!」

「え、分かったの?!」

「ホントですか?!先輩!!」

「ああ、動機はまだ確証は無いし、細かいところが不明瞭だけど、それ以外は大体ね…。」

 そして、恐らく次に狙われるのは…。

(ちょっと仕掛けてみるか…。)

 “協力”が得られるかどうかは微妙だが、可能性が無い訳ではない。

 それに、1つ確かめなくてはいけない事がある。

「ちょっと考えたい事と確かめたい事があるから、部屋に戻るけど夕食には行くから気にしなくて良いよ。お前らは2人一緒に行動するか、部屋に籠るかしといた方が良い。」

「え?!ちょっと、はじめちゃん?!」

 言い置いてさっさと部屋を出て行くはじめに、美雪が驚いた声を上げるが、はじめは振り返らずに進む。

(上手くいくと良いんだけど……。)

 不安はあるが、コレが1番確実かつ安全な方法である。

 溜息を()きながらも、はじめは足を止めなかった。

 

 

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