金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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露西亜人形殺人事件 File9

 美雪たちと別れたはじめは、フロントのキーストッカーの前にいた。

 ジャラ…

 (何だろ…。何かが引っ掛かるんだよな……。)

 キーストッカーに保管されているマスターキーを(いじ)りながら、はじめが最後に残る“違和感”の正体を探ろうと思考を巡らせる。

 山之内恒聖(こうせい)の遺した暗号の謎は解け、遺書の在処(ありか)も分かった。

 犯人と“見立て”の理由、そして恐らく次に狙われる相手も検討が付いている。

 しかし、最後に残された“違和感”。それがこのマスターキーだった。

 この、丸にU字がくっついたような特徴的な形をしたキーリングと、マスターキーを(くく)っているワイヤー入りの紐。

 初めて見た時から、何かが引っ掛かっている。はじめの、これまで様々な事件と遭遇してきた事により磨かれた“嗅覚”が、何かを訴えているのだ。

 まして、それを保管するキーストッカーに合鍵が存在しないと聞けば尚の事。

 (これだけ“トリック”に(こだわ)奇術師(マジシャン)が、鍵を失した時点で成立しなくなるような“仕掛け”を作る…?)

 奇術(マジック)の1つに、金属で出来たリングを繋げる、というものがある。あの(たぐい)奇術(マジック)は、大抵リング本体に()()とは分からないように切れ目が入っている。切れ目の存在を悟られないように如何(いか)にスムーズにリングを繋げ、再びバラバラにするのかは奇術師(マジシャン)の腕の見せ所だが、このマスターキーも、同様の“トリック”が仕掛けられているのかもしれないとも思ったのだ。しかし、こうして手に触れてまじまじと見ても、そうした“トリック”は見付からない。

 はじめ自身、そこらの奇術師(マジシャン)顔負けの奇術(マジック)の技術を持っている。まして、“トリック”を見抜くのは得意中の得意と言っても良い。そのはじめがこれだけの至近距離で観察し、尚且つ(いじ)っていても見付けられない以上、“トリック”自体存在しないという事なのか…。あるいは、

 (高遠(たかとお)なら分かるか…?)

 人格的な難はあるが、奇術師(マジシャン)としての技量は超一流とも言えるあの男ならば、その奇術師(マジシャン)としての天才的な発想で何か思い付くかもしれない。

 しかし、出来る事ならばあの男を頼るような真似はしたくなかった。

 仮にはじめが尋ねても、素直に教えるかも怪しいところではあるし。

 はじめが意識を思考の海に沈めかけた時だった。

 「はじめさん?そんなところで一体何をしているんです?」

 「!白馬か…。お前こそ1人なのか?犬飼クンはどうしたんだよ?」

 はじめの姿を見付け、階段を下りて来た白馬に目を瞬かせる。

 出来るだけ一緒に行動しろ、というはじめの忠告を受けてから、決して犬飼を1人にさせなかった白馬が1人で出歩くのは、なんというか()()()()()

 出逢ってから日が浅く、付き合いらしい付き合いもまだ無いはじめだったが、白馬が友人思いであり、“探偵”としての責任感を持っているのは知っている。

 他の候補者たちと集まって暗号解読にでも勤しんでいるのだろうか?

 しかし、それならば“助っ人”として同行した白馬が別行動なのはおかしい。

 はじめがつらつらと考えていると、白馬が苦笑する。

 「犬飼くんなら部屋にいます。絶対に1人で出歩かないし、他の人間を部屋に入れたりしないからしばらく1人にして欲しいと言われて…。」

 「なるほどね…。」

 確かに、普通の高校生にとってはかなりショックだっただろう。自分の身にも危険が迫っているかもしれないとなれば尚の事。パニックを起こしていないだけ、冷静な方だった。

 「彼がそんな状態だったので、最初は僕も部屋にいたんですが、どうにも行き詰まってしまって…。気分転換も兼ねて館の中を見回っていたんです。」

 そんな中ではじめを見付けたので声をかけたらしい。

 「はじめさんはここで何をなさっていたんですか?」

 「ああ、ちょっと気になる事があってさ…。ちょうど良かった。白馬、お前の意見も聞きたかったんだ。」

 思考が行き詰まった時は第三者の意見を聞くに限る。自身とは異なる視点での意見が、事件解決への糸口になった事は1度や2度ではない。

 まして、彼の聡明さはこの短期間でもはじめも知るところである。意見を求めるのにこれ以上の相手はいなかった。

 

 「確かに、この館を造らせたという、ユーリ・イワノフの名前なら僕も聞いた事があります。死後30年以上が経っても天才として名が挙げられる、ヨーロッパでも指折りの奇術師…。彼のマジックは素晴らしくも全てが遊び心に溢れていたと…。()の“奇術王”の仕掛けた“最期のマジック”にしては、あまりにもお粗末過ぎる…。」

 はじめの抱く“違和感”について説明すれば、白馬にも思うところはあったようだった。

 「でしょ?で、このマスターキーのキーリング、何か気になってさ。ほら、切れ目の付いたリングを繋げる奇術(マジック)あるだろ?あのリングみたいに“トリック”でマスターキーが簡単に外せるようになってるんじゃないかと思ったんだけど…。」

 「見付からなかったと?」

 「うん。で、ちょっと行き詰まっちゃったところに白馬がちょうど良く来たんだよ。」

 「しかし、はじめさんでも分からなかったとなると…。僕もそれほど奇術(マジック)に詳しい訳ではないですし…。せめて、外部と連絡が取れれば1人“専門家”に心当たりがあるのですが…。」

 「“専門家”?」

 プロの奇術師(マジシャン)にあてでもあるのだろうか?

 「同級生に1人、プロ顔負けの奇術師(マジシャン)がいるんですよ。彼なら、もしかしたら何か掴めるかもしれませんが…。」

 「へぇ、お前がそこまで言うなんて、相当凄いんだろうな、その同級生。」

 「ええ、見ていて飽きませんよ。…色々な意味で。」

 どこか含みのある笑顔を見せる白馬に小首を傾げたはじめだったが、今優先すべきはこちらだと意識を切り替える。

 「白馬も分かんないって事は、やっぱり何の仕掛けも無いのか…?」

 ジャラ…

 「そう言えば、このマスターキーを(くく)っている紐…。」

 白馬がふと思い当たったようにマスターキーを(いじ)る。

 「?何か思い付いた?」

 「いえ、この紐はどうやってリングに通したんでしょう?」

 「?そりゃ、1度リングを切って紐を通した後で溶接したとか……?」

 「僕も最初はそう思ったんですが、見てください。」

 ジャラ…

 そう言って再びマスターキーを(いじ)る白馬の手元を覗き込む。

 「ほら、紐の輪よりも鍵の方が長くて、普通ならこの形に(くく)れないんですよ…。溶接して通したのだとしても、鍵より短い輪にどうやって鍵を通したんでしょうか?」

 「確かに…!言われてみれば……。」

 単純に、普通に外せないならば溶接、と考えていたが言われてみればその通りである。紐の長さが足りなければ、紐を通せる(はず)がない。()()()()()

 しかし、ここは奇術師(マジシャン)が作ったトリックだらけの館。

 「やっぱり、このマスターキー自体に何らかの“トリック”が隠されてるみたいだね…。」

 「ええ、それは間違いありません。」

 2人の天才が“違和感”を“確信”に変えるには充分だった。

 

 「さて、問題はどうやってこのキーリングからマスターキーを取り外すのか、ですが…。やはり、この特徴的なキーリングの形が重要なんじゃないでしょうか。」

 「あたしもそう思う。最初に“違和感”を覚えたきっかけもこの形だったしね。」

 丸にU字がくっついたような、特徴的な形。これが“鍵”になる(はず)だ。

 そう結論付け、もう1度良く見てみようとはじめがキーストッカーに保管されたままのキーリングを手に取る。

 さて、どう攻略すべきか、とはじめが思考を巡らせた時、白馬が何気無く呟いた。

 「まるで知恵の輪のようですね…。」

 「?!」

 その言葉に、はじめがハッとする。

 (もしかして………!)

 ジャラ…!

 リングの輪っか部分に鍵を紐ごと寄せ、1本だけU字型の部分に残す。

 1本だけ残した、鍵を結んだ紐をU字型の部分に押し広げる。その状態で鍵をU字型の部分に上から下に通せば…、

 「外れた…!」

 チャラリ、といとも簡単にリングから鍵を外す事が出来た。

 やはり、この厳重そうに見えるリングはフェイク。奇術師(マジシャン)が作ったというだけあって、これは一種のパズルになっているらしい。

 「?!こんなに簡単に……!」

 白馬の驚愕する声を聞きながら、はじめは背筋にヒヤリとしたものが伝うのを感じていた。

 (あ、危なかった……!)

 もし、このマスターキーの秘密に気付くのがもう少し遅かったら……。確実にもう1人の犠牲者が出ていた(はず)だ。

 だが、これで確かめたかった事は明らかになった。

 「謎は…、全て解けた……!」

 後は“仕掛ける”だけだ。

 その為にもまずは…、

 「白馬。ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど。」

 不思議そうな顔を見せる白馬に、はじめは不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

 ―――――1時間後、はじめは自室に戻っていた。

 コンコンコンッ…!

 「高遠(たかとお)!ちょっと話があるんだけど。」

 マジックミラーをノックし、マジックミラーの向こうにいる(はず)の高遠を呼ぶ。

 「―――――何です?あなたからそんな事を言い出すのは珍しい…。」

 バサリ、と目隠しの為にかけられていたシーツが取り払われ、マジックミラーの前に仮面を外した高遠が現れる。

 「ちょっと頼みがある。」

 「それはそれは…。」

 唐突な、予想外のはじめの言葉に、高遠(たかとお)が面白そうに微笑む。

 「珍しい事ですね。金田一さん、あなたが“犯罪者”にそんな事を言うとは……。」

 クツクツと笑みを漏らす高遠(たかとお)に、はじめが顔を(しか)める。

 「真面目な話なんだけど…。」

 「これは失礼。あなたとはなかなかに長い付き合いですが、こうして“舞台”以外で面と向かう事など、そうありませんからね…。それで、一体どうしたんです?」

 面白そうに笑みを浮かべたままの高遠(たかとお)に、はじめが静かに切り出した―――――――。

 

 ―――――――その夜。

 静まりかえった深夜の廊下を歩く人影があった。

 とある部屋の前で止まり、おもむろにポケットから取り出した革の手袋を嵌め、同じく取り出したワイヤーを左手に巻き付ける。

 そして、取り出した鍵で扉の施錠を解除する。

 ガチャ…

 キイィ………!

 照明が落とされ、ピッチリとカーテンが閉じられた真っ暗な部屋へと足を踏み入れた途端―――――、

 パッ…!

 (まばゆ)い光が“侵入者”を照らし出す。

 「?!」

 予想だにしていなかった展開に、咄嗟(とっさ)に腕をかざして目を庇った“侵入者”が息を呑んだ。

 「待ってたよ。あんたがここに来るのをずっとね…。」

 懐中電灯で“侵入者”を照らし出したはじめに、“侵入者”が叫ぶ。

 「ど、どうしてここに…!?どうして、」

 「“どうして薬が効いていない”のか、ですか?」

 隣から放たれた、先読みするかのような言葉に、“侵入者”はバッと振り返った。

 「なっ?!あなたまで……。」

 いつの間にか“侵入者”の側に忍び寄っていた白馬に、“侵入者”が驚愕の声を上げる。

 「僕だけではありませんよ。」

 パチッ…!

 「…!?」

 その言葉と同時に点けられた部屋の電気に、()()を把握した“侵入者”が息を呑んだ。懐中電灯の明かりを消すはじめの周囲には、この館に(つど)った全ての人間が揃っていた。

 「ど、どういう事ですかこれは…?!ま、まさか…!?」

 目の前に現実を突き付けられても尚、信じられないとばかりに狼狽(うろた)える田代に、はじめが静かに口を開く。

 「そのまさかです。神明(じんめい)さんと宝田さんを殺した犯人は―――――、」

 強張った表情のまま、黙り込む“侵入者”に向け、はじめが断罪するかのように宣言した。

 「桐江(きりえ)想子(そうこ)!!あんただよ!!!」

 

 

 

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