金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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たいへんお待たせしました!
露西亜人形殺人事件、更新です。
本来、目標としては10話以内で終わらせたかったんですが、だらだら長くてメリハリの無い文になってしまった為、後半の展開を一旦無かった事にしました(汗)
もう少々お付き合いください…!

最後になりましたが、お気に入り登録、感想、評価どうもありがとうございます。


露西亜人形殺人事件 File10

 「桐江(きりえ)想子(そうこ)!!あんたがこの殺人事件の犯人、“指揮者(コンダクター)”だ!!!」

 はじめの言葉に、決定的な現場を抑えられ、もはや言い逃れの出来なくなった“侵入者”-桐江(きりえ)が唇を噛んで(うつむ)く。

 「でも、どうして桐江(きりえ)さんが…?彼女は遺産相続には関係無い(はず)でしょう…?」

 この部屋を割り当てられ、危うく3番目の標的(ターゲット)となりかけた幽月(ゆづき)がどこか呆然とした様子で口を開いた。

 「想子(そうこ)さんが、まさか……。」

 そして、以前から彼女と親しくしていた犬飼もまた、信じられない様子で続ける。

 「……ええ、そうよ…!確かにあたしは幽月(ゆづき)さんを殺そうとしてこの部屋に侵入したわ!それは認める…!でもそれは、その人が山之内先生のトリックの答えを挿絵に書き込んで、作品を台無しにしたのがずっと許せなかったからよ!神明(じんめい)先生と宝田さんを殺したのはあたしじゃないわ!!だって動機が無いもの!」

 周囲からの“信じられない”という視線の中、(うつむ)けていた顔を上げ、幽月(ゆづき)を睨み付けながら桐江(きりえ)が叫ぶ。

 現場を抑えられた今夜の一件以外は自分ではない、と否認する彼女に、はじめがそれを否定した。

 「…いや、違うね。あんたは遺産目的で神明(じんめい)先生と宝田さんを殺し、今夜幽月(ゆづき)さんを殺そうとしたんだ。」

 

 「い、遺産目的ったって、桐江(きりえ)さんの名前は候補者の中には入ってなかったじゃない…!」

 梅園がはじめの推理の矛盾点を付くが、それにフォローを入れたのはいつの間にか入口から移動し、はじめの隣に立っていた白馬だった。

 「いえ、それがそうとも言えないようなんです。これを見てください。」

 白馬が内ポケットから取り出し、周囲に掲げて見せた封筒の宛名には、“遺書 山之内恒聖(こうせい)”とはっきり記されていた。

 「そ、それは…!?」

 「まさか、暗号が解けたって言うの?!」

 封筒の宛名を見たはじめと白馬、“スカーレット・ローゼス”以外の人間が驚愕に目を見開いた。

 「ちょ、ちょっと見せてください…!」

 驚愕のあまり(つまず)きかけながらも進み出た有頭(ありとう)に、白馬が素直に封筒を手渡す。

 「ま、間違いありません…!山之内先生の本物の遺言書です!!白馬さん、これを一体どこで…?!」

 「どうやって暗号を解いたんです!?」

 有頭(ありとう)と犬飼の悲鳴じみた声に、再びはじめが口を開いた。

 「遺言書のあった場所を説明する為には、まずは暗号の解き方について解説する必要があります。この暗号を解く“鍵”は、5つの人形の大きさにあったんです。」

 「大きさ、ですか?」

 「そう、大きさ。」

 怪訝(けげん)そうな犬飼に頷きを返し、続ける。

 「ただし、これはそのままの大きさでは意味を成しません。()()()()()()()()、人形を実際の人間の縮尺に戻してやる必要があるんです。」

 「実際の人間の縮尺…?」

 今度は幽月(ゆづき)が首を傾げた。

 「あたしが最初にこの暗号で引っ掛かったのは“楽団は前から順に首を刈られた”の一文です。“2番の子の首を5番目の子の首の右に並べてみてごらん”の一文から察するに、この暗号は“前から順に”の通りに小さい人形の順に頭文字を取っていく、という方法で間違い無い(はず)…。でも、実際に1番小さいイワン、エミール、オリガ、ターニャ、コンスタンチンの順に頭文字を取っても出来る文字は“IEOTK”。2番目のEを5番目のKに並べても“KE”、つまりローマ字の“け”になるだけで、“数合わせ”にも“楽しいリズム”にもかからない。」

 「そうよ!そこまではあたしも考えてたわ!」

 はじめの推理に、梅園が声を上げる。

 「ええ、皆さんここで引っ掛かったと思います。でも、幽月(ゆづき)さんの話を聞いて、()()()()に気付いたんです。」

 「え?あたし?」

 予想外のところで名前を出され、驚きの声を上げた幽月(ゆづき)に頷きを返し、続ける。

 「人形の大きさが大きなヒントとして機能する(はず)なのに、第2バイオリンのターニャとビオラのオリガが同じ40cmというのも気になってはいたんですが、幽月(ゆづき)さんの話が、重要なヒントを与えてくれました。」

 「前置きは良いから早く教えてよ!なんなのよ、そのヒントって?!」

 しびれを切らした梅園が叫ぶが、はじめの言葉で考え込むような仕草(しぐさ)を見せていた幽月(ゆづき)()()と顔を上げた。

 「まさか、楽器?!」

 「その通り。」

 昼間のはじめたちとのやり取りを思い出した幽月(ゆづき)に、はじめが肯定する。

 「楽器、ですか…?」

 いまいちピンときていない田代が首を傾げるのを見て、はじめが説明した。

 「昼間、幽月(ゆづき)さんが教えてくれたんですよ。バイオリンとビオラの違いをね…。あたしは楽器に縁があるような生活をしてなかったんで、生憎(あいにく)知らなかったんですけど、ビオラの方がバイオリンよりも5~6cm大きいんでしょ?」

 「それが一体どうだっていうのよ!?」

 「あ、人形が持っている楽器は全部同じ大きさだ…!もしかして……?!」

 梅園とは対照的に、犬飼が何かに感付く。

 「そう、この暗号はそれぞれの人形が持っている楽器の大きさに合わせ、人形の身長を実際の人間の縮尺に戻す必要があるんです。このやり方で最も小さいイワンで考えると、イワンの身長も楽器も同じ20cmだから、イワンを本来のコントラバスの大きさである2mに直す事が出来る。」

 「そっか…!それなら、人形の大きさが全く変わってくるわ……!」

 梅園が納得いったらしい事を確認し、はじめが続ける。

 「同じ法則で、チェロのエミールは180cm、ビオラのオリガは130cm、第2バイオリンのターニャは120cm、第1バイオリンのコンスタンチンは150cmという事が分かります。そして、この5つの人形を背の低い順に並べると、正しい順番はターニャ、オリガ、コンスタンチン、エミール、イワンとなる。その頭文字を拾えば、表れるのは“TOKEI”。」

 「そ、そうか、“時計”!!」

 「この屋敷にある時計は、塔の時計ただ1つだわ!」

 「じゃ、じゃあ時計に遺言書が隠されていたって言うの?!」

 犬飼と幽月(ゆづき)、梅園が次々に驚愕の声を上げるが、それに否やを上げたのが有頭(ありとう)と田代だった。

 「まさか…!この相続戦が始まる前に、正解な時間を把握する為に、田代さんに時計を合わせて頂いています…!あの時計はわずかな足場の他は巨大な文字盤と針しか無いんです、隠せるような場所なんて……!」

 「そ、その通りでございます…!私が3日前に時計を合わせた時には、そのようなものはありませんでした…!」

 2人の主張に対して、説明を引き継いだのは白馬だった。

 「田代さんが発見出来なかったのも無理はありませんよ…。この暗号で2番目に重要なのは、()()()()()()()()()()通りに行動する事なんです。」

 「あ、()()()()()()()()()()…?」

 「それは一体…?」

 「“さあお次は数合わせ。2番の子の首を5番目の子の首に並べてみてごらん。”この言葉通りに、オリガのOを5番目のイワンのIの隣に並べると、何が出てくるのか分かるかい?犬飼くん。」

 白馬の質問に、一瞬面食らった犬飼だったが、彼自身もミステリーマニアであり、殺人事件を解決した事もある頭脳の持ち主である。すぐに答えは導き出された。

 「そうか、数字の“10”……!!」

 「その通り。」

 ()()と顔を上げた犬飼に、白馬が頷きを返した。

 「数字の“10”っていう事は、まさか10時に時計に行け、という事ですか?」

 「そう。これを裏付けるのが暗号文の最後の一文、“楽しいリズムの始まり始まり”。つまりこの暗号は、10時の鐘が鳴っている中で時計の文字盤の前にいれば遺書が手に入る、そういう意味だったんだ。」

 佐木の疑問に頷きながら、白馬が更に補足する。

 「この遺書は、今夜…、まぁ日付的にはもう“昨日”ですけどね…。夜10時に文字盤まで降り、手に入れたものです。白馬と、“スカーレット・ローゼス”さんがその証人ですよ。」

 はじめのその言葉に、それまではじめの推理を興味深そうに眺めていた“スカーレット・ローゼス”も頷いた。

 「…そして、あたしの推理が正しければ桐江(きりえ)想子(そうこ)、あんたを殺人へと駆り立てた“動機”がその遺書には書いてある(はず)だ。」

 

 「え…?!」

 「山之内先生の遺書に“動機”が…!?」

 はじめの宣言にあからさまに顔色の変わった桐江(きりえ)がはじめから目を逸らす。

 「有頭(ありとう)さん、その遺書を読み上げて頂けませんか?はじめさんの推理と、僕自身の推察が正しければその遺書に“答え”が隠されている(はず)です。」

 「は、はい…!それでは読み上げます……!!」

 白馬の言葉に、有頭(ありとう)が遺書の封を切り、広げる。

 「え~…。“私、山之内恒聖(こうせい)の出題した暗号の謎を解き明かし、この第2の遺書の在りかを突き止めた人間こそが我が遺産を手にする事になる。相続資格は5名の資格者、“神明(じんめい)忠治(ただはる)”“梅園薫”“幽月(ゆづき)来夢(らいむ)”“宝田光二”“犬飼高志”に限られる。…ただし、”」

 そこまで読み上げたところで、有頭(ありとう)()()と息を呑んだ。

 「“…ただし、暗号解読の期限になった時点でこれら5名の有資格者が1人も館にいなかった場合は―――、資格者に限らず暗号解読者本人に譲るものとする!”」

 「なっ?!」

 「なんですって…!?」

 「それじゃ、もしあたしたちが全員死んだとしたら……!」

 犬飼と梅園が息を呑み、幽月(ゆづき)が核心に迫る。

 「そう…。5人の資格者が期限を迎えるまでに館内から全員存在しなくなった時点で、遺産の相続権はこの第2の遺書を見付けた者へと(ゆだ)ねられる。…桐江(きりえ)想子(そうこ)、5人の資格者たちよりも先にこの遺書を見付けたあんたは、5人がいなくなれば遺産を(かす)め取る事が可能であると知った。それを知った時、あんたの心に悪魔が囁いた…。5人の資格者たちを期限までに全員殺し、何食わぬ顔で暗号が解けたように見せかけ、遺書を見付けてみせれば数十億の遺産は全てあんたが受け取る事になる、ってね。」

 鮮やかさを増したはじめの紅茶色の瞳が、まるで断罪するかのように桐江(きりえ)を射抜く。

 「しかし、運命の悪戯か、あんたにとっては不運にも“2つの偶然”が重なってしまったんだ。その“偶然”こそが、あたしに大きなヒントを与えてくれた。」

 「“2つの偶然”、ですか…?」

 「どういう事?はじめちゃん。」

 佐木と美雪が尋ねるが、はじめは真っ直ぐに桐江(きりえ)だけを見据えていた。

 「1つ目は雨。あんたが遺書を盗み見たのは、恐らくは5人の資格者たちが山之内恒聖(こうせい)からの悪趣味なビデオレターを見ている時だ。多分、10時の鐘の音と共に作動する仕掛けだろうから、あんたはその少し前から時計の文字盤の前で待機していた(はず)だ。しかし、間の悪い事にちょうどその頃から雨が降り出した。あたしはその時はそれどころじゃなくて気が付かなかったけど、佐木のビデオにはその雨がはっきりと映っていた。あんたは焦った(はず)…。鐘が鳴るにはまだ時間があり、しかしそのまま外で待っていたらあっという間にびしょ濡れになってしまう。夕食の時間も迫る中、髪や服が濡れているのを他の人間に見られれば怪しまれる事は必至…。かといって、一旦部屋の中に戻る事も難しかった。文字盤まで降りるには一切の明かりの無い、長い梯子(はしご)を昇り降りしなくてはいけない。微妙なタイミングが必要な中、そんな危険な足場を素早く往復するのはかなり困難だ。場合によっては命の危険もあり得る…。だからこそ、あんたは()()()()()()()()という選択をしたんだ。この館に時計は“時計の塔”の大時計が1つだけ…。後でこっそり戻しておけば問題無いと踏んだんだろうけど、この時あたしと白馬は自分の時計で時間を確認して大時計が5分程度進んでいるのに気が付いた…。これが2つ目の偶然だ。」

 「っ…!」

 はじめの推理に、桐江(きりえ)が唇を噛んで俯く。

 「そして、あんたはこの時にたった1つ、しかし重大なミスを犯してしまった。」

 「ミス?」

 「そう…。大時計への唯一の出入り口、人形の後ろの窓を開けっ放しにしてしまった事だ!」

 佐木の問いかけに頷きながらも、はじめが続ける。

 「時計の針を5分進めたものの、遺書を取り出して長い梯子(はしご)を昇り切り、部屋の中に戻る頃には雨は激しく、風も強くなっていた。そのせいで、窓から激しく雨が吹き込み、窓際に置かれていた5体の人形は全てびしょ濡れになってしまったんだ。」

 「!そうか…!!あの“見立て”の理由は……!」

 「そうだよ。神明(じんめい)さんと宝田さんが暗号に“見立て”られたのは、この致命的なまでの失敗をカバーする為の完全なアドリブだったんだ!びしょ濡れの人形をそのままにしていれば、誰かが窓を開けっ放しにしていた事がすぐに分かり、“大時計”への決定的なヒントになってしまう…。濡れた窓際や床は拭いてしまえば分からないだろうが、人形の服はそうはいかない。あんたは全ての人形を持ち去り、服が乾いた順に死体と一緒に発見させたんだ。」

 「な、なるほど…。あたかも暗号文になぞらえ、人形の背が低い順に殺人が行われているように錯覚していたけど、実際には小さい人形程早く服が乾き、乾いた人形のパートの人間が順に狙われていた…。それだけの理由だったんですね?」

 はじめの推理に、佐木が納得したように頷く。

 「そ、そうか…!だから、その日のうちに殺してしまった神明(じんめい)先生の場合は、濡れている事がバレないようにバスタブに浮かべられていたのか……!」

 「その通り。付け加えるなら、双子のように背の高さが同じオリガとターニャの場合は厚手の冬服を着てるターニャより、薄手の軽装のオリガの方が乾くのが早かった。今夜幽月(ゆづき)さんが狙われたのも、そんな理由だった訳だ。」

 犬飼の言葉に補足したはじめが、更に続ける。

 「…そして、この時濡れてしまったものはもう1つある。」

 「もう1つ…?人形の他に一体何が?」

 白馬が驚いたようにはじめを振り返った。

 「スタンドだよ。」

 「スタンド…?」

 その言葉に、桐江(きりえ)()()と息を呑む。

 「佐木のビデオにしっかり映ってたよ…。最初にあたしたちが人形を見た時と、神明(じんめい)さんの遺体を発見した後では人形の側にあったスタンドの傘が違っていた。…最初のスタンドの傘は、あんたの部屋にあったよ。どこか間違ってるところがある?“想子(そうこ)さん”。」

 「…いいえ。分かったわ…。全て認めてやるわよ…!ーーーそうよ、あたしが()ったのよ!!あたしがあの2人を殺した殺人鬼、“指揮者(コンダクター)”よ!!!」

 はじめの問いかけに1つ溜め息を()いた桐江(きりえ)が、()()と顔を上げ、彼女を睨み付けた。そして、周囲を見渡し、その豹変ぶりに唖然としている犬飼や田代らに嘲笑を浮かべる。

 「あら、何よ?その顔…。まさか、あたしがホントに純情な田舎者(いなかもん)丸出しのいかにもメイドの小娘だとでも思ってた?残念でした!言っとくけど、あたしはねぇ…!こう見えてもあんたらなんかより、ずっと修羅場潜ってんのよ!」

 あははは!と(あざけ)りも露に(わら)桐江(きりえ)に、耐え切れなくなった犬飼がすがり付くように尋ねる。

 「そ、想子(そうこ)さん何故…!なんでこんな事、()()()金の為に殺人なんて……!?」

 「たかが金!?ハッ!そんな事が言えるのは、あんたがこれまで苦労知らずの(すね)(かじ)りだったからよ!誰1人身寄りのいない、あたしみたいな女にとってはお金が全てなんだよ!!お金さえあればお腹を空かせたりしないで済む!手をかじかませて働いたり、嫌な男に()びを売って屈辱的な事をやらなくったって生きていける!綺麗な服だって買えるし、住む所だって困らないーーーーー!!そうよ!山之内の莫大(ばくだい)な遺産があれば、こんなお城みたいな屋敷で使用人を抱えて、お姫様みたいな生活だって出来る!!金!金!金よっ!!あたしは金が欲しかったの!山之内の遺した何十億という金が……!!」

 桐江(きりえ)の、魂が込められたかのような悲痛なまでの叫びに、その場の者たちは皆気圧される。

 しかし、そこに淡々とした様子で告げられたはじめの一言に、桐江(きりえ)でさえも驚愕に目を見開いた。

 「まぁ、気持ちは分からなくも無い…。共感は出来ないけどね…。山之内が築いた財産は、本来は想子(そうこ)さん。あんたが受け取るべきだと言っても過言じゃなかったんだから。」

 「!?あんた……?!」

 

 

 

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