金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

15 / 20
たいへん長らくお待たせしました。
前回更新から1ヵ月もお待たせするとは…(汗)
お気に入り登録、ご感想、評価、どうもありがとうございます。
無事パソコンが復帰しました!しかし、年度末までちょっと仕事がバタつく予定でして、更新速度はさして変わらないかもしれません……(涙)

何はともあれ、露西亜人形殺人事件File11、お楽しみください…!!
追伸、まだ終わりません……(汗)


露西亜人形殺人事件 File11

「まぁ、気持ちは分からなくも無い…。共感は出来ないけどね…。山之内が築いた財産は、本来は想子(そうこ)さん。あんたが受け取るべきだと言っても過言じゃなかったんだから。」

「!?あんた……?!」

 はじめの意味深な台詞(せりふ)に、桐江(きりえ)が目を見開いた。

「!?はじめさん…?それは一体どういう……?」

「山之内先生の財産が、本当は想子(そうこ)さんのものだったって…?!」

 白馬と犬飼が驚愕も露わに声を上げるが、はじめはそれに構う事無く続ける。

「あんたが殺人という禁忌を犯しても尚、遺産を手に入れようと固執したのには訳がある。山之内が手に入れた財産は全て、本来ならば彼自身が手に入れるべきものではなかったものだからだ。より正確に言えば、本来手に入れるべき人物は他にいた。その人物の名前は白井雄一郎!!桐江(きりえ)、……いや白井想子(そうこ)、あんたの父親だ!!!」

「な?!」

「白井雄一郎だって……?!」

想子(そうこ)さんの父親…!?」

「い、一体どういう事ですか!?だ、旦那様の財産は本来は桐江(きりえ)くんの父親のものだったと…?!」

 驚愕の声が上がる中、はじめが自身の足元に置いていた紙袋から()()()を取り出す。

「これを見てください。…これは、山之内恒聖(こうせい)の書斎の、隠し金庫から見付けたものです。」

 そう言って周囲が見やすいように掲げられた()()は、大きなクリップで纏められた、原稿用紙の束。

 その表紙に書かれていたタイトルに、その場にいた者たちは皆目を疑った。

「“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”?!」

「で、でも作者の名前は山之内先生じゃないわ…!!」

「そう。これは山之内恒聖(こうせい)ではなく、この露西亜(ろしあ)館の以前の主、白井雄一郎が書いたものだ。」

「父が、小説を書いていた……?!」

 はじめの断言に、桐江(きりえ)が呆然とした様子で呟く。

「嘘でしょ…?って事はまさか先生……!」

 その表紙と作者名に、頭に浮かんだ疑惑を振り払おうと否定する者たちの期待を裏切るように、はじめが告げる。

「そう、この小説は正真正銘桐江(きりえ)想子(そうこ)の父、白井雄一郎が書き上げたものだ。山之内恒聖(こうせい)が発表した“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”は、白井が考えたトリックと大まかなストーリーをそっくりそのまま盗用して書き上げられたものだったんだよ!」

「な、なんですって……!?」

「まさか、そんな事が……!」

「嘘……!」

 特に、日頃山之内と交流していた3人の候補者たちが言葉を失う。

「白馬!」

「は、はい!!」

 一瞬呆けていた白馬だったが、はじめの呼びかけに反応して彼女に目を向ける。

「お前、確か山之内の本を読んでいたよな?」

「は、はい。勿論……。」

「その時、疑問に思わなかったか?発想豊かな奇想天外なトリックと、伏線もまるでなっていない凡人そのものの何の捻りも無い文章に。」

「え、ええ…。確かに…。最初はトリックは別の人間が考えているのではないかと思った位です。…でも、まさか…。」

「盗作とは思わなかった?」

「はい…。恥ずかしながら……。」

「別に恥じる必要は無いよ。これまで誰も、出版社の人間や読者は勿論、側で山之内に仕えていた田代さんでさえ誰も気付かなかったんだから。」

 白馬に軽い(なぐさ)めの言葉をかけ、はじめが言葉を失っている桐江(きりえ)へと視線を戻す。

「この原稿と一緒に、もう1つ見付けた物がある。…白井雄一郎の日記だよ。」

「?!父の日記ですって……!?」

 そう言ってはじめが先程の紙袋から取り出したのは、1冊の日記帳。

「恐らく、山之内恒聖(こうせい)もこの原稿と日記の存在については知らなかった(はず)だ。隠し金庫そのものがかなり捻った隠され方をしてたからね…。あたしも“ローゼス”さんが気付かなかったら分からなかったよ。」

 そう、チラリと目線を送ったはじめに、それまで静かに(たたず)んでいた“スカーレット・ローゼス”がニヤリと口角を上げる。

 はじめのその言葉と、“スカーレット・ローゼス”の様子にはじめの他に唯一その()()を知る白馬が複雑そうな顔を見せたが、はじめはそれに気付かない。

「…悪いとは思ったけど、その日記を読ませてもらいました。お陰で、あたしの疑惑を確信へと変える事が出来た…。」

「疑惑、ですか?」

 衝撃から冷めやらない一同に代わり、白馬が代表で口を開く。

「元々、あたしはここに来る以前から山之内の“人格者”という評判について、疑問を感じていた…。その想いはこの屋敷に来て益々強くなったよ。幽月(ゆづき)さんは何となく感じていたようですが、他の皆さんは疑問に感じませんでしたか?数十億とも評される遺産の相続者はたった1人。しかも、山之内恒聖(こうせい)はそれぞれ5人の候補者が経済的に困窮(こんきゅう)している事を調べ上げ、ご丁寧にも悪趣味なビデオレターまで遺していた…。何故そんな事をする必要があったんだ?経済的に困窮(こんきゅう)している事が分かっているなら、5人平等に分けるように指示したって良かった(はず)だ。……本当に遺産を譲る気があったのならね。」

「?!それはどういう…?」

「本当は譲る気が無かったとしたら…?」

「「「「「?!!!」」」」」

 はじめの言葉に、その場の者たちに少なくない動揺が走る。

「これを説明するには、最初から、山之内恒聖(こうせい)と白井雄一郎との出逢いから、全てを説明しなくちゃいけない…。」

 

「全ての始まりは、山之内恒聖(こうせい)の学生時代に遡る…。当時、山之内恒聖(こうせい)想子(そうこ)さんの父親‐白井雄一郎は学生時代、同じミステリー研究会に所属していた親しい友人だった。お互い小説家を志していたという事もあり、当時はかなり親しい間柄だったらしい。」

 はじめの口から語られる、知られざるエピソードにその場の者たちは固唾(かたず)を呑む。

「しかし、卒業後2人がそれぞれ進んだ道はまるで異なるものだった。小説家を志し、アルバイトでその日暮らしを送っていた山之内に対し、父親の後を継いで貿易商として成功した白井雄一郎はかなり裕福な生活を送っていたらしい。そして、そのうちに白井は結婚し、1人の女の子をもうけた。―――――想子(そうこ)さん、あんたの事だね?」

「―――――ええ、そうよ……。」

「残念ながら、妻となった女性は若くして亡くなってしまったが、貿易商としての成功と裕福な暮らしと可愛い子ども、白井は一見順風満帆な生活を送っていた…。しかし、彼は学生時代から抱いていた小説家になるという夢を捨て切れず、思い付いたトリックやストーリーを1冊のノートに纏めていたらしい。この露西亜(ろしあ)館を購入したのもこの頃だ。この館内に随所に隠されたパズルやトリックがその心を(くすぐ)ったようだね…。――――――そんな中、この露西亜(ろしあ)館に1人の男がやってきた。それが若き日の山之内恒聖(こうせい)だ。」

「や、山之内先生が…?」

 思わず口を挟んだ田代に頷きつつも、はじめは構わず続ける。

「山之内は、成功した昔の友人に金の無心(むしん)に来たんだ。それも、1度や2度じゃなかったらしい。昔の友人、それも特に親しかった相手からの頼みを白井は快く受け入れ、山之内をこの露西亜(ろしあ)館へと招き入れていた。どうやら、自分と違って夢を追い続けていた山之内に対しての憧憬(どうけい)もあったらしい。『彼の夢の為に一役買えるのなら、こんなに嬉しい事は無い』。日記にはそうも書いてあった。―――――そして、白井は何の気無しに見せてしまったんだよ。小説家志望の昔の友人に、自身の考えたトリックやアイデアを纏めたノートをね。」

「で、では先生はその時に“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”のアイデアを盗んだと……?!」

 犬飼の言葉にはじめが頷く。

「日記によれば、その時山之内はそのトリックノートを酷評したらしい。『奇想天外なトリックだが、小説には使えない』ってね。その時点で、山之内は恐らくそれらのトリックを盗用する事を思い付いていたんだろう。だからこそ、白井雄一郎がそのトリックを使用した小説を書き上げる前に思い留まらせようとしたんだ。…実際には、その時既に白井は彼自身の処女作“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”を書き上げていたが、山之内のその言葉に出版社への持ち込みを断念したらしい。『自分よりも余程苦労しながら小説を書き上げている彼がそう言うのなら、所詮は素人(しろうと)の浅知恵。とても人様には見せられない。』と書いてあったよ。―――――それこそが、山之内の狙いだとも知らずにね…。そして、それから数ヵ月後に白井は不幸な事故で命を落とした。日記の日付から察するに、彼の死からおよそ半年後、山之内は“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”で鮮烈なデビューを飾った。人のアイデアを完全に盗用する、という恥知らずにも程がある方法で偽りの才能を騙ってね…。そしてこの露西亜(ろしあ)館を買い取り、隠されていた白井雄一郎のトリックノートを見付け出し、そのトリックを次々盗用して莫大な財産を築いていった。―――――想子(そうこ)さん、あなたは()()を知ってしまった。」

「………何もかも、お見通しって訳ね…。ええ、その通りよ……!!山之内が書き上げた小説のその全てが、あたしの父が書いたトリックをそっくりそのまま使った盗作だった!!!!あのトリックノートは父の夢そのものだった…!学生時代から少しずつ書き溜めていたトリック、それをいつか自分の手で小説にして発表したい―――――、そんな父の夢をあたしは膝の上で何度も聞いてきたわ!それをあの男は……!!!山之内は父の夢を踏み(にじ)っただけでなく、自分のものとして発表したのよ……!!!」

 桐江(きりえ)の血を吐くような悲痛な叫びに、その場の者たちが皆息を呑む。

 はじめでさえ一瞬気圧される中、唯一“スカーレット・ローゼス”だけはいっそ不気味な程静かに彼女の姿を見詰めていた。

「父が仕事先のヨーロッパで事故に遭い急死した後、父の会社は色々な人の裏切りに遭い、あっという間に傾いてしまった…。何年かしてこの館も二束三文(にそくさんもん)で人手に渡り、母も兄弟もいないあたしは天涯孤独で施設に送られた―――――…。それからは、話したくも無いような人生だったわ。もう食う為にはどんな事でもやったわ!例えば売春まがいの事だってね…!」

 はははは…!と自棄(やけ)になったように乾いた笑いを洩らす桐江(きりえ)を、犬飼が複雑そうな顔で見詰める。

「今思い出すと、あの頃はそういう自分に対して疑問も抱いてなかった。生きてくだけで精一杯だったし…。小さい頃から1人きりで、その前の短い幸せだった頃の事なんか思い出してる余裕も無かったもの。……そうね…。いっそ、思い出さないままだったら良かったのかもね…。ちょっとした運命の悪戯(いたずら)で、本当は自分のものだった(はず)の幸福や富や名声を失ってしまった。そんな事に気付かないままなら、人を殺してまで失われたものを取り戻そうとは思わなかった。―――――でも、気付いちゃったのよ、あたし………。皮肉な運命の悪戯(いたずら)がもたらした偶然のお陰でね。」

「“運命の悪戯(いたずら)”…?」

 桐江(きりえ)の笑みがそれまでとは異なる感情を刻む。それに気付いたはじめが問いかけるが、その次の瞬間桐江(きりえ)が浮かべた笑みに、ゾワリと全身が総毛立つのを感じた。

「ねぇ、金田一さん?とうの昔に落としてしまった、大金の詰まった財布を――――――。思いもよらない場所で偶然見つけたとしたら、あなたならどうする?拾うでしょ?当然!他に手を伸ばそうとしている連中を―――――、押し退けてでも……ね!」

 

「っ…!」

 はじめだけでなく、その場にいた者たちが思わず息を呑んだが、桐江(きりえ)は構わずに切り出した。

「―――――そう、あれは…確か2年前。あたしが16になったばかりの時だった……。その頃、あたしは北海道のとある田舎町で場末の安酒場にホステスとして年を偽り、名前もユカリと名乗って勤めていた―――――。毎日毎日、安い時給と品の無い酔っ払い親父たちの相手に疲れて、そろそろこの店も潮時かなって思い始めた頃だったわ……。忘れもしないあの夜―――…、外は狂おしく吹雪が舞っていたっけ……。夕方から降り出した大雪のせいで客も来なくて、そろそろ店を閉めようとしていた時だった。ある3人の男が客として来たのは…。」

 滔々(とうとう)と語る桐江(きりえ)の表情は苦々しく、口調も吐き捨てるようだった。口を挟めるような雰囲気ではなく、はじめたちは皆、黙って耳を傾ける。

「3人の男たちはいずれも高そうな服を着て、言葉使いからしても東京から来たとすぐに分かる様子だった。あたしは辞める前に小金が欲しいと思っていたし、上手く取り入れば上京して少しはマシな生活にありつけるかもしれない、という下心もあっていつもの何倍も愛想良く振舞ったわ…。その時よ、その3人の男の中の1人、“先生”とか呼ばれてちやほやされている男が、昔父に良く金を借りに来ていた男だと気付いたのは…!あの、食うにも困っていた男が“先生”と呼ばれるような人間になっていた事に疑問に思ったあたしは、取り巻きの1人として一緒に店に来ていた男‐宝田に尋ねたの。『“先生”ってお医者様とかなんですか?』ってね…。ミステリー作家と聞いて驚いたわ。でも、その後の衝撃に比べれば大した事じゃなかった…。有名なミステリー作家と聞いて、当時同僚として働いていたホステスがここぞとばかりに()びを売って、あたしもそれに合わせておべっかを使ったわ。そしたらその男‐山之内は、プレゼントだと言って目の前で自分の本にサインをして渡してきたのよ…。“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”をね………!!!そのタイトルを見て、全身に鳥肌が立ったわ…!そして、その本に書かれたトリックや設定は、お父さんがあたしに話して聞かせてくれた内容そのものだった……!!」

 桐江(きりえ)の口調が激しさを増し、その激情を垣間(かいま)見せる。

「この本は、山之内が父の書き溜めていたノートを見てネタを盗んだに違いない、父の受けるべきだった栄誉や称賛を横取りして我が物としているに違い無い。そう確信したあたしは、名字も(かた)って山之内の家にメイドとして入り込む事にした。山之内は、あたしとお父さんがかつて住んでいたこの露西亜(ろしあ)館を別荘として買い取っていたのよ。そして、ある晩あたしははっきりとこの目で見たわ!梅園が割り当てられた部屋の隠し金庫を開けた山之内が、中からお父さんのトリックノートを取り出し、真剣な眼差しでページをめくっているその様を……!あたしは、昔の記憶を必死に辿(たど)って、金庫のナンバーを思い出して開けたわ。…間違い無かった!山之内の傑作と言われる作品は、ことごとく父の考えたアイデアをそっくりそのまま盗用して書かれたものだったのよ!」

 語るうちに込み上げた激情が、桐江(きりえ)の口調をより激しいものに変えていく。

「………許せなかった!!だって、山之内が受けた名誉も称賛も財産も!!!その全ては、本来ならばあたしの父が得る(はず)のものだった!!!山之内が父に、『小説にならない』なんて言わなければ、父はきっと書き上げた作品を発表していたわ!いいえ!!そうでなくても、あの時父が事故で死んだりしなければ、いつかきっと…!それとも、あたしがもっと早くノートの存在を思い出していれば、娘であるあたしが小説にして発表出来たかもしれない!!要するに、何もかもあたしのものになる(はず)だったのよ!この館も何10億っていう財産も!それを生んだ作品も名誉も幸福も、全て、何もかもね!!」

 

 皆、桐江(きりえ)の吐き出す激情に呑まれていた。

 ――――――だからこそ、初動が遅れてしまった。

 桐江(きりえ)が隠し持っていたナイフを取り出した時、はじめは間に合わなかった。

「?!想子(そうこ)さん、何を…!?」

 はじめが叫ぶが、その手は届かない。

 否、はじめだけでなく、白馬や犬飼の手も届かなかった。

「だ、ダメだ想子(そうこ)さん!」

「いけません…!!!」

 ――――見ている事しか出来なかった。

「近寄らないで!もう終わりにしてやるんだから!」

 その喉元に、ナイフの切っ先が突き付けられるのを。

「あたしの最悪の人生なんか…、不運続きの辛いだけの人生なんか……!!」

 微かに震える桐江(きりえ)の手が、狙いを定める。

「もう、いらないっ!!!」

 震えが、止まった。

 ――――覚悟を決めたように。

「ダメだ!止めるんだ、想子(そうこ)さん!!」

 はじめが駆け出すよりも、速く。

「バイバイ、名探偵さん…!」

想子(そうこ)さ………!!」

 ザクッ………!!

 鈍い音を立てて、そのナイフが桐江(きりえ)の喉元へと突き立てられる。

 バッ…

 そして、はじめの視界が深紅に染め上げられた―――――――。

 

 

 




因みに、想子さんの名字についてはねつ造です(汗)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。