金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~ 作:ミカヅキ
露西亜人形殺人事件、やっと完結です。
――――――――
駆け付けた所轄の警察により、はじめたちは無事に保護され、一連の連続殺人犯
そして、駆け付けた警察の中に、良く見知った顔を見付けたはじめの顔が盛大に引き
本来ならばいる
「全く君は…。ことごとく事件に巻き込まれる運命にあるようですね……。
「別に好きで巻き込まれた訳じゃ…。」
麗しい顔を
「
「……ごめん…。」
その秀麗な美貌に浮かぶわずかな疲労の影に、はじめも事の重大さを悟った。
普段は嫌味なまでに完璧に整ったその美貌も今日は
何より、エリート中のエリートたる警視庁の警視である明智が今この場にいる事こそが、どれ程心配をかけたのかを物語っていた。
広域指名手配犯である
出会ったばかりの頃はいざ知らず、現在ではまるで兄か父親のようにはじめの事を
最近では、大阪の某高校生探偵の傍若無人っぷりに遂に業を煮やし、大阪府警に直々に抗議の電話をかけた事は記憶にも新しい。
「明智さんが来たって事は、今回の指揮は明智さんが……?」
「ええ。
美雪の問いに軽く頷く明智に、わずかに
「明智さん、ちょっと調べて欲しい事があるんだけど…。」
「調べて欲しい事……?」
「ちょっと耳貸して。」
珍しい行動を取ったはじめに目を見開いた明智が、それでも素直にはじめが耳打ちしやすいようにわずかに腰を屈める。
「《…………。》」
「…なるほど。良いでしょう。すぐに調べさせます。」
はじめが
「よろしく。」
「明智警視!」
明智に再度頼み込んだ直後、所轄の警官が指示を仰ぐべく、明智に駆け寄ってくるのを確認し、はじめが邪魔をしないように明智から静かに離れた。
「はじめさん、明智警視に何を……?」
「…はっきりしたら教えるよ。今はまだ、予測でしかないから……。」
敢えてこちらに聞こえないように明智に
―――――――事件終着からおよそ5日後。
世間の
ネットでも、ある事無い事を書き立てて騒ぐ
そして、もう1人連日押しかける報道陣に迷惑している者がいた。
「おい、白馬ぁ…。あのマスコミ連中何とかしろよ……。ったく、ここんトコ毎日じゃねぇか。
都内の公立校‐江古田高校の教室の一角で、正門に詰めかけるマスコミを窓から見下ろし、顔を
余談ではあるが、
「何で今回の事件に関しては何もコメントしねぇんだよ?オメェがさっさと詳細教えてやれば、あいつらだって満足して来なくなるじゃねぇか。そうすりゃ、犬飼だって……。」
“登校出来るようになるじゃねぇか。”
彼らのクラスメイトであり、山之内の5人の遺産相続候補者の1人でもあった犬飼については、未成年者でもある為、世間的には名前が伏せられている。しかし、人の口に戸は立てられない、という言葉通り、江古田高内では知っている者も少なく無かった。校内でも一定の発言権を持つ
犬飼の父の事業が失敗した事は、事件の前から既に噂になっていたのだから。
犬飼を
「いや…。僕が話せる事は何も無いんだ。今回の事件を解決したのは僕じゃないからね…。」
「はぁ?!」
てっきり目の前のクラスメイトが解決したと思い込んでいたところへの、まさかの本人からの否定に
いけ好かない相手だが、その探偵としての実力は自身も知るところである。まさか、この白馬を出し抜ける相手がいたとは…。
一体誰が解決したのかを問い詰めようとした
「っと、失礼。僕だ。」
「って、音切っとけよ…。」
何となく肩透かしを食らったような気分になって文句を付ける
白馬が個人的に連絡先を交換している相手は意外にも少ない。
人当たりも良く、フェミニストの彼は良く女子から連絡先の交換を求められるものの、普段からイギリスと日本を行き来している上に事件やら何やらで多忙な事を理由に、そのほとんどを断っている為だ。
よって、白馬に個人的に連絡を取れるのは極々少数の親しい人間に限られる。因みに、クラスにおいてさえ白馬と直接プライベートでもやり取りが可能なのは、
その白馬のスマホ、しかもこのタイミングでラインで連絡しようとしてくる相手となれば、白馬には心当たりが1人しかいなかった。
[今日の放課後、時間ある?]
[直接会って話したい事があるんだけど…。]
[ダメだったら、近日中に空いてる日教えて。]
ピロン♪ピロン♪と立て続けに送られたラインに、返信する。
[大丈夫です、空いてます。]
[どちらに伺えば…?]
即座に既読が付き、ピロン♪とさほど間を開けずに返事が来た。
[16時に、米花町の喫茶店“ポアロ”で。]
江古田と不動山市の中間地点にあたるのが米花町である為、妥当なチョイスと言える。また、“ポアロ”も一時期高校生を中心にSNSで有名になったので白馬も場所くらいは知っていた。
[分かりました。]
[では、16時に。]
既読が付いて以降、沈黙したスマホをマナーモードに設定し直し、ネットでバス時間を確認する。
授業が終わるのがおよそ14時半。そこから米花町までバスで30分程。15時7分のバスに乗る事が出来れば約束の10分前にはポアロに間違い無く着く事を確認し、スマホをしまった。
「オメェがラインなんて珍しいな…。」
「まぁ、否定はしませんが。僕だってラインで連絡を取り合う相手の1人や2人いますよ。」
そう言って再び窓の外に視線を向ける白馬に、再度口を開こうとした
昼休みも終わりである。
放課後問い詰めるか、と思い直した
授業終了の号令と同時に教室を飛び出した白馬を、思わず呆気に取られて黙って見送ってしまった事が彼の敗因だったと言える。
――――――カランコロン♪
軽やかなドアベルの音と共に姿を現した待ち人の姿に、白馬がコーヒーをソーサーに戻し、立ち上がる。
「はじめさん、こちらです。」
「悪いね。待たせたみたいで…。」
不動高校の制服を纏い、謝罪しながら歩み寄るはじめに、ソファ側の席を勧めながら白馬も座り直す。
「急に呼び出してごめん。直接話した方が良いかと思ってね…。」
「いいえ。僕もお聞きしたい事もありましたから。」
首を横に振る白馬だったが、まじまじと見詰めてくるはじめに怪訝そうな顔をする。
「あの、何か…?」
「ああ、いや…。てっきりブレザーかと思ってたから学ランなのが意外だっただけ。」
何でもない、とパタパタと手を振ってみせるはじめに白馬が苦笑する。
「それ、良く言われるんです。」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
クスクスと笑い合う様子は、2人とも制服姿なのも相まって傍から見れば付き合いたての高校生カップルのようにも見えた。
視界の隅で、女性店員がお冷を手に注文を取りに来るタイミングを計っては二の足を踏んでいるのに気付いたはじめが声をかけるよりも早く、カウンターに入っていた男性店員が女性店員の手からお盆を取り上げ、はじめたちのテーブルへと近付いてきた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
お冷を運んできた若い男性店員に、白馬がはじめにメニューを差し出す。
「ここのコーヒーはおいしいと評判みたいですよ。」
「うん、知ってる。あと、ハムサンドと日替わりのケーキが絶品だって美雪が騒いでたから。」
「ああ、SNSでも話題になってましたしね…。」
「うちのクラスの女子も一時期通ってたらしいんだよね。」
「それはそれは…。そこまで評価していただけるとは、嬉しい限りですね。」
はじめたちの会話を聞き、輝くような営業スマイルを浮かべる店員にチラッと目を向け、はじめが注文する。
「カフェラテとハムサンドお願いします。…白馬は?」
「大丈夫です。」
コーヒーカップの中身が大分少なくなっていた白馬に振るが、白馬がそれを断る。ならば無理に勧める事もあるまい、とはじめは頷き店員へと視線を戻した。
「以上です。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
素早く伝票に書き付け、一礼して戻る店員の背中を何となく見送り、白馬がはじめに視線を戻した。
口を開きかけ、わずかに
「――――――見せたい物があってね。」
「見せたい物、ですか?」
そう言ってはじめがスクールバッグから取り出したのは、1冊の週刊誌。特に主婦層をターゲットとした、
「本来明日発売だけど、いつきさん‐知り合いのルポライターが1部都合してくれてね…。
「!」
はじめの言葉に、ハッとした白馬が急いで差し出された週刊誌を手に取る。
“山之内
表紙に大きく取り上げられただけでなく、そこから8ページにもわたって書かれた記事には、山之内の学生時代から掘り下げられ、“
その他にも、これまで信じられていた、“人格者”という山之内の批評を覆す例が事細かに書かれている。中には山之内から陰湿な嫌がらせを受けていた、という証言もあり、たった5日で良くぞこれ程詳細な内容を調べ上げたものである。
「宝田さんは、いつきさんにとっても親しい友人の1人だったらしいから…。」
遣り切れない思いを滲ませながら呟くはじめに、かける言葉を探して視線をわずかに
いつきが書いた、事件の発端となった遺産争奪戦そのものが、山之内が仕掛けた殺人
「な?!」
真犯人である少女Sは、山之内の心理誘導に踊らされた被害者である、と断言されたその記事に、白馬の声がわずかに上ずった。
「あの争奪戦が、山之内が仕掛けた殺人
「シー…、声がデカい。」
思いがけない記事に、意図せずに声を荒げる白馬を
「?これは……?」
「開けてみな…。」
眉を
「原稿用紙、ですか?…?!これは………!!」
封筒に入っていたのは、クリップで纏められた原稿用紙の束。
そして、そのタイトルに白馬が驚愕に目を見開いた。
“
そして、その作者は……、山之内
「山之内先生の、未発表遺稿……。それも、この内容はまるで……。」
ざっと原稿を斜め読んだ白馬が、呆然と呟く。
「あたしたちが北海道に行っている間、代理人から文芸
「山之内先生は、全て計算していた、と……?」
「ああ。山之内の書斎から、今回の殺人事件の“計画書”とでも言うべきメモが出てきたらしい。まるで
「!まさか…?」
「全てが明らかになった後、衝動的に自殺を図ったのも、もしかしたら、ね…。山之内の書いた遺稿でも最後に犯人であるメイドの少女は自殺している…。今後、慎重に精神鑑定に回されるらしい。」
「もしかして、はじめさんが明智警視に頼んでいたのは…?」
「そう。山之内が何か仕掛けてるんじゃないかと思ってね…。日記か何か遺ってないかと思ったんだけど、まさか原稿として遺してるとはね…。想像以上の悪趣味さだよ。今回の事件、“真の
はっきりと眉を
「…
「ああ…。」
薄汚い男の欲望に翻弄され続けた少女を想い、束の間の沈黙が降りる。
「お待たせしました。カフェラテと、ポアロ特製ハムサンドです。」
そこにかかった声に、2人とも
「ごゆっくりどうぞ。」
はじめの前にカフェラテとハムサンドを置き、爽やかに去っていく店員の背中を2人で黙って見送る。
「《…今、話聞かれた?》」
「《いや、ギリギリ大丈夫だったかと…。》」
思わず小声で確認し合うが、それを確かめる
声量に気を付けていたとは言え、流石にこんな場所で話をするのは
気を落ち着ける為に、はじめがカフェラテを一口口に含む。
(あ、おいしい…。)
一時期SNSで有名になっていただけの事はある。
「……はじめさん。」
「ん?」
顔を上げれば、白馬が真剣な瞳ではじめを見詰めていた。
「
「
その言葉に、カップをソーサーに戻し白馬に向き直る。
「何故、
「……そうだな…。“約束”したからってのもあるだろうけど。アイツ、自分でも言ってたけど基本的に有言実行だから…。でもまぁ、第一は…。」
「第一は?」
「
「あっ…。」
はじめの言葉に、以前調書で呼んだ
「
どこか苦いものを感じさせる表情で、はじめは静かにカップを傾ける。
「今回は見逃さざるを得なかったけど、今度逢ったらそうはいかない…。今度こそアイツの考えを叩っ切って、監獄に送ってやるよ。」
―――――――――はじめの瞳が、強い光を宿し、紅茶色に
次回、コナンsideの事件かな…。