金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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たいへんお待たせしました!
露西亜人形殺人事件、やっと完結です。


露西亜人形殺人事件 Epilogue

 ――――――――高遠(たかとお)が逃亡してから、およそ27時間後。

 駆け付けた所轄の警察により、はじめたちは無事に保護され、一連の連続殺人犯桐江(きりえ)想子(そうこ)は拘束された。

 そして、駆け付けた警察の中に、良く見知った顔を見付けたはじめの顔が盛大に引き()る。

 本来ならばいる(はず)の無い人がいた事に、白馬も目を瞬かせるが、それ以上にはじめのリアクションに驚く。どうかしたのかと尋ねるよりも早く()()()が口を開いた。

「全く君は…。ことごとく事件に巻き込まれる運命にあるようですね……。(もっと)も、今回は自分から巻き込まれに行ったようなものですが…。」

「別に好きで巻き込まれた訳じゃ…。」

 麗しい顔を(しか)めて皮肉を洩らすその人。警視庁捜査一課警視‐明智健吾の言葉に、はじめが顔を引き()らせたまま反論する。しかし、明智の苦言(くげん)は止まらない。

高遠(たかとお)が現れた…。そこに君がいたと聞いて、私と剣持(けんもち)くんがどれ程(きも)を冷やしたか……。ただでさえ、あの男は君に強く執着している。――――その時の私たちの心境が君に分かりますか?おまけに連絡は取れない、自宅に問い合わせても詳細は分からない…。こうして顔を見るまでは、私も剣持(けんもち)くんも生きた心地がしませんでしたよ。」

「……ごめん…。」

 その秀麗な美貌に浮かぶわずかな疲労の影に、はじめも事の重大さを悟った。

 普段は嫌味なまでに完璧に整ったその美貌も今日は(いささ)か精彩を欠いており、キラキラしいオーラも幾分か陰っているような気がする。

 何より、エリート中のエリートたる警視庁の警視である明智が今この場にいる事こそが、どれ程心配をかけたのかを物語っていた。

 広域指名手配犯である高遠(たかとお)が現れた以上、担当する明智に連絡が行くのは至極当然の事ではあるが、いくら何でも行動が早過ぎる。はじめが警察に通報してから、まだ3時間弱しか経っていないのにも関わらず北海道の山奥に到着出来るとは、一体どれ程の無茶をごり押しで通したのか…。

 出会ったばかりの頃はいざ知らず、現在ではまるで兄か父親のようにはじめの事を(こと)(ほか)気にかけている明智である。はじめが巻き込まれる事件がよりその凄惨(せいさん)さを増しているのに比例するように、その過保護ぶりにも拍車がかかってきた、というのが彼の部下たちの共通認識だった。

 最近では、大阪の某高校生探偵の傍若無人っぷりに遂に業を煮やし、大阪府警に直々に抗議の電話をかけた事は記憶にも新しい。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「明智さんが来たって事は、今回の指揮は明智さんが……?」

「ええ。高遠(たかとお)が関わった以上、捜査権はこちらにあります。しかし、今回は高遠(たかとお)自身偶然居合わせただけのようですし、既に容疑者も全面的に自供しているようなので、ある程度指示を出して私は高遠(たかとお)の足取りを追うつもりですが…。」

 美雪の問いに軽く頷く明智に、わずかに逡巡(しゅんじゅん)したはじめが意を決したように彼の袖を引く。

「明智さん、ちょっと調べて欲しい事があるんだけど…。」

「調べて欲しい事……?」

「ちょっと耳貸して。」

 珍しい行動を取ったはじめに目を見開いた明智が、それでも素直にはじめが耳打ちしやすいようにわずかに腰を屈める。

「《…………。》」

「…なるほど。良いでしょう。すぐに調べさせます。」

 はじめが(ささや)いた言葉に、()()と真剣な表情に戻った明智が頷く。

「よろしく。」

「明智警視!」

 明智に再度頼み込んだ直後、所轄の警官が指示を仰ぐべく、明智に駆け寄ってくるのを確認し、はじめが邪魔をしないように明智から静かに離れた。

「はじめさん、明智警視に何を……?」

「…はっきりしたら教えるよ。今はまだ、予測でしかないから……。」

 敢えてこちらに聞こえないように明智に(ささや)いたはじめの心情を(おもんぱか)ったのか、同じく小声で尋ねてくる白馬に(ささや)き返し、はじめはそれ以上は口を(つぐ)み、何も語らなかった。

 

 

 

 ―――――――事件終着からおよそ5日後。

 世間の耳目(じもく)()いていた、山之内(こう)(せい)の遺産を巡る陰惨(いんさん)な殺人事件は未成年者が真犯人だったというセンセーショナルな事実と、()()“地獄の傀儡師”が居合わせたという衝撃も相まって、ここ数日のワイドショーの話題を独占していた。

 ネットでも、ある事無い事を書き立てて騒ぐ(やから)が続出し、生き残った候補者たちの名前は明らかにされていないものの、どこからか情報が漏れた様子で、未成年者である犬飼はともかくとして他の2人‐梅園と幽月(ゆづき)の下には連日多くの報道陣が詰めかけているという。

 そして、もう1人連日押しかける報道陣に迷惑している者がいた。

「おい、白馬ぁ…。あのマスコミ連中何とかしろよ……。ったく、ここんトコ毎日じゃねぇか。鬱陶(うっとう)しいったらねぇぜ。」

 都内の公立校‐江古田高校の教室の一角で、正門に詰めかけるマスコミを窓から見下ろし、顔を(しか)め白馬(さぐる)に文句を垂れているのは、クラスメイトである黒羽(くろば)快斗(かいと)である。

 余談ではあるが、露西亜(ろしあ)館で白馬がはじめに対して語った、プロ級の奇術師(マジシャン)とは彼の事だった。

「何で今回の事件に関しては何もコメントしねぇんだよ?オメェがさっさと詳細教えてやれば、あいつらだって満足して来なくなるじゃねぇか。そうすりゃ、犬飼だって……。」

 “登校出来るようになるじゃねぇか。”

 ()の有名な高校生探偵‐白馬(さぐる)が事件に居合わせたと聞き、少しでも情報を掴もうと連日殺到しているマスコミに、いい加減辟易(へきえき)し始めただけでなく、未だに登校出来ないでいるクラスメイトを心配している快斗(かいと)が白馬に詰め寄る。

 彼らのクラスメイトであり、山之内の5人の遺産相続候補者の1人でもあった犬飼については、未成年者でもある為、世間的には名前が伏せられている。しかし、人の口に戸は立てられない、という言葉通り、江古田高内では知っている者も少なく無かった。校内でも一定の発言権を持つ快斗(かいと)と白馬、そして同じくクラスメイトの小泉紅子(あかこ)の口添えもあって、今のところそれ以上の広がりは見られないものの、ちょうど事件と同時期から欠席を続けているとなれば彼と事件を関連付けて考える者が出ないとも限らない。

 犬飼の父の事業が失敗した事は、事件の前から既に噂になっていたのだから。

 犬飼を(おもんぱか)り、後半は声を(ひそ)めた快斗(かいと)に、窓の外を眺めていた白馬が快斗(かいと)に視線を移し、常に自身に満ち溢れた彼にしては珍しく、静かに否定した。

「いや…。僕が話せる事は何も無いんだ。今回の事件を解決したのは僕じゃないからね…。」

「はぁ?!」

 てっきり目の前のクラスメイトが解決したと思い込んでいたところへの、まさかの本人からの否定に快斗(かいと)が目を剥いた。

 いけ好かない相手だが、その探偵としての実力は自身も知るところである。まさか、この白馬を出し抜ける相手がいたとは…。

 一体誰が解決したのかを問い詰めようとした快斗(かいと)だったが、ピロン♪という通知音に遮られた。

「っと、失礼。僕だ。」

「って、音切っとけよ…。」

 何となく肩透かしを食らったような気分になって文句を付ける快斗(かいと)を受け流しつつ、白馬がスマホを操作する。

 白馬が個人的に連絡先を交換している相手は意外にも少ない。

 人当たりも良く、フェミニストの彼は良く女子から連絡先の交換を求められるものの、普段からイギリスと日本を行き来している上に事件やら何やらで多忙な事を理由に、そのほとんどを断っている為だ。

 よって、白馬に個人的に連絡を取れるのは極々少数の親しい人間に限られる。因みに、クラスにおいてさえ白馬と直接プライベートでもやり取りが可能なのは、快斗(かいと)と彼の幼馴染だけである。

 その白馬のスマホ、しかもこのタイミングでラインで連絡しようとしてくる相手となれば、白馬には心当たりが1人しかいなかった。

 (はや)る気持ちを抑え、ラインのトーク画面を開けば案の定、想像した通りの相手からの連絡だった。

[今日の放課後、時間ある?]

[直接会って話したい事があるんだけど…。]

[ダメだったら、近日中に空いてる日教えて。]

 ピロン♪ピロン♪と立て続けに送られたラインに、返信する。

[大丈夫です、空いてます。]

[どちらに伺えば…?]

 即座に既読が付き、ピロン♪とさほど間を開けずに返事が来た。

[16時に、米花町の喫茶店“ポアロ”で。]

 江古田と不動山市の中間地点にあたるのが米花町である為、妥当なチョイスと言える。また、“ポアロ”も一時期高校生を中心にSNSで有名になったので白馬も場所くらいは知っていた。

[分かりました。]

[では、16時に。]

 既読が付いて以降、沈黙したスマホをマナーモードに設定し直し、ネットでバス時間を確認する。

 授業が終わるのがおよそ14時半。そこから米花町までバスで30分程。15時7分のバスに乗る事が出来れば約束の10分前にはポアロに間違い無く着く事を確認し、スマホをしまった。

「オメェがラインなんて珍しいな…。」

「まぁ、否定はしませんが。僕だってラインで連絡を取り合う相手の1人や2人いますよ。」

 そう言って再び窓の外に視線を向ける白馬に、再度口を開こうとした快斗(かいと)だったが、タイミング良くキーンコーンカーンコーン♪と鳴り出した予鈴に肩を(すく)めて自分の席へと戻った。

 昼休みも終わりである。

 放課後問い詰めるか、と思い直した快斗(かいと)ではあったが、結果的にそれは叶わなかった。

 授業終了の号令と同時に教室を飛び出した白馬を、思わず呆気に取られて黙って見送ってしまった事が彼の敗因だったと言える。

 

 ――――――カランコロン♪

 軽やかなドアベルの音と共に姿を現した待ち人の姿に、白馬がコーヒーをソーサーに戻し、立ち上がる。

「はじめさん、こちらです。」

「悪いね。待たせたみたいで…。」

 不動高校の制服を纏い、謝罪しながら歩み寄るはじめに、ソファ側の席を勧めながら白馬も座り直す。

「急に呼び出してごめん。直接話した方が良いかと思ってね…。」

「いいえ。僕もお聞きしたい事もありましたから。」

 首を横に振る白馬だったが、まじまじと見詰めてくるはじめに怪訝そうな顔をする。

「あの、何か…?」

「ああ、いや…。てっきりブレザーかと思ってたから学ランなのが意外だっただけ。」

 何でもない、とパタパタと手を振ってみせるはじめに白馬が苦笑する。

「それ、良く言われるんです。」

「あ、やっぱりそうなんだ?」

 クスクスと笑い合う様子は、2人とも制服姿なのも相まって傍から見れば付き合いたての高校生カップルのようにも見えた。

 視界の隅で、女性店員がお冷を手に注文を取りに来るタイミングを計っては二の足を踏んでいるのに気付いたはじめが声をかけるよりも早く、カウンターに入っていた男性店員が女性店員の手からお盆を取り上げ、はじめたちのテーブルへと近付いてきた。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

 お冷を運んできた若い男性店員に、白馬がはじめにメニューを差し出す。

「ここのコーヒーはおいしいと評判みたいですよ。」

「うん、知ってる。あと、ハムサンドと日替わりのケーキが絶品だって美雪が騒いでたから。」

「ああ、SNSでも話題になってましたしね…。」

「うちのクラスの女子も一時期通ってたらしいんだよね。」

「それはそれは…。そこまで評価していただけるとは、嬉しい限りですね。」

 はじめたちの会話を聞き、輝くような営業スマイルを浮かべる店員にチラッと目を向け、はじめが注文する。

「カフェラテとハムサンドお願いします。…白馬は?」

「大丈夫です。」

 コーヒーカップの中身が大分少なくなっていた白馬に振るが、白馬がそれを断る。ならば無理に勧める事もあるまい、とはじめは頷き店員へと視線を戻した。

「以上です。」

「かしこまりました。少々お待ちください。」

 素早く伝票に書き付け、一礼して戻る店員の背中を何となく見送り、白馬がはじめに視線を戻した。

 口を開きかけ、わずかに逡巡(しゅんじゅん)する白馬を見やり、はじめが本題に入る。

「――――――見せたい物があってね。」

「見せたい物、ですか?」

 そう言ってはじめがスクールバッグから取り出したのは、1冊の週刊誌。特に主婦層をターゲットとした、所謂(いわゆる)ゴシップ誌だった。ただし、白馬も知る大手出版社の()()は、比較的しっかりとした裏取りがされている記事がほとんどであり、時に政治家の汚職や大手企業の内部告発が明らかにされる事も少なくないものである。

「本来明日発売だけど、いつきさん‐知り合いのルポライターが1部都合してくれてね…。()()()()について、しっかり記事にしてくれたよ。」

「!」

 はじめの言葉に、ハッとした白馬が急いで差し出された週刊誌を手に取る。

 “山之内恒聖(こうせい)の裏の顔!!その成功の影に全てを奪われた男と、翻弄(ほんろう)された娘の姿!!!”

 表紙に大きく取り上げられただけでなく、そこから8ページにもわたって書かれた記事には、山之内の学生時代から掘り下げられ、“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”の真の作者‐白井雄一郎について丁寧に記されていた。そして、その娘こそが今回の連続殺人事件の犯人である事も…。

 その他にも、これまで信じられていた、“人格者”という山之内の批評を覆す例が事細かに書かれている。中には山之内から陰湿な嫌がらせを受けていた、という証言もあり、たった5日で良くぞこれ程詳細な内容を調べ上げたものである。

「宝田さんは、いつきさんにとっても親しい友人の1人だったらしいから…。」

 遣り切れない思いを滲ませながら呟くはじめに、かける言葉を探して視線をわずかに彷徨(さまよ)わせた白馬が、ある一文に目を止めた。

 いつきが書いた、事件の発端となった遺産争奪戦そのものが、山之内が仕掛けた殺人教唆(きょうさ)だったと断言されたその記事に。

「な?!」

 真犯人である少女Sは、山之内の心理誘導に踊らされた被害者である、と断言されたその記事に、白馬の声がわずかに上ずった。

「あの争奪戦が、山之内が仕掛けた殺人教唆(きょうさ)……?!どういう事ですか?!!」

「シー…、声がデカい。」

 思いがけない記事に、意図せずに声を荒げる白馬を(たしな)めつつ、はじめがスクールバッグから大きな茶封筒を取り出した。

「?これは……?」

「開けてみな…。」

 眉を(ひそ)めながら封筒を差し出すはじめの姿に引っかかるものを感じたものの、逆らう事無く受け取り、封筒を開封する。

「原稿用紙、ですか?…?!これは………!!」

 封筒に入っていたのは、クリップで纏められた原稿用紙の束。

 そして、そのタイトルに白馬が驚愕に目を見開いた。

 “露西亜(ろしあ)館 新たなる殺人”

 そして、その作者は……、山之内恒聖(こうせい)

「山之内先生の、未発表遺稿……。それも、この内容はまるで……。」

 ざっと原稿を斜め読んだ白馬が、呆然と呟く。

「あたしたちが北海道に行っている間、代理人から文芸常談(じょうだん)の編集部に送り付けられたそうだ。例の事件の事が伝わって、すぐにでも掲載されそうになったところにいつきさんが例の記事を持ち込んで、編集部で掲載するべきか揉めてる間に警視庁からストップがかかったらしい。事件に深く関わる内容だから、掲載・出版は控えて欲しいってね…。読んでもらえば分かると思うけど、登場人物の名前が若干(ひね)られているだけで内容は今回の事件がほとんどそのまま書かれてる…。あたしや白馬、()()()がいなかったら、恐らくその小説の通りに5人の相続者全員が殺されていただろうね。」

「山之内先生は、全て計算していた、と……?」

「ああ。山之内の書斎から、今回の殺人事件の“計画書”とでも言うべきメモが出てきたらしい。まるで想子(そうこ)さんをコマのように扱った、ね…。………想子(そうこ)さんは自分でも気付かないうちに精神操作(マインドコントロール)されて、その憎悪と殺意を煽られていた可能性が高い。」

「!まさか…?」

「全てが明らかになった後、衝動的に自殺を図ったのも、もしかしたら、ね…。山之内の書いた遺稿でも最後に犯人であるメイドの少女は自殺している…。今後、慎重に精神鑑定に回されるらしい。」

「もしかして、はじめさんが明智警視に頼んでいたのは…?」

「そう。山之内が何か仕掛けてるんじゃないかと思ってね…。日記か何か遺ってないかと思ったんだけど、まさか原稿として遺してるとはね…。想像以上の悪趣味さだよ。今回の事件、“真の指揮者(コンダクター)”は山之内恒聖(こうせい)自身だった、って訳だ…。」

 はっきりと眉を(しか)め、グラスから水を飲むはじめが吐き捨てる。

「…想子(そうこ)さんの罪が、少しでも軽くなれば良いんですが……。」

「ああ…。」

 薄汚い男の欲望に翻弄され続けた少女を想い、束の間の沈黙が降りる。

「お待たせしました。カフェラテと、ポアロ特製ハムサンドです。」

 そこにかかった声に、2人とも()()と顔を上げる。

「ごゆっくりどうぞ。」

 はじめの前にカフェラテとハムサンドを置き、爽やかに去っていく店員の背中を2人で黙って見送る。

「《…今、話聞かれた?》」

「《いや、ギリギリ大丈夫だったかと…。》」

 思わず小声で確認し合うが、それを確かめる(すべ)は無い。

 声量に気を付けていたとは言え、流石にこんな場所で話をするのは(いささ)か不用心だったかと反省する。幸いなのは、明日にでも全国的に知れ渡るような内容しか話をしていなかった事か。

 気を落ち着ける為に、はじめがカフェラテを一口口に含む。

(あ、おいしい…。)

 一時期SNSで有名になっていただけの事はある。

「……はじめさん。」

「ん?」

 顔を上げれば、白馬が真剣な瞳ではじめを見詰めていた。

高遠(たかとお)の事で、ずっと気になっていた事があるんですが……。」

高遠(たかとお)の事?」

 その言葉に、カップをソーサーに戻し白馬に向き直る。

「何故、()()()高遠(たかとお)想子(そうこ)さんを助けたんでしょうか?」

「……そうだな…。“約束”したからってのもあるだろうけど。アイツ、自分でも言ってたけど基本的に有言実行だから…。でもまぁ、第一は…。」

「第一は?」

()()()()()()()()()、だろうな。」

「あっ…。」

 はじめの言葉に、以前調書で呼んだ()の“地獄の傀儡師”の経歴を思い出す。

高遠(たかとお)遙一(よういち)が“地獄の傀儡師”として生きていくきっかけになった()()事件で、アイツを連続殺人に駆り立てたその動機は、まさしく同じ母親が遺した“トリックノート”だった…。母親を殺して彼女の遺したノートを奪い、まんまとマジシャンとして成功した連中を殺した自分と、父親の“トリックノート”を元に生み出された莫大な遺産を手に入れる為に殺人に手を染めた想子(そうこ)さん…。偶然とは言え、良く似た理由で犯罪を犯した彼女に、恐らく高遠(たかとお)は昔の自分の姿を見たんだろうな…。」

 どこか苦いものを感じさせる表情で、はじめは静かにカップを傾ける。

「今回は見逃さざるを得なかったけど、今度逢ったらそうはいかない…。今度こそアイツの考えを叩っ切って、監獄に送ってやるよ。」

 ―――――――――はじめの瞳が、強い光を宿し、紅茶色に(きら)めいた。

 

 




次回、コナンsideの事件かな…。

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