金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~ 作:ミカヅキ
筆が乗っているうちに西と東の対決?編完結です。
今回の副題ははじめちゃんの苦悩でした。
なんども良い方のみどうぞ…。
―――――――――――その言葉を聞いた途端、怒りで目の前が赤く染まったかのような錯覚を起こした。
「それ、本気で言ってんの?」
「あ?」
はじめの、それまでの空気を一変させるかのような怒りに満ちた声に、平次が聞き返す。
「はじめ姉ちゃん?」
そのやり取りに、コナンを始めとした、その場を離れた目暮と高木以外の人間が何事かと2人に注目した。
「人が1人死んでるのに、それを勝負にするってのはどういう
「な、何が悪いねん…!探偵としてどっちが上か白黒付けるんが、そんなに悪いっちゅうんか!?」
問い詰めるようなはじめの言葉に、悪気の無かった平次は納得がいかない。
コナンたちもまた、何故はじめがそこまで怒っているのかが理解出来なかった。
確かに、殺人事件を“勝負”扱いするのは不謹慎だが、そこまで極端に反応する程の事だろうかと。
それは平次も同じ事。
平次にしてみれば、自分よりも先に“阿部ちゃん”の真相に気付いた彼女の実力を認め、ライバル意識から何気無く出た言葉に過ぎない。
しかも、はじめは彼の“昭和の名探偵”金田一耕助の孫。元々直接の面識が無い、噂程度にしか知らない“工藤新一”にも勝負を仕掛けにきた程フットワークの軽い平次である。生来負けず嫌いでプライドの高い平次が相手にとって不足無し、とある意味燃え上がったのは仕方の無い事かもしれなかった。
一方、はじめにしてみれば、その言葉自体が信じ難いものである。はじめがこれまでに巻き込まれてきた事件は、そのほとんどが猟奇的な連続殺人。それも、大抵が復讐によるものだった。
被害者だけでなく、犯人自身も苦しんできた事件をこの場にいる誰よりも多く見てきたはじめだからこそ、“殺人事件を勝負事に利用する”という発想自体が信じられないものである。
同じく数々の事件に関わってきた高校生、という立場でありながら、その立ち位置は全く異なる。“探偵”を自称する平次や世良、そしてコナンとは異なり、はじめはただの1度も自身を“探偵”と名乗った事は無い。幼馴染や、懇意にしている刑事らに祖父の名を出されて紹介される事はあっても、自分で祖父の名を出し、捜査に加わろうとした事は1度も無かった。
幼い頃から、祖父の話を良く聞いていたから。
人が作り出した惨劇、憎悪、そして悲哀…。それを祖父は幼かったはじめに語った。
子や孫の中で、自身の血を最も色濃く受け継いでしまった孫に。
希代の“名探偵”金田一耕助。その人生は決して平穏とは程遠いものだった。しかし、彼自身は“探偵”という職業を選び取った事からも分かるように、ある種自身で望んで
だが、孫であるはじめは違う。はじめもまた、昔から事件に巻き込まれ易い子どもだったが、自分から首を突っ込んでいく事は無かった。むしろ、そうした事件に巻き込まれる事を
だからこそ祖父‐耕助は
そして、祖父の予想通りに成長したはじめは様々な事件に巻き込まれる事となった。
―――――――――――はじめ自身の感情を置き去りにするように。
その高過ぎる知能故に、人間の隠された感情や裏の顔に気付いてしまうはじめにとって、それは何よりも辛いものだった。
隠されている人間の本性に気付いてしまう。その裏に秘められた、怒りや憎しみ、悲しみの感情が分かってしまう。
しかし、見ないフリ、気付かないフリをするには彼女は真っ直ぐ過ぎた。優し過ぎたのだ。――――――――犯人にさえ同情してしまう程に。
だからこそ、はじめは謎を解く。
それ以上の悲劇を生まない為に。被害者だけでなく、犯人をも憎しみから
その為に事件に向き合ってきたはじめにとって、平次の言葉は決して赦せるものでは無かった。
だからこそ、はじめは平次に言い放った。
「これは小説でもゲームでも無いんだ…!殺人事件を“勝負”に利用するあんたの感覚、まともじゃね――――よ!!!」
「なっ?!」
「何やて?!」
はじめの言葉に、平次と和葉がいきり立つ。
あわや、一触即発、となりかけた時、
「落ち着け、金田一!!!」
声を荒げるはじめの肩を後ろから掴み、
「気持ちは分からんでもないが、ちょっと落ち着け…。この坊主も悪気は無かったんだ。
「あたしは間違った事は言ってない…!謝る気は無いね……!!!」
「分かった、分かった…。ちょっと席に戻って休んでろ。オレも後で行くから。」
このままはじめがここにいては、余計に状況を悪化させるだけだと悟った
「…分かったよ。」
このままここにいてはまたトラブルになるだけだろう、と判断出来るだけの落ち着きは取り戻していた。
「金田一がすまなかったな…。」
はじめが席に着いたのを確認し、
「あ、いや…。」
先程までは平次自身も頭に血が昇っていたものの、
「や、オレも言われてみれば不謹慎な事言うてしもたから……。」
つい、思いがけないライバルの出現に興奮してしまったが、振り返ってみれば、確かに不謹慎な発言だったと己を振り返る事が出来る程度には冷静になっていた。
「それはそうかもしれへんけど、あんな言い方しなくたってええやん!!いくら何でも、言い過ぎちゃう?!」
「うん…。服部くんも悪気は無かったんだし…。ちょっと過剰に反応し過ぎじゃないかな?」
しかし、それで収まらなかったのは不当に幼馴染を貶められた(と、思っている)和葉だった。蘭もまた、はじめの過剰にも見える反応に眉を寄せている。
小五郎やコナンも言葉にはしないものの、同様の考えを持っているのはその表情で分かった。
そんな中、
「まぁ、確かに言葉はきつかったかもしれないけど、言ってる事は間違って無いと思うよ?」
言い方はきつい、としつつもはじめの言い分に一応の理解を見せたのが世良だった。
元々帰国子女である彼女は、本音をオブラートに包みがちな日本と違って、自分の意見をはっきりと述べる環境に身を置いていた。ケンカじみた言い合いにもある程度慣れている。
「でも、世良さん…。」
蘭が世良に反論しようとした時だった。
「すまんな…。服部くんだったか?金田一も、何も彼を貶める為にあんな事を言ったんじゃないんだ。あいつにも色々あってな……。」
流れが変わりかけたのを好機、と
「色々、とは?」
「うむ…。あいつは、昔から事件に巻き込まれ易くてな…。」
何か理由があるのか、と真っ先に聞く姿勢を見せたかつての後輩‐小五郎に、向き直りながら説明する。
「それも、そのほとんどが連続殺人だ。動機のほとんどが復讐の、な……。」
「ほとんどが連続殺人って…。」
「復讐がほとんどって…。」
思いがけない
「“名探偵”の血がそうさせるのか、何とも因果な事にな…。あいつは毛利たちと違って“探偵”を名乗った事も無ければ、自分から事件に首を突っ込む事も無い。だが、巻き込まれちまう。1度巻き込まれれば、それを黙って見ていられるような奴でもないんだ。」
「……この前、はじめ姉ちゃんが言ってたんだ。」
「自分の事を“探偵”だと名乗った事はないし、思った事も無い、これからもなるつもりも無いって…。出来れば事件には関わりたく無いって言ってた。人の“殺意”とか“悪意”とか、ドロドロした感情はもう見たく無いって…。」
あの時の、遠くを見詰めていたはじめの苦し気な横顔を思い出し、コナンは自分たちとは考え方も立ち入りもまるで違うはじめに思いを馳せる。
「…さっきも言ったが、金田一が巻き込まれる事件は怨恨による復讐の連続殺人がほとんどだ…。その犯人の多くは被害者たちに何らかの被害を受け、法にも守ってもらえず、憎しみを募らせて決死の思いで復讐を決行していた…。事件が解決しても、後味の悪さは残る。あいつも、何度も傷付き、時には自分も死にそうな目に遭いながらも絶対に逃げ出す事はしなかった。復讐なんかじゃ誰も救われない、被害者の為にも、犯人の為にも、早く止めてやらなきゃってな……。」
「犯人の為…?」
そんな事など考えた事も無かった。
「あいつは、いつも言ってるよ。復讐なんて間違ってる。犯人も、そんな事をしたくてしたんじゃない、
「捕まった後に、面会を……?」
そんな事考えた事も無い。
自分は“探偵”だ。“探偵”は、目の前の謎を解き、犯罪を犯した人間を捕まえる事が仕事だ。
―――――――――捕まった後の事なんて、考えた事も無かった。
コナン、否。工藤新一は目から鱗が落ちる思いだった。
―――――――――そんな探偵、聞いた事も無い。
しかし、人間的にどちらが正しいのかと言われれば……。
思わず考え込んだ新一の思考を、
「言い方こそキツかったが、事件に関わる際にはあいつなりに真摯に対応してるんだ。だからこそ、“勝負”って言葉が赦せなかったんだろう…。」
金田一
――――――一方、その少し前。
「あれ?!金田一さん?」
そこに、目暮と高木が彼女の姿を見付ける。
「どーも…。」
「君1人かね?
「さっき、ちょっと…。」
目暮の問いに言葉を濁し、目を逸らすはじめに不思議そうな顔をする目暮だったが、はじめの言葉に意識を戻す。
「そういえば、容疑者は絞れたんですか?」
「あ、ああ。事件前後にトイレに入った男性客は7人いたんだけど、最終的にアリバイの無い3人に絞る事が出来たよ。」
「3人…。」
高木の言葉に、はじめが考え込んだ。
「………その中に、事件が起こってから食事を注文した人っています?」
「あ、ああ…。2人いるが、それがどうかしたのかね?」
「因みにメニューは?」
目暮の答えに、そちらの方を見ながらはじめが尋ねる。
「確か、カレーライスと塩ラーメンだったかな…。」
「そのメニューにおしぼりって付いてました?」
記憶を辿る高木に確認するが、高木が首を振る。
「いや、無かったと思うけど…。」
「じゃあ、店員さんに確認してください。そのどちらかが、おしぼりをもらってる筈です。被害者の口に
「何だって?!どういう事だね?!」
はじめの断言に、目暮が食い付いた。
「第一発見者のキャメルさんが最初に自殺だと思ったのは、トイレで他の人間の気配を感じなかったから…。当然、手も洗えなかった筈ですよ。水音なんかすれば、誰かがそこにいたのはすぐに分かる。その後すぐに店を出れば問題無かっただろうけど、生憎それも出来なかった。かと言って、そのまま毒を手に付着させたままじゃ自分も危険…。おしぼりをもらって拭き取る位の事はした筈。何も注文していないのにもらうのは不自然ですから、カモフラージュの注文も一緒にね…。」
「し、しかしテーブルの上におしぼりなんて…。」
「ポケットにしまうか何かしたんじゃないですか?毒物の付着したおしぼりを店内に捨てれば、指紋で誰が捨てたのかすぐに分かってしまうし…。身体検査でもすれば、すぐに出てくると思いますけど。」
はじめの補足に、目暮が高木を振り返った。
「すぐに調べるぞ!」
「はい!!」
そして、その直後。
「おお、いたいた。金田一、こっちはどうだ?」
平次と目が合ったのを、ふいっと
「今容疑者の身体検査中…。」
はじめと目が合った瞬間に口を開こうとした平次だったが、結局言葉が見付からずにそのまま口を噤む。
一瞬微妙な空気になりかけたのを、コナンが空気を変えるようにはじめに尋ねた。
「し、身体検査って事は怪しい人がいたって事だよね?!」
「まぁね…。」
「って事は、見付かったのか関西人。」
良く見付けたな、と言いた気な
「いや、別に関西人を見分ける必要は無いんだよ。」
目暮たちにしたのと同じ説明をしてやれば、探偵たち、特にコナンと服部がその手があったか、とでも言いたそうな顔をした。
――――――――――その後、青酸系の毒物が付着したおしぼりを隠し持っていた容疑者が自供し、事件は終わりを告げた。
はじめは、平次たちとは目を合わせる事無く、言葉すら交わさずにその場を後にした。
何か言いたそうな彼らの目に、気付かないフリをして………。
同世代の“探偵”を名乗る者たちとの邂逅は、幕を閉じる。彼女の心に、ほんのわずかの後悔を残して。
たぶん、この後剣持経由で事情聴いていい加減プッツンきた明智さんがモンペの如く大阪府警に抗議の電話かけます。
平次は大阪帰った直後に、オトンから説教を受ける事でしょう…。