金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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お待たせしました。
今回から金田一世界の事件に突入です。

コナン世界からは“あの人”がゲスト出演。


露西亜人形殺人事件 File1

 長者番付の常連だった売れっ子ミステリー作家、山之内恒聖(こうせい)が60歳の誕生日を前に急死した―――――――…。

 山之内には身寄りが無く、数十億に上ると見られる遺産の行方が世間の耳目(じもく)を惹いた。

 心臓を患っていた山之内は、ここ1年程は(おおやけ)の席に出る事も無く、北海道の山中深くにある別荘に(こも)り、燃え尽きんとする蝋燭(ろうそく)の炎の如く執筆に没頭していたという…。

 山之内の(つい)住処(すみか)となった別荘を、人はこう呼んだ―――――――。

 人形の()む家“露西亜(ろしあ)館”………。

 

 

 

 ファミレスチェーン店“Danny's(ダニーズ)”で起こった殺人事件から1週間程経ったある日―――――…。

 はじめは学校から帰宅した後、夕食までの時間を自室で過ごしていた。

 いつも通りに床に敷いたホットカーペットの上に直接座り込み、気に入っているブランケットをかけ、ローテーブルの上には温かいココア。

 背後のベッドにもたれかかるようにして、趣味の1つである編み物で暇を潰していた時だった。

『電話だよ!電話だよ!電話だよ!』

「ん…?」

 メールやラインならまだしも、電話とは珍しい。

 編み棒を操っていた手を止め、ローテーブルの上に置いていたスマホを手に取る。

「いつきさん…?」

 とある事件がきっかけで知り合った、フリーライターのいつき陽介。

 その後も何かと世話をしたりされたりなど、持ちつ持たれつの関係を続けていた。

 言うなれば年の離れた友人、といったところか。

 と言っても、社会人と高校生なのでそれほど頻繁に連絡を取り合っている訳でも無い。ますます珍しい、と思いつつスマホをタップした。

「もしもし?」

『お―――、金田一!久しぶりだな!』

「久しぶり。急にどしたの?いつきさん。」

『いやぁ、実は折り入ってお前に頼みたい事があってな…。明日、時間作れるか?』

「特に用は無いから、今位の時間なら空いてるけど…。何?また厄介事?」

 これまでも、いつきの頼みで外出した先で事件に巻き込まれた事が数回ある。

 まぁ、全部が全部ではないし、別にいつきが意図した訳ではないのだが…。

 しかし、経験上やや警戒したような返事を返したはじめを誰も責められまい。

 いつきも電話先で苦笑するのが分かった。

『まぁ、そう言うなって…。実は、お前に解いて欲しい暗号があるんだよ。』

「暗号…?」

 いつきの言葉に、はじめがピクリと反応する。

 これはやっぱり厄介事だな、と断じながらも、いつきには何かと世話になっているので話も(ろく)に聞かずにお断りします、とは言えなかった。

『おう。詳しい事は明日話すから、取り敢えず明日の放課後に編集部に来てくれ!』

「……まぁ、いつきさんには何かと世話になってるし?話位なら聞くけど…。最終的に引き受けるかどうかは別だよ?」

『分かってる分かってる!んじゃ、明日の、そうだな夕方の4時位に常談(じょうだん)社の編集部まで頼む!』

「りょーかーい。って切るの早……。」

 言うだけ言って電話を切るいつきに、思わず溜め息を()きながらスマホをローテーブルの上に戻す。

 代わりにココアのマグカップを手に取り、呟いた。

「……嫌な予感がするな…。」

 これまでにも数々の事件に巻き込まれてきた事で磨かれてきた勘が警鐘を鳴らすのを感じたが、同時に自分はこの一件を引き受けるだろう、という妙な確信もあった。

 いや、逆に言うならば、自分が行かなくてはいけない、という予感があった。

 

 ――――――そして翌日。

 はじめは幼馴染の七瀬美雪と、はじめの助手を自任する後輩の佐木竜二と一緒に、いつきに指定された常談(じょうだん)社の編集部を訪れていた。

「ってか、何でお前らも一緒に来んの?」

 いつきを待っている間に、美雪と佐木を見やりながら尋ねる。

「ボクは先輩の助手ですから♡」

「あたしはミス研の部長として、暗号に興味があって…。」

「ったく…。」

 まぁ、いつきならば気にしないだろうが…。

「や~、ワリ――――、ワリ――――!わざわざ来てもらって悪かったな~。おお、七瀬クンと佐木クンも久々だな。」

 時間に遅れる事約5分。

 いつきが編集部へと入ってきた。

「こんにちは。」

「お久しぶりです。」

「遅かったじゃん、いつきさん。」

 笑顔で会釈する美雪や佐木とは対照的に、ムスッとした顔で遅刻を言及するはじめに、いつきが苦笑しながら謝る。

「悪かったって。ケーキでも奢ってやるからそれで機嫌直せよ。なっ!」

「もう…。それより、解いて欲しい暗号って?」

「おっと、その前にちょっと紹介させてくれ。」

 さっさと本題に入ろうとしたはじめを制止し、いつきが後ろを振り返った。

 はじめと美雪、佐木もそれに釣られていつきの後ろへと視線を向けた。

 いつきの影に隠れて見えなかったものの、30代半ば位のスーツ姿の男が立っていた。

「文芸常談(じょうだん)で副編やってる宝田光二さんだ。」

「どうも…。いつきさんにお噂は伺ってます。あの名探偵‐金田一耕助のお孫さんだそうで…。」

「はぁ、金田一(はじめ)です。こっちの2人は幼馴染の七瀬美雪と、後輩の佐木竜二。」

 眼鏡の奥の目を細め、穏やかな笑みで挨拶する男に取り敢えずはじめも立ち上がり、挨拶を返す。美雪と佐木も、それを見て慌てて立ち上がった。

「七瀬美雪です。」

「助手の佐木竜二です。」

「誰が助手だ。誰が。」

「イテッ!」

 調子の良い佐木をポカっと殴ったところで、宝田がやや不安そうな顔をし、いつきに宥められているのが見えた。

「大丈夫ですよ!こう見えてもIQ180の天才なんスから!」

「ゴホン…。え~、実はですね個人的に極秘のお願いがありまして。うまくいった(あかつき)にはそれなりの謝礼を…。」

「それなんですが…。確認したいんですが、それはあたしに“探偵”として頼みたい、という事でしょうか?」

 宝田の話を途中で遮り、真意を確認する。

「え?ええ。いつきさんから、金田一さんも数々の事件を解決してきた優秀な探偵さんだと紹介されまして…。」

 その言葉に、いつきをギロリと睨み付ける。

「いや、ほら暗号解読の話からそんな話になってな…。」

 自分が地雷を踏んだ事に気付いたいつきが慌てて言い訳をする。

「ったく、調子良いんだから…。」

 溜息を()いた後に宝田に向き直り、断った。

「いつきさんが調子良い事言ったみたいですが、あたしは探偵を名乗った事はありませんし、名乗るつもりもありません。所謂(いわゆる)私立探偵としての資格を持っている訳ではないので、報酬も受け取る訳には…。」

「え?!話が違いますよ、いつきさん…!」

「大丈夫ですって。金田一、まずは話位は聞いてくれんだろ?」

 話が違う、といつきを振り返る宝田を再度宥めながら、いつきが悪戯っぽい笑みを浮かべながらはじめに念を押す。

「そりゃ話を聞く事は出来るけどさ…。」

「要するに、“探偵”として金はもらえないって事だろ?だったらほら、暗号解読の“アドバイザー”としてバイトするってのはどうだ?」

「なるほど!それならセーフですね!」

「いや、それって言いようの問題じゃない?」

 黒寄りのグレーな発言をかますいつきに、佐木がその手があったか、と頷くがそういう問題だろうか。

 まぁ、実際に他人について調べるのではなく、あくまでも暗号解読であればギリギリセーフかもしれないが。

「じゃあ、まぁ…。詳しいお話を伺っても良いですか?」

 はじめが宝田に詳しい説明を求めた時だった。

「宝田さん!音羽屋(おとわや)証券さんから急ぎの電話が入ってますけど…。」

「あ…、後でかけ直すって言っといて!」

 電話が入っている、と告げに来た女性社員に宝田があからさまにギクリと表情を強張らせる。

「ま、全く落ち着かないな!ここは!あまり人に聞かれたくないし、場所を変えましょう!」

 取り繕うように席を立った宝田の様子に、はじめはある種の焦りを感じ取った。

(この様子だと仕事関係じゃなくてプライベートかな……。)

 それも、恐らくは宝田にとっては歓迎出来ない連絡だろう。

 いつきと共に宝田の後を追いながら、徐々に不穏な空気を感じ取る。

 

「遺産相続ですか?」

「ええ、私にとっても振って沸いたような話で…。」

 常談(じょうだん)社近くのファミレス(Danny's(ダニーズ)ではない)に場所を移し、全員に飲み物(はじめにはそれにプラスしてベイクドチーズケーキ)が届いたのを待ち、宝田が口を開く。

 話を切り出すと同時に差し出された書類には、底意地の悪そうな初老の痩せた男の写真。

 はじめには見覚えの無い男だったが、それを見た美雪が驚いたような声を上げた。

「あっ!この人…。最近亡くなったミステリー作家の山之内恒聖(こうせい)ですよね。」

「ああ、名前だけは聞いた事ある…。」

 読んだ事は無いが流石(さすが)に名前位は知っていた。本屋に行った時に、ポップ体の手書き広告を目にした覚えがある。

「も~、ミス研の癖に知らないの?超有名ミステリー作家じゃない。」

「ミステリーに興味無いし……。名前知ってただけでも褒めてほしいね。」

 そもそも、ミステリー研究部に所属していると言っても、はじめは幽霊部員。美雪に付き合って、人数稼ぎのために入部したに過ぎない。

「実は、その山之内先生の莫大(ばくだい)な財産の相続人の1人に、どういう訳か私が選ばれたんです。」

「「え――――――――!!」」

 宝田の言葉に、美雪と佐木が驚愕のあまり立ち上がる。

「や、山之内恒聖(こうせい)の財産って言えば、何十億の世界じゃないですか!!」

「ワォ。」

 美雪の叫びに、思わずはじめも驚いた。

「宝田さんは長い事、山之内の編集者としてほとんど家族同然の付き合いを続けてきたんだよ!山之内は身内も無いし、そういう意味じゃ最も親しくしていた宝田さんに財産を、ってのも何か良い話だろ?」

「へぇ…。そんな事もあるのかねぇ…。」

 いつきの言葉に、はじめが皮肉気に相槌(あいづち)を打つ。

 書類に載っていた山之内恒聖(こうせい)の写真、それがどうもはじめの“勘”に引っかかったのだ。

 “人相学”という学問がある。人の顔にその人の性格や生き方が表れている、という考え方によるものだ。

 山之内のような三白眼(さんぱくがん)は、人を簡単に信用せず、疑り深く、自分から心を開かないと言われている。

 目頭から目尻まで太く長い眉は、外面の良さと淡々と人を切り捨てる冷酷さ。

 口が歪んでいるようにも見える表情は、表向き見せている顔と実際の本性のギャップ。

 写真から読み取れる山之内恒聖(こうせい)の顔立ちは、とても他人に自分の財産を、それも何十億とも言われている巨額の遺産を遺すような人間には思えない。

 勿論、はじめは専門的に人相学を観ている学者でも占い師でもないのだから、間違っているかもしれないが、これまでに様々な事件に巻き込まれてきたはじめだからこそ、その“勘”が告げていた。

 “この男は信用出来ない”と―――――――…。

「――――――ただ、ちょっと難しい条件がありまして、それで金田一さんお力を拝借したいと…。」

「条件…?」

 宝田の言葉に、はじめがピクリと眉を動かす。

「ええ…。実は相続人というのは私を含めて5人いるんです。全員、先生の親しい友人や恩人で先生を含めてちょっとした素人(しろうと)楽団のようなものを組んでお付き合いしていた仲間です。勿論、それぞれ大変なミステリーマニアなんですが、事前に届いた“案内状”によればまだ相続が決まった訳ではなく、我々はあくまでも“相続候補者”にすぎないようなんですよ…。」

「候補者?」

 一気に話がキナ臭くなってきた。

「山之内先生はこの5人の候補者に対して、相続資格を手にする為のゲームのようなものを用意していらしたんです。私たちはこれから亡き山之内先生の指示に従って、北海道の先生の別荘へ行き、定められた時間の中で用意された“暗号”を解く。そうやって隠された“遺書”を見付けた者だけに遺産が与えられるというんです。」

「――――――よーするに、その“暗号”をあたしに解いて欲しいと…?」

「頼むよ金田一!オレのつまんない原稿、たまに拾ってもらってんだよ、この人にはさ!!」

 この時点で嫌な予感しかしないが、いつきには何かと世話になっているし、唐突な頼み事はお互い様である。いつきに頭を下げられては無下(むげ)には出来ない。

「………その“暗号”ってどんなものなんですか?」

「“案内状”の中に先生が作られた(うた)のようなものが同封されていました。」

 そう言って宝田が封筒から取り出した紙には、5行の詩のような文章が書かれていた。

『楽団は朝礼で前から順に首を刈られた

 さぁお次は数合わせ

 2番目の子の首を5番目の子の首の

 右に並べてみてごらん

 楽しいリズムの始まり始まり』

「何これ?さっぱり意味わかんない!」

「う~~~~ん…。」

 美雪と佐木が首を捻る中、はじめの頭脳は高速で回転していた。

(前から順に…、数合わせ…。2番目を5番目の右に…。このままじゃ“解読”の為のピースが足りないな…。他に何か、“鍵”になるものがある筈……。)

「宝田さん。暗号はこれだけですか?」

「え、ええ。あらかじめ渡されていたのはこの封筒だけで……。」

「そうですか…。…この暗号はたぶん、これで完成じゃない筈です。恐らく、その別荘に“鍵”となる()()がある筈。」

「はじめちゃん、“鍵”って?」

「それはまだ分からない。だけど、この“暗号”を解くにはその別荘まで行かなきゃいけないのは確かみたいだ…。」

 美雪の問いに、“暗号”から目を離さずに答えるはじめに、宝田が目を輝かせる。

「それでは…?!」

「ええ。このお話、お引き受けします。」

「おお…!ありがとうございます!金田一さん…!!」

 喜びを(あら)わにする宝田に、はじめは昨日感じた“予感”を再び感じていた。

 “暗号”に対する好奇心もあるにはある。

 しかし、それ以上にはじめの心を動かしたのは、沸々と感じる、(うなじ)の毛が逆立つような緊張感。

(この感じ、前にも……。)

 何が原因かは分からないが、はじめの“勘”は確かに感じ取っていた。

 この遺産相続は、波乱を巻き起こすと。

 

 

 ――――――――その同時刻、とある公園。

「さあさあ…、謎の怪人の正体は?そして、銃を突き付けられた名探偵の運命はいかに――――――?」

 子ども達の前で、人形劇を披露しているピエロの仮面を被った男の前に現れたのは、同じく5人の相続候補者の1人‐幽月(ゆづき)来夢(らいむ)

 彼女の姿に気付いたピエロは、人形劇を切り上げる。

「さて、この続きはまた明日!」

「え~っ!!そんな~。」

「ねー、ねー。名探偵はどうなっちゃうの~?」

 名残惜しそうに纏わりつく子ども達を軽くいなし、ピエロは帰宅を促した。

「ほら…、日も沈みかけている。暗い公園にはこわーい怪人が現れて子どもを(さら)っちゃうよ?さあ、お帰り。優しいお母さんが待ってるお(うち)へ………。」

「は~い!」

「ピエロさん、バイバーイ!」

 バタバタと、集まっていた子どもたちが皆公園を出たのを見届け、幽月(ゆづき)はピエロへと歩み寄った。

「お願いしていた件――――――、考えていただけました?」

「あなたにはちょっとした恩もありますからね。お受けしましょう、幽月(ゆづき)さん。」

 人形劇の人形を、トランクにしまい込みながら後ろを振り向かずに返事を返すピエロに、幽月(ゆづき)が笑顔を見せる。

「良かった!あなたがついてくれれば百人力だわ!」

「さあ…。私はいち奇術師です。あなたのご期待に添えるかどうか…。」

「いち奇術師?」

 謙遜してみせるピエロに、幽月(ゆづき)がおかしそうに続ける。

「私にまでそんな事をおっしゃって?私は、その仮面の下のあなたの素顔を知っている人間ですよ…。そうでしょう?高遠(たかとお)遙一(よういち)さん……。」

 幽月(ゆづき)の言葉にピエロの仮面を外し、振り返ったのは、逃亡中の指名手配犯にして最悪の犯罪コーディネーター。通称“地獄の傀儡師(くぐつし)”‐高遠(たかとお)遙一(よういち)

 はじめの、宿敵とも言える因縁の相手である。

 

 “平行線”と称される2人の天才が再び顔を合わせる時、運命はどう動き出すのか。

 

 そして、もう1人、この“舞台”に招待された天才がいた。

 ―――――――同じく同時刻、とあるカフェ。

 同じく5人の相続候補者の1人‐犬飼高志(たかし)は、宝田や幽月(ゆづき)同様に自身の見込んだ“探偵”に助力を依頼していた。

「それで?引き受けてくれるかい?」

「ええ。暗号も興味深いが、何よりクラスメイトのよしみです。一肌脱ぎましょう。この、白馬(さぐる)がね…。」

 

 

 To be continued……




Q.何故、コナンでも平次でも安室でも沖矢ですらなく白馬なのか?
A.事件と状況、参加理由等の諸々の事情を考慮した結果、最も自然に介入出来るのが白馬だったから。

すいません、次回服部を金田一世界の事件に介入させます、と言っておいて設定を変更しました…。
やっぱりはじめちゃんの最大宿敵である高遠を早く出したくて…。

因みに、この作品のはじめちゃんは母親にビシバシ鍛えられたので、料理や手芸は得意です。元々運動神経は無くても手先は器用ですし。
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