金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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お待たせしました。白馬とはじめちゃんの出逢いです。

予想より長くなってしまったので、ちょっとしか喋ってませんが…。


露西亜人形殺人事件 File2

 ――――――――それから数日後、はじめは美雪や佐木と共に北海道へと降り立った。

 因みに、今日は水曜日。平日ど真ん中だが、両親の許可は得ている。正確に言えば、父親は学校を休んでまで妙なバイトの為にわざわざ北海道まで行く事に当然渋ったものの、母親は事情を聞くなりあっさりと許可をくれた。

 母は金田一耕助の娘。まして、母自身も結婚前は私立探偵を務めていた身である。父親(耕助)譲りの(はじめ)の推理力と犯罪への“嗅覚”を誰よりも理解しているが故に、はじめが何か感じたのであれば何かあるのだろう、とむしろ行くように勧めた程だった。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「……凄い霧だよな。」

「ホントね。本当にこんな山奥に館があるのかしら?」

 宝田の運転するレンタカーで、山之内恒聖(こうせい)への別荘へと続く山道を登りながら、窓の外を眺めたはじめが呟く。

 窓の外は一面乳白色の霧。2m先でさえ見通す事は難しく、宝田は先程から万が一対向車が来た場合の接触事故を避ける為に定期的にクラクションを鳴らしていた。

「……美雪、それから佐木も。別荘に着く前に一応言っとく。」

「なあに?」

「何ですか?先輩。」

 はじめの真剣な声音(こわね)に、美雪と佐木が何事かとはじめを見詰める。

「別荘に着いたら、絶対にあたしから離れるな。まぁ、別荘って言っても元ホテルらしいから、お風呂とトイレ、寝る時くらいは部屋に鍵をかけとけば良いだろうけど…。絶対に1人じゃ行動するなよ。」

「え、何で?」

「先輩~、別に殺人犯がいるって訳でもあるまいし、そんなに用心しなくても…。」

 不思議そうな美雪と苦笑する佐木に、「良いから。」と念を押す。

「嫌な予感がするんだよ…。」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、金田一さん。他の相続候補者たちは確かに言わばライバルですが、私も良く知っている人たちですし、別荘にはお世話してくださる執事さんたちや、弁護士の先生もいらっしゃる筈ですから。」

 ははは、と軽快に笑う宝田に、はじめは真剣な顔で忠告した。

「宝田さん。あなたもです。絶対に1人で出歩かないでください。」

「そんな大袈裟(おおげさ)な…。」

 考え過ぎですよ、と全く意に介せずに笑い飛ばす宝田に、はじめは溜息を()きながらこぼした。

大袈裟(おおげさ)だったら良いんですけどね…。」

 数十億の遺産と5人の相続候補者。しかし、相続出来るのはたった1人…。

 嫌な予感がする。

 人間の欲には際限が無い。

 これまでにも、欲に駆られた人間が引き起こした犯罪をいくつも見聞きしてきた。

(宝田さんから目を離さないようにしないと…。)

 何事も無く終われば良い。

「あ、ほら!見えてきましたよ。あの湖の浮き島に建ってる館…、あれが山之内先生の別荘―――――――露西亜(ろしあ)館です。」

 宝田の声に前方に目をやれば、5つの塔からなる特徴的な扁球(へんきゅう)型の屋根の、城のように巨大な館が建っていた。

(あそこだけ外国みたいだな……。)

 広い湖の真ん中、浮き島の上に壮大な様子で建つその館は、まるで外国に迷い込んだかのような錯覚を起こさせた――――――。

 やがて、一同を乗せたレンタカーは湖の岸へと到着する。

「すごーい!ああいうのロシア風建築っていうんですよね、宝田さん?」

 車から降りるなり、湖の淵ギリギリへと走り寄った美雪が、弾んだ声で宝田に尋ねる。

「ええ…!良くご存知ですね。あのイスラムのモスクを思わせるような玉ねぎ型の屋根がロシア風建築の特徴です。ロシアは、元々ギリシャ正教(せいきょう)の国で東ローマ帝国の首都だったコンスタンチノープル。つまり、今のイスタンブールを通ってキリスト教と共に伝わったイスラム文化が反映されているそうです。」

「ふーん…。」

 宝田の解説にはじめが相槌(あいづち)を打った時だった。

「お疲れ様でございます、宝田様。」

 霧の中から現れたのは、眼鏡をかけた柔和な面立ちの初老の男。

「……そちらが金田一様、七瀬様、佐木様でございますね?お待ちしておりました。(わたくし)、山之内先生の執事の田代と申します。」

「あ、どうも田代さん。」

「どーも。金田一です。」

「ほう……!あなたがあの名探偵の…。」

 それまで柔らかな笑みを浮かべていた田代が、はじめが名乗った途端に表情を変えた。

「?」

 その豹変(ひょうへん)具合にはじめが思わず眉を(ひそ)めると、取り繕うように笑みを浮かべ、一同を促す。

「さっ…、どうぞ。ここからは船となります。」

 モーターボートに乗り込み、浮き島の館へと向かう。

「…あんま歓迎されてないみたいですね、あたし…。」

 ヒソリと宝田に囁けば、宝田もまたはじめに囁き返した。

「本当はきっと面白くないんですよ!長年仕えた執事の自分が遺産相続から外されているから…。」

(だったら、あたしよりも、むしろ宝田さんに当たりが強くなりそうなもんだけど…。)

 いまいち腑に落ちないものの、他に心当たりがある訳でもないし、今は取り敢えず無事に遺産相続の一件を終わらせられるかの方が重要である。

 はじめは目の前に迫る館へと意識を戻す。

 ザザァア……!

 接岸されたモーターボートから、順に降り立ったところでモーターボートを操っていた船頭が田代に頭を下げた。

「―――――では、あたしゃこれで…。」

「ご苦労様です。」

 バババババババ……!!!

「あれ?船戻っちゃった。」

「……これも、山之内センセの指示ですか?」

 佐木の呟きに、はじめが田代に尋ねる。

「ええ…!全て亡くなられた山之内先生のご指示でございます。」

「……そうですか。」

 周囲は深い湖。おまけに季節は間も無く冬。

 日中は多少気温が上がる為、小さな船でも行き来が可能だったが、北海道のこの辺りは日が落ちると気温が一気に下がり、氷が張るらしい。

(泳いで渡るのはまず無理……。)

 まぁ、例え季節が夏だったとしてもはじめは5m以上泳げないのだが。

(嫌な予感しかしない……。)

 ヤバイ所に来てしまった、という危機感がハンパ無い。

「それにしても、すっごい別荘!」

「ホントっスね―――――。絵になるな~!これがロシア風建築の屋根ですか―――!確かに玉ねぎみたいっスね―――!!」

 はじめが警戒心をヒシヒシと感じているのを尻目に、美雪と佐木は吞気にはしゃいでいた。

(やっぱり、連れて来たのは間違いだったかな……。)

 万が一の時は、この2人だけでも無事に帰さなくては…。

 はじめが最悪の場合を想定し、いざという時の“覚悟”を決める。

「どうぞ!こちらです。」

 田代の言葉と同時に、両開きの扉が重たげな音を立ててゆっくりと開く。

 ギイィ…!

 

「やあやあ!良くいらっしゃいました!おや?そちらのかわいいお嬢さんは?」

 はじめたちが館の中に入るなり、(やに)下がったニヤニヤとした笑いで美雪に歩み寄ってきたのは、酔っ払いの中年男。

(何だ?このオヤジ…。)

 因みに、“かわいいお嬢さん”の中に、はじめは入っていない。

 今日のはじめは、ネイビーのダウンジャケットに黒いニット帽、カーキのチノパンに黒いスノーブーツといったボーイッシュなものであり、黒のネックウォーマーで顔が半分隠れていた為、パッと見少年のようだった。一応、ダウンジャケットの下はハイネックのベージュのセーターを着ていたので体の線が分かるが、モコモコとしたダウンジャケットの上からでは男に見えても仕方が無い。

 日頃からボーイッシュな服装を好むはじめがガーリーな服装を好む美雪と一緒にいると、良くこうした勘違いが起こる為、はじめも既に慣れていた。美雪と違って肩程の長さの髪を無造作に後ろで括っているだけで、化粧っ気も無いので、薄着の夏ならばともかく、厚着している冬場は2人並んでいると初々しいカップルに間違われる事も少なく無いのだ。

 別にはじめが男っぽいという訳では無く、やや中性的だがある程度整った顔立ちをしているのだが、良く一緒にいるのが見た目も性格も女らしく、近所でも美少女と評判の美雪なので、体型が分からなければ黙っていると可愛らしい顔立ちの少年に見えてしまう。

 目の前の酔っ払いも、はじめを少年と勘違いしても不思議は無かった。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

「あの、ひょっとしてミステリー評論家の神明(じんめい)先生じゃないですか…?」

 最初は近付く酔っ払いに戸惑っていた様子の美雪だったが、男の顔に見覚えがあったらしく、本人に尋ねる。

「いやいや、良くご存知で!私はマスコミ嫌いであんまり表には出ないんだが―――――…。宝田くん!君のお知り合いかね?」

「ええ…。まあ、そんなところです。神明(じんめい)先生。」

 自分の事を知っている、という点が自尊心を満たしたらしく、神明(じんめい)はいっそう締まりの無い顔になった。

「はは~~~。ひょっとして例の助っ人がこの美少女かね?」

「い…、いえ!それはあたしじゃなくてあっちの方で―――――…。」

 ますます近付いてくる酔っ払い(神明)に、困惑しながらも美雪が助けを求めるようにはじめを見た。

「どーも…。」

「あ?この頭の悪そうなガキが!?」

 会釈して見せたはじめに、神明(じんめい)が眉を寄せる。

 どうやらジャケットを脱いでいないはじめを、まだ男と勘違いしているらしく、敵対心剥きだしで…。

「お言葉ですが、この人は一応、()の名探偵‐金田一耕助の孫なんですよ!」

「何ィ!?」

 宝田の言葉に、神明(じんめい)が信じられない、といった様子ではじめを振り返る。

「へぇ!そりゃ驚いたな!」

 そこに歩み寄って来たのは、はじめたちとそう変わらない年齢の高校生位の少年たちだった。2人とも整った顔立ちで、茶色の髪をしていたが、顔立ちに共通点は無く、服装もタイプが全く違う為、どうやら兄弟では無いらしい。

 最初に言葉を発した、髪質が真っ直ぐの、ラフな服装の少年が、はじめに向かって興味深そうに話しかける。

「金田一耕助と言えば、戦後間も無く起きた犯罪史上に残る大事件“獄門島”の連続殺人を解決に導いた、不世出(ふせいしゅつ)の名探偵だ。そのお孫さんと謎解き合戦が出来るとは光栄ですね!な、白馬くん!」

「ええ…。こんな所でお会いできるとは思っていませんでした。……あなたの事は存じていますよ。金田一(はじめ)さん、ですよね?()の名探偵‐金田一耕助氏のお孫さんにして、自身も数々の難事件を解決してきたIQ180の天才…。マスコミには一切顔を出さず、あなたが事件を解決してきた事は事件関係者以外には一切伏せられているので知名度はありませんが、警察関係者の間では有名だ……。特に、警視総監からは非公式ながら2度も表彰されている…。」

「け、警視総監から表彰?!」

 仕立ての良い黒いジャケットに、ストライプのワイシャツのやや癖毛の少年の言葉に、神明(じんめい)が目を剥いた。

「………あんたたちは?」

 はじめの事を知っているのは、事件関係者もしくは警察関係者位のもの。“知られていない情報”を知っている少年を、はじめが訝し気に見詰める。

「僕は白馬(さぐる)…。まだ若輩の身ですが、探偵を自任させていただいています。勿論、まだ資格は無いのでボランティアですがね……。そしてこっちが、」

「犬飼高志(たかし)です!山之内先生の隣の家に住んでいたのが縁で親戚同然のお付き合いをさせていただきました。今回は、どういう訳か遺産相続人の候補者に選ばれましてね!1人では心もとなかったので、クラスメイトの白馬君に着いてきてもらったんですよ。よろしく、金田一くん!」

 そう言って握手を求めて手を差し出すラフな服装の少年‐犬飼に、白馬が苦笑した。

「犬飼くん、それを言うなら金田一“さん”ですよ。彼女は女性です。」

「え?!あ、ごめんなさい…!」

「良いよ。慣れてる。……それより、白馬クンだっけ?何で、あたしの事を知ってんの?」

 慌てふためく犬飼を軽く流し、白馬に目を移す。

「あなたの事は、父から良く聞いていましたから。…それに、あなたは気付いていなかったでしょうが、実は警視庁内であなたと何度かすれ違った事があるんですよ。……一般人には決して口外しない、という条件で父の付き添いの下、あなたの解決した事件の調書を読ませてもらった事もあります。」

「調書を…?あ、白馬ってまさか……!」

「はい。白馬警視総監は僕の父です。」

 “調書”、“父”、そして“白馬”の姓。

 もしや、と思い当たった予想は当たっていたようだ。

 はじめを表彰した張本人、白馬警視総監に息子がいる、という話は聞いてはいたが、まさかこんな所で会うとは思わなかった。

 剣持(けんもち)を始め、捜査一課の刑事たちから聞いていた噂と随分印象が異なるのですぐには結び付かなかったのだ。

(イギリスかぶれの探偵気取りの嫌味なお坊ちゃん、って聞いてたんだけどな…。)

 自分から殺人事件に首を突っ込み、()()明智警視を30倍傲慢にして嫌な感じにさせた奴、ともっぱらの噂だったのだが、今目の前にいる彼からはそんな感じはしない。

 むしろ、その口調と態度からは傲慢さは微塵(みじん)も感じ取れず、謙虚さと品の良さを感じさせる。

 その時は、噂なんてあてにならないものか、とはじめも自己完結させた。

 

 

 




おや、はくばのようすが…?
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