金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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お待たせしました。ようやく登場人物が出そろいました。
次回から、いよいよ事件編です。
まさか、序盤の序盤だけで3話も使うとは…。
次回から、少しテンポアップしたいと考えています。


露西亜人形殺人事件 File3

「それにしても、こんな屋敷で推理合戦を試みるなんて、流石(さすが)ミステリー界の重鎮(じゅうちん)、山之内恒聖(こうせい)!シチュエーションも先生の初期の傑作、“露西亜(ろしあ)人形殺人事件”そっくりだ。当然、金田一さんも読まれてますよね?」

 好奇心に生き生きと目を輝かせた犬飼が、ダウンジャケットを脱ぐはじめに尋ねる。

「いや、全く。ミステリーには興味無いもんで…。」

「――――いや…、これは想像してたのとイメージが大分違うなぁ。でも、あなたのお祖父様も一見飄々(ひょうひょう)とした方だったようだし―――――。油断は禁物だ!ねぇ、神明(じんめい)先生。」

 はじめのしれっとした答えに、一瞬目を瞬かせた犬飼だったが、クスリ、と挑戦的な笑みを浮かべ、神明(じんめい)に話を振る。

「フン!相変わらず素人(しろうと)探偵気取りだな!たかだか、近所のつまらん殺人事件を解決したからといって、良い気にならん事だ!おい、田代くん!ブランデーだ!1番良い物を持って来い!どうせもう、誰も飲む者はいないんだ!」

 そう吐き捨ててドスドスと足音荒く部屋を出て行く神明(じんめい)を、その場にいた者たちが呆れた顔で見送った。

「やれやれ…。すっかり屋敷の主気分のようで…。」

「犬飼くん、口が過ぎますよ。」

「構うもんか。本当の事だよ。」

 特に、年若い犬飼は酒に溺れ、自宅のように振る舞う神明(じんめい)に呆れ果てている様子だった。白馬が窘めるが、撤回する気は無いらしい。

神明(じんめい)先生はお酒を飲むと気が大きくなりますから。最近、酒の量が増えておられるようで評論の原稿も以前のようなキレが無くなって…。単なる悪口で終わっているようなものも多くなってきましたね。」

「離婚がよっぽど応えたんじゃないの?」

 宝田の台詞(せりふ)に、コツリ、というヒールの音と共に入り込んできた声に、はじめが声の方を振り向く。

梅園(うめぞの)先生!」

(お水……?)

「もっとも、その離婚だって身から出た錆だけど…。」

 胸元を大きく露出した、派手な柄のワンピースを着た、メイクの濃い女が続ける。

「きゃ~!嘘!“死者の砂時計”でミステリー大賞獲ったあの梅園(うめぞの)先生!?」

「う~ん、絵になりますね!流石(さすが)ビジュアル系作家!服もサービス精神いっぱいで♡」

「な、何この子?!勝手にビデオなんて撮って…!」

 美雪がはしゃいだ声を出し、佐木も梅園(うめぞの)の挑発的な服装をズームするが、当の梅園(うめぞの)は佐木に引いていた。

「ちょ…、ちょっと佐木くん~!!す、すみません…。この子ちょっと変わってて…。」

()めろ佐木。撮るならせめて許可を取れ。」

「すみません…。」

 慌てた様子で美雪が梅園(うめぞの)に謝罪した為、はじめは佐木を叱責する側に回った。連れて来た以上は、この場での佐木の言動は、はじめに責任がある。

 佐木の無断撮影に対して、これまでも苦言が無かった訳では無い。だが、大抵は剣持(けんもち)やいつき、明智などのその時の引率者が断ってくれていた。しかし、今この場に頼りになる“大人”がいない以上、後輩である佐木の失態は先輩であるはじめの責任だった。

 宝田は一応“依頼人”という枠組みであるし、迷惑はかけられない。

 普段は割と自由にさせているはじめからの叱責に、佐木も思わず小さくなって梅園(うめぞの)からカメラを外した。

「すみません、コイツ撮影が趣味で…。普段からこうなんです。ネットにアップさせたりとか悪用は絶対にさせないんで、撮っても良いですか?」

「まぁ、それなら良いけど…。」

「ありがとうございます。」

「あ、ありがとうございます!」

 キチンと元凶を叱責した上で許可を求めてきたはじめに、梅園(うめぞの)も渋々だが許可を出した。すかさず頭を下げ、礼を言うはじめに(なら)い、佐木も頭を下げた。

 一瞬、気まずくなりかけた空気を変えるべく、美雪が梅園(うめぞの)に尋ねる。

「あの…、ひょっとして梅園(うめぞの)先生も遺産相続の候補者なんですか?」

「―――――らしいわね。山之内先生はあたしの師匠みたいなもんだから。もっとも遺産なんかもらわなくても、あたしは自分の稼ぎだけで十分潤ってますけど!」

 煙草をふかしなからフッと笑う梅園(うめぞの)だったが、それを聞いた宝田がはじめにこっそりと囁く。

「ウソウソ…!見得張ってんですよ…。あの人、一発屋なんです…。処女作の“死者の砂時計”は完璧なまぐれで、その後の作品がまるでミステリーになっていないから、あれは盗作じゃないかって噂もあるくらいで……。」

「へ~…。」

「宝田さん?ヒソヒソ話止めてくれる?あんたんとこの編集長に言い付けるわよ。」

 宝田の言葉を耳聡く聞き付けた梅園(うめぞの)に、宝田が慌てて誤魔化す。

「そ、そんな…。別にヒソヒソ話なんか…。ちょっと助っ人の金田一さんと今後の打ち合わせをしているだけで…。」

「あっそ!遺産相続戦やる気満々って訳ね!あさましい事!大手出版社の副編集長ともあろう人が…!それとも株で大借金抱えたって噂、ホントなのかしら?フフ…。」

「そういう話は止めてください!単なる噂ですよ!!」

(なるほどね…。)

 ふと横を見れば、白馬も犬飼から何やら耳打ちされている。漏れ聞こえる言葉から察するに、候補者のみが知る人間関係を教えられているようだった。

 やはり、ここに集められた候補者たちは何かしらの事情を抱えているらしい。

 はじめが、そんな感想を抱いた時だった。

「きゃあ!止めてください!!」

 ガタ――――――ン!!という何かが倒れるような音と共に、女性の叫び声が響く。

「「?!」」

 バッ、と白馬とはじめが同時に身を翻して声の聞こえた隣の部屋へと向かう。

 

神明(じんめい)さん?!何をなさってるんですか!?」

 はじめたちとそう年の変わらない若い女性に、後ろから抱き着いている神明(じんめい)に白馬が声を荒げた。

「な~に、桐江(きりえ)くんじゃ棚の上のブランデーには手が届かないから、持ち上げてあげようとしているだけさ。いちいち、デカい声を出すんじゃないよ、お坊ちゃん…?」

「や、止めてください!1人で取れますから……!」

 ピッタリと背中に張り付き、後ろから片手で腹部を固定したまま、片手で太ももを撫でまわす神明(じんめい)に、現在進行形でセクハラの被害者となっているメイドの桐江(きりえ)想子(そうこ)が身をよじりながら拒否するが、神明(じんめい)が解放する様子は無い。

「良い加減にしてください!」

 業を煮やした白馬が神明(じんめい)の手を振り解き、桐江(きりえ)を背後に庇った。

「!何をする!?」

 自分のセクハラを棚に上げ、白馬に詰め寄ろうとする神明(じんめい)だったが、白馬に掴みかかる前に、その目の前にズイッとブランデーの瓶が突き出される。

「どーぞ?ブランデーです。………それ以上は止めた方が良いんじゃないですか?今の醜態、ぜーんぶ映ってますけど。」

「何だと!…?!」

 佐木を親指で示しながら告げるはじめに、いきり立って彼女に向き直る神明(じんめい)だったが、不意に唖然としたようにその勢いが立ち消えた。

「お、女だったのか…?!」

(そーいや、勘違いしてたんだっけ…。このオッサン。)

 先程とは異なり、ダウンジャケットを脱ぎ、防寒具の一切を取り去ったはじめは、もう少年には見えなかった。

 美雪と違って決して胸は大きく無いが(それでも一応Cカップはあるのだが)、ウエストの細さはセーターの上からでも良く分かる。

 諸事情により、体質的にカロリー消費の激しいはじめは所謂(いわゆる)“いくら食べても太らない”タイプの人間で、モデルばりに細い。

 本人的には美雪のような女性らしい体付きを羨ましく思う気持ちもあるのだが、そういうはじめも同世代の女子からは羨ましく思われている1人である。

 神明(じんめい)が一瞬(ひる)み、はじめを後押しするかのようにしっとりと柔らかな声がそれに続いた。

「相変わらずお見苦しいですね、神明(じんめい)先生?それじゃ、最初から遺産相続ゲームの勝負から降りたも同然ですわね!」

 くすくすと軽やかに笑いながら部屋に入ってきたのは、髪を肩程の長さに切り揃えた、黒いスーツの女性だった。年の頃は20代後半から30代程だろうか。梅園(うめぞの)とは異なり、薄化粧で服装も地味だが、素直に綺麗な人だな、とはじめは思った。

幽月(ゆづき)くん…!」

 くすくすと笑う美女に気まずくなったのか、神明(じんめい)が一瞬狼狽(うろた)えたような声を上げた。

「宝田さん…、あの人は?」

挿絵(さしえ)画家の幽月(ゆづき)来夢(らいむ)先生…。あの方も候補なんです…。」

「へぇ…。」

 まぁ、このタイミングで介入してくる、という事はそういう事だろうとは思っていたが。

「あの方が幽月(ゆづき)さんでしたか…。」

「?知ってんの?」

 いつの間にか隣に立っていた白馬の呟きに、思わず彼の顔を仰ぎ見る。

「ええ…。山之内先生の作品は僕も拝読させていただいていました。お顔は存じ上げませんでしたが、山之内先生のファンの間ではある意味有名ですから…。」

 意味深な白馬の言葉に、どういう意味か尋ねようとするも、その前に神明(じんめい)が声を張り上げた事ではじめの意識が逸れる。

「フン!挿絵(さしえ)画家(ごと)きが、古今東西のミステリーを全て読破しているこの私と勝負だと?片腹痛いわ!!」

「フフ…。私もそう思ったので、ちょっと助っ人を連れて参りましたのよ…。」

 自分の優位を言い聞かせるように吐き捨てる神明(じんめい)に、幽月(ゆづき)が意味有り気に微笑んだ。

「へぇ…。幽月(ゆづき)さんも助っ人を?」

「ええ!」

 犬飼の言葉に頷いた幽月(ゆづき)が扉を振り返る。

「ご紹介しますわ。奇術師のスカーレット・ローゼスさんです。」

 何気無く振り返ろうとしたはじめだったが、不意に背筋を走った覚えのある寒気にはじめが息を呑む。

 バッと振り返ったはじめの目に映ったのは、スラリとした長身を黒いスーツに包んだ1人の男。

(この男――――――――…!)

 鼻から上を覆い隠すふざけた仮面で顔を隠しているが、間違い無い。

 背筋に走った一瞬の殺気、体格・髪型も記憶と一致する。

 “地獄の傀儡師”高遠(たかとお)遙一(よういち)

 はじめと因縁のある、逃亡中の連続殺人犯にして犯罪コーディネーター。

(何でコイツがここに――……?)

 まさか、この中に“マリオネット”が…、高遠(たかとお)の息のかかった“復讐者”が紛れ込んでいるのか?はじめが最初から感じていた嫌な予感は、この男がいる為だったのか…?

 はじめに緊張が走る。

 ――――――その様子を、隣に立っていた白馬だけが気付いていた。

 はじめを見て、フッと口元だけで笑った“スカーレット・ローゼス”に、はじめもまた気圧されないように笑みを浮かべる。

「どうかしましたか?」

「いや…。その仮面はどうされたんですか?」

 声すら変えずに、何食わぬ顔で尋ねてくる“スカーレット・ローゼス”に逆に尋ね返した。

「ああ…。これは傷痕を隠してるんです。以前、奇術の練習中に酷い火傷を負いましてね…。」

「――――なるほど…。失礼しました。」

 “傷痕がある”、そう言われれば取って見せてくれ、とは言い辛いのが人間だ。

 現に、美雪は佐木も最初は仮面に驚いていたものの、それ以上触れない事に決めたらしい。

 しかし、何故こんな分かりやすい変装を選んだのかが分からない。“高遠(たかとお)遙一(よういち)”の変装技術は一級だ。恐らく、()の“怪盗紳士”や“怪盗キッド”にも並ぶだろう。

 仮に“マリオネット”の“舞台”を観に来た、というのであればもっと怪しまれない変装を可能にする実力はあるのだ。

 あまりにも堂々としている為、美雪や佐木からも逆に怪しまれていないものの、“高遠(たかとお)遙一(よういち)”を知る者ならばすぐに分かる程度の変装しかしていないのは妙だった。

 それに、自分(はじめ)がいると分かっているなら、もっとやりようがあった(はず)

 そうならば、考えられるのは1つ…。

(高遠(コイツ)にとっても、この接触は予想外だった…?)

 高遠(たかとお)自身、偶然この館にやって来た可能性も無くは無い。

 恐らく、助っ人に呼んだ、と主張する幽月(ゆづき)高遠(たかとお)の正体を知っている。いずれにせよ、幽月(ゆづき)が“鍵”を握っている事は間違い無いだろう。

 “スカーレット・ローゼス”を不自然でない程度に注視しながら、思考を巡らせていたはじめの意識を戻したのは、新たに響いた声だった。

「え~、では、皆さんお揃いでしたら、そろそろ応接間の方へお越しください!」

 扉の前で一同を誘導した、スーツ姿の気弱そうな眼鏡の青年の声に、候補者たちの間に緊張が走ったのが分かる。

(いよいよか…。)

 “スカーレット・ローゼス”を警戒しながら、宝田や美雪、佐木の安全を確保する。はじめが密かに気合を入れ直し、候補者たちに続いて歩き出した。

 

 ―屋敷の東側、時計塔―

 先程の声の主、眼鏡の青年‐弁護士の有頭(ありとう)大介に促され、はじめは5人の候補者たちと共に、時計塔の一室へと場所を移していた。

「では…、これから山之内先生からのメッセージを公開させていただきます。(わたくし)、先生の顧問弁護士の代理人として派遣されました有頭(ありとう)大介と申します。(わたくし)は当弁護士事務所を代表しまして、先生の指示を守る監視係として参りました。公平を期す為、顧問弁護士である(わたくし)の上司から捜し当てるもう1つの遺言状の中身、またその隠し場所などは(わたくし)自身一切知らされておりません。ですから、当然ながら遺言状に関する質問などは一切お受け出来ませんので、あしからず…。」

「前置きは良いからさっさと始めたまえ!」

 落ち着いたインテリアの中で異彩を放つテレビとDVDプレーヤーの前に立った有頭(ありとう)が説明するが、目をギラギラとさせた神明(じんめい)が急かす。

「…では、」

 一瞬、何か言いたそうにした有頭(ありとう)だったが、反論する事無く小脇に抱えていた茶封筒の封をペーパーナイフで切る。

 どうやら、それに遺言状の1つが入っていたらしく、リボンと(ろう)でしっかりと封がされていた。

 出て来たのは、1枚のDVD。

 そして、5人の候補者たちとその助っ人と付き添いが見守る中、代理人である有頭(ありとう)の手によってDVDが再生された―――――――…。

 

 

 




うっかりすると、白馬が全く登場しない件…。


因みに、原作ではVHSだった遺言状ですが、時代の流れに合わせてDVDにしました。
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