金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~ 作:ミカヅキ
次回から、いよいよ事件編です。
まさか、序盤の序盤だけで3話も使うとは…。
次回から、少しテンポアップしたいと考えています。
「それにしても、こんな屋敷で推理合戦を試みるなんて、
好奇心に生き生きと目を輝かせた犬飼が、ダウンジャケットを脱ぐはじめに尋ねる。
「いや、全く。ミステリーには興味無いもんで…。」
「――――いや…、これは想像してたのとイメージが大分違うなぁ。でも、あなたのお祖父様も一見
はじめのしれっとした答えに、一瞬目を瞬かせた犬飼だったが、クスリ、と挑戦的な笑みを浮かべ、
「フン!相変わらず
そう吐き捨ててドスドスと足音荒く部屋を出て行く
「やれやれ…。すっかり屋敷の主気分のようで…。」
「犬飼くん、口が過ぎますよ。」
「構うもんか。本当の事だよ。」
特に、年若い犬飼は酒に溺れ、自宅のように振る舞う
「
「離婚がよっぽど応えたんじゃないの?」
宝田の
「
(お水……?)
「もっとも、その離婚だって身から出た錆だけど…。」
胸元を大きく露出した、派手な柄のワンピースを着た、メイクの濃い女が続ける。
「きゃ~!嘘!“死者の砂時計”でミステリー大賞獲ったあの
「う~ん、絵になりますね!
「な、何この子?!勝手にビデオなんて撮って…!」
美雪がはしゃいだ声を出し、佐木も
「ちょ…、ちょっと佐木くん~!!す、すみません…。この子ちょっと変わってて…。」
「
「すみません…。」
慌てた様子で美雪が
佐木の無断撮影に対して、これまでも苦言が無かった訳では無い。だが、大抵は
宝田は一応“依頼人”という枠組みであるし、迷惑はかけられない。
普段は割と自由にさせているはじめからの叱責に、佐木も思わず小さくなって
「すみません、コイツ撮影が趣味で…。普段からこうなんです。ネットにアップさせたりとか悪用は絶対にさせないんで、撮っても良いですか?」
「まぁ、それなら良いけど…。」
「ありがとうございます。」
「あ、ありがとうございます!」
キチンと元凶を叱責した上で許可を求めてきたはじめに、
一瞬、気まずくなりかけた空気を変えるべく、美雪が
「あの…、ひょっとして
「―――――らしいわね。山之内先生はあたしの師匠みたいなもんだから。もっとも遺産なんかもらわなくても、あたしは自分の稼ぎだけで十分潤ってますけど!」
煙草をふかしなからフッと笑う
「ウソウソ…!見得張ってんですよ…。あの人、一発屋なんです…。処女作の“死者の砂時計”は完璧なまぐれで、その後の作品がまるでミステリーになっていないから、あれは盗作じゃないかって噂もあるくらいで……。」
「へ~…。」
「宝田さん?ヒソヒソ話止めてくれる?あんたんとこの編集長に言い付けるわよ。」
宝田の言葉を耳聡く聞き付けた
「そ、そんな…。別にヒソヒソ話なんか…。ちょっと助っ人の金田一さんと今後の打ち合わせをしているだけで…。」
「あっそ!遺産相続戦やる気満々って訳ね!あさましい事!大手出版社の副編集長ともあろう人が…!それとも株で大借金抱えたって噂、ホントなのかしら?フフ…。」
「そういう話は止めてください!単なる噂ですよ!!」
(なるほどね…。)
ふと横を見れば、白馬も犬飼から何やら耳打ちされている。漏れ聞こえる言葉から察するに、候補者のみが知る人間関係を教えられているようだった。
やはり、ここに集められた候補者たちは何かしらの事情を抱えているらしい。
はじめが、そんな感想を抱いた時だった。
「きゃあ!止めてください!!」
ガタ――――――ン!!という何かが倒れるような音と共に、女性の叫び声が響く。
「「?!」」
バッ、と白馬とはじめが同時に身を翻して声の聞こえた隣の部屋へと向かう。
「
はじめたちとそう年の変わらない若い女性に、後ろから抱き着いている
「な~に、
「や、止めてください!1人で取れますから……!」
ピッタリと背中に張り付き、後ろから片手で腹部を固定したまま、片手で太ももを撫でまわす
「良い加減にしてください!」
業を煮やした白馬が
「!何をする!?」
自分のセクハラを棚に上げ、白馬に詰め寄ろうとする
「どーぞ?ブランデーです。………それ以上は止めた方が良いんじゃないですか?今の醜態、ぜーんぶ映ってますけど。」
「何だと!…?!」
佐木を親指で示しながら告げるはじめに、いきり立って彼女に向き直る
「お、女だったのか…?!」
(そーいや、勘違いしてたんだっけ…。このオッサン。)
先程とは異なり、ダウンジャケットを脱ぎ、防寒具の一切を取り去ったはじめは、もう少年には見えなかった。
美雪と違って決して胸は大きく無いが(それでも一応Cカップはあるのだが)、ウエストの細さはセーターの上からでも良く分かる。
諸事情により、体質的にカロリー消費の激しいはじめは
本人的には美雪のような女性らしい体付きを羨ましく思う気持ちもあるのだが、そういうはじめも同世代の女子からは羨ましく思われている1人である。
「相変わらずお見苦しいですね、
くすくすと軽やかに笑いながら部屋に入ってきたのは、髪を肩程の長さに切り揃えた、黒いスーツの女性だった。年の頃は20代後半から30代程だろうか。
「
くすくすと笑う美女に気まずくなったのか、
「宝田さん…、あの人は?」
「
「へぇ…。」
まぁ、このタイミングで介入してくる、という事はそういう事だろうとは思っていたが。
「あの方が
「?知ってんの?」
いつの間にか隣に立っていた白馬の呟きに、思わず彼の顔を仰ぎ見る。
「ええ…。山之内先生の作品は僕も拝読させていただいていました。お顔は存じ上げませんでしたが、山之内先生のファンの間ではある意味有名ですから…。」
意味深な白馬の言葉に、どういう意味か尋ねようとするも、その前に
「フン!
「フフ…。私もそう思ったので、ちょっと助っ人を連れて参りましたのよ…。」
自分の優位を言い聞かせるように吐き捨てる
「へぇ…。
「ええ!」
犬飼の言葉に頷いた
「ご紹介しますわ。奇術師のスカーレット・ローゼスさんです。」
何気無く振り返ろうとしたはじめだったが、不意に背筋を走った覚えのある寒気にはじめが息を呑む。
バッと振り返ったはじめの目に映ったのは、スラリとした長身を黒いスーツに包んだ1人の男。
(この男――――――――…!)
鼻から上を覆い隠すふざけた仮面で顔を隠しているが、間違い無い。
背筋に走った一瞬の殺気、体格・髪型も記憶と一致する。
“地獄の傀儡師”
はじめと因縁のある、逃亡中の連続殺人犯にして犯罪コーディネーター。
(何でコイツがここに――……?)
まさか、この中に“マリオネット”が…、
はじめに緊張が走る。
――――――その様子を、隣に立っていた白馬だけが気付いていた。
はじめを見て、フッと口元だけで笑った“スカーレット・ローゼス”に、はじめもまた気圧されないように笑みを浮かべる。
「どうかしましたか?」
「いや…。その仮面はどうされたんですか?」
声すら変えずに、何食わぬ顔で尋ねてくる“スカーレット・ローゼス”に逆に尋ね返した。
「ああ…。これは傷痕を隠してるんです。以前、奇術の練習中に酷い火傷を負いましてね…。」
「――――なるほど…。失礼しました。」
“傷痕がある”、そう言われれば取って見せてくれ、とは言い辛いのが人間だ。
現に、美雪は佐木も最初は仮面に驚いていたものの、それ以上触れない事に決めたらしい。
しかし、何故こんな分かりやすい変装を選んだのかが分からない。“
仮に“マリオネット”の“舞台”を観に来た、というのであればもっと怪しまれない変装を可能にする実力はあるのだ。
あまりにも堂々としている為、美雪や佐木からも逆に怪しまれていないものの、“
それに、
そうならば、考えられるのは1つ…。
(
恐らく、助っ人に呼んだ、と主張する
“スカーレット・ローゼス”を不自然でない程度に注視しながら、思考を巡らせていたはじめの意識を戻したのは、新たに響いた声だった。
「え~、では、皆さんお揃いでしたら、そろそろ応接間の方へお越しください!」
扉の前で一同を誘導した、スーツ姿の気弱そうな眼鏡の青年の声に、候補者たちの間に緊張が走ったのが分かる。
(いよいよか…。)
“スカーレット・ローゼス”を警戒しながら、宝田や美雪、佐木の安全を確保する。はじめが密かに気合を入れ直し、候補者たちに続いて歩き出した。
―屋敷の東側、時計塔―
先程の声の主、眼鏡の青年‐弁護士の
「では…、これから山之内先生からのメッセージを公開させていただきます。
「前置きは良いからさっさと始めたまえ!」
落ち着いたインテリアの中で異彩を放つテレビとDVDプレーヤーの前に立った
「…では、」
一瞬、何か言いたそうにした
どうやら、それに遺言状の1つが入っていたらしく、リボンと
出て来たのは、1枚のDVD。
そして、5人の候補者たちとその助っ人と付き添いが見守る中、代理人である
うっかりすると、白馬が全く登場しない件…。
因みに、原作ではVHSだった遺言状ですが、時代の流れに合わせてDVDにしました。