金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~ 作:ミカヅキ
そして、次回からテンポアップします、といって出来なかった間抜けはここに居ます←
次回は!次回こそは事件編に行きますから…!
ウィィ……ン…
弁護士の
パッとテレビのモニターが切り替わり、痩せ衰えた老年の男が映し出された。
『――――――やあ…、私の大切な友人であり愛すべきクインテットのメンバーでもある皆さん――…。皆さんがこの映像をご覧になる時、私は残念ながらこの世にはいない……。』
(あれが山之内
宝田の持参した書類の写真からは見る影も無い。死の数週間前に撮られたというだけあって、ほぼ骨と皮だけにまで痩せ衰えているが、そのギラギラとした眼光が不気味だった。
『私の最期のミステリーに付き合っていただき、心から感謝する。さっそくだが、あらかじめお伝えしてある暗号文についてお話しよう。実は、あの暗号文はそれだけでは意味を成さない。もう1つ、暗号文と対になったメッセージを用意してあるのだ。後ろを見たまえ!』
振り返った先にあったのは、暖炉の上に並んだそれぞれが弦楽器を抱えた5つのロシア人形。
『第1バイオリンのコンスタンチン、第2バイオリンのターニャ、ビオラのオリガ、チェロのエミール、コントラバスのイワン。この君たちと同じクインテットを構成する5体のロシア人形こそが―――――、全ての謎を解き明かす第2の暗号なのだ!これらのロシア人形と、事前に渡したあの“詩”を合わせた謎を解いた時、私の第2の遺書はその者の手に渡る―――…。―――なお、この推理合戦の参加者は期限の5日間、強制的に館に留まってもらう事になる。さあ!参加する意思があるなら受け取って欲しい。用意された君たちのパートの楽器を!』
その言葉に壁際に目をやれば、ソファに上に置かれた2つのバイオリンと立てかけられたビオラ、チェロ、コントラバスの3つの楽器。
(あの楽器はその為のものだったのか……。)
部屋に入った時から気になってはいたが…。
『では、また夕食前にお会いしよう。クインテットの諸君…。』
その言葉を最後に、DVDが終わる。
「―――では…。参加意思がお有りの方は、ご自分のパートの楽器をお受け取り下さい。」
「言われるまでもないな!やる気でなければこんな北海道の山奥くんだりまで来るものか!」
「全くね…。あたしもこのバイオリンいただくわ。」
「僕は、この第1バイオリンを頂きます。」
「あたしはビオラね!」
梅園、犬飼、
「どうしました宝田さん?取りに行かないんですか?」
動かない宝田に訝し気に尋ねると、ビクッと一瞬
「え!?ええ、もちろん行きますよ。このチェロいただきます。」
(…?)
宝田の態度に何か引っかかるものを感じたものの、この場で尋ねても彼は何も語らないだろう、という確信があった。
聞くなら他に誰もいない所が良い。
候補者たちが暗号についてあれこれと議論を交わすのを背後に、はじめが暖炉上の5体のロシア人形を眺める。
(楽団は前から順に…、首を刈られた…。)
大きさの異なる5体の人形。そして、楽器。
(楽しいリズム…。)
何か掴めそうな感覚があったものの、不意に響いた大声で、はじめの意識が引き上げられた。
「何だと小僧!!」
何事かと振り返れば、
(合わないなこの2人…。)
「
間に挟まれる形になった白馬が2人を宥めるが、そこに一石を投じるように艶やかな声が響く。
「―――――おやおや、皆さん…。
“スカーレット・ローゼス”の言葉に、
「ふと、口にしたヒントで競争相手が得をする事もありますからね。気を付けなくては……!」
「ちっ……!!私は一旦部屋に戻らせてもらう……!こんなやかましい所で暗号解読なんか出来るか!!」
ドンッ!と犬飼を突き飛ばし、
「そうね…。あたしも部屋でちょっと休ませてもらうわ。」
「では、すみません、私も…。移動続きで疲れてしまって……。」
気まずい空気を振り払うかのように梅園と宝田がそれに続いた。
「宝田さん。部屋に入ったらまず鍵をかけてください…。それから、必要以上に1人で屋敷の中を出歩かないように…。」
梅園の後に着いて行こうとする宝田に、はじめがそっと囁く。
宝田も、来る途中とは異なり素直に頷いた。彼も、ここに来て何かしら感ずるものがあったのかもしれない。
「わかりました…。では、金田一さん。また夕食の時に…。」
「ええ…。」
どことなく疲れたような顔で出て行く宝田を見送り、はじめが“スカーレット・ローゼス”へと目を移す。
「…確か金田一さん、でしたか?私が何か?」
「…いえ、随分と自信有り気でいらっしゃるので、つい…。」
「おや、そう見えましたか?私もマジックはプロですが、暗号解読は
「ご
どこか冷え冷えとした空気が2人の間に流れるが、それは不意に断ち切られた。
「それじゃ、あたしたちも少し部屋で休みましょうか。ね!ローゼスさん?」
「…ええ、そうですね。行きましょう、
意味深な
「それでは皆さん、また
不敵な笑みを浮かべ、
「あの野郎…。」
――――――そんなはじめの様子を、白馬がじっと見ていた。
「美雪、佐木。」
「なあに?」
「どうしました?先輩。」
扉が完全に閉まったのを見届けてから、はじめが美雪たちの方を振り返る。
「田代さんに頼んで、ちょっとこの屋敷の中見せてもらってくる。お前らはここにいろ。」
「え?1人で?」
「それなら、僕も一緒に…。」
「良いから。お前らには別に頼みたい事もあるんだよ。」
立ち上がろうとした佐木を制止し、自分の斜め掛けのリュックから取り出したメジャーとメモ帳を、ボールペンと一緒に2人に放る。
「それで人形のサイズ測っといてくんない?ついでに、どの人形がどの楽器かもメモっといて。大きさ一緒で分かりにくいから。あと、佐木は写真も。」
「あ、うん。分かったわ。」
「了解です!」
美雪がこうしたサポートをするのは既に恒例とも言えるし、佐木もはじめの助手、を自負しているだけあって嬉々として頷いた。
「あ、それと白馬クン。」
「?はい。」
人差し指でちょいちょい、と招くはじめに、不思議そうな顔を見せつつも白馬が歩み寄る。
「1分だけ時間くんない?すぐ終わるからさ。」
「僕は構いませんが…。」
「犬飼クンだっけ?ちょっと白馬クン借りるよ。」
「あ、はい!」
チロリ、と送られた視線に、犬飼も詳細は分からないものの了承する。
それに頷き、白馬に「こっち。」と指で合図し、扉の外へと促す。
廊下に出て、3m程扉から離れた場所で壁にもたれ、はじめが白馬に切り出した。
「…1分って言った手前、すぐに本題に入らせてもらうけど、その前に確認。」
「何でしょう?」
「探偵志望って聞いたけど、ポーカーフェイスと演技力に自信は?」
「…役者ではありませんので、本業には劣るでしょうがそれなりには…。」
「殺人犯が目の前にいても平常心を保てる?」
「…動揺を表情に出すな、という意味でしたら。」
はじめの言葉に、最初は戸惑っていた白馬だったが、至極真面目なはじめの目を見て表情を引き締める。
「…なら、教えとく。迷ったけど、知らない事程危ない事は無いから…。」
「…どういう意味ですか?」
「………この屋敷の中に、連続殺人犯が紛れ込んでる。」
「な?!」
「シッ…!美雪たちに聞こえる……!!」
はじめの小声での制止に、白馬もまた声を潜めて尋ねる。
「…一体、どういう事です…?!」
「…あの“スカーレット・ローゼス”とか言う奇術師、あいつは
「?!あの“地獄の
密やかな、しかし緊迫した口調で告げられる情報に、さしもの白馬も驚く。しかし、告げたはじめが驚く程に彼はすぐさま納得して見せた。
「成る程…。それで納得がいきました。」
「納得?」
「金田一さんの、あの時の様子ですよ。あの男が登場した時、一瞬ですが表情が強張っていましたし、先程彼らが部屋を出る直前にも険しい表情でしたから…。一瞬だったので、僕以外に気が付いた人はいないかと思いますが……。」
「…良く見てんね…。」
「話は戻すけど、あいつが“助っ人”としてここに来たっていうのは、たぶん嘘じゃない。少なくとも、
「…確かなんですか?」
「まぁ、経験上の勘かな。…今回の遺産相続こそがあいつの仕掛けた“舞台”だと言うなら、あんなにあからさまに怪しい、雑な変装はして来ないだろうし。“地獄の
はじめの推測に、白馬が真剣に耳を傾ける。
悪名高きサイコキラー、“地獄の
その彼が、唯一と言って良い執着心を向けているのが目の前にいる女子高生‐金田一
その因縁は1年程前、北海道の
その事件こそ、
自身の“完全犯罪”を暴いたはじめに、以来
恐らく、この世で最も
「あいつがこの屋敷で何かをする可能性は低いと思う。一定のボーダーラインさえ踏み込まなければ何もしないと思うけど…。でも、無防備でいるには危険過ぎる相手である事は間違い無いからね…。白馬クンさ、犬飼クンに探偵として依頼されてこの屋敷に来たんでしょ?」
「ええ。」
力強く頷く白馬に、はじめが念を押す。
「犬飼クンと無事にこの屋敷を出たかったら、絶対に犬飼クンを1人で行動させちゃダメだ。」
「どういう事です?」
「この屋敷は周囲を湖に囲まれた天然の密室…。それに、数十億の遺産がかかった“ゲーム”の勝者はたった1人だ。正直なトコ、あたしは今すぐここで傷害か殺人が起こってもおかしく無いと思ってる。」
「それは…!」
「何事も起こらなければ笑い話で済むんだ。それに越した事は無いけど、この遺産相続の話を聞いた時から嫌な予感が止まらない。でも、悪戯にそんな事公言する訳にもいかないからね…。出来れば、
「犬飼くんにはどこまで…?」
どの程度教えておいた方が良いのか。そう尋ねる白馬に、はじめが首を振る。
「余計な不安は煽らない方が良い。こんな閉鎖的な空間じゃ、パニックなんて起こった日にはあっという間に伝染する。外部と連絡が取れないなら尚更ね。」
そう。携帯も取り上げられ、5日間は強制的にこの屋敷の中に留められているこの状況下で、下手な情報開示は危険と言えた。
「……キミにも、特に
いくら“探偵”を名乗っているとは言え、自分よりも年下の少年にどこまで伝えるべきかは迷いがあった。
しかし、はじめ1人で美雪たちと5人の候補者たちに目を配るのは無理がある。
それならば、自衛の為にもある程度の情報を伝えた方が安全だと考えたのだ。
「いいえ。教えていただいてありがとうございます。情報は何よりの武器に成り得ますから。」
柔らかな笑みを浮かべて
「ああ、それと…。」
「?」
不意に悪戯っぽい笑みを浮かべた白馬に、はじめが首を傾げる。
「くん付けが言い辛いのであれば、呼び捨てで構いませんよ?はじめさん。」
キョトリ、と目を瞬かせるはじめにフフッと笑みを漏らした白馬が続けた。
「本当は、あなたとはずっとお話してみたかったんです。こんな状況じゃなかったらゆっくりお茶でもご一緒したいところですが、それはまたの機会に取っておく事にしましょう。」
「へ?」
明智に勝るとも劣らない美貌の持ち主に、好意的に微笑まれながらそんな事を言われると、いくら普段女子力が無いだの、枯れているだの散々言われているはじめでも少しは動揺する。
思わず間抜けな声が漏れ、頬が熱くなったのが分かった。恐らく傍から見ても赤く色付いている事だろう。
とっくの昔に1分は過ぎてしまったが、はじめの頭からは最初に提示した時間の事など、すっかり抜けていた――――――。
意味深()な白馬クン…に、うっかりときめくはじめちゃん。だってJKだもの…。