金田一少女の事件簿~元祖高校生探偵と小さくなった名探偵~   作:ミカヅキ

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お待たせしました!やっと事件編に入りました…。
まさか、丸々4話序盤に使うとは…。

今後はペースアップ!
……出来ると良いなぁ………。


露西亜人形殺人事件 File5

 ――――――それから5時間後。

 5人の候補者と、その付き添いの人間たちは再び時計塔に集まっていた。しかし、先程の部屋よりも広く、ソファーの作りもゆったりと(くつろ)げるようになっていた。

 午後10時から、再び山之内恒聖(こうせい)の遺したDVDが公開される事になっている為、各々暗号を考えたり、出された茶や酒を飲むなどして暇を潰していたところである。

「―――――お腹減ったな…。」

 こんな事なら、持参したお菓子でも持ってくるんだった、と独り()つはじめを美雪と佐木が宥める。

「夕食までもう少しよ。後30分位だもの!」

「そうですよ。後ちょっとです。」

「だいたい、なんでゆーしょくが午後10時半なんだよ…。フツー、もうちょっと早くない?」

「ロシアは白夜(びゃくや)の国ですから、夕食も遅いんですよ、きっと!」

「はい!はじめちゃん、チョコレートよ。」

 血糖値が下がって思考能力が低下しだしたのか、喋り方が徐々に舌っ足らずになり始めたはじめに、慌てて美雪が個包装された小さな板チョコをポーチから取り出し、何枚か差し出す。

「さんきゅー…。」

 チョコレートを口に含み、ポリポリしだしたはじめの顔色がやや赤みがかってきたのを確認し、美雪がホッと息を()いた。

「もう…!いつも持ってるチョコレートはどうしたの?!」

「カバンごと部屋に置いて来た…。」

「持ち歩かなきゃ意味ないでしょ!」

「サーセン。」

 全く反省していないはじめだが、彼女の体質上、ある意味死活問題とも言える為、美雪の説教は止まらない。

「また倒れても知らないわよ?!」

「ゴメンて…。」

「倒れる、とは…?はじめさん、どこか体の具合でも…?」

 そのやり取りを聞き(とが)め、白馬がはじめに尋ねる。

「や、違う違う。ちょっと体質的にね…。」

「はじめちゃんは、頭を使い過ぎると低血糖を起こし易くなるの。普通に3食ちゃんと食べてるなら問題無いんだけど、今日は夕食の時間が遅いし、暗号解読で頭使ったから…。」

 はじめの簡潔過ぎる否定に、美雪が補足した。

 はじめも外出する際には気を付けており、普段からエネルギーになり易いチョコレートを持ち歩いているのだが、溶けやすいという性質上ポケットに入れて持ち歩く訳にもいかず、つい面倒くさがってリュックごと部屋に置いてきてしまったのだ。

「将棋棋士みたいですね。」

「それ、前にも言われたな…。」

 驚いたように呟く白馬に、はじめが3枚目のチョコレートをポリポリしながら呟く。

 プロの将棋棋士は、常に数十手先を考えて脳を酷使している為、1回の対局で体重が2~3kg落ちる事もある程カロリー消費が激しいと言うが、はじめもそれに近い。

 IQ180というその頭脳故か、あるいは単にはじめの燃費が悪いのか本人には分からないが、祖父に言わせればはじめは“色々考え過ぎる”のだそうだ。

 その情報処理能力の高さ故に、普通の人間が2~3しか終えられない事をはじめは30も40もこなしてしまう。特にそれが顕著に表れるのがパズルなどのロジックを必要とするもの。

 極端に言えば、普通の人間が1つのヒントで得る事が出来るのは1つの情報のみだが、はじめはそれを多面的に考える事で1つのヒントから3~4つの情報を引き出す事が出来るのだ。

 しかし、当然その分脳はエネルギーを消費する。

 はじめがその食事量の割に痩せているのも、それだけエネルギー消費が激しい為である。

 また、そのIQの高さと学校の成績が比例していないのも、この体質が要因の1つでもあった。

 生来の面倒くさがりであるという理由も無くは無かったが、単にお菓子などの持ち込みの出来ない学校では余計なエネルギーを使いたくなかった、という理由が大きい。日常生活でも無意識に“色々と考え過ぎて”しまい、すぐにお腹が空いてしまうのに、余計なカロリーを勉強に回そうとする程、はじめは真面目では無かった。

 流石(さすが)に高校生ともなると、そこまで極端にお菓子の持ち込みが制限される程校則も厳しくないものの、元々面倒くさがり屋のはじめが心を入れ替える程の理由では無い。

 まあ、それが理由の全てでは無かったが…。

 

 閑話休題(かんわきゅうだい)

 

 リーンゴーン…!

 リーンゴーン…!

 リーンゴーン…!

「――――あっ!10時の鐘だわ。」

「後30分か…。ん?」

 美雪の声にはじめが腕時計に目をやるが、不思議そうな顔をしたのに白馬が気付く。

「どうしました?」

「いや、時計が遅れてたみたいだ。あたしの時計だとまだ9時55分になってる。」

「いえ、この時計塔の時計自体が進んでいるようですね。まだ9時55分38秒コンマ68です。僕の時計は年に0.001秒しか狂いませんから…。」

 はじめの言葉に、自身の懐中時計を確認した白馬が告げた。

「随分良い時計持ってんね…。」

(流石(さすが)お坊ちゃん…。)

 高校生が持つにしては高価な時計に、はじめが内心呆れるが、鐘の音を聞いて立ち上がった有頭(ありとう)に、はじめたちの意識がそちらに向く。

「それでは、10時になりましたので再び先生のビデオをご覧いただき、それから食事に参りたいと思います。」

 ウィィン…

 先程とは別のDVDが再生され、テレビのモニターに再び山之内恒聖(こうせい)の姿が映し出された。

『――――やあ、親愛なるクインテットの諸君!我が露西亜(ろしあ)館の居心地はいかがかね?さて、ディナーに入る前に、皆さんに励ましのメッセージをお届けしよう。――――――まず、第1バイオリンの犬飼高志(たかし)くん。私の良き隣人であり、若きミステリーの論客として交流の深かった君だが、最近はお父上の事業の失敗で可愛がっていた5匹の猟犬も借金の抵当に入っていると聞いて、私も心を痛めていた。』

 山之内のメッセージに、犬飼がギクリ動揺を露わにする。

『ここは1つ、ぜひ君の英知で暗号を解き明かして君のお父上の借金を完済してくれたまえ…。』

(イイ性格してるよ…。)

 屈辱に身を震わせる犬飼を見て、プライベートな内情を衆目に暴露する山之内の所業にはじめが眉を(ひそ)めた。

 そして、次々と明らかになる5人の候補者たちの抱える“闇”。

 第2バイオリンの梅園は、自動車事故による賠償金からの借金。

 チェロの宝田は、株で失敗し借金を背負った上に妻が闘病中。

 ビオラの幽月(ゆづき)は、火事がきっかけで唯一の肉親である弟が植物状態で入院中で、多額の医療費を負担。

 コントラバスの神明(じんめい)は、妻との離婚によって多額の慰謝料を請求されている。

「クソッ!」

 ガシャ―――――ン!!!

 罵倒と共に、神明(じんめい)飲んでいたブランデーのグラスを床に叩き付けた。

「何なんだ!これは?!冥土に行ってまで私を愚弄(ぐろう)する気か、山之内!!!」

神明(じんめい)先生!それは違います。山之内先生は皆さんを励ますおつもりで…、たぶん…。」

 怒りが収まらない神明(じんめい)有頭(ありとう)が宥めようとするが、説得力はまるで無い。

「うるさいっ!人のプライバシーをこんなところであげつらって!奴は昔からそうだったんだ!人格者のフリをして、実は陰湿なやり方で人を陥れようと画策するような男だったんだよ!」

 ヒートアップした神明(じんめい)は止まらない。元々酔っていた事もあり、感情の制御が出来ない状態なのだろう。

 怒りのまま、捨て台詞(ぜりふ)と共に部屋を飛び出した。

「私は部屋に戻る!食事はメイドの桐江(きりえ)くんに持って来させろ!!」

(やっぱり、候補者たちそれぞれが何かしらの事情持ちか…。)

 それぞれ金に困っている5人の候補者に対し、遺産を相続出来るのはたった1人…。

 おまけに携帯は取り上げられ、屋敷に備え付けられていた電話でさえもこの“ゲーム”に合わせて撤去されている。山之内の指定した5日後まで迎えは来ず、完全に外界とは隔絶された空間。

 チラリ、と白馬に目をやれば彼も力強く頷いた。

(絶対何か起こるわ…。)

 心無しか、空腹の為だけじゃなく胃が痛い。

 この状況で1人になるのはあまり好ましい事ではないが、部屋に籠っているならば神明(じんめい)も心配無いだろう。

 自分と白馬だけで候補者たちを守り切れるかどうか…。

 これから5日は続く“ゲーム”の行方に、はじめは重い溜息を()いた。

 

 ――――――そして、夕食時にそれは起こった。

 神明(じんめい)と、給仕に務める田代や桐江(きりえ)以外のメンバーが食堂に集い、屋敷の様式に合わせたのか、ボルシチを始めとした伝統的なロシア料理の数々に舌鼓を打っていた時の事だ。

 はじめがふと視線の先の違和感に気付く。

「佐木、お前ずっとビデオ回してたよな…?」

「?はい。」

 それがどうかしましたか、とビデオ片手にボルシチを(すす)っていた佐木がカメラごとはじめに目を向ける。斜め向かいに座っていた白馬も、そのやり取りに顔を上げた。

「あんな所に、シミ何て無かったよな…?」

「え?ちょっと待ってくださいね…。」

 はじめの視線の先を見て、佐木がビデオを確認する。

「あ、はい!さっきはあんなのありませんでした!」

「「!」」

 ガタガタッ!

 佐木の言葉を聞くなり、はじめと白馬がほぼ同時に席を立つ。

「白馬くん?急にどうしたんだい?」

「はじめちゃん?」

 急に何事かと食堂中の視線が集まるが、生憎(あいにく)2人にそれに構っている暇は無かった。

「田代さん!この天井の上には何が?!」

「え?!ああ、はい。皆さまの寝室になっております。」

「あのシミの辺りの部屋は誰の部屋ですか?!」

「ええ…と…?そうそう!確か神明(じんめい)様の部屋でございます!それが何か?」

 はじめと白馬の矢継ぎ早の質問に、田代が戸惑いつつも答える。

 ちょうどその時、神明(じんめい)の部屋に夕食を届けに行っていた桐江(きりえ)がカートを押しながら食堂に入って来た。

 その上には、夕食に被せられたクロッシュと、ナイフやフォーク、スプーンが乗ったままになっている。

「ん…?どうしたんだね、桐江(きりえ)くん?神明(じんめい)先生は召し上がらなかったのか?」

「それが、声をおかけしても返事が無くて…。もし眠ってしまわれたんだったら、起こしたらまた酷く怒られるかもって…。」

「!白馬!!」

「はい!」

 桐江(きりえ)の言葉に、同じ推測に至ったらしい白馬を促し、はじめが部屋を飛び出す。

「ちょっ、先輩?!」

「はじめちゃん!?」

 飛び出したはじめに、佐木と美雪が驚いて席を立つが、はじめは振り返る事無く階段を目指す。

「田代さん、あなたも来てください!神明(じんめい)先生の身に何かあったかもしれません!!」

 白馬も田代を促し、はじめを追った。

「え?!お、お待ちください…!!」

「ま、待ってください、私も行きます…!!」

「僕も…!!」

 ただならぬ空気に、田代だけでなく美雪と佐木が続き、他の候補者たちも続いた。

 

神明(じんめい)さん?!神明(じんめい)さん?!!」

神明(じんめい)先生!!無事ですか?!神明(じんめい)先生!!!」

 ドンドンドンドンッ!!

 とはじめと白馬がけたたましく扉をノックするが、一向に返答は無い。

「クソッ…!」

 毒付いたはじめが扉に耳を付けると、微かに水の流れる音が聞こえる。

「っ水の音が聞こえる…!」

 この音は、ただシャワーを浴びている訳ではなさそうだ。水音以外の音は全くしない。

「金田一さん!白馬さん!一体どうなさいました?!」

 ちょうどその時、田代たちが追い付く。

「はじめちゃん、どうしたの?!」

「白馬くん、一体何が…。」

 美雪と犬飼がはじめたちにそれぞれ尋ねるが、2人とも答えている余裕は無かった。

 ガチャッ…

「はじめさん!鍵が……。」

 駄目で元々、と例にノブに手をかけた白馬が鍵が開いている事に気付く。

 白馬に頷きを返し、はじめが再度声を張り上げる。

神明(じんめい)さん!入りますよ!!?」

 バンッ…!

「あ、金田一さん?!白馬さんも!!勝手にそんな事をされては…!」

 田代が後ろから制止するが、2人とも足を止める事無く、部屋を見回しながらも真っ直ぐに水音の出所(でどころ)‐バスルームへと向かった。

 ザァアアア―――――…

 ピシャン…

 廊下からよりもはっきりと聞き取れるようになった水音に、美雪たちも気付く。

「お風呂に入ってただけなんじゃない?」

「でも、水の音はしますけど、それ以外の音は何も…。」

 美雪と佐木の言葉を背中に、バスルームへと続く扉に手をかけた白馬がはじめと目を合わせる。

「…開けますよ。」

「ああ…。」

 2人とも、既に悟っていた。

 これだけの物音を立て、顔を見せない神明(じんめい)

 本当にこのバスルームに彼がいるのであれば、既に生きてはいまい、と……。

 ガチャ…

 ザ――――――――…!!

 扉を開けた途端、水音がより強くなる。それと同時に鼻に付く鉄の臭いに、はじめが鼻を押さえた。

「っこの臭い…。」

「ええ…。」

 浴室から溢れた、赤みを帯びた水が脱衣所に流れ込み、床に敷かれたカーペットに水たまりを作っていた。先程はじめが食堂で気付いたシミはこの為だったらしい。

「っ先輩、この臭いもしかして…!」

「来るな!お前らはそこにいろ!!」

 扉を開けた事で、臭いは後ろの佐木たちの所にまで届いたらしい。

 そして、その臭いの正体を悟る。

 はじめは、浴室に広がっているだろう惨状を見せない為に、頭だけ軽く振り返って叫んだ。

「……白馬、心の準備は?」

「…いつでもどうぞ。」

 バンッ!

 白馬の答えに、はじめが浴室の扉を開け放つ。

「っ神明(じんめい)さん…!」

「っ(むご)い……。」

 2人の目の前に広がるのは、開きっぱなしの蛇口によって水の溢れるバスタブと、そこに(うつぶ)せに浮かぶ神明(じんめい)の遺体。

 その頭部は無残にも肉体から切り落とされ、体と共にバスタブに浮かんでいた。

 そして、バスタブは勿論、浴室内に溢れる水は全て神明(じんめい)の体から流れ出た血液で赤く染め上げられていた…。

 バシャッ…!

「!はじめさん?!」

「そこにいろ…。」

 浴室内に足を踏み入れたはじめのスノーブーツに、血の色に染まった水が染み込む。

 キュッ…

 ノズルを捻り、水を止めたはじめに、白馬が焦ったように声をかけた。

「はじめさん!現場は保存しなくては……!」

「すぐに警察を呼べるのならね…。」

「っそれはどういう…?」

「金田一さん?!白馬さん?!一体、何が…。」

「入っちゃダメですってば!!」

 脱衣所の扉の前で佐木に止められているらしい田代が声をかける。

「佐木!!お前のデジカメ貸してくんない?美雪も付いてって!!白馬、現場の撮影が終わるまで誰も入れるなよ。」

 はじめの指示に、助手を自任する佐木が瞬時に反応した。

「ちょ、ちょっと待っててください、今取って来ます!」

「佐木くん!待って、あたしも行くわ!」

 バタバタと飛び出していった美雪たちを見送り、いよいよ不安が大きくなってきたらしい梅園が声を上げる。

「ちょ、ちょっと!どうしたっていうのよ。ちゃんと説明して!あの酔っ払いがどうしたのよ?!」

神明(じんめい)先生に何か…?」

「白馬くん!一体何があったんだい…?!」

 宝田や犬飼も、部屋に漂う鉄の臭いに薄々の事態を察するが、最悪の想像を振り払うかのように梅園に続く。

 幽月(ゆづき)も、言葉には出さないが不安が煽られているらしく、“スカーレット・ローゼス”にそっと寄り添う。

 皆が皆、異様な雰囲気に呑まれかけている中、唯1人、“スカーレット・ローゼス”だけは一切の感情を見せなかった。自身に寄り添う幽月(ゆづき)を支えるでもなく、部屋の入口近くで壁にもたれかかり、腕を組んで静観するのみである。

「…落ち着いて聞いてください、神明(じんめい)さんが殺されています。」

「何ですって?!」

「まさか?!」

 このままだと脱衣所に入って来かねない、と判断した白馬が脱衣所のドアで梅園たちを押し留める。

 そんな中、カメラを取りに行っていた佐木たちが戻ってきた。

「先輩!お待たせしました!!」

「サンキュ、白馬に渡してもらえる?」

 白馬経由で手渡されたデジカメで、はじめは神明(じんめい)の遺体を中心に浴室内の写真を撮影する。

 そして、一通りの写真を撮り終え、この浴室内において()()()()()()()をバスタブから引き揚げた。

 ―――――――――山之内恒聖(こうせい)の遺した暗号の1つであるロシア人形、5体の人形のうち最も小さいイワンを。

 5体のうち、最も小さいイワンの担当楽器は“コントラバス”。そして、神明(じんめい)の担当楽器もまた“コントラバス”である。

 その神明(じんめい)の遺体が、“首を刈られた”状態で発見された。

「“楽団は朝礼で前から順に首を刈られた”、か……。」

 感じていた不安が、いよいよ現実になり始めた事にはじめは己の無力を痛感した。

 しかし、今は落ち込んでいられる状況ではない。

 まずは、他の候補者たちに状況を説明すべく、浴室から足を踏み出した―――――――――…。

 

 

 

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