オリジナルの短編・掌編集   作:がめちょん

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『世界』のはじまり。
それは、『認識』と『確信』


新世界のつくり方

 広い。

どこまでも広い空間。

足元――と言えるのかも分からないところの上に、立つ。あるいは浮かぶ。

永遠にも思える程の広がりを持つその空間。あるいは虚無とも言える虚空の中。ふと、二つの『存在』が其処に在った――あるいは、今この瞬間に、それらは現れたのかもしれない。

 一方は慣れた風で其処に佇み、もう一方はどこか覚束ない様子で、時折ふわふわと揺らいでは、また思い出したかのようにその輪郭を確かめている。

「さて」と、慣れた風の『存在』は、覚束ない様子の『存在』へと視線。あるいは注意のようなものを向ける。それは、上から下まで値踏みするかのようにそれを窺い、しばらくの後に「うん」と小さくこぼした。

 

「今日は、つくり方を知りたいのだったかな? 『新入り』くん」

 

 慣れた風の『存在』は、覚束ない様子の『存在』――『新入り』へとそう訊ねると、周囲へと幾つもの光のようなものを明滅させては、それらを確かめるように眺め、覗き込み、そしてまた消していく。

 それらは宛ら機械や何かの試運転のように――あるいはほんの戯れのように。生まれては消え、消えてはまた生まれていく。そして消えた後には再びあの、虚無とも虚空とも言える空間が残された。

 

「はい、是非とも『先輩』に教えを請いたくて、他の方々にこの機会を取持っていただいたんです」

 

 どうにも眩ささえ感じさせるような様子で『新入り』はそう意気込むと、慣れた風の『存在』――『先輩』へと、その憧憬にも似た熱意を向ける。その熱量は、春先に芽吹く新緑の生命力を思わせるような若々しさに充ち溢れ、『先輩』は思わずその熱意にしり込みするのであった。

 

「別に、おれはそんな大層な奴じゃあ無いよ。ただ、他より少し、つくる事に慣れてる――ってだけなんだがね」

 

 いかにも辟易とした様子で『先輩』はため息を漏らすと、『新入り』の言った『他の方々』とやらに目星を付ける。こんな風に『誰か』あるいは『何か』を寄越すような輩は限られてくるものだ。

「恐らくあいつか、あるいはあいつか」等と思案していたのも束の間。「自分は何か、悪い事でもしてしまっただろうか」と不安そうな様子の『新入り』に気が付き、『先輩』は頭を振ると、『新入り』を隣へと招く。

おずおずとやってきた『新入り』へ、「考え込むのはおれの悪い癖なんだ」と詫びると、『先輩』は再び目の前に幾つもの光を明滅させる。と、何度目かの光を点した後に、それを『新入り』へと覗き込ませた。

 

「そら、ご覧。もう既に動き出しているだろう」

「すごい、あっという間ですね」

 

 覗き込んだその光の中はすっかり宇宙であった。

幾つもの銀河。

幾つもの恒星。

幾つもの惑星。

それから、惑星に連なる小さな衛星たち。

 嘆息混じりに覗き込む『新入り』の視線の先へと、『先輩』は満足げに、それでいて誇らしげな様子で「ここをご覧」と指し示した。

それは小さな惑星で、恒星からの距離も程良ければ、自転も。それから公転の周期も程よく整えられており、既にそこには動物たちが息づいて、生命に溢れた豊かな星となっている。

そうして『先輩』が少しだけ弄ると、時間が流れ、あっという間に生き物たちは進化を遂げて、やがて思考する生き物が生まれた。それらは文明を築き、技術を研鑽し、思想を拡げていく。

 

「これは、全部『先輩』が、道を示しておられるのですか?」

「いいや、ほんの最初だけさ。ある程度が整えば、かれらは勝手に動いて、変わっていくからね。ただ、どうしようもなく何もかもが滅んでしまいそうな時は、時折おれも手を貸すんだが……例えばほら、こういった風に」

 

 その星の中、中でも激しく紛争している文明の衝突点へと、『先輩』は指し示すように『新入り』を促すと、そこへ幾つかの天変地異の種を蒔いた。それらは嵐のようにすべてを吹き飛ばし、あるいは大地の鳴動を引き起こしては、文明のそれらを引き裂いて、飲み込んで。そうしてそれらの紛争を鎮め――あるいは沈めていく。そうして幾つかの問題有る文明を取り除いては、また新たな文明が興り、世界は回り出すのだ。

 やがて、何度かそうして滅びと導きを繰り返した後に、『先輩』はその光を閉ざすようにして、目の前につくったばかりの『世界』を終えた――気まぐれのように。

後には何一つ残らず、痕跡も、残滓の何一つも其処には無く。ただただ最初に在ったような空間。あるいは虚無のような虚空だけが残されるのであった。

 

「難しくは、ないのですか?」

 

 一部始終を眺め終えた『新入り』は、窺うように『先輩』へと訊ねる。

以前のようにふわふわと揺らいだ様子は無いものの、どこか消沈したように見える辺り、あるいはあまりに手本を手際よくやり過ぎてしまったのかもしれない。恐らく今は「自分にあれほどの事が出来るだろうか」と不安になっているのだろう。

「だからこういった役割は苦手なのだ」と、内心に吐き捨てながらも、『先輩』はどうにか角の立たぬよう、あるいは『新入り』を思い詰めさせぬように、返答を逡巡する。

 

「なに、さっきも言ったろう。ほんの最初が整えば、後は自然と動き出すものだ。あれこれ悩むよりも、実際にやってみた方が早い」

 

 考え込みやすい者に考え込ませるのは得策では無かろう。と判断し、『新入り』を促すように空間の真ん中へと立たせる。と、先ほど自分が手本を示して見せたように、早速に「作ってみると良い。何かあればおれが対処しよう」と背中を押す――が、どうにも『新入り』は自信無げに振り返ると、「でも」だとか「だけど」だとか、完全に尻込みするのだった。

 

「さっきの『世界』はとてもスタンダード。よくつくられている――悪く言えば古臭い仕組みだ。けれど、不慣れな内は作りやすいだろう。それとも何か、つくりたい『世界』の『情景』はあるのかい」

 

 つくりやすいものは示し、手本を見せたはずである。何か明確に『つくりたい世界』といったものが無いのであれば、先ほどのものを模倣するのが手っ取り早いだろう。そうでなければ、『新入り』のつくりたいものを聞いてから、それに合わせたアドバイスをしよう。

そう考えての問いだった――のだが、どうやらどうにも煮え切らない。ただただ不安なのだろう。

 

「いいかい、『世界』のはじまりは『認識』と『確信』なんだ。まずは君がそいつを信じてやらなくちゃあならない。君の中の『情景』を目の前に浮かべるが良い。そうしてそいつを君が『認識』してやれば良いんだ」

 

 小難しい講釈はどうにも苦手な様子で『先輩』は語る。

『認識』した瞬間に『世界』は生まれ、『確信』した瞬間に確定される。

大切なのは『世界』を思い浮かべる事である。そうして思い浮かべた『世界』に対し、「確かに其処に在るのだ」と、意識下でも無意識下でもそれを『確信』した時に、『世界』は確かに其処につくられるのだ。

不安になってはいけない。君の『世界』を『認識』出来るのも、つくり出せるのも。それらが可能なのは、君を措いて外には居ない。君自身がそれを信じる事こそが、何より大切であり、それさえ出来るのであれば、『世界』をつくるのは然して難しい事ではないのだ。

 そう『先輩』は説いてみせる――が、こればかりは実際につくってみなければわからないだろう。だからこそ、つくり方というのは教え辛いのだ。と、またも辟易した様子を浮かべるのであった。

 

「『風景』ではなく『情景』ですか」

 

 ふと、『新入り』は不思議そうに『先輩』へと訊ねた。心象風景というのではなく『情景』と、あえてそう言った理由はあるのか? と、『新入り』は気に掛かったらしい。

そして、それはとても大切な部分である。と、『先輩』は語るのだった。

 

「そうとも、『世界』をつくるんだ。ただの『心象風景』などでは足りないのだよ。自らの心が震えるほどの、自分自身が切望。あるいは渇望するほどの『情景』でなければ『世界』をつくるのには足りないのさ」

 

 そして「だからこそ、それらは『認識』と『確信』に結び付くのだ」と、語りながら『先輩』は再び光を点しては、それらを消していく。その光――『世界』は先のものと同じなのだろううか。それとも、あるいは、『先輩』の中には、無数の『情景』があるのだろうか。

 

「わかりました。やってみます」

 

 そんな様子をしばらく眺め、言われた言葉を胸の内で咀嚼し、ようやくに『新入り』は自信をつけたのか。あるいは『情景』を掴み取ったのか。

虚無の空間、目の前の虚空へと光を点す。

 それは、先ほど『先輩』が見せたものとは似ても似つかぬ新たな『世界』

『仕組み』も『文明』も、『色彩』や『いろかたち』の何一つが真新しい『世界』

『新入り』は、その『世界』をそっと浮かべると、そうして嬉しそうに息を吐いた。

 

「出来ました……これが僕の『世界』なんですね」

 

 思いの外にすんなりと。けれども生み出された『それ』を、愛おしそうに眺めながら振り返る。既に不安などは一切見られず、自信と喜びに――そして、どうにも眩ささえ感じさせるような、若々しさに充ち溢れた『新入り』の姿が其処には在った。

 

「やれば出来るじゃあないか。それで、そいつの――その『世界』の名前はあるのかい?」

 

 安心した様子で訊ねる『先輩』と、手元に在る『世界』とを交互に見比べた後、しばらく「うーん」と逡巡した『新入り』は、ようやくに何か思いついた様子で、自信に充ちた声で答える。

その『世界』の名を。

その『世界』の在り方を。

 

「この『世界』は――」

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