第1話
出版社社長の沢渡健二は出版社ビルの地下駐車場へ出た。
自分の車、向かうとその前に一人の少女が立っていることに気が付く。
「なんだね君は?ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
沢渡の注意をスルーして少女は小さく会釈した。
(何処の高校生だろうか、しかしどうしてこんな夜中に女子高生が出歩いている?しかもこんな雑居ビルの地下駐車場に)
少女は徐に口を開いた。
「おっと、失礼しました。東京武偵校2年の杉下です」
杉下と名乗った少女は武偵手帳を見せた。
東京武偵校という名を聞いて沢渡は表情を強張らせる。
(武偵がどうしてこんな所まで。いやまさか・・・いやそんな筈は無い。)
沢渡は自信に思い浮かんだイメージを振り払った。
「先日亡くなった帝都新聞社の平坂光一さん、ご存知ですよね?高校時代からの友人だそうで」
「そうだ、彼の死は私も残念に思う。14日の夜、私が出張で彼と会うのを断らなかったらこんなことにはならなかったのに・・・」
沢渡は目頭を押さえる。
「大和市の老人ホームに行ってたんですよね?介護士の悲惨な仕事現場を取材をしていたとか」
「あぁ。仕事柄、彼は知人友人が少ない。私に容疑が向けられるのも仕方がないと思ったよ。だが、その時間帯は丁度JRの奈良駅に居たんだ。新幹線の切符とバスの代金、タクシーの料金は領収書を警察に提出している」
しかし彼女は下を向き、スマホを操作している。人が話しているというのに、失礼な子供だと思った。
「おい、聞いているのか?」
「失礼いたしました。きちんと聞いていましたよ」
沢渡の声に彼女はふと顔を上げ詫びを入れる。その表情は先補とは違うような気がした。
まるで、猛獣が獲物を追い詰め、とどめを刺そうとしているかのような・・・
「おかしいですねぇ・・・」
全てを見透かしたかのような笑みを浮かべ、彼女はスマホを彼に向けた。
「これ、見てもらえますか?」
その画面を見て沢渡は心底驚愕した。
「おっ、お前・・・これを何処で!?」
そこに映し出されていたのは羽田空港の出発ロビー、そこに沢渡しっかりと映っているがそうだった。
(予約の名前は入れ替えておいた筈なのに・・・)
沢渡は全てを察した。この少女は全てが解っている。俺が平坂に女子高生を売春していた弱みに付け込まれて金を請求されていた事、それに耐えきれず彼を殺してしまったことを・・・
(今なら小娘一人、それなら)
「くっ、クソ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
沢渡は目の前の杉下向かって走る。彼女を突き飛ばそうと手を伸ばす。すると・・・
杉下はその手を掴んで彼の懐に入り込む、そして体重が倍以上ある体を投げ飛ばした。
一瞬のことで気が付くと沢渡は冷たいコンクリートの駐車場の上で仰向けになっていた。視界が歪む、焦点が合わない・・・
手を伸ばした先は車のドアノブだった。沢渡は咄嗟にドアを開け車内に乗り込んだ。慌てて杉下は車に駆け寄り、必死にドアを叩く。
「開けなさい!」
しかしロックされた車のドアは開かない。回してエンジンを掛ける。アクセルを踏み込んだ。
キュルルルルル・・・
コンクリートの滑りやすい路面にタイヤが鳴きながら白の欧州車は徐々に加速していく。
出口のバーを突っ切ろうとした。その時・・・
「なっ!?」
沢渡は慌ててブレーキを踏んだ。目の前に白のスポーツカーが出口を塞ぐ形で停車していた。
「おい!そのボロ車をどけろ!」
すると車内から一人の少年が出て来た。
その少年は沢渡の車に向かってきた。そして、その少年は沢渡に向かって銃を向けた。
パァン!
少年は躊躇なく引き金を絞った。放たれた.45ACP弾は左右のサイドウィンドウ2枚を貫いてガラスを粉々に砕いた。そして割れた窓から手を伸ばし、内側からロックを開け、少年はドアを開けて沢渡を引きずり出す。
「沢渡健二、殺人及び売春の容疑で逮捕する!」
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「沢渡健二、殺人及び売春の容疑で逮捕する!」
俺、
長かった。この事件を解決するためにどれだけ苦労したことか・・・
「お手柄ですねぇ」
いつの間にか背後に立っていた京香。気配も感じさせずすぐ後ろに、彼女はいつも神出鬼没だった。
「クソッ、こんな若造共に・・・グァッ!」
俺は沢渡の腹に
「誰がボロ車じゃ!こちとらアンタのアウディ以上に金掛けてんだ!」
俺の文句を横目に京香が呟く。
「私は出口で待機しておくようにと頼んだ筈ですが?」
「叫び声と車の音が聞こえたもんでしてね、車を中に入れたら丁度こっちにアウディが来てたので、サイド引いてハンドルをクイッと」
俺は左手でサイドブレーキを、右手でハンドルを切る仕草をしてみせる。
「それより、神沢君」
「なんですか?」
京香は駐車場入口を指差す。
「神沢君の車、強襲科隊が入ってくるのに邪魔になってますよ」
「あっ!」
俺は急いで車に向かった。