緋弾のアリア   ~武偵、杉下京香の事件簿~   作:長財布

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第10話

峰理子は飛行機を飛び出した後、横須賀の埠頭へ降り立った。

 

今回、直接神崎・H・アリア、遠山キンジと対決して確かな手応えを理子は感じていた。このまま上手く行けば私は自由の身だ。

 

倉庫で予め用意しておいた服に着替える、暫くの間は身を隠して過ごす事になるだろう。

 

懸念していたあの二人は飛行機に乗り込んでこなかった。あの人がきちんと仕事してくれた証拠である。

 

予期せぬ邪魔の所為で彼女に協力を仰ぐ必要が出てきたがそれは些細なこと、あの男も咎めることはしない筈だ。

 

後はここから立ち去るのみ。理子は制服を鞄に押し込み、倉庫を出ようとした時―――

 

真っ暗な筈の視界が一気に明るくなった。

 

眩しさに目を細める、直ぐにその光が車のヘッドライトであることに気づく。

 

まさか・・・そんな筈は・・・

 

白いインプレッサから降りてきたのは彼女にとって今、一番会いたくなかった人物・・・

 

杉下京香が目の前に立っていた。

 

「随分と探しましたよ」

 

京香はすべてを見透かした目で理子の方を見て、ゆっくりとした口調で尋ねた。

 

「どうしてここが分かったの?」

 

理子は相手に悟られまいといつもの口調で答える。

 

「ずっと貴女が乗っていた飛行機を追いかけていたんですよ。爆弾使いの犯人がいつまでも爆弾付きの飛行機に乗り続ける筈がない、機を見計らって脱出するだろうと思いまして」

 

杉下京香の介入は当初全くの予想外だった。彼女は部屋から動かない、もしバレても対処に向かう事はありえない。そう思っていた。

 

神沢恵亮と出会った時点で要注意人物としてマークしておくべきだったと理子は後悔する。

 

「遠山さんから貴女が飛び降りた時間帯を教えてもらいました。その場所から一番近くて人の居ない場所、となると自ずと場所は絞られてくる訳です」

 

「なるほどねぇ~、じゃぁ私がどうしてこんなことをしたのかもお見通しって訳?」

 

理子の問いに京香は1冊の本を鞄から取り出した。これが京香の答えだ。

 

新潮文庫の文庫本、著:モーリス・ルブラン 訳:堀口大学

 

タイトルは「ルパン対ホームズ」

 

「貴女と神崎さんの事を少し(・ ・)調べたら分かりましたよ。峰・理子・ルパン四世さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「峰・理子・ルパン四世さん」

 

その言葉を聞いて俺は心の底から驚いた。というか、そんな事彼女から全く聞いていなかった。

 

「えっ!?」

 

と言いたい欲を必死に抑え、無表情を貫く、犯人が目の前にいる・・・此方の手の内は見せられない。

 

峰は否定しない、即ち肯定であると言う事だ。

 

20世紀初頭、世間を賑わした大怪盗。変装の名人で厳重な警備を難なく潜り抜け、貴族や資本家の宝石、美術品を盗んでいった。

 

峰が小説にもなった大泥棒の子孫だと!?

 

信じられないが彼女の言っていることだ。間違いないだろう。

 

「貴女は曽祖父が果たせなかった決着を付けたかったのでしょう。この小説のように・・・因縁の相手、シャーロック・ホームズの子孫、神崎・ホームズ・アリアさんと」

 

神崎がホームズの子孫・・・

 

俺は京香の持っている本が何を意味しているのか理解した。

 

アルセーヌ・ルパンの子孫が峰理子でシャーロック・ホームズの子孫が神崎アリアだなんて。そんな小説みたいなことがあり得るというのか・・・

 

そして何より驚いたのはそんな事のために峰は何人もの武偵を殺してきたことだ。

 

恐らく峰は有名な武偵を手に掛ける事で自らの強さを証明すると共に神崎がこの事件に興味を示すよう仕向けていたのだろう。

 

その間に遠山キンジの兄、遠山金一と対峙し殺害、遠山と手を組んで捜査することもやはり彼女の計算の内だった訳か。

 

「あ~あ、そこまで解明しちゃったか。黙って見ていれば私達に目を付けられることなんて無かったのに」

 

峰の口調が変わった。いつもの調子者キャラは仮面だったんだな。

 

「私達、と言うのはイ・ウーの事ですか?」

 

「そうだ」

 

彼女の口調はいつもと違うものになっていた。

 

「我々と相まみえた所で能力も持たぬお前達は何も出来ない。ただ殺されるだけだ。今まで死んでいったあの人達のようにな・・・」

 

その言葉にカッとなって俺は銃を抜いた。

 

「テメェ、いい加減にしろよ・・・」

 

「やっと口を開いてくれたな、神沢恵亮。お前のお陰で計画に修正が必要になった。その恨み、少し晴らさせて貰うぞ」

 

理子がそう言った瞬間、彼女からただならぬオーラを感じた。

 

オーラなんて抽象的なものではない、恐らく誰の目にも見えるだろう、彼女の髪が蛇の如く動いていることを・・・

 

その髪が背中のナイフを掴み―――

 

俺へと投げた。

 

「神沢くん!」

 

京香が叫んだときには2本のナイフが俺の左肩と右足へと刺さっていた。

 

痛みに顔を顰める俺、足が体重を支えられずインプレッサにもたれ掛かる。

 

直後、背後から甲高いエンジン音が響いた。

 

闇に紛れて現れた漆黒の車体、流線型のボディに高級車のような装飾、そしてグリルにはギリシャ神話の海神ポセイドンが使っていた三叉銛(トライデント)

 

イタリアのスーパーカー、マセラティ・グラントゥーリズモが俺達と理子の間に停車した。

 

「神沢く~ん、キミ、いつまで運転手やってるの?そろそろ頑張らないと死んじゃうよ~。京香ちゃんと一緒にね」

 

そう峰はいつもの口調で言い残して助手席に乗り込んだ。直後、グラントゥーリズモがフェラーリ製V8エンジンの特徴的なエキゾーストを轟かせ走っていった。

 

「杉下さん、追わないと・・・」

 

俺はナイフを抜こうと柄を掴む。

 

しかしそれを京香が止める。

 

「抜かないで下さい、直ぐに救急車を呼びます!」

 

「でも・・・彼女を追わないと・・・」

 

「その体では無理です」

 

ナイフが刺さっているのは左肩と右足、シフトを握れないしアクセルも踏めない。そう気付いた瞬間、俺の中で悔しさがこみ上げてくる。

 

「クソッ!」

 

俺は地面を叩いた。

 

また・・・出し抜かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

武偵校に隣接する武偵病院に搬送された俺はそのまま緊急手術を受けて傷を縫合してもらった。

 

医者からは後数ミリずれていたら血管と神経を傷つけて大量出血又は後遺症が残っていただろうと言われた。

 

奇跡的に~なんて言っていたが彼女は狙ってそこを刺したのだろう、いつでも急所を狙えると言うメッセージを込めて。

 

制服だと動きにくいからと思ってツナギを着ていたのが命取りになってしまったようだ。今度からちゃんと防弾防刃の制服を着よう。

 

医者には暫く入院する必要があると言われ、用意されたのは個室の病室であった。京香が手配してくれたらしい。

 

病室へ入ると京香が座っていた。昨日からずっと居てくれた様だ。

 

ほのかに紅茶の香りが漂っているのは彼女が部屋から持ってきたティーポットからだろう。

 

「大丈夫でしたか?」

 

「えぇ、なんとか・・・」

 

松葉杖を置いてベッドへ横たわる。

 

傷が塞がるまでは無理に体を動かしてはいけないと言われている。暫くは車に乗れそうにないな・・・

 

「病室、ありがとうございます」

 

「お気になさらず、これは私からのお詫びです」

 

そう言って京香は紅茶を啜る。

 

「お詫びだなんて、杉下さんの所為では・・・」

 

「峰理子が私をマークしていなかった理由は動く手段が無かったからです。唯一の移動手段である貴方を襲うことは予測できた筈です。車内での待機しておくように言わなかった私の落ち度です」

 

彼女は頭を下げる。

 

そんな京香を見て俺は居た堪れない気持ちになった。不意を突かれたとは言え彼女の攻撃を防げなかったのだ。

 

「それと、神沢くん。貴方に一つ聞きたいことがあるのですが?」

 

「なんでしょう?」

 

京香はいつもの人差し指を立てて俺に尋ねる。

 

 

 

 

 

「峰理子が言っていた事はどういう意味ですか?」

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