緋弾のアリア   ~武偵、杉下京香の事件簿~   作:長財布

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第8話

次の日の昼休み、俺が屋上で資料に目を通しつつ昼飯を食っていると・・・

 

「邪魔するぞ・・・」

 

遠山キンジがやって来た。屋上に寝転がって伸びをする。

 

彼とは1年の時に同じクラスで席が近かったためによく話すようになった。

 

「あれ、お前時計変えたのか?」

 

袖からちらっと見えたキンジの腕時計、前に見たものとはベルトの部分が少し変わっていたのだ。

 

「あぁ、理子に壊されてな。彼女が直してくれたんだ」

 

アイツ、手先が器用なんだな・・・

 

「事件の資料か?」

 

キンジが俺のSurfaceの画面を見ながら尋ねる。

 

「インプレッサの修理書だよ、ちょっとブーストコントローラーを付けたくてな」

 

ページを捲ると複雑な配線図が表示される。もちろんこれはフェイクだ。非公式の依頼、たとえ友人とはいえ情報を漏らすわけにはいかない。

 

「ふーん」

 

興味が無いとばかりに画面から視線を外すキンジ。

 

「バスジャック事件、色々とご苦労だったな・・・」

 

「まぁな」

 

二人の言い合いを目撃した俺からするとこういう言葉しか掛けることしかできなかった。

 

「でも明日にはイギリスに帰るらしいから、肩の荷が降りたところだ」

 

「これで良かったのか?」

 

キンジは暫く無言だった。しかし・・・

 

「これで良かったと・・・思う・・・」

 

「・・・そうか、まぁ俺がとやかく言う事じゃ無いしな」

 

昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴る。屋上でキンジと別れ、俺は例の京香の部屋を訪れた。

 

コンコンコン―――ドアを3回ノックすると少しの間を置いて・・・

 

「どうぞ」

 

という京香の声が聞こえた。

 

中に入るといつもと変わらず、京香はソファに腰掛けて資料を読んでいた。テーブルには既に冷たくなってしまった紅茶がある。

 

「おや、貴方ですか」

 

「杉下さんにこれを渡しに来ました」

 

資料から目を離さない京香の目の前に神戸から貰ったUSBメモリを置く。

 

「警察庁が掴んでいる武偵殺し事件のデータです」

 

「武偵殺し事件の捜査は打ち切るように教務科から言われたはずですか?」

 

予想外の反応だった。食い付いてくると思ったのだが・・・

 

「まさか杉下さん、ここで諦めるつもりなんですか?」

 

「・・・」

 

京香は何も言わない。

 

「実はこのUSB、警察庁の人からの依頼を受ける代わりに貰ってきたんです。それに俺はこの事件を絶対に解決したいって思ってます。『武偵は絶対に諦めるな』ですよ?」

 

俺はテーブルに置いてある紙の束を見た。一番上に置かれている少し皺の寄った束には見覚えがある、神崎から預かっているものだ。

 

「そんなこと言っておいて杉下さん、実は一人でこっそりと調べてたんじゃないですか?」

 

暫く黙っていた京香であったがやがて「はぁ・・・」というため息を吐く。

 

「今回の事件、相手はかなり危険な存在です。命を落とす可能性だって大いにあります。いいんですか?」

 

そんな事、何を今更言っているんだろうかこの人は・・・

 

確かに自分の命は惜しいがそれよりも今はこの事件の裏にあるイ・ウーなる組織の事が知りたい。だいたいこういった組織はクソでかい陰謀とかを企んでるのがお約束だからな。

 

「いいっすよ、別に」

 

間の抜けた返答に目を丸くする京香。

 

「いいっすよって、そんな軽々しく・・・」

 

「悪い奴らは許せません!なんつって」

 

そういって薄ら笑いを浮かべる俺。もちろんこれは本心ではない。

 

さっきも言ったが俺は普通の人間だ。自分の命は惜しいし死ぬのも怖い。

 

俺は彼女みたいに超人的な推理力もないし、どこぞやのキンジくんみたいに超人的な身体能力も無い・・・

 

だが俺だって武偵の端くれだ。日本の治安を守るのが武偵の仕事である。

 

そんな俺の本心が分かったのか分からなかったのか、京香は二度目のため息と共に・・・

 

「分かりました。私としては貴方を巻き込みたくは無かったのですが仕方ありません、遠慮なく協力して貰います」

 

京香はUSBメモリをMacBookに差し込んで資料を開き目を通す。目の動きで分かる。相変わらず読むのが速い。

 

一通り読み終わると京香は紅茶を飲み干した。

 

「何かわかりました?」

 

「これを見て下さい」

 

京香はMacBookの画面を此方へ向けた。そこに表示されていたのは警察庁が掴んでいた武偵殺し事件の一覧、だがそこには俺の知らない事件も幾つかあった。

 

「このリストは明確な証拠は無いものの手口などからして武偵殺しの犯行であると思しき事件、所謂可能性事件というものです」

 

文書をスクロールしてみる、その中に見覚えのある名が1つ―――

 

「遠山金一・・・まさか!?」

 

「そうです、情報科にウラを取ってもらいました。予想通り遠山キンジさんの兄です」

 

この事件はテレビでも大々的に取り上げられていたためよく覚えている。

 

浦賀沖海難事故、この事件の被害者はキンジの兄だったのか・・・果たしてこれが偶然と言えるのだろうか。

 

「神崎さんの母親は武偵殺し事件の犯人の親玉であるイ・ウーによって東京拘置所に身柄を拘束され、武偵殺し事件の被害者の中に遠山さんの身内、さらに4月の彼の自転車がハイジャックされた事件・・・そこで神崎さんと出会う、偶然にしては出来過ぎています」

 

「つまり」という接続詞の後に彼女から発せられた言葉は信じられないものだった。

 

「武偵殺しの真のターゲットは神崎さんと遠山さんで、一連の武偵殺し事件はその前座だったということです」

 

「そんな・・・まさか・・・」

 

敏腕と称される武偵ばかりを狙ったこの連続事件、それが前座だと?

 

いささか信じ難いが、彼女が言っている事を戯言として片付けることはどうしてもできなかった。

 

「だとすると遠山さんがハイジャックの当日、バスに乗り遅れたのは武偵殺しの仕業である可能性が高いです」

 

「まさか、いつも通り寝坊しただけでしょう?」

 

「例えばですよ?家に侵入して時計をすべて遅らせていたらどうですか?」

 

時計を・・・遅らせる・・・

 

―――理子に直して貰ったんだ―――

 

昼、キンジが言っていたことを思い出した。

 

「遠山は一晩峰に腕時計を預けていました。・・・ということは・・・」

 

京香は頷く。

 

 

 

 

「これで、すべてが繋がりましたね・・・」

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