鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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前回がフォーサイトの紹介だけだったので連続投稿。


16話 アンデッドの特性

 "フォーサイト"は帝都アーウィンタールの西門から出て、カッツェ平野まで来ていた。

 

「あらよっと」

 

 ヘッケランが殴打武器のメイスでスケルトンの頭を砕き、偽りの生命を摘み取る。

 

「なんだかいつもよりアンデッドが多い気がしますね」

 

 討伐証明部位を回収しながらロバーデイクがいつもより多いアンデッドに違和感を覚える。

 アンデッドはアンデッドを呼び、数が多くなると更に強いアンデッドを生み出す。そうならないように、カッツェ平野と隣接している帝国ではアンデッド討伐は国家事業とされている。王国領であるエ・ランテルからも近く、あの腐った王国でもそれは例外ではなかった。

 

「国がアンデッド退治を渋っているのかしら?」

「…………その可能性は低いでしょう。他に何か手を離せない案件でもあるのではないですか?」

「何かって何よ?」

「さあ、そこまでは。というよりただの思いつきを言ってみただけですからね」

「なんでもいいんじゃねえか。ここまで狩った分だけでも結構な額になったと思うぜ」

 

 少し離れたところにいるアルシェを見る。

 せっせと部位の回収をしている三人にとっても妹のような存在。

 今日の稼ぎを借金にあてても大した額にはならない。妹を連れて家を出るならその分金も必要になる。昨日アルシェが家を出ると言ったからには蓄えはあるのだろう。

 若いがシッカリしているのだ。

 助けになれるなら全力で助けよう。そう思えるほどの冒険を共にしてきたのだ。

 

「────回収は終わった。まだ魔力は十分にあるけど、どうする?」

 

 朝早くに帝都を出て、霧ではっきりとは分からないが太陽が真上に差し掛かる頃だろう。

 アルシェだけでなく、他の三人も余力は十分だった。

 

「もう少し狩っていくか。ただ、暗くなる前には────なんだ?」 

 

 ヘッケランの言葉を遮るように、ズシン、ズシンと重い音が響く。

 全員が警戒態勢をとる中、レンジャーのイミーナがいち早く正体を見破る。

 

「音はアッチから、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)よ!」

 

 霧の中から四人へ向かって来たのは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)

 

「イミーナは後方で牽制!アルシェは支援魔法!俺とロバーで迎え撃つ!」

 

 数多の冒険を潜り抜けてきた"フォーサイト"のリーダーは的確な指示を出す。

 魔法が効かない骨の竜(スケリトル・ドラゴン)相手に、アルシェが出来ることは非常に少ない。

 弓も骨系のモンスターには効果が期待出来ない。

 後方に下がる二人は、支援に回りながら付近を警戒する。

 

 三メートルはある巨体から繰り出される腕の振り下ろしや尻尾のなぎ払いは脅威。だが、ミスリル級の実力を持つ歴戦の猛者二人は危なげなく立ち回り、ダメージを稼いでいる。

 

「いきなり現れて驚いたけど、これなら問題なさそうね」

「────周囲にも敵影はない」

 

 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は稀にカッツェ平野に出現することがある。難度はおよそ48でミスリル級なら問題なく討伐可能。幸か不幸か、報酬が目当ての"フォーサイト"にとっては幸運だったかもしれない。この時までは。

 

「ん?あれは何?」

 

 半森妖精(ハーフエルフ)は人間よりも目も耳も良い。イミーナが何かを発見したようだったがアルシェには気付けない。問いかけようとしたアルシェの声を遮り、<火球(ファイヤーボール)>が骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の前に居るヘッケランとロバーデイクへ飛んでいく。

 

「ちっ!死者の大魔法使い(エルダーリッチ)かよ」

 

 なんとか回避したヘッケランが思わず毒づく。

 そんな言葉を無視するように、再び<火球(ファイヤーボール)>を飛ばしてくる死者の大魔法使い(エルダーリッチ)

 

「イミーナとアルシェは死者の大魔法使い(エルダーリッチ)を!無理に倒そうとしなくていい!俺とロバーが行くまで引き付けてくれ!」

「了解!」

「了解!魔法の矢(マジック・アロー)!」

 

 死者の大魔法使い(エルダーリッチ)はミスリル級で勝算は十分と言われるモンスター。

 倒すのではなく、回避に専念し、ヘッケランとロバーデイクに魔法が行かないよう立ち回る二人を見てヘッケランは気合を入れる。

 

(しばらくは大丈夫だな。と言っても悠長にはしてられねえ、さっさとこの骨を…………あれは?)

 

 ヘッケランが骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の後ろからこちらに向かって来る人影を見つける。ロバーデイクも確認したようでその場から動かずに警戒している。

 

 霧の中から現れたのは、二メートルを軽く超える身長に、体の四分の三を覆えそうなタワーシルドと1.3メートル程のフランベルジュを持つ。血管のような紋様があちらこちらに走り、鋭い棘が所々突き出した黒色の金属でできた鎧と悪魔の角をはやした兜にボロボロのマントを身につけている。兜の顔の部分は開いており、ぽっかりと空いた眼窩に煌煌と赤い光が灯っている腐りかけた人の顔が見える。 

 

「オオオオァァァアアアア!!」

 

 新たに現れたモンスターの咆哮に全身がビリビリと痺れる。これまで様々なモンスターを狩ってきた”フォーサイト”だったが、このようなモンスターは見た事も聞いた事も無かった。

 未知のモンスター、しかも他に危険なモンスターを同時に相手するのは得策ではないと判断したヘッケランは「撤退」を指示しようとしたが、ニメートルを超える巨体からは信じられないほどの速さで突進してきたモンスターに接近を許してしまった。

 

 

 

***

 

 

 

 「せいや!」

 

 漆黒の鎧を纏ったモモンが馬上からグレートソードを一閃。

 それだけで複数のスケルトンがバラバラになり、偽りの生命を消していく。

 

(う~ん、やはり馬に乗って剣を振るのはバランスが難しいな。槍はまだまだ訓練不足だし、もっと訓練の時間を増やすべきなんだろうな)

 

 モモン(アインズ)は一人でカッツェ平野の近くを進んでいた。

 実際は一人ではなく、ハンゾウが不可視化して万が一の警護に付いてはいるが。

 乗馬の練習の成果を試すため、通常の馬では怖がられてしまい乗ることが出来ず、<動物の像・戦闘馬/スタチュー・オブ・アニマル・ウォーホース>でゴーレムの馬に騎乗し、ついでに馬上戦闘を行ってみたが、これが非常に難しかった。

 

(俺の本職は魔法詠唱者(マジック・キャスター)なんだし、乗馬が出来るようになっただけ良しとするか)

 

 何故アインズが一人でカッツェ平野にいるのかというと、時間は少しさかのぼる。

 

 

 

「それでデミウルゴス、王国の復興状況は?」

「はい。国が主体で復興を進めているようですがなかなか思うように進んでいないようです。どうやらゲヘナで力を高めた王派閥の足を引っ張るため、貴族派閥が要らぬ邪魔をしているようで…………完全な復興まではまだかかると思われます」

「そうか」

 

 アインズの執務室でデミウルゴスの話を聞いたアインズは、椅子にもたれ掛かり、王国の現状に溜息を吐いた。

 八本指はナザリックの支配下に入ったが、王国から完全に撤収させてはいない。裏から牛耳っていた組織がいきなり全て居なくなると経済が大混乱してしまうかもしれなかった。

 奴隷、麻薬部門は綺麗に失くしたが、それ以外は細々と活動させている。

 

(犯罪組織が鳴りを潜めても足の引っ張り合いとはな…………しかし、これはチャンスじゃないか?)

 

「なあデミウルゴス。復興が終わるまで私の出番は無いのだろう?その間に帝国の様子を見てみたいのだが構わんか?…………ああ、冒険者としてだぞ」

 

 傘下に加えた八本指からナザリック近辺、王国と帝国の情報が入った。帝国は王国と違い繁栄していると報告が上がっていた。最近代替わりした皇帝の手腕らしい。

 情報では主席宮廷魔術師の地位にいる第六位階魔法を使える逸脱者が最高戦力で、ワールドアイテムの情報もない。

 仮にワールドアイテムが在ったとしてもアインズの体内にあるワールドアイテムが防いでくれる。

 アインズが冒険者になって情報収集したように、ユグドラシルの情報に精通しているアインズが行い、ただ聞くだけより生の目で見たほうがより良い精査が出来るであろう。

 

 これらを交渉材料に「どうだ?」と言わんばかりにデミウルゴスを見る。

 

「…………アインズ様がそこまで仰るなら、私に反対意見はございません。…………ただ」

「ああ、分かっているさ。ナーベとハムスケ、ハンゾウの護衛を付けて行こう」

「ありがとう御座います」

 

 アルベドの許可も貰ったアインズは早速エ・ランテルの冒険者組合へと、ナーベとハムスケを連れて向かった。

 しばらくの間、帝国に向かうと告げるために。

 

 そこで一悶着起こった。

 王都で起こった悪魔騒動の情報はエ・ランテルでも広がっていた。組合長アインザックは都市の最高位冒険者が居なくなれば民が不安に思う。とモモンを引き止めてきた。

 あの事件は召喚アイテムによるものというのは知っているのだろうが、同じ物がもう無いとは言い切れないと懇願してくる。

 ならば、とモモンが提案したのがナーベをエ・ランテルに残し、いざという時は<伝言>(メッセージ)でモモンに知らせるのはどうかと提案してみた。

 離れた場所からでも転移のマジックアイテムですぐに戻れると。

 

 そこまで言って、ようやくアインザックが納得したのだ。

 

 ハムスケはナーベと共に居る。ナザリックに慣れてきたので、更に親睦を深めてもらおうと思って。ナーベはハムスケの忠臣であろうとする姿に絆され、最近はなかなか仲が良さそうであったのもある。

 本心はハムスケを連れて行く場合はアイツに騎乗する羽目になりそうだったから。巨大なハムスターに乗ったオッサンの姿は、現地人からしたら羨望ものらしいが、自分自身が羞恥心に耐えられそうになかった。もう精神沈静化はないのだし。

 

(なんか(ナザリック)を出て遊びに行くために家族(NPC達)を一生懸命に説得するダメな父親みたいだな)

 

 リアルの父親の記憶はもう無いが、理想の父親とは違うだろうというのはなんとなく分かる。

 それでもアインズは平和な統治をしている帝国を見ておきたかった。

 少し無責任なのは理解しているが、ちょっとした旅行気分で帝国へと向かう。

 

 

 途中にカッツェ平野に広がる霧を見て噂の幽霊船を思い出し、見てみたいと馬で霧の中に入っていった。

 

 そして冒頭へ至る。

 

 

 

 以前カッツェ平野から流れ込んできたアンデッド師団を滅ぼしたことがあったが、あの時は名声を稼ぐのを優先して霧の中まで入らずにすぐに引き上げていた。

 モモンはスキル<不死の祝福>で辺りを探る。

 これは周囲のアンデッド反応を感知し、大雑把な数と方向がわかるスキルだ。

 

(な!?なんだこれ?)

 

 アンデッドの反応がありえないほどの数を感知する。それこそ霧一つ一つに反応しているかのようだった。

 

(これじゃどこにアンデッドが居るのか分からんぞ。取りあえず切っとくか、なんか気持ち悪いし)

 

 スキルを切り、<上位アンデッド創造>で蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)を召喚する。

 蒼馬に騎乗した禍々しい騎士と糸で繋がる感覚がする。

 

蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)よ。非実体に変化して私が倒したアンデッドの討伐部位を回収しろ。回収する部位は────」

 

 蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)に組合から聞いた回収部位を教えていく。ハンゾウでも良かったかもしれないが、彼の仕事は護衛。余計な仕事をやらせるのは躊躇われた。

 

「よし!それじゃあ行くぞ」

 

 モモンの手元には現地通貨がたんまりとあった。

 財政面の管理はパンドラズ・アクターが主に行っているが、アルベドも守護者統括という立場上全てに係わっている。

 アルベドに、帝国に行くのにお小遣いを頼んでみたら大量に渡してくれたのだ。「どうぞ。あ・な・た♡」と微笑むアルベド。恐らく、いや間違いなく夫婦のやり取りを夢想していたのだろう。

 

(無理に稼がなくても良いぐらいの金はあるけど、ナザリックの支配者として少しは稼いでおくか) 

 

 アンデッドを狩りながらゴーレム馬で移動し、霧の中を爆進していくナザリックの絶対支配者。

 

 

 

***

 

 

 

「ちくしょうが!遊んでやがるのか!?」

 

 ヘッケランが悪態をつく。

 未知のモンスターの初撃をギリギリ防いだヘッケランだったが、相手の強さは圧倒的で、防御に専念してなんとか持ちこたえられているだけだった。それでも幾つか捌ききれずに攻撃を喰らい、少なくない傷を負っており。こちらからは有効打を一撃も与えられていなかった。  

 

 そのまま攻め立てられればヘッケランを殺すことも容易だっただろうに、何故か未知のモンスターは後ろに下がり傍観しだした。

 理由は分からないがチャンスと判断し、全員で逃げ出そうとしたら、回り込み死地へと追い込むように攻撃してくる。

 ならば、と未知のモンスターを無視して他の二体を先に倒そうとすると邪魔をしてくる。

 逃がさずなぶり殺しにしようとしているのだろう。嗤うかのように鎧を上下に揺すっているのが証拠だ。

 

 絶体絶命。

 四人の脳裏に『死』という言葉がよぎる。

 

「アルシェ!お前だけでも逃げろ!」

 

 ヘッケランの言葉にアルシェが、何言ってんの?と言いたそうな顔をする。

 

「そうです。貴方の飛行(フライ)ならそれも可能でしょう」

「妹が待ってんでしょ。早く行って!」

「イヤ!皆を置いて一人だけ逃げるなんて、絶対にイヤ!」

 

 せめてアルシェだけでも助かって欲しい三人。

 仲間を置いて行けない少女。

 美しい友情演劇のようであるが、観客は生者を憎むアンデッド。

 なぶるのに飽きてきたのか、そんなものはどうでも良いとばかりに、隙を見せた先頭のヘッケランに切りかかる未知のアンデッド。

 

 反応が遅れたヘッケランに致命の一撃が加えられようとした。────その時。

 

 ヘッケランを守るように一本の巨大な剣が横から飛んできて地面に突き刺さる。それは絡み合う蛇のような紋様が彫り込まれている芸術品のような見事な細工が施された150センチほどのグレートソードだった。

 

 突然の出来事にモンスターも距離をとり、警戒するように唸り声を上げる。

 

「野良の死の騎士(デス・ナイト)とは初めて見たな。他にも死者の大魔法使い(エルダーリッチ)骨の竜(スケリトル・ドラゴン)か」

 

 剣が飛んで来た方向、霧の中から現れたのは漆黒の鎧に真紅のマントをたなびかせた偉丈夫だった。

 呆気に取られている”フォーサイト”。

 漆黒の戦士はもう一本の剣を背中から抜き、散歩でもするかのように気楽に歩いてくる。

 

 助けを求めるべきか、危険だと逃げるよう叫ぶべきか、迷ったヘッケランを置いて、漆黒の戦士に突撃するデス・ナイトと呼ばれたモンスターと骨の竜(スケリトル・ドラゴン)死者の大魔法使い(エルダーリッチ)は<火球(ファイヤーボール)>を連発して放つ。

 

 ヘッケランは<火球(ファイヤーボール)>による爆発と、強大で巨体から繰り出される攻撃で確実に殺される姿を想像した。三人も同様の光景を想像しただろう。

 

 現実に起きた現象はそれよりも衝撃的だった。

 

 <火球(ファイヤーボール)>は漆黒の戦士に直撃する瞬間に掻き消え、死の騎士(デス・ナイト)は上空に舞い上がり骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は首を切り飛ばされていた。

 

 何をしたのか『フォーサイト』の四人には見えなかった。

 

 漆黒の戦士は凄まじい速さで死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の首も剣で切り飛ばした。

 落ちてきたデス・ナイトに近づき、まるで花を摘むように首を狩る。

 

 ほんの数秒で、自分達を死地に追い込んでいたアンデッドを全て刈り取った漆黒の戦士。

 正気に戻るのに少し時間が必要だった。

 

 

 

 カッツェ平野の霧を抜け、モモンと『フォーサイト』の四人は、カッツェ平野のアンデッド退治を行う軍や冒険者達の休憩や中継のために造られた町へ向けて歩いていた。

 霧の中でゆっくり話すのは危険と判断し、道中警戒しながら簡単な自己紹介とカッツェ平野に来ていた目的を話し合っていた。”フォーサイト”は命を助けてもらったお礼も当然忘れていない。

 

「まさか、噂に聞く”漆黒”のモモンさんに会うとは思いもしませんでした」

 

 ワーカーとして強者の情報は大事だ。もし、依頼で事を構える相手側に付いた者の情報が事前にあれば、受けるかどうかの判断基準となり、危険を避けることが出来たりするのだから。

 ヘッケランが王国の英雄、『漆黒』のモモンを知っていたのは、先日”ヘビーマッシャー”のグリンガムと、偶然会った”グリーンリーフ”のパルパトラと情報交換していた時に聞いたからだった。

 仲間内での情報共有も済ましてある。

 

「ギガント・バジリスクを回復役無しで討伐ってのも頷けるわね」

「正に英雄と呼ぶに相応しい強さでしたね」

「そう言ってもらえるのは素直に嬉しいですが、私の目標にはまだまだ遠いですよ」

 

 称賛の声を受けつつまだ未熟だと言う英雄に驚きの表情を見せる。一体どんな存在を目標にしているのだろうかと。

 

「────モモンさん、あのアンデッドの名前がデス・ナイトと言うのは確かですか?」 

 

 考え事をしていたのか、黙って歩いていたアルシェが唐突にモモンに問いかける。

 

「ええ、そうですよ。死の騎士と書いてデス・ナイトですね。間違いありません」

 

 死の騎士(デス・ナイト)はユグドラシルでは魔法詠唱者(マジック・キャスター)の盾役として非常に有用なアンデッドでポピュラーだった。

 だがこの世界では、と言うより王国で死の騎士(デス・ナイト)を知っている者はいないようだった。伝説過ぎて逆に知名度の低いモンスターであった。

 そんなモンスターが何故湧いたのかは既に話し合っていたが答えは出なかった。モモンが召喚したわけでは勿論なく、心当たりも無かった。

 

 モモンが討伐した、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の討伐部位は既にモモンに渡しており、証明部位が分からなかった死の騎士(デス・ナイト)の首を含めた全身を、後ろから付いて来るゴーレム馬に括り付けて運んでいた。

 

「────なら帝国行政府窓口に持って行かず、帝国魔法省に持って行った方が良いと思う」

「へっ?そりゃまたなんで?」

「────ここだけの話にして欲しい、私は帝国主席宮廷魔術師の弟子をしていたことがあった」 

「それってフールーダ・パラダインのことじゃないですか!」

「アルシェって本当にエリートだったのね」

「────今はもう関係ない。学園を辞めてそれっきりだから。私は弟子として魔法省に入ったことがあって、その時高弟達が話していたのを偶然聞いた。…………死の騎士(デス・ナイト)の研究をしているのを」

「つまり研究素材を提供するってことか?」

「────その言い方で渡すのは止めた方がいい。あくまで未知のモンスターを討伐したと言った方が無難」

 

 帝国で長く暮らしていた”フォーサイト”も、死の騎士(デス・ナイト)の存在は初めて聞いた。「研究にどうぞ」、などと言っては何故知っているのか追求されたら最悪捕らえられるかもしれない。

 この場の五人は知らないが。死の騎士(デス・ナイト)の存在を知っているのは皇帝を除けばフールーダと彼の高弟ぐらいで、帝国の上層部も知らない事だった。

 

「確かに行政府より高く買い取ってもらえそうですね。どうしますか?モモンさん」

「…………せっかく提案してくれたのだし、それで行きましょうか」

「それじゃ魔法省へは俺に行かせてくれませんか?命を救われたチームのリーダーとしてちょっとは役に立たないと」

「私も同行しますよ、ヘッケランだけでは心配ですし」

「まぁヘッケランだけだと確かに心配ね」

「────同意」

「なんだと~!」

 

 モモンとしても彼らの提案はありがたかった。単純に報酬が増えるかもというのもあるが、王国から帝国に来て早々にあまり注目されるのは避けたかった。モモンの協力で“フォーサイト”が討伐したと言えば特に問題にならないだろう。

 

(冒険者組合に顔を出す時のついでというのもアリかもしれないが)

 

 未知のモンスターの報酬額を決めるのに時間がかかる可能性もあった。

 

(それにしても、仲良いなぁ) 

 

 モモンは“フォーサイト”の暖かいやり取りに王国のある冒険者チームと同じ匂いを感じていた。

 やはり気の置けない仲間というのは良いものだと。

 感慨に耽るモモンにヘッケランが勘違いをしてしまう。

 

「どうしました?…………あっ、やっぱりあれですよね、ワーカーの俺達に信用なんてないですよね」

 

 気落ちした言葉に他の三人にも暗い影が指す。

 

「ち、違いますよ!そうではなくて、なんというか仲の良いチームだなと思っていただけですよ。それにワーカーと言っても人それぞれ、自分達で依頼を探し調査し、実行しているのは凄いことだと思いますよ。冒険者は組合に守られてますしね。なんの後ろ盾もなく全てを行わなければならないワーカーこそ評価されるべきだと、私は思いますよ」

 

 リアルで例えるなら会社勤めの冒険者と、自営業のワーカー、みたいな感じだろうか。彼ら“フォーサイト”を見ていると、疎まれているワーカーの評価を変えるべきかもしれない。

 

 “フォーサイト”の四人は英雄と呼ばれる存在にそこまで認められたことに感激していた。

 確かにワーカーは嘲笑の的だ。汚れ仕事もこなしてきたが、誘拐といった人の道を外れた仕事は一切行っていない。なんとなく暗黙の了解でそういった仕事は四人とも避けてきた。

 彼の言葉で今までよりも胸を張っていられるような気になってくる。

 

 ヘッケランが照れたように鼻を擦る。

 

「へへ。貴方にそんな風に言ってもらえるのは嬉しい限りですね。でも、ワーカーの中には碌でもないのが居るってのは本当ですよ」 

「ああ…………居るわね、胸糞悪いのが」

「いますねえ、下種なのが」

「────確かに居る」

「…………ハハ、肝に銘じておきますよ」

 

 五人で談笑しながら歩いていると、モモンの背後に不可視化した蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)が降りて来る。

 レンジャーのイミーナには看破出来ないと判断したのだろうが、どうしたのだろうか。

 モモンが疑問に思っていると蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)が討伐部位を入れたマジックアイテムの袋を恭しく差し出す。

 

(…………ああ、そうか、そろそろ召喚時間がなくなるのか)

 

 “フォーサイト”の四人に見えないよう、マントに隠れた右手で袋を受け取る。

 蒼馬の上からだが礼儀正しく佇む蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)。上空には他に二体の蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)もいる。

 調子に乗ったモモンがアンデッドを倒しすぎてしまい、一体では回収が大変だろうと追加召喚した二体だ。

 

(…………はて?)

 

 モモンの脳裏になにかひっかるものがあり首を捻る。「どうされましたか?」とでも言いたそうに蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)も首を捻る。

 三体の蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)を見てから、ゴーレム馬に括り付けられた野良死の騎士(デス・ナイト)を見る。

 また蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)を見る。それを三度ほど繰り返し思い出す。アンデッドはアンデッドを呼び、やがて強力な個体を生み出す負の連鎖を。

 

(お前かあああ!)

 

 心の中で絶叫した。

 

 

 

 




アルシェがフールーダの弟子になったのはかなり若い時としてます。

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