鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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PCが突然落ちる事態に(´・ω・`)
素人なりに色々試してみて少し改善しましたが、まだ落ちてしまい、書いてる途中で「ああああ!」ってなる。マザーボードとかだったら私には\(^o^)/
今週末に知り合いに見てもらうことになりました。

本編ですが原作、web版をなぞる形で変更点はちょっとしかありません。
IFルートということで御理解下さい。



24話 王国からの使者

 レエブン侯の執務室は広いように思われがちだが、実際はさほど広くはない。

 6大貴族に数えられ、王都でも指折りの屋敷に住むレエブン侯からすれば小さいとしか言いようが無い広さだ。この部屋で幾つもの重要な決定がされている。

 レエブンは魔法的な防御まで考えられた部屋に入り、重厚な執務机の向こうにある、唯一のイスにドカリと腰を下ろす。そして怒りが爆発した。

 

「どいつもこいつも馬鹿ばかりか!」

 

 本当にどいつも現状を理解していない。

 王国の現状はかなり追い詰められている。

 帝国の頻繁な示威行為の所為で、食料の問題などゆっくりと様々な問題が沈殿しつつあるのだ。大きな破綻が無いような気がするが、それは村々に目をやって無いからだ。

 

 帝国は騎士という専業戦士を保有しているが、王国にはそんなものはいない。そのため、帝国の侵略となると、平民を集めて兵士を作らなければならない。その結果、村々には働き手がいなくなるという時期が生まれる。

 そんな帝国が狙うのは当然、収穫の時期だ。

 収穫の時期に一ヶ月も男手がなくなるというのは非常に問題なのは言うまでも無い。ならば平民をかき集めなければ良いという考えもあるだろう。しかしながら専業戦士からなる、練度武装共に長けた、帝国の騎士の前には、数倍の兵を集めなくては容易く打ち負けてしまう。

 それだというのに────

 

「屑は裏切りを! アホは権力闘争を! 馬鹿は不和を撒き散らす!」

 

 6大貴族の一人であるブルムラシュー侯は裏切り行為を行い、帝国に情報を売り渡している。貴族達は王派閥と貴族派閥に分かれて権力闘争。王子たちは王の後の地位を互いに狙いあう。

 

 レエブンはアインズ・ウール・ゴウンに対して最大の敬意を払う必要があると考えていた。

 その旨を王陛下にもシッカリと伝えたはずなのに────

 

 アインズ・ウール・ゴウンなる人物が拠点にしている場所を調べる。そういう名目で第一王子が手配した使者が視察のために出立してしまったのだった。

 

「あんの馬鹿王子がぁ!」

 

 王国の忠臣レエブン候は、例の魔法詠唱者(マジック・キャスター)に土地を売り渡し、新たな国造りを王派閥側が支援し友好関係を築く方が得策だと判断していた。

 王に忠誠を尽くす貴族への根回しや貴族派閥への情報操作を迅速に進めていたが、頭の悪い第一王子に釘を刺すのが遅れたのが悪かったのだろうか。

 

「いや、あの馬鹿に伝えたとしても反対してきただろう。王直轄の領土が減る事実に拒絶反応を示してもおかしくない」

 

 いずれは自分が王位に就くと妄信している男だ。その時の自分の領土は多いに越したことはない。とでも考えているのだろう。

  

「せめて失礼がないよう、視察だけで終わるのを期待するしかないのか」

 

 髪を掻き毟りながら思う。

 使者には貴族派閥の息が掛かっている。第一王子と特に懇意にしているボウロロープ侯絡みなのは明白だ。貴族を特別な存在とした選民思想を持ったボウロロープ侯の息が掛かった使者。嫌な予感しかしない。

 

 他の使者をねじ込もうと動いたのだが、貴族の横槍が入ったため難しかった。

 王も息子が奮起して始めた行動に強く出ることはなかった。

 王は決して馬鹿ではない。民を思う優しい人物であることも知っている。だがその一方で、長兄を哀れんでいるのだろう。なにが本当に大切か、王としてちゃんと考えていない。 

 

 視察と言うからには土地云々の話は勝手に決めたりはしないだろう。

 せめて相手の拠点を見るだけにして、サッサと戻って来て欲しいと願うことしかレエブンには出来る事がなかった。

 

 なんでこんなに面倒なことをやらねばならないのか。

 レエブンでも全てを捨ててしまいたくなる時もある。どうしてどいつこいつも現状をしっかり見ないで、くだらないことをやっているんだと。砂で城を作っているというのに、周りでは子供が暴れているのだ。

 

 そんな状況では、破滅願望に襲われても仕方が無いだろう。

 そんな彼が頑張れるのにも当然理由がある。

 

 コンコンという扉を叩く音がする。

 その音の出所は低い。ならば誰が来たのかすぐに分かる。

 目に入れても痛くないほど溺愛している五歳の息子「リーたん」。そして子供を生んでくれた、今では心から愛している妻だ。

 

 今のレエブン侯の目的はたった一つ。

 『我が子に完璧な状態で自らの領地を譲る』

 このためにレエブン侯は頑張れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 その頃の第一王子は酷くご機嫌だった。

 

 王都が襲われた事件で自分以外の王家の者の支持が高まり、何故か失墜したのが自分だけだったのに焦っていた。

 このままでは不味いと思っていた所に現れた妖しげな魔法詠唱者(マジック・キャスター)

 戦士長の話では王国民を助けた心優しく強大な力を持っているそうな。

 だが、そんな事はバルブロには関係がなかった。

 転移の事故に巻き込まれて王国内に現れた拠点とやらの話は特に妖しいと思っている。

 元々王国内に在った物を勝手に使っているのではないかと。

 もしそうであった場合はそれは王国の物と同義。

 そこから相手の弱みに付け込めば交渉事も優位に運べるであろう。

 ならば自分がその拠点を調べ、なにかしらの成果を上げるチャンスだと先行して動いたのだ。

 

 ついでに魔法詠唱者(マジック・キャスター)に付き従っていた非常に美しいメイド。

 肖像画が描けないといわれる程の美貌と称される妹に匹敵する女をも我が物に出来ればなどと鼻の下を伸ばしていた。

 

「ふはははは。見ておれよ私があの魔法詠唱者(マジック・キャスター)の正体を見極め王国を導いてくれる」

 

 

 

 

 

 

(なんて事でも考えているのでしょうね)

 

 第三王女ラナーは自室で紅茶を飲みながら愚かな長兄の行動を分析する。

 仮に第三者がいれば、今ここには彼女一人しかいない様に見える。

 しかしそれは間違いである。正確にはもう一体この部屋には存在している。

 

 ラナーはチラッと自身の影を見る。

 

(デミウルゴス様に報告しておくべき事柄なんでしょうけど…………) 

 

 一瞬だけ考えるが即座にその考えを放棄する。

 

 謁見があった日の晩に王女の部屋に現れた悪魔。

 その悪魔が絶対の忠誠を誓っている主である魔法詠唱者(マジック・キャスター)が仰っていたのだそうだ。

 『王国の決断を尊重する』と。

 今ならば幾らでも対処は可能であっても、ナザリックに仕える者(・・・・)の一員としては主の意向に沿うのが当たり前である。

 初めて会った自分と同等、もしくはそれ以上の知者(デミウルゴス)────しかもまだ他にも居るらしい────もこの程度の事は起こり得ると想定していただろう。

 

 それほどの知恵者達が絶対(・・)の忠誠を誓うほどの主。

 更にラナーは謁見の場で(まみ)えた時の、まるで全ての支配者だと知らしめる様に放たれていたオーラを思い出し身震いする。

 

(まさか王族の自分が支配される事を望んでいたなんて思いもしなかったわ)

 

 ラナーは幼少の頃から類まれな才能を発揮したが、周囲には彼女と同じ領域に到達していた者が皆無であった。「得体の知れない事を呟く少女」「理解不能な事を述べる薄気味悪い少女」という評価を常に受けてきた。母譲りの美貌のため嫌悪は大して無く愛情も多少は得ていたが、「同等の人間」がいない事はラナーの精神に甚大な影響を与え彼女は徐々に歪んでいった。身体的にも拒食症を発症し緩やかに死に向かっていったが、拾った子犬が自分に向ける視線の中に、「自分と同じ人間」を見出したため、満たされる事となる。

 

 このような経緯を経て、今でもクライムには愛情を抱いている。

 それは首に鎖を繋いでずっと飼っていたいという欲望。かわいい子犬に向けるのと同じようなものであった。ラナー自身はそれを愛情と認識している。

 

 仮にラナーが自らの才を遺憾なく発揮して本性をさらけ出せば、父はどうするだろうか?

 自分の容姿のお陰で虐待を受けたりはしないだろうが、二番目の兄のようにおぞましい化け物か、異質な存在と敬遠されるのがおちだろう。

 普通の人間ならそうするのが当然なのだろう。ラナー自身には良く理解出来ないことだが。

 

 デミウルゴスのような知恵者。それも明らかな人外からの忠誠を一身に受け、我が子のように大切に思っているという圧倒的支配者。

 彼の『偉大な御方』ならば自分の全てを受け入れてくれそうな気がしていた。

 彼に抱いている感情が愛情なのか恋慕なのかは分からない。

 ただ、自身が彼の方を強く望んでいるのだけはハッキリと分かる。

 

 今はまだ一介の魔法詠唱者(マジック・キャスター)でしかなくても、すぐに彼を中心に世界が動く。

 

 懸想人の傍で手腕を振るえる日を楽しみに窓から見える空を見上げる。

 その姿を、『連絡用』にと影に潜んでいた悪魔は静かに見ていた。

 

「それにしても、お兄様は馬鹿な事をしましたね。うふふふ」

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓地表部。

 静かな風が草原の草を揺するという牧歌的な景色が広がる草原の中、突然聳え立つ白亜の壁。門から内部を覗けば広がるのは巨大な戦士像などが置かれた墓地。

 

 そこには王国の紋章の入った馬車と世話役を務める者達が乗る一般的な馬車が一台ずつ止まっている。

 馬車の周りには同じ紋章を胸に刻んだフルプレートメイルを着用した戦士が数名。どこかの貴族の私兵というのが最も相応しい出で立ちだ。

 そんな戦士達が視線を送る先にいたのは、一人のメイドであり、一人の戦士であり、一人の貴族風の男だった。

 貴族風の高齢な男が苛立ちを隠しもせずに吐き捨てる。

 

「遅すぎる。一体いつまで我々を待たせるつもりかね?」

 

 アルチェル・ニズン・エイク・フォンドール。皮膚はしわだらけで骨と皮しかないと思えるほど痩せている。髪は殆ど残っていない上に白く細いためにハゲて見える。そんな見た目をしているためスケルトンやリッチと言ったモンスターに似ていると言っても過言ではない姿をしている。

 貴族派閥に属する儀典官であり、ナザリックの視察の任を受けてきた。儀典官と言っても今回は視察と言う名の調査が目的で、アルチェルは自分でなくても良いだろうに、と王都出発時から不満を抱いていた。

 

「大変申し訳ありません。現在アインズ様は急ぎ準備をされております。ですのでもうしばらくお待ちいただければと思います」 

 

 ペコリと頭を下げたのはメイド、ユリ・アルファである。その非常に整った顔に深い謝罪の感情を込めての行動だ。

 

 この問答は既に十数度繰り返されているもの。王家からの使者をこのような場所で待たせるというのは、あまりにも無礼だと言うのに、返ってくるのは中の応接室まで案内するというものだった。

 中、というのはあの墳墓のことかと信じられない者を見る目をして、メイドの神経を疑った。

 挙句には近くに見えるチャチなログハウスから墳墓に入る道があると言い出す始末。

 常識的に考えて墓場に住むような人間なんか、どの程度の人間か言うまでもない。はっきり言ってしまえば穢れた仕事をするような人にして人に有らざるような存在だ。おそらくはアルチェルのような貴族の人間が生涯関係を持たないような地位の者。そんな人間に会うために自分が派遣された。そのことが何より非常に不快だった。

 やはり魔法詠唱者(マジック・キャスター)などその従者も含めて得体の知れない頭のおかしな連中ばかりだ。アルチェルは侮蔑の視線をくれていた。

 

「アルチェル殿。そう目くじらを立てる必要も無いじゃないですか。このような田舎臭いところに住んでいる住人。礼儀という言葉を知らないのも当然です」

 

 アルチェルの横に居る戦士が声を掛ける。

 

「そうはおっしゃいましてもな」

 

 この男はクロード・ラウナレス・ロキア・クルベルク。若いがアルチェルの派閥ではより権力がある貴族で護衛の騎士だ。

 クロードの視線はここに来てからユリの全身を嘗め回すように動いている。肉欲に塗れたクロードの視線はユリの胸の辺りで固定される。

 

「ところでそちらのお嬢さんは、ゴウン…………とかいう魔法詠唱者(マジック・キャスター)の何なのかね?」

「私ですか? 私はアインズ様に仕えるメイドの一人です」

「メイドの一人? とするとゴウンというのは何人もメイドを抱えているのかね?」

「はい。左様です」

「ふーん。ちなみに君がもっとも美人かね?」

「…………わかりません。美しいという評価は、それをつける人によって変わりますので」

 

 ユリは自分が美人だということを否定しない。

 当然だ。至高の41人によって美貌を持たされて生み出されたのだ。そんな自分が美しくないわけがない。それを否定することは至高の41人の美的センスを否定することに繋がる。

 

 ただ、至高の41人に生み出された他の存在も、ユリと同じように美貌を持たされて生み出されているわけだ。そのため、自分の方が美しいと断言するのは、やはりその存在を作り出した至高の41人を侮辱する行為に繋がる。そのためあのような返答になっていた。

 

 クロードが知る限りという範囲まで広めても、ユリの美貌に匹敵できるのはたった1人しかいない。

 それは『黄金』といわれる女性だ。

 ユリはクロードからすれば、それほどの美貌の持ち主と評価される。

 そんな女が、他の者に関して自分の方が美しいと断言できない。それは遠慮によるものか、それとも本当に同じぐらいの美貌の持ち主がいるのか。

 ゴクリとクロードは喉を鳴らす。

 こんな田舎に来るような仕事を受けて最悪だと思っていた。しかしうまく立ち回れば、かなり旨い目を見れそうだと。

 

 再びじれ出したアルチェルが苛立たしげに口を開く。

 

「それで主人はいつ来るのかね?」

「もう、まもなくかと」

 

 そう返答するものの、ユリはアインズがいつ来るか知らされていない。ここは遅れて申し訳ありませんという謝罪の雰囲気を持って言う。

 ただ、本音は少し黙ってろである。

 至高の41人のまとめ役であり、最後まで残っていただいた最高の支配者。それほどの存在をそこまで急かすとは、善良で温厚なユリと言えども内心かなりの苛立ちを覚えてしまう。決して内心を表には出さないが。

 

 王国からの使者が訪れて直ぐに、ユリはアルベドへと報告を行った。そしてアルベドからアインズへと連絡がいっている。

 アルベドからの返答では、アインズは現在用事でナザリックを離れていたところを至急ナザリックへ戻り、服装を整えたりと使者を迎える準備に奔走している。

 

 ユリにアルベド。その他、使者の来訪の話を知った僕達の思いは、何もアインズ自らが出迎える必要は無い。だった。

 使者が王家の紋章を下げた馬車に乗って来た以上、使者を出迎えるのであればリ・エスティーゼ王国ヴァイセルフ王家の者と同等の扱いをすべきだというのは充分理解出来る。

 

 ただ、不快に感じさせているのは使者が突然来たことだ。

 早馬が知らせに来たなどの礼儀を示した上で、使者が来たというのならばこちらも礼儀を尽くす必要があるだろう。しかしながら何も知らせずに、直接乗り込んでくるというのはこちらを下に見ている行為ではないか。

 

 それだけ下に見られている中、主人であるアインズが直接出向く道理は無い。

 

 だが、アインズが下した判断は御方自らがナザリックを案内するというものだった。

 ユリに与えられた使命は、アインズの準備が整うまで使者に対して失礼がないようもてなしをすることだった。

 

 ユリとしても日差しが強い中、外でただ待たせるつもりは毛頭なかった。

 アルベド指示の下、第九階層の応接室に案内するつもりだったのだが、この貴族の男が聞く耳を持たない。

 もう一人の戦士は至高の御方のために存在する自分の身体を不躾に嘗め回してくる。

 ユリをして、そろそろ一発殴って黙らしてしまいたかった。

 

 三人の間に沈黙が流れた時、ログハウスの扉が開く。

 

 アルチェルもクロードもそちらを目にし、絶句する。

 ユリも表情には出さないが、心の中で微妙な思いが駆け巡る。

 

「お待たせしましたでありんす。アインズ様の準備がもうすぐ整いますので中に案内致しんす」

 

 現れたのは漆黒のボールガウンを身に纏った『真祖』シャルティア・ブラッドフォールン。

 日差しを避ける日傘をクルクル回しながらゆっくりとした足取りでこちらに歩いてくる。

 いつもと変わらぬ白い肌に真紅の瞳は健在だが、流石に牙は幻術か何かで隠していた。

 

(何故シャルティア様が?)

 

 ユリが疑問に思ったのは一瞬。アルベドの采配だろうと理解する。

 

 現在のナザリックには第四、第八を除けば守護者はシャルティアぐらいしか居ない。

 コキュートスは蜥蜴人(リザードマン)の集落。

 アウラはトブの大森林。

 デミウルゴスはアベリオン丘陵。

 マーレはナザリックに居るが、性格上使者を迎えるのに不向きだと思える。姉と一緒ならば話は変わるが。王国相手に闇妖精(ダークエルフ)なのも要らぬ問題を起こしかねない。

 

 クロードはあどけなさが残りつつも妖艶さを備えた美しい少女を見て生唾を飲み込む。

 そしてかすれたような声で話しかける。

 

「…………君は…………ゴウンとかいうのとどういった関係なのかな?」

「ア゛!?」

 

 至高の御方を軽んじる発言に思わず低い声が出てしまうシャルティア。

 しかし直ぐに自分の役目を思い出し微笑みの表情を浮かべる。こめかみに青筋が残っているあたり、内心怒りの感情が渦巻いていることだろう。

 

「わらわはシャルティア・ブラッドフォールン。アインズ様の…………妻でありんすえ」

「妻!?」

(妻!?)

 

 シャルティアの唐突な爆弾発言。 

 ユリが抱いた感想は「この人は何てことをのたまうのだろうか」だった。

 目下守護者統括と争っている至高の御方の正妃の座を勝手に名乗って大丈夫なのだろうか?

 

 見た目可憐な少女が胸を張って踏ん反り返っている中、王国の使者が抱いたのは激しい嫉妬だった。

 

 クロードは”黄金”に匹敵する美貌を持つメイド────それもおそらく複数人を侍らせていることに対して。

 更にどこかの国の姫を思わせる可憐な美少女────しかも見た目にそぐわぬデカさを持つ────を嫁にしていることにも。一体どれだけ楽しい夜をすごしたのか、と言う妬ましさからくる嫉妬。

 

 アルチェルは妻を名乗る少女が身に纏う衣服・装飾品が貴族である自分ですら見たことが無い程素晴らしい品であることにだった。

 こんな墳墓に住んでいる頭のイカレタ魔法詠唱者(マジック・キャスター)如きがこれ程の物を妻に与えられる財を持っている。その事実が許せなかった。

 

「ここに居ても仕方ありんせん。付いて来んさい」

 

 自分の欲望を言葉にしたことで幾分か機嫌が良くなった吸血鬼がログハウスに向かう。

 

 王家の使者よりも自分が上位者だと言わんばかりの対応を取られているのに、しぶしぶ後に続く使者の二人。護衛の戦士達もそれに続く。

 シャルティアの放つ堂々とした雰囲気が貴族としてのプライドを萎縮させていた。

 

 メイドとして丁寧な対応をしていたユリは、コレが狙いだったのかと素直に感心してシャルティアの後を追う。

 低いうめき声を出しているあたり納得している様子はないが、すっかり大人しくなった使者達。 

 

 しかし、それも長くは続かなかった。

 

 

 

「これほどの財を一体どうやって成しえたんだ」

 

 アルチェルの硬質な声が響く。

 

 ログハウスに設置してあるマジックアイテム<転移門の鏡/ミラー・オブ・ゲート>で第九階層に飛んで目に入った光景に驚きを隠せない者に「ここはアインズ様を含めた至高の御方々が創られた至宝でありんす」と、上機嫌で応えるシャルティア。

 

 しかし彼女の機嫌が良かったのはここまでだった。

 

「財を溜めているようだが、ここの主人は税金を支払っているのか?ここは王国の領内であり、王国の法律が支配する場所。この地で生きるなら収益に応じた税金を支払う必要がある。そしてこれほどの建物に相応しいだけの税金を支払っている者がこの辺りにいるという話は聞かない」 

「…………」

 

 アルチェルの言葉は止まらない。 

 

「築いたという話だが、王国の領内にあるものを不当に占拠しているだけだと言い切れなくもないのではないか?この地が墳墓だとするなら、墳墓の所有者は基本的に王国、もしくは神殿に返るもののはずだ」

 

 捲くし立てるアルチェルをクロードが窘めるように動く。しかし、この男が放った言葉。「胸の内に秘めても良い。こちらも相応のものをいただければ……ね」の発言からは下心が見え見えだった。暗にここに居る美しい女を寄越せと。

 

 自分よりも遥かに財を有する男への嫉妬が抑えられないアルチェルはまだ止まらない。

 

「不当の占拠であれば、それはすなわち盗人も同然。汚らしい罪人を王都へ連行して────」

 

 アルチェルの言葉が途中で止まる。

 

 目の前の可憐な少女から吹き上がるのは、目で見えるような憤怒の赤いオーラ。背筋も凍る殺気が放たれていた。

 クロードが先ほどまで一緒に居たメイドを横目に見れば、凛とした佇まいを崩さなかった淑女からも同じような殺気を向けられていた。

 

 王国に対して弓を引く者はいない。そんな愚かな行為をするはずが無いという都合の良い考えから傲慢な態度を繰り返してきた男達の考えは────

 

 ナザリックに通じる訳もなかった。

 

 

 

 

 




ラナーがアインズと会ったら実際どうなるか?
原作では特に何も起こらなそうですが、ここではこんな感じになりました。

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