鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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オーバーロード(14)「滅国の魔女」2020年3月12日発売。
この『魔女』が誰を指しているのか。その意味によって変わるけど候補は二人、ないしは三人。待ち遠しい。

今回でエ・ランテルの話はひとまず終了です。


36話 お買い物

「料金は……確かに。んじゃ、これがご注文の品だ」

「へへ、あんがとさん」

 

 受け取った品を確かめ、大事そうに背負う軽薄そうなレンジャー。

 魔導国が主導して建てられた冒険者用の武具店。一階は主に武器防具を販売していた。

 カウンターでは一組の冒険者チームが商品を買っていた。

 胸元には白金(プラチナ)級を示す冒険者プレート。

 ミスリル級まであと少しと噂される“漆黒の剣”の四人がいた。

 

「これで一階層攻略が出来るようになるかもしれませんね」

 

 人当たりの良さそうな顔付きをしたリーダーのペテルが品物を受け取ったルクルットに言う。

 

「そうだな、でもどうせならナーベちゃんとお揃いの雷属性が良かったんだがなぁ」

「仕方ないのである。雷ならニニャが<雷撃(ライトニング)>を使えるようになったのである」

「そうですよ。散々話し合って決めたことですよ。と言うより、ナーベさんのこと、まだ諦めてなかったのですか?」

 

 ぶうたれているルクルットを諭すのはドルイドのダインと第三位階を使えるようになった魔法詠唱者(マジックキャスター)のニニャであった。

 

 彼ら“漆黒の剣”はモモンに助けられてからもエ・ランテルに戻り、冒険者稼業を続けていた。魔導国となってからも魔導王の提唱する『未知を冒険する冒険者』に憧れを抱き、日々研鑽を続けていたのだった。

 モモンからもらい受けたミスリル製の武具を頼りに、されど決して装備に甘えることなく着実に力を付けていった結果、ようやく装備に見合うだけの強さを得ることが出来たことを誇りに感じていた。

 ある程度資金も溜まり、様々なモンスターが待ち受けるダンジョン攻略のために、装備の強化を図ることにしたのだ。

 四人で話し合い、選ばれたのはルクルットの装備。今ルクルットが受け取った矢筒には魔法が込められており、一日五十本までと制限があるが、筒に収めた矢に氷属性を付与することが出来るもの。

 ルクルットが不満を口にしたのは“美姫”が得意としている雷属性とお揃いにしたかったとからだった。

 しかし第三位階に到達したニニャが<雷撃(ライトニング)>を覚えてしまっているため却下される。ニニャは他にも<火球(ファイヤーボール)>と<飛行(フライ)>の魔法を新たに習得している。

 だからこそ選ばれたのが氷属性の攻撃手段という訳だ。

 氷の矢ならば例え致命傷を与えられずとも、足に当てれば機動力を奪うことも出来る。他の属性と比べても汎用性が高いと判断した結果なのである。

 

「いや、コイツが有用なのは分かってんだけどよぉ。分っかんねえかな愛しのナーベちゃんを思う男の気持ちってヤツがよ」

「分からないことはないであるが、それにはまず相手と同じ土俵に立たなくてはならないのである」

「なにせアダマンタイト級ですからね」

「しかも今やこの都市の冒険者の代表とまでになっていますしね」

 

 相手は史上最高と謳われる“漆黒”の相方。こちらは未知の冒険をするには未だ実力不足の一冒険者。チーム名が似ているだけでその距離は果てしなく遠い。

 ルクルットにはさっさと諦めてもらって他に良い娘を探す方が賢明であろう。

 当の本人以外は全員そう思っていた。

 

「では、上を目指すためにもダンジョンに潜りに行きますか」

 

 リーダーのペテルの提案に乗り、“漆黒の剣”は店を後にしようと出口の方へと向かう。

 すると、そこから随分と目立つ集団が店に入って来た。

 エ・ランテルの英雄であり、“漆黒の剣”にとっての大恩人がうら若き乙女を連れて。約一名は乙女と言うには無理があり過ぎるが。

 五人組の女性。装備や容姿。冒険者用の店へ来たことなどからそれが噂に名高い王国所属のアダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”だと知る。

 モモンに挨拶をしたかったペテルだが、他国となった王国のアダマンタイト級冒険者との組み合わせは何か事情があるのかもしれない。変に声をかけて邪魔をしては悪いと思いなおし、会釈だけして脇を通り過ぎる。

 他の三人、特にニニャは名残惜しそうに何度も振り返っていた。

 

 

 

 顔見知りの冒険者へと軽く手を上げて挨拶したモモン。後にはラキュースたち“蒼の薔薇”が付いてくる。そこにティラの姿はなかった。

 

「ティアもティナも久しぶりに会った姉妹と別れてよかったのかよ?」

「問題ない」

「夜に会う約束をした。詳しい話はその時に聞くつもり」  

 

 ガガーランは偶然にも姉妹三人が揃ったのだから、こちらのことを放っておいて三人で語り合って来たら良かったのにと思っていたが、どうやら気を遣うまでもなく、夜に予定を入れていたようだ。

 ティラと言うらしいが、彼女とは一言二言挨拶みたいなやり取りをしていた後は、声を出さずに腕と手を使った手話――――ティアとティナは通常の会話と同程度の速度で出来る――――で何かを話し合っていた。

 多分忍者姉妹にとってはあれがコミュニケーションの一つなのだろう。

 

「皆さん、一階は武器や防具を取り扱っているので見ていかれては? 本来は魔導国所属の冒険者以外は利用出来ないんですが、許可は取ってありますので。希望の品があれば自由にされて大丈夫ですよ」

「冒険者だけなんですか?」

 

 モモンの説明にラキュースが疑問を抱く。

 

「ええ、今魔導国ではドワーフの技術で作られたルーン武器に力を入れています。それが冒険者の強化に繋がるのですが、もし他国に渡ったりすれば……」 

「技術を盗まれて、戦争に使用されかねない……ですね」

 

 モモンは鷹揚に頷く。特に警戒しているスレイン法国に流れさせる気は一切ない。

 

「でも、それでしたら私たちは?」

「”蒼の薔薇”の皆さんでしたら悪用したりはしないでしょう? だから許可が下りたんだと思いますよ」 

 

 モモンの言う通り悪用する気など毛頭ない。魔導王とは会ったこともないのに何故信用を得られたのだろうか。不思議に思うラキュースであった。

 

(私たちのこれまでの活動を調べたからかしら? 人様に言えないようなことは今まで一度も……)

 

 『ない』とは言い切れないかもしれない。

 友人のラナーの依頼を組合を通さずに受けていたこと。組合を通さずに依頼を受けることは規約違反に当たってしまう。

 しかしながら、依頼内容は犯罪組織が営んでいた麻薬畑の焼き討ちなどの完全な悪が相手。冒険者としては間違っていたとしても、一人の人間としてはなんら恥じるところではない。

 王都の冒険者組合長も恐らく気付いていながら黙認してくれている節がある。

 人類最高峰のアダマンタイト級冒険者に対して組合は強く言えないのもある。それに対して決して笠に着ることはない。後悔もしていないし、間違ったとも思っていない。

 ただ、声を上げて誇ることではないだけだ。

 信用されているのだから絶対に裏切るような真似はしない、と強く決意する。

 

「蒼の薔薇の名に懸けて約束します。決して悪用しないと」

「おう、任せとけよ」

「案内してくれたモモンの顔に泥を塗ったりなんてしない」

 

 ティアとティナも「大丈夫」とリーダーに続く。

 

「ハハ、そんなに堅くならなくても、私は最初から信じていますよ」

 

 嬉しいことを言ってくれるモモンに感謝しつつ、さっそく店に並んだ品物を見ていく。

 

 

 

「見ろよティア、これなんてすげえ品質の高さだぜ」

「それでこの価格は、随分安い」

 

 ガガーランが手に持ったのはミスリルで作られた一般的なブロードソード。並べられた武具のほとんどがドワーフ製らしく、卓越された技術には目を見張るものがある。他にもルーン文字が刻まれた物もあるが、そちらはショーケースに入れられ大切に保管されており、当然のように値は張る。

 安いとは言ったが、駆け出しから中堅クラスの冒険者からすれば十分高いと思われる値段設定かもしれない。しかし武具やマジックアイテムを見る目が十二分に備わっているガガーランからすれば即買いするレベルの品々。

 巌のようなガガーランは得意武器のハンマーなどをいくつも品定めしては「う~ん」と唸りながら元の位置に戻している。

 

「気に入る物は見つからない?」

「……すげえ良い武器なんだけどよ……慣れ親しんだコイツと鞍替えする気には、ちょっとならねえな」

 

 ティアの問いかけに、背中に背負った巨大な刺突戦鎚を親指で指す。局所的な地震を発生させたり、ダメージが増すという一点に特化した魔法付与がなされている一級の武器。

 

「それでしたらその武器にルーン文字を刻んで見てはどうですか? あちらのカウンターで受け付けていますよ」

「そんなことも出来るのか? モモン」

「ええ、ウォーピックでしたら衝撃力を上げて気絶させたり、属性を持たせたりと幾つか選択肢があると思いますよ。一文字目は何を選んでも料金は同じですが二文字、三文字目と増やすごとに値段が跳ね上がってしまいますが」

 

 最大四文字までは可能。ルーン技術の開発は始まってまだ日が浅く、今後職人の腕が上がれば刻める文字数が増えたり、職人の数が増えれば価格も安くなるだろうとモモンは教えてくれる。

 

「おお! そりゃいいねえ。んじゃ俺はそっちを頼むわ」

「分かりました。では私が話をつけて来るので少し待ってて下さい」

 

 そう言ってモモンはカウンターの裏手から奥へと姿を消す。多分だが、奥に職人が待機しているのだろう。

 他の武具を見て待っていようかと思って辺りを見渡すと、さっきまでいたティアの元にティナも来ていた。二人ともカウンターの裏に掛けてある武器に注目しているようだった。

 

「よお、俺は決まりそうだけど、おめえらはどんなのにするんだ?」

「アレ」

「実はティラに会った時から決めてた」

「あん? その壁に掛けてある変わった剣……いや刀か?」

 

 南方から流れる高価な武器に似ているが、ガガーランの知っているそれよりも短い。黒塗りされた鞘は艶消しされ光の反射を抑えた作りから見た刀身はせいぜい60センチぐらいだろうか。刀特有の反りは少なくまっすぐになっている。

 

「あれは忍者刀……って言うらしい」

忍刀(しのびがたな)とも言う……らしい」

「らしいって何だよ、らしいって」

「私たちもさっきティラから聞いたばかりだから仕方がない」

「あの手話でシュババババってしてた時か? よくあんなやり取りでそんな話が出来るもんだな。すげえわ」

 

 どうやらティラはある人物から忍者用の刀のことを教えられたらしい。

 その話を元に、この店にオーダーメイドで作らせた品がこの忍者刀だと。

 

「それを聞いて私たちも欲しくなった」

 

 忍者専用の武器と聞いては黙っていられないのか、二人は何時になく真剣な面持ちで刀を見ている。

 

「そういやティラがこんな武器を持ってた気がするな。でもオーダーメイドって一品物なんじゃねえか? なんでまだあんだよ?」

「店の人に聞いてみる」

 

 呼ばれてすぐさま現れる禿頭の如何にも武器屋の主人といった体の店員。もっと日焼けしていれば更にらしく見えることだろう。客の要望に素早く対応する辺りは、良く教育されているのが分かる。

 

「ああ、そういうことですか? なかなか面白い注文だったんで注文とは別に面白がって作っちゃったんですよ。あ、品質に関しては一本目と同様、最高級品であることを保証しますよ」

「「買った!」」

 

 二人全く同時の声。もしかして殴り合いで決めるのかと思ったガガーランだったが、禿頭親父が奥からもう一本持って来たことで丸く収まる。何本作ったんだよ、と言いたくなるが、どうやらもう打ち止めらしい。

 ちなみにルーンが刻まれた品らしく、一本は切れ味、もう一本は耐久が上がっているそうだ。

 忍者姉妹は嬉しそうに、仲良く背中に新しい武器を背負う。

 

 

 

 モモンはガガーランをルーン工匠の職人に手引きした後、ラキュースの姿が目に入った。真剣に品物を検品している様から彼女の真面目さが窺える。 

 納得の行く物が見つからないのか、代わる代わる色んな種類の物を手に取っては戻していた。

 

「なかなか気に入った物が見つからないようですね」

「モモンさん。ええ、王国では見ないほど素晴らしいのは良く分かるんですが……」

 

 それも仕方がないだろう。ここに置いてある武具は全てこの世界の資源を使っている。ナザリックから持ち出された物は一階フロアには置いていない。

 アダマンタイト級冒険者の“蒼の薔薇”が各地の冒険で手に入れた装備はこの世界最高クラスの物。よほど気に入らない限り、同等クラスの物であればわざわざ買い替えることはしないだろう。

 特にラキュースは武器も防具も一品物を身に付けている。

 

「良ければラキュースさんの魔剣を見せてもらっても?」

「構いませんよ。はい、どうぞ」

 

 ラキュースの愛剣、魔剣キリネイラムを受け取り刀身を手に乗せ、一級の戦士が得物を確かめるように見定めてみる。鑑定魔法を使わなければ詳しい詳細は分からない。それでも、ユグドラシル時代から培ってきた知識とちょっとした鑑定眼からおおよその強さは分かる。

 

「…………」

 

「なるほど。噂通り良い剣ですね。これ以上の剣はここには現状ありません。ルーンを刻むのも止めておいた方が良いでしょう。元々の特性に影響が出るかもしれませんからね。鎧についても――――」

「わぁ! あ、あの、この鎧については、触れないでもらえると……その……」

「?」

 

 モモンが良く分かっていないことに安堵のため息をつくラキュース。

 白銀と金によって作られたような輝きを放ち、いたるところにユニコーンの装飾が刻み込まれているラキュースの全身鎧<無垢なる白雪/ヴァージン・スノー>。

 同クラスに分類される装備より防御能力が勝る代償に、乙女のみしか着用できない制限がある。

 

「なんだ、モモンは知らなかったのか? ラキュースの鎧はヴァージン・スノーと言っておと、むぐぅ!?」

 

 モモンの姿を見つけてやって来たイビルアイが何か言おうとしたところをラキュースが仮面を押さえつけ、黙らせる。耳元で何かを囁いた後「なんでもありませんのよ、おほほ」と貴族令嬢のように振舞う。

 モモンは鎧についてはこれ以上追及するべきではないと判断する。そして、次にラキュースの指に注目した。

 

「ところで、その五本の指に嵌めたアーマーリングは?」

「こ、これは……」

 

 途端に言い淀むラキュース。その拍子に恥じらう乙女から逃れたイビルアイが代わりに説明しだした。

 

「確か、キリネイラムのパワーを全力で抑えるのを補助するためだと以前言っていたな。暗黒の精神によって生まれた闇の自分を抑えるためだとも。ガガーランが心配していたぞ。大丈夫なのか?」

「ちょっ!?」

 

 随分と物騒な内容を真剣に語るイビルアイ。

 「ラキュースの叔父に相談した方が良いかも」「何か助けになれることがあれば遠慮なく言ってくれ」と心の底から仲間の身を案じているイビルアイと、「だだ、大丈夫だから。し、心配しないで」とワタワタしているラキュースを見ながらモモンは不思議に思う。

 

(おかしいな、あのリングからは魔力が一切感じなかったぞ。弱い補助効果だとしても俺が何も感じないのは…………ん? もしかして)

 

 暗黒の精神。もう一人の闇の自分。これらに抗っている。力の開放。

 かつてゲヘナの時にも聞いた単語を吟味する。

 

「……むっ、ぬおぉ!」

 

 突然モモンがクローズド・ヘルムの右目部分を押さえて苦しみ出す。

 

「モモン!? どうしたんだ!」

「モモンさん!?」

「…………む、ふう。いえ、大丈夫です。私の右目に封印された力が暴れ出しただけです。もう抑え込んだので心配はいりません」

 

 モモンの言葉に心配そうにすり寄ってくるイビルアイ。何度も大丈夫かと確かめてくることから本気で心配しているようだ。

 ラキュースは――――。 

 

 目をキラッキラさせてこちらを見ている。本当に星を瞬かせているように見えた。

 

(あ、やっぱりこの娘、あの病気なんだ)

 

 過去の鈴木悟(モモンガ)も一度かかり、すでに卒業した禁断の病。中二病。

 ラキュースの意味のないリングを見て、指貫グローブを連想したモモンは昔ウルベルトさんと一緒に遊んでいたことを思い出し、一芝居打ってみたのだった。

 

(邪眼とか言ったら喜びそうだな。それにしても懐かしい感じだなぁ)

 

 ユグドラシル時代、中二病真っ盛りの時期には仲間と共にはしゃぎまくっていた。魔法発動に全く必要のない詠唱を長々と語ったり、カッコいいポーズを披露し合ったりしていた。当時は同じ趣味を持つ仲間がいたことで、恥ずかしいなどとは感じなかったものだが、時が経つにつれて成長したからか、何時しか周りの視線が気になりだし症状が治まっていった。

 

(ウルベルトさんは最後まで続けてたなぁ、って変な設定をモモンに付けたら色々マズイ! 主に俺が)

 

 二人にはこのことは忘れて欲しいとお願いしておく。

 ラキュースはすごく残念そうにしている。ホントならもっと色々と聞きたいのだろうが、今後二度と現れることはないのだから忘れてもらうほかない。

 某宝物殿守護者がモモンに扮した時にこの話を聞けば喜々として披露しまくるだろう。それを思えば封印するのが一番良い。永遠に。

 

 

 

 思わぬ茶番を演じてしまったモモンは、ラキュースとイビルアイを二階への案内を申し出る。

 一階は主に武具を扱っているのに対し、二階はマジックアイテムを扱っている。そちらなら何か目ぼしい物が見つかるだろう。

 

 モモンは螺旋階段を先導しながらラキュースの魔剣について考えていた。

 魔剣の強さ的にはユグドラシル基準だと大したことはないが、この世界では国宝にもなりそうな相当な代物。  

 

 “暗黒騎士”と呼ばれた者が所有したとされる四大暗黒剣。

 

 魔力を注ぎ込むと刀身が膨れ上がり、無属性エネルギーの大爆発を起こすことが出来る魔剣キリネイラム。

 癒えない傷を与えるとされている腐剣コロクダバール。

 かすり傷で死に至るといわれている死剣スフィーズ。

 保有する特殊能力が謎に包まれている邪剣ヒューミリス。

 

 噂で聞いたこれらの能力はカースド・ナイトのクラスが持つ特殊能力だったはずとモモンは記憶している。

 では誰が魔剣を作ったのか。

 ピニスンから魔樹の話を聞いた際に出て来た七人が時系列から見ても十三英雄だと言うのはほぼ確実だろう。その内の一人のドワーフがルーン工王なのはドワーフの国で聞いた伝承からほぼ確証を得ている。ルーン工王は二百年前に魔神の襲撃があった際に旅に出ているのだから。

 十三英雄に確実に一人は居ただろうプレーヤーか、もしくはカースド・ナイトのスキルを知っている誰かが工王に教えて作らせた。そんなところだろうか。

 

(そうなると暗黒騎士がプレイヤーだったとは考えづらいな。悪魔との混血らしいからプレイヤーかとも思っていたけど……)

 

 この地に転移してから野良悪魔を見た記憶はない。二百年以上前なら普通に居たのかもしれないが。 

 プレイヤーならカースド・ナイトのクラスを取得すればいずれ覚えられる能力を態々武器に付与させるとは考えにくい。クラスデメリットを嫌って、とも考えられるが他に有用な能力は沢山ある。カースド・ナイトに寄せる理由が思い当たらない。

 

(うーん、考えても分からんな)

 

 十三英雄が今居ないのであれば考えても仕方がないことかと思考の海から意識を戻す。

 

 二階には一階ほど人の姿はない。

 ショーケースに入れられたマジックアイテムを覗いている(まば)らな客たちは漆黒の英雄の登場にざわつく。

 一緒にいる“蒼の薔薇”の姿を見たことで声をかけて来る者はいない。邪魔をしては失礼だと、仲間とマジックアイテムを吟味しながら、誰もが遠巻きに三人を意識していた。

 

「はぁ~、これが全てマジックアイテムなんですか?」

「よくもまぁ。これだけの物を」

 

 ラキュースとイビルアイから感嘆の声が零れる。

 

 店内には宝石店のようにガラスケースが幾つも配置されている。

 指輪、腕輪、ネックレス、イヤリング等々、装備箇所によって区分され、効果が書かれたポップと一緒に飾られている。

 別の一角ではガラスケースに覆われていない物も置いてあった。そこにはドワーフの革袋、ドワーフのランタン、<溶け込みの天幕/カモフラージュ・テント>、一定量だけ水を出すことが出来る無限の水袋など、冒険や旅用のマジックアイテムが販売されていた。

 

 王国内では、指輪などの装飾品のマジックアイテムは全くと言っていいほど流通していない。

 理由は単純、マジックアイテムを作るには高い技術と知識、時間、手間がかかるのでそれ自体が希少なのだ。また、宝石などをあしらった物などはかかる費用も当然の如く跳ね上がる。

 簡単に手に入る代物であれば、何の効果もないリングを何個も付けたりはしていない。

 

 ラキュースは喜々としてガラスケースを覗き込む。当然興味を持ったイビルアイも一緒に。

 二人は下にいる仲間の分も含めて、相談しながらアイテムを見て回る。

 

 やがて納得のいく物が見つかったようで、ラキュースはイヤリング、イビルアイはネックレスをそれぞれ一つだけ持って会計を済ませる。

 

「お待たせしました、モモンさん」

「もう良いんですか? もっとじっくり見てもらっても良いんですよ」

 

 女性の買い物とは長くなるもの。

 知識として知っていたモモンは二人の邪魔にならないよう空気のように存在感を消していた。何か質問があればすぐに答えられるよう二人の後ろに控えていたのだが、冒険者として決断力が高いのか、一周見て回るだけで終わる。

 

「ええ、<飛行(フライ)>の魔法が使えるようになるネックレスとか、非常に興味深い物ばかりでした」

「ああ、あれは<飛行(フライ)>が使えない冒険者パーティーには必須ですからね」

 

 未知に向けて旅立つ冒険者用に用意した数少ないユグドラシル産の<飛行のネックレス>。そこに目を付けるとは流石はアダマンタイト級冒険者だと感心するモモン。

 そんなモモンに対して、ラキュースは意味あり気に、会計と同時に装着したイヤリングをいじりだす。

 どうしたのだろうかと、頭に?マークを浮かべていると、何かを察したイビルアイも首から下げたネックレスが良く見えるように胸元の赤いマントをずらす。

 

「(んん??……あっ、そうか!)……二人とも、良く似合ってますよ」

「ふふ、ありがとう御座います」

「ホ、ホントか! モモンにそんなに褒めてもらえるとは、頑張って選んだかいがあったな」

 

 嬉しそうに微笑むラキュースと、仮面の頬の部分を抑えてモジモジしだすイビルアイ。

 

 女性とショッピングなんて生まれて初めてじゃないかと物思いに耽るモモンは某バードマンの美少女ゲームの話を思い出していた。

 

『女性が髪形を変えたり、新しい服を披露して来た時は兎に角褒めること。それを見逃すと途端に好感度がだだ下がりしちゃいますからね』

 

 なんでゲームの話を現実で実践しているのかと思わなくもないが、目の前の二人が喜んでいるのだから正解ではあったのだろう。

 恋愛経験のない身としては、例えゲームの攻略法とは言え参考に出来たのは幸いだろう。 

  

 それにしても彼女たちが購入したのはそれぞれたった一つだけ。確かにここにあるマジックアイテムは簡単に手を出せる金額ではないのだが、アダマンタイト級冒険者への基本依頼料を知っている身からすればまだまだ余裕があるはず。装飾品系装備での強化の余地は残っているにも関わらずどうしてだろう。

 モモンはその辺りを尋ねてみる。

 返ってきた答えはなんてことはない。単純に今の手持ちが少ないからだった。

 依頼で魔導国に訪れているのだから依頼が終われば速やかに戻らなければならない。その為必要以上に持って来ていないとのことだった。

 

(せっかく魔導国に来てくれたのにこれだけだとインパクトに欠けるか? それなら)

 

「もし良ければ私からプレゼントを贈らせてもらえませんか?」

「「えっ!?」」 

 

 いきなりの言葉に驚く二人。

 ラキュースが「でも、それは悪いわ」と遠慮してくる。

 

「せっかく来て頂いたのですからね。感謝の気持ちと思って、軽い気持ちで受け取って下さい」

「でも……」

「良いじゃないかラキュース。せっかくモモンがこう言ってくれているんだから」

    

 未だに気後れしているラキュースにイビルアイが背中を押す。

 漆黒の戦士は静かに佇んでいるだけ。その様からただの好意で言ってくれているのだと感じたラキュースは笑顔でもって了承する。

 

 ラキュースはただの好意からの贈り物と思っているが、実はモモンからすれば打算も入っている。

 それは彼女たち“蒼の薔薇”が王国内でもたらす宣伝効果を狙ったもの。要はこれから先のために、魔導国の冒険者になればこんな物も手に入れられますよ。と宣伝しておくためだ。

 その為、ここで贈る品は魔導国で売られている物が望ましいのだが、実は今のモモンの現地通貨の手持ちはそれ程多くはない。必要としていなかったから。

 そこで自分のアイテムボックスに眠っている中から、この店で売られている性能の範囲内で選ぼうと考えていた。

 

 ラキュースには神官戦士として守りの効果がある物。

 イビルアイには魔力量増加の効果がある物辺りが妥当だろう。

 そう提案し、最後の項目を確認する。

 

「どんな形の物が良いですか?」

 

 モモンの問いかけに、二人は顔を見合わせ同時に答える。

 

「「指輪!」」

 

 

 

 

 

 

「それにしてもこの国にはたまげたなぁ」

 

 ここはエ・ランテル最高の宿“黄金の輝き亭”の一番良い部屋。

 そこでガガーランは夜空が見える窓際のテーブルで酒を煽っている。

 

「亜人ともあれだけ友好的に共存出来るように計らうなんて、この国の王様も良く分かってるねぇ」

 

 かつて平和に暮らしていただけの亜人の村を襲っていた法国の特殊部隊と、仲間と共に争ったことがあるガガーランとしては、この国の在りようは非常に評価出来る。

 

「アンデッドもあんだけ大人しい姿を見せられちまうと、今までの常識が吹っ飛んじまうな。死者の大魔法使い(エルダーリッチ)が書類整理とか事務仕事してる様なんか、今思うと笑っちまうくらいだぜ」

 

 迷宮の主ともなる死者の大魔法使い(エルダーリッチ)がいそいそと書類の束と格闘している様なんてこの国でしか見られない光景だろう。

 

「この国の王様ってどんな奴なんだろうなぁ? ちょっくら見てみたいけど、忙しいらしくて会えなかったのは残念だぜ」

 

 広い部屋の中、ガガーランの独り言(・・・)が虚しく響く。

 タンッ! と酒の入ったグラスをテーブルに叩く音が鳴る。

 

「聞いてんのかラキュース!? ちょっとぐらいは返事してくれねえと俺が一人で喋ってるみたいじゃねえか」

「ん~っ? ちゃんと聞こえてるわよ」

「はぁぁぁ、ったく」

 

 怪しいもんだぜと酒を一気に煽る。

 目の前の乙女ときたらずっと指に嵌めたアイテムを見てはにやけ、撫でては溶けたような顔をしていた。

 左手の薬指に着けて顔を真っ赤にして付け直したりもしている。とても人前に出せる状態ではない。

 

(ま、あれだけの英雄から貰ったんじゃ分からなくもないけどよ)

 

 同じく指輪を貰ったイビルアイは今頃隣の――モモンが以前使っていた――部屋で似たような状況だろう。いや、もしかしたらもっとひどいかもしれない。

 ベッドでゴロゴロと悶絶しているか、残り香を探してクンカクンカしている可能性もある。

 

 モモンからの贈り物には”蒼の薔薇”全員分。

 ガガーランが貰ったのは力上昇の腕輪。

 ティアとティナには髪を括るのに使う髪留め。それぞれ隠密能力上昇と素早さ上昇の効果が込められていた。

 プレゼント自体はとても有難いことで皆感謝している。

 

「それで、組合への報告は問題ないだろうけど、どんな感じに報告するんだ?」

「ん~?」

 

 今はとても真面目な話は出来そうにないリーダー。

 ガガーランは綺麗な月を見ながら一人呟いた。

 

「ダメだこりゃ」

 

 

 

 

 




十三英雄について少し考察してましたが、とりあえず暗黒騎士はプレイヤーではなかったとしています。と言うよりどう考えてもプレイヤーはリーダーだけだったとしか思えない。
リーダーについてはまた後程話に出てきます。

ティラはナザリックのことはボカシて姉妹談義。

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