鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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新年会で飲んだ獺祭二割三分、美味かった(^^♪


40話 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』

 ナザリック地下大墳墓、宝物殿。

 ここはナザリックのどこのエリアとも繋がっていない隔離された空間。この空間へ入るには専用のアイテムが必須である。

 最高峰のマジックアイテムが鎮座する場宝物殿の先の先の最奥で、アインズは一人黙々と作業をしていた。

 

「ここに並べて…………っと。よし、完成」

 

 そこは『霊廟』と呼ばれるワールドアイテムが保管されている場所。

 そして、引退していったギルドメンバーたちが残していった武装を装備したゴーレム”アヴァターラ”達が鎮座している場所でもある。

 並んだ”アヴァターラ”はユグドラシル時代、引退していった仲間を模してアインズが作ったもの。

 

 アインズの目の前には自分の分身、死の支配者(オーバーロード)に最適化された神器級の装備群を模した装備に、モモンガ専用のワールドアイテムに似せた赤い玉も再現された”アヴァターラ”。

 

「やっぱり、俺が作るとかなり不格好になってしまうな。パンドラに頼めばもっと精巧なのが出来るんだろうけど…………ここは俺自身がやらないとな」

 

 ヘロヘロなど一部の”アヴァターラ”には当時の最強装備に似せた模造品を装備させていた。

 そして今、残っていた空白全てが埋められ、ここは『霊廟』として完成した。

 

「…………」

 

 ズラリと並ぶ自分を含めたギルド、アインズ・ウール・ゴウンの仲間たち。

 

 アインズはキーノとの会話を思い出す。

 

 楽しかった。

 

 無邪気にはしゃいで自分の冒険譚を聞かせてくれるキーノ。お返しとばかりにこちらもユグドラシル時代の楽しかった出来事を聞かせる。それを交互に何度も、何度も。

 いつの間にか支配者としての虚像を忘れ、自然と素の”鈴木悟”として話していた。時間が経つのを忘れて随分と長く話し込んでしまった。

 

 あの時間を楽しんでいたのは間違いない。だが、その間も今も、彼女のアノ言葉がずっと離れなかった。

 

 「『最終日に、いん? してて、最後の時? 瞬間に、気が付いたら来ていた』だったと思う」

 

 十三英雄のリーダー、プレイヤーが残した言葉。

 『最終日』『いん』『最後の時』これらの単語をキーノや他の仲間たちは良く理解出来なかったらしい。だがアインズには、プレイヤーであれば答えは簡単だ。

 リーダーもまた、アインズと同じようにユグドラシル最終日の終了時間にこの世界へと転移したのだ。アインズより二百年も前という時間のズレはあるものの、転移した瞬間は同じ。

 

 これまでの情報で把握しているだけでも六百年前に六大神。五百年前に八欲王。二百年前に十三英雄と口だけ賢者。

 ユグドラシル終了と同時に転移したとして、何故着地点が別々なのかは分からないが、それは今後調べれば良いだろう。

 問題は転移したタイミングだ。

 

 ユグドラシル終了と同時の転移。

 それはアインズの仲間がこちらに来ている可能性がゼロだという意味を持つ。

 

 あの瞬間にギルドメンバーたちはユグドラシルにいなかった。

 

 引退した者の中にはアカウントを消している者もいたし、別アカウントで再開したのなら連絡の一つぐらいはあっただろう。皆黄金期には熱中して一緒に楽しんだ仲間なのだから。

 

 最終日に顔を出してくれたヘロヘロさんやタブラさんも、あの後再ログインした通知は来なかった。

 ギルド、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーであの瞬間にログインしていたのは自分ただ一人。

 

 無論、アインズと十三英雄のリーダーだけの情報で確定する訳ではない。可能性はまだゼロと決まった訳じゃない。それは分かっている。

 

「分かっているけど……」

 

 元々仲間が来ている可能性はほとんどないと思っていた。ナザリックの総力を挙げて仲間を捜索しなかったのは、もし仲間がいないと分かってしまったら絶望し、自分がどうなるか分からなかったからというのもある。

 そんな所にキーノの情報だ。ゼロに近いと思っていた可能性がほとんどゼロになってしまった。

 

「はぁ、情けないな。こんなんじゃナザリックの支配者として失格だよ」

 

 ある少女は両親を殺されても、妹と二人で未来を見て生きている。その姿に感銘を受けて、自分も前を向かなければと思っていたのに、どうやらまだ過去に囚われていたようだ。

 

 『霊廟』に来たのはそんな自分と決別するため。

 

 ユグドラシルで悪名を馳せたギルド、アインズ・ウール・ゴウンはとっくに終わってしまっている。自分を含めたメンバーは全員ここで眠るのだ。

 過去に執着するのではない。

 忘れるのでもない。

 過去を過去として胸に刻み、昇華する。

 そうして始めて、本当の意味で仲間が残してくれた大切な者たちとこの世界で生きることが出来る気がした。

 

「俺、たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ――――」

 

 アインズはアヴァターラを見ながら仲間の名を呟く。一人一人との楽しかった過去の思い出を振り返りながら。

 

 

 

 最後の名前を呼んで。

 

「楽しかったですね…………みんな」

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でした。父上」 

「パンドラ…………全て、終わったよ」

 

 パンドラズ・アクターには既にギルドメンバーがこの世界に来ている可能性については伝えていた。埴輪顔ゆえ表情から読み解くのは難しいが、何も言わずに『霊廟』に入っていくアインズを見送り、待っていた。

 創造主との絆か、それともパンドラズ・アクターの頭脳を持ってしてか。軍服を着たドッペルゲンガーはアインズからの少ない言葉からも全てを理解しているように思えた。

 いつものオーバーアクションは也を潜めている。

 

「これで、私の役目は終わってしまったのですね」

「ん? 何のことだ」

「私は父上の御心を慰めるために創造されました。しかし、父上は至高の御方々とケジメをつけられました。私の変身能力はもう、父上には必要ないでしょう」 

 

 誇らしげに、でもどこか寂し気に、パンドラズ・アクターは胸に手を当て礼をする。

 

 パンドラズ・アクターの頭脳はナザリックでもトップクラスであり、変身能力でアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバー全員の外装をコピーしている。その能力を上手く駆使すれば守護者全員分の働きができるほど優秀である。だがパンドラズ・アクターを創造した当時のアインズ(モモンガ)にとって、彼を創造した目的はそこにはない。仲間の姿を保管することに意味があった。

 アインズの心を慰める。

 確かにその通りだ。パンドラズ・アクターを創造した時のアインズの心境に当てはめれば彼の存在理由はそこにあった。しかし、仲間との事を過去の想い出として割り切った今のアインズには、もはや必要ないと思ってしまっても仕方がないのかもしれない。

 

「お前にしては珍しく馬鹿なことを言っているな」

「はっ?」

「これから先も、私やナザリックのためにお前には頑張ってもらわなければならないのに、どうして必要ないなどと言う?」

「おお、では、私は……」

「ああ、お前が必要だ。これから先、ずっとな」

「ち、父上ぇー! この、パァンドラズ・アクター。今後も父上のために、ん全力を尽くしますとも! 尽くさせていただきまっす!」

 

 さっきまでの落ち着きはどこへやら。自分の存在意義を認められた途端にいつものオーバーアクションが始まる。

 

(まぁ、コイツはこうしている方が似合っている、のか? 俺がお前を見捨てるなんて……)

 

 ありえないことだ。

 他の皆も同様に家族のように思っているのだから。

 

「それと私の名についてだが、今後もアインズ・ウール・ゴウンと名乗っていくつもりだ。国の名前にもしてしまったしな」

「おお、畏まりました。ん~ナインズ様」

「変な溜めで名前を呼ばないようにな。他の者が真似したらどうする」

「えぇ~」

 

 ユグドラシルのギルド、アインズ・ウール・ゴウンは終わった。

 これからは新生アインズ・ウール・ゴウンとして、その名を背負う。

 この決意は、言わばアインズの内面だけでの変化。

 

(あまり仲間とのことで引きずり過ぎるのは問題だしな。これを機に何か行動でも…………そうだ)

 

「これからは宝物殿に保管されている物も、必要なら積極的に使っていこうと思うが、どうだ? っと言っても希少な物を際限なく使うのではなく――」

「備蓄の多い物は積極的に、この世界で二度と手に入らないであろう物は良く考えて使う。ですね」

 

 仲間との思い出が詰まった無数のマジックアイテムや金貨は使用するのに消極的でいたが、それらをある程度開放していく。それは、これまでピッタリと閉じていた扉を少しだけ開けるようなもの。

 

(地味かもしれないが、最初だし。こんなんで良いよな)

 

 ナザリックの運営には大量の金貨がいるし、宝物殿に眠るマジックアイテムはこの世界では超級の性能を誇る。その紐を少し緩めるだけでも、転移当初の自分からすれば相当な変化だろう。

 

「あと、仲間たちの私室にあるマジックアイテムも一度回収する。分かっていると思うが、誰の部屋にどのアイテムが有ったかは記録しておく」

「はっ、畏まりました」

 

 仲間の居ない間に勝手に、というのは気が引けてしまうが有用なアイテムがあるかもしれない。それに、それら私物のアイテムはナザリックの為だけに使うつもりで、私的な理由では基本使用するつもりはない。これなら仲間も許してくれるだろう。

 

 この世界では仕様が変化したものが沢山ある。ユグドラシルでは微妙な物でも思わぬ効果を発揮するかもしれない。仲間たちは皆一癖も二癖もある者ばかり、アインズも知らないアイテムもあるだろう。

 特にやまいこが持っていた<流れ星の指輪/シューティングスター>は絶対に確保しておきたいところだ。使い方次第ではワールドアイテムに匹敵するほどの切り札にもなり得る。 

 アインズが持っている指輪は、シャルティアの時に不発で一回。

 二回目は人間に戻るために使ったので、後一回分しか残っていない。

 

(出来れば使いたくはないけど、使わざるを得ない状況ってのは突然やってくるものだし。お借りしておきますね)

 

 パンドラズ・アクターに仲間の部屋の捜索を命じる。

 

「一般メイドの手を借りても良いが、るし★ふぁーさんの部屋はお前がやるようにな。どんな仕掛けがあるか知れたものじゃない」

 

 一般メイドたちは「至高の御方の部屋を探るなど」と言うそうだが、アインズの指示であれば素直に従うだろう。

 パンドラズ・アクターは了承の意を示し張り切っている。アイテムフェチ故だからだろうかテンションが異様に高い。

 指輪の力で二人は宝物殿を後にする。

 

 

 

 

 

 

 パンドラズ・アクターに一仕事頼んだアインズは第九階層「ロイヤルスイート」のギルドメンバーの私室が並ぶ廊下を歩く。パンドラズ・アクターの姿は見えない。今頃は誰かの部屋でテンションを上げていることだろう。

 アインズがここに足を運んだのは頼んだ仕事を手伝うため。と言うよりは、単純に自分も仲間の部屋を見て、少しばかり懐かしもうかと思ったからだった。

 流石に女性メンバーの部屋に入るつもりはない。そこはパンドラズ・アクターにもちゃんと言いつけている。

 

 ゆっくりと歩を進めて行き、一つの部屋の前を通る。 

 

「あれ? ここは誰が使っていたっけ?」

 

 その部屋の位置は記憶に薄い。

 私室の半分以上は空き部屋だが、この部屋は誰かが使っていたはずなのに中々思い出せない。

 

「う~ん。ま、いっか。取り合えず入ってみよう」

 

 もし、ぶくぶく茶釜や餡ころもっちもちの部屋だったら直ぐに出れば良い。そう思って軽い気持ちでお邪魔する。

 

「ん? 本当に誰の部屋だ?」

 

 ギルドメンバーの私室はロイヤルスイートをイメージされて、調度品から壁紙に至るまで華美でありながらも決して目を疲れさせないように計算されており、見る者の目を楽しませる作りとなっている。

 しかし、凝り性が多いメンバーたちは、和風にしたりと自分好みにカスタマイズしていた。アインズでさえ少し弄って、落ち着いた感じにしているぐらいだ。それなのに――。

 

「完全に初期状態、のようだな」

 

 その部屋は弄った様子が全く見られない。男性メンバーの部屋は少なくとも一回は目にしたことがあるので彼らの誰か、ではない。かと言って女性メンバーの誰かとも思えなかった。見た事はないが彼女たちの性格からしてデフォルトのままとは考えにくい。

 

「空き部屋ではなかったはず」

 

 しかしながら、確かに誰かがこの位置の部屋を使っていたはず。

 引っ掛かりが気になり、ドレスルームへと向かってみる。

 扉を開けた先には。

 

「うわっ!?」

 

 ドレスルームには、大小様々なアインズのヌイグルミや抱きまくらで満たされていた。この瞬間に誰の部屋かを理解する。

 女性的な作業、特に主婦業一般に関しても優れた能力を持っている彼女の自作なのだろう。

 死の支配者(オーバーロード)バージョンのアインズが多いが、人間バージョンも幾つか見受けられる。

 

(うわぁ、アルベドの奴。こんなに作ってたのか)

 

 ローテーションで休みを取っているとは言え、多忙なのによくこれだけ作れたもんだと、逆にその裁縫能力に感心してしまう。

 良く特徴を捉えているデフォルメされたオーバーロードアインズから、「これ、俺か?」と問いたくなるほど美化された人間バージョンのアインズまで、その種類は豊富。

 しばし観察していたが、女性の部屋に無断で入るなど非常識にも程がある。そう思い踵を返そうとした時。部屋の片隅に無造作に置いてある物に気が付く。

 

「…………へっ?」

 

 

 

「失礼致します。アインズ様がおられるのでしょうか?」

「っ!」

 

 一瞬呆然としていたアインズを呼ぶ声が部屋の外から聞こえてくる。慌てて返事をしてドレスルームから出ると、一般メイドのシクススが廊下から少しだけ扉を開けて覗き込むようにしていた。

 

「やはりアインズ様でしたか。この部屋にどなたかが入る姿が見えましたもので」

「あ、ああ。ちょっと間違えてしまってな。ところで、何故シクススは部屋に入って来ないでそんな廊下から話すのだ? それに、この部屋は……」

「はい。ここはアルベド様の御部屋なのですが、私たち一般メイドは入室を許されておりません。掃除もアルベド様ご本人がされるということでして」

「……そうか」

 

 不思議そうに首を傾げるシクススにアインズは「間違えて入ってしまったことは他言無用で頼む」とだけ伝える。

 

 シクススと共に部屋を後にして、廊下を歩くアインズは一度だけアルベドの部屋を振り返る。

 その顔は怒っているような、悲しんでいるような、形容しがたい表情であった。

 

 

 

 

 




アインズ様が仲間たちとのことを割り切り、ケジメをつけた回でした。
個人的にはそうなった方が”鈴木悟”も幸せになれると思いますしね。

ちなみに、ナザリックや仲間のことを侮辱する者が現れた場合、ブチ切れするのは変わりません。

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