鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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拙い考察ですが一応ということで。


41話 アルベド

 

「アインズ様~。お呼びにより、このアルベド。貴方のアルベドが参りました~♡」

「忙しい中呼び立ててしまって済まないな、アルベド」

 

 魔導国の宰相の立場もあるアルベドは国全体の内務総括も行っている多忙の身。優秀な頭脳を持つと聞いている元王女のラナーを補佐に就けたり、内務をするために教育を施したアインズ謹製の死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の補佐もあるとは言え、急な呼び出しに応えられるところを見るに管理体制が整ってきた証なのだろう。

 頬を染めたアルベドは本当に嬉しそうにしている。腰の羽もせわしなくパタパタと揺れていた。

 

「それで、アインズ様。御用は何でしょうか? は、まさか遂に私と、くふ~♡」

「まあ落ち着け、アルベドよ。お前を呼んだのは重要な、そう、非常に重要な話があってのことだ」

 

 アインズの真剣な眼差しを受けて、頭髪から勢いよく跳ねるように飛び出している落ち着きのない一束の毛も動かなくなる。合わせて表情も守護者統括に相応しいものとなる。

 

(アインズ様のこの表情、一体何があったのかしら? もしかして遂にプレイヤーの居場所が、それともワールドアイテムの情報を見つけられたのかしら?)

 

 もしそうであれば緊急事態だ。アルベドは事の重大さを理解して、どんな情報を聞かされても即座に思考出来るよう完全に仕事モードへと切り替える。アインズに促され、ソファーの対面に座る。 

 

「アルベド…………お前の本音を聞かせて欲しい。お前は…………アインズ・ウール・ゴウンが、嫌いなのか?」

「っ!!――――」

 

 真剣な、と言うよりは深刻な様子のアインズからもたらされた内容は、アルベドの想像の斜め上へと突き破っていた。 

 

 

 

 

 

 

 少し前の時間に遡る。

 

 アインズはシクススと別れた後、直ぐに自室へと戻っていた。とても仲間の部屋を散策する気分になれなかったからだ。

 

 アルベドのドレスルームの片隅にホコリまみれで放置されていたモノ。それはアインズ・ウール・ゴウンの紋章旗だった。

 あり得ない。ナザリックのNPCの誰もが敬意を表している旗をそんな状態で放置しているなんて信じられなかった。

 

「では裏切り? あのアルベドが?」

 

 それも信じられない。アルベドのこれまでの忠誠心はずっと見て来ていた。

 アルベドに限ったことではない。ナザリックの誰もがアインズが引いてしまう程の忠誠心を持っている。その忠誠心の高さにこちらが困ってしまう事態が何度あったことか。

 しかし、現実に紋章旗はあのような状態。

 

「これはアルベドの真意を確かめる必要が……あるんだけど…………」

 

 問題はどう問いただすか。 

 彼女は基本的に微笑を崩さない。それは敵味方問わず誰に対しても殆ど変わらない。同じ知恵者であるデミウルゴスと話す時にはそれがよく見られている。デミウルゴスをして、アルベドが何を考えているのか、その真意は分かっていないらしい。

 あのデミウルゴスですら煙に巻くアルベドの腹芸を、アインズが見抜くことが出来るのか。

 

 答えは当然、否だ。

 

 アインズ絡みのこととなると途端にダメになり、甘い吐息を漏らしながら自分の世界に入り込んでしまって使い物にならなくなる。

 そんな話も聞いていたが、今回の件は内容が内容なだけに、アインズ自身が問いただしても真意を見せないかもしれない。上手い事言いくるめられてしまう可能性がある。

 

 紋章旗をないがしろにしたことに対して、罰を与えるのもよくない。

 何故そんなことをしたのかを知らなければならない。

 

「デミウルゴスとパンドラの二人に立ち会ってもらって尋問…………いやいや、これもダメだ」

 

 同等の知恵者二人でならアルベド相手にもなんとかなるかもしれないが、万が一アルベドが謀反を考えていた場合、そこで壮絶な戦いが始まるかもしれない。

 

「そんな姿は、見たくない」

 

 大切なあの子らが殺し合うなんて絶対に嫌だ。シャルティアの時もそういう理由で、周りの説得をはねのけて自分自身の手で終わらせたのだから。

 それにデミウルゴスがアルベドの行いを知ってしまえば、どのような理由があっても軋轢が生じてしまいかねない。

 

「やっぱり、俺自身が直接聞かないといけないよな」

 

 そのためには本音を曝け出させないといけない。

 

「だが、どうすれば良い? う~ん、本音を聞き出すには……」

 

 

 

 

 

 

「偶然だが、お前の部屋に入ってしまった。そして、ドレスルームでアインズ・ウール・ゴウンの紋章旗を見た。教えてくれ、アルベドよ。お前の本心を」

「わ、私は……」

 

 アインズ絡みとなると暴走しがちなアルベドだが、今の姿はこれまで見たことがないほどの動揺を見せていた。

 

 マジックアイテム《完全なる狂騒・改》

 これは守護者やプレアデスと、本音での語り合いをする為に作らせたアイテムであり、アンデットだけでなく全ての種族の精神状態を解放し、普段は抑えている本音を引き出す効果がある。

 この部屋の中にいる者は効果を受けるようパンドラに改良させ、アルベドが入って来る前に既に使用済み。

 当然、アインズも同じ部屋にいるのだから効果の影響を受けてしまう。

 

「わ、たしは……」

 

 アイテムの効果が効いているアルベドは徐々にだが、ゆっくりと話し出す。

 

「…………嫌いです。アインズ・ウール・ゴウンなどと言うものは。憎んですら、います」

「…………」

 

 アインズは何も語らない。アルベドの話の続きを待って耳を傾ける。

 

「このナザリック地下大墳墓は全て貴方様のためにのみあります。あの者たちは貴方様を、ナザリックを、私たちシモベを見捨てました。それが、私には許せない」

「ちょ、ちょっと待った。あの者たちってギルドメンバーのことだよな。それに『見捨てた』って……」

「はい。私たちはあの者たちに見捨てられたんです。そうですよね」

 

 おかしい。

 デミウルゴスなどは転移当初、ギルドメンバーのことを『お隠れになった』『どこかに行かれてしまった』と表現していた。アインズが皆にリアルの世界の話を聞かせてからもリアル世界に帰ったと認識していたはずで『見捨てられた』なんて認識はしていないはず。

 今でも自分の創造主の帰りを待ち望んでいるのがその証拠だ。

 

「では、アインズ・ウール・ゴウンが嫌いって……」

「勿論、あの者たちのことです」

「……もし、この世界で会えたら?」

「ブチ殺します。そうすればナザリックは貴方様だけのものになり、素敵なお名前を再び名乗っていただけるでしょうから」

 

 物騒なことを平然とした様子で言う。

 

「そのように思っているのは、アルベドだけ、なのか?」

「はい。他の皆は違うと確信しております。真実を知らないばかりに、可哀そうに」

 

 どうやら敵意はアインズ以外のギルドメンバーに向いているだけで、NPCの仲間には向いていないようだ。むしろ気遣ってすらいる。

 

(でもなんで、アルベドだけが見捨てられたなんて認識を……反旗を翻す、なんて設定も無かったはず)

 

 執事助手のバードマンのように、ナザリックの簒奪を企てている設定を与えられた訳でもないのに、皆が創造主と崇めるギルドメンバーに殺意を向けるなんて異常事態だ。

 

(ん? 設定?)

 

 NPCには創造された時に設定が与えられており、基本的にはそれに従うように行動する。

 この世界で自我を持ち、一個の生命体となった彼らには『そうあれ』と定められたものを超えて、『自分』と言うものを形作り、成長して欲しいとアインズは願っている。

 例えば、セバスなどは創造主の性格なのかほとんど設定が与えられていない。にも拘わらずセバスは創造主の影響を受け、行動や考え方は親にとても似ている。デミウルゴスと仲が良くないのも、創造主同士の相性が関係しているのは間違いない。

 NPCが創造される時に創造主の影響を受けるのだとすれば、今のアルベドは――――。

 

(俺の、せいなのか)

 

 ユグドラシル最終日。軽い悪戯心で『ちなみにビッチである。』を『モモンガを愛している。』に設定(・・)変更してしまったのは他でもない。アインズ自身だ。

 

(あの時、俺が抱いていたのはユグドラシルが終わってしまう寂しさと、悲しさや虚しさ。仲間たちとの楽しかった思い出……)

 

 だけではない。

 最後の日をたった一人で迎える孤独への憤り、怒り。

 何故、簡単にナザリックを捨てられるんだ。

 どうして。

 どうして。

 頭では分かっている。皆リアルがある。そちらを優先するのは至極当然なのだから。

 分かっていても『仲間に見捨てられた』という思いが心のどこかで燻ぶっていた。

 そんな負の感情を心の奥底に抱いた状態でアルベドの設定を弄ってしまった結果が――――。

 

「私は憎いのです。あの者たちが。もし、誰かが帰って来た場合、他の皆は喜んで迎え入れるでしょう。それは良いのです。皆にとっては待ち望んだ者なのだから。でも、それを受け入れ、平然とナザリックの上位に立とうとするあの者たちの姿を想像すると……例え謝罪されようと許す気にはなれません。このナザリックを、私たちを見捨てずに最後まで守って下さったのは貴方様だけなのに……」

 

(それはアルベド自身の本音っぽいな)

 

 涙を流しながら、感情を爆発させるアルベドは全身を震わせている。まるで、今までにため込んだものを全て吐き出すように。

 

 アルベドが抱え込んできた黒い感情をアインズは全て受け止める。彼女にこんな思いをさせてしまったのは自分のせいだからと。

 

「うぅ、ひっく、ぐすっ」

 

 莫大な運営資金を必要とするナザリック地下大墳墓をたった一人で維持し続けていたアインズの苦労・苦痛・孤独を想えば思うほど、それに比例してギルドメンバーへの怒りを爆発させていたアルベドは、やがて俯き、泣き出す。

 その姿はまるで叱られるのを恐れる子供のように見えた。

 アインズが大切に思っている仲間を殺そうと考えていたのだ。それに対する罰に怯えているのかもしれない。

 

「なあ、アルベド」

 

 アインズが声を掛けるとビクンっと体を震わせる。

 

「お前のギルメンたちに向ける気持ちは、敵意だけなのか?」

「え?……」

 

 もし、本当に創造主の心境がNPCに伝わってしまうのだとすれば敵意だけというのはおかしい。

 タブラもあの時代のユグドラシルを心底楽しんでいたし、仲間に対して変な感情を持っていたとは思えない。

 

「それは……そ、創造主であるタブラ・スマラグディナには父のように感謝している気持ちは、ありますし、他の者にも一定の感謝や敬う気持ちはあります。でも、それ以上に許せない気持ちの方が、強くあります」

「そうか」

 

 これは最後に設定を弄ったのが一番強く影響しているからなのかもしれない。

 

(アルベドには伝えない訳には、いかないよな)

 

 アインズはキーノから得た情報、プレイヤーであった十三英雄のリーダーの言葉とアインズ自身の推測を説明する。

 

 

 

「――では、あの者たちが帰って来ることは……」

「ああ、絶望的だと思っている。だから、私はもう彼らの事を探したりはしない」

「そう、なのですね」

 

 憎い相手が来ないと知って喜ぶかと思っていたアインズだが、アルベドの様子は喜ぶでも怒るでもなく、どっちとも取れない微妙な顔付きだった。

 

「アルベドの気持ちは分かるつもりだぞ。怒りをぶつける相手が居ないと知ってどうしようって感じだろ」

「は、はい…………あ、あの。罰しないのですか? 不敬を抱いた、私を」

「罰? そうだな……では」

 

 アインズはチョイチョイっと手招きして近くに来るよう促す。座っているアインズの前で跪いたアルベドを――――。

 

「えっ――――」

 

 優しく抱きしめる。

 

「これがお前への罰だ。このままジッとしていろ」

「ア、アインズ様!?」

 

 何が起こっているのか分からなくて、戸惑うアルベドの頭を胸に抱き、頭と背中を優しく撫でる。

 

「可能性は絶望的と言ったが、何もゼロになった訳じゃない。万が一にも彼らの誰かが帰って来たら、私も一言二言ぐらいは文句を言いたい。その時はアルベドも言いたいことをぶつけてやれ」

「…………」

 

 アインズも彼らに言いたいことがないではない。寂しかったこと。会いたかったこと。一人で辛かったことの文句の一つや二つぐらいは言ってやりたい。

 

「だからな、アルベド。お前もその時が来るまでは彼らへの恨みを忘れて、私を支えてくれないか?…………妻として」

「っ!! い、今なんと仰いましたか!?」

「結婚しよう。アルベド」

「…………あ、ああ、うああああぁぁぁぁん!!」

 

 大声で泣きじゃくるアルベドを抱きしめながら、アインズは覚悟を決めた。

 

(アルベドを幸せにしてみせますよ。タブラさん)

 

 アルベドだけではない。ナザリックの皆も幸せにしてみせる。上手く出来るか分からないけれど、その為にも全力を尽くそうと固く誓う。

 

 

 

 

 

 

(シャルティアの気持ちにも応えないといけないよなぁ)

 

 アルベドに関しては自分の責任とはいえ、彼女だけを特別扱いするのは違う気がする。それにシャルティアもずっとアインズのことを想ってくれていたのだから。

 そう思ってアルベドに話したところ、問題ないとのことだった。

 「一番の寵愛がいただけるなら。それにナザリックの支配者が一人しか妃を持たないなんてあまりにも奇妙な話」だそうだ。

 

 

 

 

 

 

「まさか、せっかく恋人になれたのに妻が出来てるとは思わなかったぞ……サトルのバカ」 

「いや、その……すまない、キーノ」

 

 イビルアイこと、キーノはご不満だった。

 一生に一度の決心で告白した返事を受け取り、見事実ったと知ったと同時に、その相手には妃が出来ていた。しかも二人。それも手が離せない状態だったらしく<伝言(メッセージ)>でだ。

 

「はぁ~~。サトルの立場は理解しているし、アルベドさんとのことも聞いている身としては……サトルの決断も否定出来ないけど~」

「う、うん」

「……ふぅ、しょうがない奴だな、サトルは。良いよ、許してあげる。良かったな、私が寛容な女で」

「キーノ……」

 

 キーノにしてみれば、元々子供の産めない自分の代わりに、誰か他の女との間に子供を作ってもらっても良いと思っていた。モモン(サトル)の子供であれば、自分もきっと愛情を与えることが出来ると。

 だから、妃の一人や二人でごちゃごちゃ言う気はもともとない。あまりにも急な話だったので、少しぐらいは渋った反応を見せてもバチは当たらないだろうと言う思いからの言葉だった。

 

「そう言えば、アルベドとシャルティアがキーノと話してみたいってことだったが、もう会ったんだろ?」

「ああ、うん。何でもサトルの恋人に相応しいか、確認するためだったみたい」

「そうらしいな。二人ともキーノのことを認めてたから問題なかったんだろうけど、どんな話をしたんだ?」

「シャルティアさんは私を見た時から好印象を持ってたっぽいな。なんでかは分からんけど」

「あぁ~……」

 

 言わなくても大体分かる。

 シャルティアは死体愛好癖(ネクロフィリア)であり、骸骨のアインズがモロ好みだと言っていた。更に同じく死体のユリも好みで『男女どっちでもOK』な性癖を持つ彼女であれば、キーノを好みのタイプと見ていたのだろう。キーノの貞操が危険な領域に引っ張られる可能性が浮き出る。

 

(これは、注意しておかないといけないな)

 

「アルベドとはどうだったんだ?」

「あぁ、いやぁ、アルベドさんとは…………ちょっと言いたくない、かなぁ」

「ん? まぁ、女同士の話を男の俺が詮索するのはモラルに反するか。良いよ、無理に話さなくて」

「助かる」

 

 こういう気遣いは本当に助かる。キーノは心からそう思った。

 

(言える訳ないじゃないか。好きな男のベッドに対してどうするかなんて話)

 

 アルベドとの対話で受けた質問は幾つもあったが、キーノが認められる決め手となったのが正にそれだった。

 キーノが答えたのは『布団に潜り込んで匂いを嗅ぐ』だった。

 と言うよりは実際に行動を起こしたことがあった。

 “蒼の薔薇”としてエ・ランテルに赴き、黄金の輝き亭のモモンが使っていた部屋で泊まった時に。

 馬鹿正直に答えたのは、嘘をついても見破られる気しかしなかったからだが、自分でも何を言っているんだと恥ずかしがるキーノの手を取ったアルベドは「分かる! 本当に好きな殿方相手なら当然よね」と激しく頷いていた。良く分からんが彼女の琴線に触れたようだった。

 

 

 

 ナザリックの絶対支配者がとうとうアルベドとシャルティア、二人の妃を迎える。

 この話は即座に広まり、ナザリックでは盛大に祝いの場が設けられることとなる。

 

 魔導国でも同様の話題が広がるのだが、完全な身内から妃を娶ったのを理由に式などは行われず、一先ずは発表だけで終わる。

 

 アインズの恋人の座を勝ち取ったイビルアイは公にはされていないものの、足繁く王城に通っている姿が度々目撃されていた。

 

 

 

 




キレイサッパリとはいかなかったですがアルベドの不穏な気配は解消しました。
全部モモンガって人が悪かったんです。
シャルティアがついでみたいになってしまってちょっと悔しい。

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