鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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誤字報告ありがとう御座います。

地の文で、名前の後に敬称を付けるかどうか悩みましたが、付けない方向でいきます。
どうしても違和感がある人は頭の中で付けて読みましょう。


45話 祝賀会

 魔導王主催の祝賀パーティーの招待状を受け取ったエンリ・エモットは、妹のネムと二人で王城に訪れていた。

 とても豪華な馬車が迎えに来てくれ、それを引っ張るアンデッドの馬はとても早く、カルネ村から王都までの長い旅路は驚くほど短い時間で着いてしまった。

 護衛として一緒に着いて来てくれたゴブリンたちは王都の街で待機している。村へのお土産を物色していることだろう。

 

「ンフィー君も一緒に来ればよかったのにね」

「仕方ないわよ。ブリタさんとエ・ランテルに買い物に行く約束をしてたみたいだから」

 

 招待状にはンフィーレアとリイジーの名も記載されいた。注意書きに大きな文字で強制はしないとも書かれていたためそれに甘えた形。ンフィーレアは恐らくデート。リイジーはポーション研究を優先した。

 相手の都合を優先した寛大な処置だと思う。

 

(でも、王様からの招集を断って良かったのかな? よく分かんないや)

 

 良いのか悪いのか村娘には分からない。それでも、優しいあの方であれば気にしなさそうではある。

 

 王城の廊下を案内役の騎士に連れられネムと歩く。

 所々に高そうな彫像や壺が飾れている。

 

「すごく綺麗ね、ネム」

「本当だね。う~ん、でも、アインズ様の宮殿の方がずっとすごかったよ」

 

 確かにその通りだ。物の価値が分かるとは言わないが、ここにある品々はアインズ様の宮殿にあった物と比べて幾らか見劣りしている。それでも、すごく高価な物であるのは間違いないだろう。

 もう一度行ってみたいものだと思いながら歩いていると、大きな両開きの扉が見えてきた。

 ここが本日の会場だと説明を受けて中に入る。

 

 とても広い会場には沢山の丸テーブル、真っ白なクロスが敷かれた中央には綺麗な花が飾られている。

 奥に一段高い場所があり、多分そこで王様がお話するのだろう。

 既に大勢の人が集まっており、幾人かの視線が集まる。

 

「ね、ねえ、ネム。私の恰好可笑しくないかな? 似合ってないかな?」

「そんなことないよ。すごい似合ってて綺麗だよ」

 

 招待状の内容から、この場にいるのは全員身分の高い人たちなのは分かり切っている。そんなやんごとなき人たちが集まる場で自分の存在が浮いているんじゃないかと思い、不安になる。

 今着ているドレスはアインズから贈られた物。ドレスは高級品でも、それを着ているのが村娘なので奇異の視線を向けられていると感じてしまう。

 ネムは褒めてくれたが、やっぱり不安な気持ちは拭い切れない。

 

 一段高い所の最前列の一つしか空いているテーブルはないようなので、そこに移動する。

 

 

「……ネムは随分落ち着いてるわね」

「え~、だってアインズ様が開いた場所なんでしょ。なら安心だもん」

「確かにそうだけど……」

 

 落ち着かない原因は別にあるのだが、いつもと変わらない様子でいるネムの姿に、緊張しているこっちが馬鹿みたいに思えてくる。

 

 妹に(なら)って気を落ち着けてみる。

 そうして周りを見てみると――。

 

(あれ? なんか緊張している人ばかりな気が……あの人なんかちょっとどころか、凄く顔色が悪いような)

 

 他にも、暑くもないのに大量の汗を拭いている人。背筋を伸ばして虚空を見つめ続けている人。目が泳いでいる人。

 

(何、これ?)

 

 とても祝いの場とは思えない空間。

 落ち着いて談笑している人たちもいるが、その数はとても少ない。

 その少ない人の中に、他の人たちとは服装の雰囲気が違う人がいた。

 そっちの方が気になっている自分に気が付いたネムが口を開く。

 

「あれ、きっとていこくの人たちだよ。お姉ちゃん」

「っ!? なんでネムが知ってるの?」

「ルプスレギナさんに色々教えてもらったの。あと、すんごいご馳走が出るんだって」

 

 食事が出るのは招待状に書いてあったので知っているが、そういうのは私にも教えておいて欲しいものだ。いつも、何かとからかってくるあの人らしいと言えばらしいのだが。

 

 そんなこんなでいると、主催者のアインズが現れる。

 さぞかし豪華な装いで登場するのだと思っていたが、その思惑は少しズレていた。

 高級品なのだろうが、アインズが着ていたのは漆黒のガウンカーディガンのようなゆったりとしたものだった。

 魔導王の入場で会場内はシ~ンと完全な静寂に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 パチパチパチパチパチ。

 

 アインズの話が終わり、会場内には拍手の音が鳴り響く。

 私もネムもひと際強く手を叩く。

 

 アインズの話は今回集まってくれた私たちへの労いから始まった。

 次に妃を迎えたことの発表。

 アインズ様の横に控えるアルベドはとても幸せそうだった。

 いつか、相談を受けた時も思ったが、あの人は本当に心の底からアインズのことを愛している。その思いが叶ったのは同じ女性として本当に嬉しく思う。

 そして、なんとアルベドは御子を身籠っていると発表される。

 私は心から祝福を送った。

 

 その後は、魔導国の政治・経済・法律などについての指標の話が続く。難しい言葉が多かったので正直チンプンカンプンだったが、それらはあとでゴブリン軍師さんと相談すればいいや。そう思った私はアインズの雄姿を見守ることにした。威風堂々とした立派なお方だ。時折、左の手の平を気にかけておられるようだが何かあるのだろうか。

 

 最後に各都市、各領地を治めるのに尽力してくれた皆に感謝の意を示してくれる。

 

 これで式は終わり、後は各自料理を楽しんで英気を養って欲しい。アインズはそう言って指を鳴らすと、メイドの人たちが料理をテーブルに運んでくる。

 

「わあ、すごいご馳走だよ。お姉ちゃん」

 

 ネムが嬉しそうにはしゃぐ。私もその香ばしい匂いに釣られてお腹が小さく鳴る。

 

 

 

 

 

 

(はぁぁぁ、なんとか噛まずに終われた)

 

 アインズは周りにバレないよう密かに息を吐き、左手に隠していたカンペをアイテムボックスにしまう。

 こちらが話さなければならないことは終わり、後は料理を楽しんでもらえれば良いのだが、貴族たちの表情は硬い。

 

(まだ俺の事を怖がってる感じだな。そうなると思って出来るだけラフな服装にしたんだけどな)

 

 今回のパーティーはそんな格式ばったものじゃありませんよアピールのつもりだ。

 当初、パーティーと聞いた今日が当番のデクリメントのコーディネートは申し訳ないと思いつつ却下した。

 カラスに攫われそうなほどキンキラキンの黄金の巨大なネックレスに孔雀を思わせる背中から飛び出した羽、アーケオプリテクスを思わせる腕の下の羽が付いた純白の衣装を着せられてしまった。

 相変わらずメイドたちのセンスはド派手である。

 

(他人の目がないナザリックでなら、まだ着ていられるんだけど)

 

 メイドが一生懸命コーディネートしてくれたのだから着てやりたい気持ちは強い。しかし、こういった場では成金に見られそうなので、勘弁してもらった次第。

 

(さて、と。全員と一言二言ぐらいは会話しといた方が良いんだよな)

 

 非常に面倒くさいが、主催者として最低限のことはしておいた方がいい。しかしながら、和気あいあいと談笑出来そうな相手が見当たらない。誰もが緊張した面持ちで、料理ではなくアインズの動向を窺っている。

 

「ん~~~! お姉ちゃん。コレすっごく美味しいよ!」

「こ~ら、ネム。口の周りが汚れているわよ」

 

 少女の言葉に他の貴族たちも料理に注目しだす。

 一人の貴族が恐る恐る料理を口に運び。

 

「うまっ!」

 

 そこからは芋づる式に出された料理を絶賛していく。次第に会場の雰囲気が変わり、表情も柔らかくなっていった。

 

 

「楽しんでくれているかね? エンリ」

「ア、アインズ様。 はい、このような場に呼んでいただけて、感謝しております」

「アインズ様~。すっごく美味しいです」

「ははは、それは何よりだ」

 

 エンリはでかい肉を皿に盛り付けていた。見た目に反して、意外と食が太いようだ。

 ネムは小さな子用に用意された台に乗ってサンドイッチや唐揚げをパクパクと勢いよく食べている。

 

 アインズも軽く摘まみながら会話する。

 

 

 

「順調にいっているようだな。ルプスレギナの報告通りだ」

「はい。ゴブリンさんたちも村の皆もすごく張り切っています」

 

 五千体のゴブリンを指揮する軍師の存在のお陰で、カルネ村は魔導国でも最も発展速度が高い地となっている。

 開拓・交易・自警、エ・ランテルへ出稼ぎなどなど、多岐に渡る人員配置も適正に行い、ちゃんと休暇も取っていた。

 その内大都市に発展しそうな勢いであった。

 

「あっ、お祝いの言葉をまだ言っておりませんでしたね。ご結婚、おめでとう御座います。それに、ご懐妊も。アルベド様、本当に幸せそうにされておりましたね」

「ああ、ありがとう。後でアルベドにも言ってやってくれないか。きっと喜んでくれると思う」

「はい」

 

 ニコリと笑うエンリはまるで自分事のように喜んでいる気がした。

 

 エンリとのこともハッキリさせないといけない。

 

「…………あのな、エンリ。お前と私とのことだが……」

「?――」

 

 彼女のことは随分気に入っているのは自覚している。

 前を向いて生きることなど大切なことを教えられたし、色々踏ん切りをつける気を起こさせてくれた。そう言えばこの異世界に来て最初に出会ったのも彼女だ。

 

「私とけっ…………」

 

 『結婚しよう』。

 そう告げようと思った時、あることに気付く。

 そもそもエンリは自分と結婚したいと思っているのだろうかと。

 こちらから求婚した場合、多分彼女は断らないと思う。と言うよりは一国の王からの言葉、更に彼女はこちらを大恩人だと思ってくれているのだから断れないが正しい。

 それではいけない。こういうことは相手の意思を尊重すべきだ。

 

 何と言えば良いのか分からずに困っていると、エンリは首を傾げてから、ハッと何かを察したような表情になる。

 

「もしかして、アインズ様は聞いておられないんですか?」

「ん? 何のことだ?」

「あの、私は既にアインズ様の妾として、後宮に入っているんですよ」 

「…………メカケ?」

「はい。妾です」

 

(何それ! そんな話全く聞いてないんですけどぉ!)

 

 妾。その言葉の意味を知ってはいる。

 だが、何時? どのようにそうなったのか分からずに困惑していると、エンリの口から答えが紡がれる。

 

「えっと、デミウルゴス様から後宮を作るというお話がありまして、私の他にティラさんとレイナースさんという方も入られたそうですよ……あの、アインズ様。どうかされたんですか?」

「……いや、何でもない」

 

 眉間を抑えている姿に心配されてしまう。

 ここしばらく忙しそうにしていると思っていたら、牧場の他に動いていたのはこの件だったのだと、今頃になって悟る。話を聞いていると、どうやらセバスも一緒になって動いていたようだ。 

  

「エンリは、それで良いのか?」

「はい。こんな私ですが、これからもよろしくお願いします」

 

 頬を赤らめ、少し恥ずかしそうに笑うエンリに、深々と頭を下げてお願いされてしまう。

 うん、と頷くことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「――と言うことで、知らない間に後宮を作られていたんだが、ジルはどう思う?」

 

 アインズはエンリの元を離れ、次に目に付いた帝国皇帝の元へやってきていた。

 帝国とは同盟関係を結んでおり、皇帝のジルクニフとは良き友人関係を築きたいと思っている。

 帝国は魔導国からスケルトンといった低級のアンデッドをレンタルし、神殿関係の目が届かない辺境の地で農業などの事業を研究しているほどには、関係は良好。

 相談込みで、彼ならこの件についてどう思うのか、非常に興味があった。

 

「そんなのは気にするまでもない、普通のことなんじゃないか」

「そうなのか?」

「ああ、私にも愛妾が何人もいるが、私自身が選んだ者ばかりでもないしな。皇帝の立場にいる以上、優秀な子を残すためには部下が勧めてくる女性も迎えることはあるさ」

 

 有力な貴族の娘を迎える事でお互いのメリットがある。

 そこには個人個人の意思が反映されないことも珍しくない。

 有力貴族との結びつきを強めるためだけというのもある。その場合、お互い利害が一致していたり、ジルクニフがいい様に利用したりと色々。

  全ては帝国のために。

 そう言うジルクニフだが、どんなに優秀だと分かっていても、どうしても嫌いな相手とはゴメンだと言い切ってきた。

 

 アインズとジルクニフとでは事情が違うのだが、王が後宮を持つのは至極自然なことだというのは分かった。

 

(権力云々は絡んでないし、あまり気にすることはない……んだろうなぁ)

 

 彼女たちが嫌な訳ではない。むしろ好感を持っている。

 一般的な日本人感覚として、複数の嫁と妾を持つ事に対してすんなりとは受け入れにくい。

 ただ、そうも言っていられない立場だというのも重々承知している。

 エンリたちは好意を持って歩み寄ってくれている。

 支配者として、王としての器量が試されている気がした。

 

(……そう、だよな)

 

 家の権力だなんだというのは正直真っ平ゴメンだが、妾を希望している三人にそのような腹黒いところはないし、実際よくやってくれている。

 エンリは大部隊のゴブリンを指揮し、カルネ村の統治・運営。

 後の二人も自己鍛錬する傍ら、魔導国のために頑張っている。

 レイナースはナザリックの戦力が異形種ばかりなため、人間種で構成された近衛隊を結成しようとしている。どうもこれはアインズのためらしい。

 ティラは“イジャニーヤ”を率いての諜報活動。これは完全に独立部隊として動いている。

 

 信賞必罰は世の常。

 成果を上げた者。上げようと頑張っている者。彼女たちが真にそれを望むのならば報いなければならない。

 

 アインズは彼女らを受け入れる覚悟を決めた。

 

 

 

「ところで、アインズ。この料理は本当に素晴らしいな。これは、いつぞやナザリック地下大墳墓でいただいた物と同じ類の物なのか?」

「ああ、その通りだ」

「魔導国から仕入れている食材もかなりの物だが、これは正に別格だ」

「はっはっ、そんなに気に入ったのならここで出している食材を交易に出しても構わないぞ」

「本当か!?」

「ただし高いぞ。量も……それほど多くは出せない」

「もちろん、それで良いさ」

 

 詳しいことは後程書面で交わすこととなる。

 今、会場に並んでいる料理はナザリック産のバフ効果の有る食材が用いられている。

 この食材を調理するには“コック”の職業を持っていないと不可能なのだが、この世界の住人はこの職が無くても調理可能なのは判明している。

 

 帝国の料理人のレベルが低ければ味が落ちる可能性はある。しかし、この食材を使って数をこなしていけばレベルアップが早まるかもしれない。

 その辺りの事は、あとで確認しておこうと思う。

 

「ふむ、しかし魔導国ではこれらの料理を市場に出したりはしないのか?」

「絶対量が少なくてな」

 

 ジルクニフからの素朴な疑問。

 アインズも考えてみたことはある。しかし、市場に流通させるような量は到底生み出せない。これらを生み出すにはユグドラシル金貨が必要なのもあって、今回のような特別な日ぐらいにしか出せそうにない。

 ナザリックの利益にはなりそうもなく、需要と供給が釣り合わないと判断して胸の内にしまっておいたのだ。

 

「そうなのか、それなら限定食として出してみたらどうだ? これほどの料理ならどれだけ高かろうと食しに来る者はいるだろう」

「何か考えがあるのか?」

 

 

 

 その後。ジルクニフのアイディアからアルベドたちとの協議の末、魔導国王城内にレストランが開店される。

 一品一品の価格はアインズからすれば驚くほどの高額に設定。他の権力者からすれば高いがそれに見合うほどのもの。

 客足は少ないのが予想されるため、食材と料理人がすぐに来れるよう転移門を設置。

 王城内に店を設けたのも安全のため。転移門はナザリックと繋がっているので高位ゴーレムを常時設置し、ここからナザリックへ危害を加えるのは実質不可能な設計が施される。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 アインズはジルクニフとの会話を終えてからも、幾つかの貴族たちと話をしに回っていた。

 王としての務めを一通り終え、一人会場からテラスに出て夜風に当たっていた。

 空には宝石箱をひっくり返したような満点の星。

 この星空を見て呟いた言葉が端を発して、ナザリックの目標が世界征服となった。なってしまった。

 何でそうなるの。

 当時はそう思っていたが、今のアインズは世界征服を肯定している。むしろ、しなければならないとまで思っている。

 何故なら――――。

 

「アインズ様」

 

 物思いに耽っていたアインズに声がかかる。

 

「……ラナーか」

 

 

 

 

 




アインズさんは、それが、その人が選んだ答えなら尊重する性格です。

ジルクニフは魔導国をどうこうしようとは考えてません。
同盟国(友好国)として、魔導国の力を利用して帝国を繁栄させようとしています。
アインズに対しても良き友人として振舞ってます。なお、心の底からではない打算的なもの。
 

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