鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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大分間が空いてしまいすみません。


51話 再会

「わあぁ! はやいはや~い!」

「景色がすごいいきおいで流れてる~」

 

 クーデリカとウレイリカが馬車の窓から見える景色にはしゃいでいる。

 アルシェはその様子を微笑ましく眺めていた。

 

 エルダーリッチが御者を務め、ソウルイーターが引く馬車は猛スピードで走っている。

 それでもお尻が痛くならないのは、この馬車がそれだけ高級なのと、道が綺麗に整備されているからだろう。

 

 学園の設計図をある程度完成させることが出来たので、今度は学園の制度などといった、運営の仕組み作りをしなければならない。

 そのために故郷の帝国へ向かっていた。

  

 前々皇帝が世界最高とも言える伝説級の大魔法使いフールーダ・パラダインに協力を仰いで作り上げた高等教育機関『帝国魔法学院』。

 そこに通っていたアルシェも、そこがどのように運営されているか、ある程度は知っているが、それはあくまで生徒としての目線。

 運営する側の話を詳しく聞く必要があった。

 

 

 

 不眠不休で走り続ける馬車の旅は驚くほど早く目的地に到着した。途中睡眠をとることもあったが、馬車の中はある種の高級宿のように快適なため、疲れはほとんどない。ずっと手綱を握っていたエルダーリッチに対して少しだけ申し訳なく思うも、本人はそれが仕事だと言い切ってくる。こういう感覚はまだ慣れない。

 

 帝都アーウィンタールの門で入国手続き待ちの列に並ぼうと馬車を降りると、一人の男性が近づいて来るのが見えた。

 

「魔導国から来られたアルシェ・イーブ・リイル・フルト様ですね。私はニンブル・アーク・デイル・アノックと申します。皇帝陛下の命により、客人をお迎えにあがりました」

「えっ、あ……はい。よろしくお願いします」 

 

 涼しげでピンと伸びた声で話しかけて来た男性はアルシェも知っている。帝国四騎士の一人“激風”だ。大人物がわざわざ迎えに来てくれたことに恐縮してしまうアルシェだった。

 

「帝都内ではこちらが用意した馬車でお願いします。そちらの馬車は責任を持ってお預かりしますので」

 

 誘導された先には、乗って来た馬車と比肩するほど豪奢なものが用意されていた。

 帝国が魔導国をどれだけ重要視しているのかがよく分かる。

 

 ニンブルが御者を務めて進む。前もって話がついていたからだろうか、入国の手続きは不要だった。

 

 ソウルイーターたちは帝国兵士によって、出入り口付近の馬小屋へと連れて行かれる。

 魔導国とは交易しているはずなので、アンデッドに対してそれなりに耐性は付いているのだろう。

 

(――――あっ、よく見たらすごく腰が引けてる)

 

 門番の人がちょっと可哀そうになる。やはり怖いものは怖いのだろう。

 滞在予定は2、3日ぐらいの数日間と見ている。その間は我慢してもらうしかない。

 

 馬車は帝城を目指して進む。

 本音を言えばあまり会いたい相手ではないが、今回の件を考えれば皇帝へと、直接挨拶に行かない訳にはいかない。

 

 元貴族令嬢として失礼のないように立ち振る舞い、皇帝との対談は無難に終えることが出来た。向こうからもてなしの用意があるとのことで、帝都に滞在中は帝城の客室に泊まるよう勧められた。

 

 そして仕事をしなければならない。その間はニンブルが責任を持って妹を預かると言ってくれた。

 その言葉に甘えて早速魔法省へと向かう。主席宮廷魔術師フールーダ・パラダインに会うために。

 

 重要機関の一つであるため、選りすぐりの兵士たちが巡回警備している。用件を伝えると姿勢を正して、非常に丁寧な対応をされた。

 

(――――私はそんな風に対応されるほど、大した存在じゃないのに)

 

 ぞんざいに扱われるのは嫌だが、余りにも腰が低い兵士の態度は正直なところ勘弁して欲しい気持ちになる。

 魔導王の名は帝国内で絶大な効力を持っていた。この分では帝国が管理する機関のどこに行っても同じ感じになりそうだ。

 

 兵士に案内された部屋でしばらく待っていると、ドタドタと慌ただしい音が聞こえて来る。

 

「いと深き御方! お会いしとうござい…………」

 

 バタン! とドアを勢いよく開け放って現れたのは目当ての人物、フールーダ・パラダイン。

 アルシェの顔を見るなり興奮気味だった表情が徐々に冷めていき「誰?」といった表情に変わる。

 

「――――ご無沙汰しておりました。パラダイン様の元弟子のアルシェ・イーブ・リイル・フルトです」

「…………アルシェ?…………おお、思い出したぞ。そうかお主であったか」

 

 思い出してもらえたようだが、何故かフールーダは残念そうにしていた。

 

「ふむ、皇帝陛下から話は聞いておる。魔導国で新たに教育機関を設立するそうじゃな。てっきり至高の御方が来られるものと思っておったのじゃがな…………どうやら私の勘違いであったようじゃな」

「――――はぁ…………」

 

 露骨に残念そうにされてしまい、気の抜けた声が漏れる。

 弟子をしていた頃と比べて、大分印象の違うフールーダに違和感を覚える。

 

「それにしても、学院を去ったと聞いた時は、何と愚かなことをと思っていたが、見事第三位階を使えるようになっておるな。ちゃんと鍛錬をしていたようでなによりじゃ」

 

 フールーダはタレント能力でアルシェの行使可能な位階を確認し、少しだけ満足そうだった。

 

 

 

「……ふむ、我が学院はだいたいこんな感じで成り立っておる。あとで詳しい内容を書類で渡そう」

「――――ありがとう御座います。とても助かります」

「しかし教育機関となると、王国時代のことを考えると教師役の絶対数が足らぬのではないか?」

「――――それは私塾を開いていた人や引退したベテランの冒険者を雇って指導役に当てる予定だそうです。それでも足りないと思われるので、魔法学院から何人かお借り出来ればと考えています」

「良かろう。非常勤講師などの空いている者に声をかけておこう」

「――――よろしくお願いします…………あの、聞いておいてなんですが、よろしいのですか? 帝国の機密情報に当たりそうな内容もありましたけど」

「問題ない。陛下からも全面協力するよう言いつかっておるからな。それに、帝国にとってもメリットがあると、陛下も私も考えておる」

「――――帝国のメリット?」

 

 どういう意味か聞くと、教育機関の情報を渡す代わりに、そう遠くない未来で、魔導国の下で更に発展した学院の運営方法や技術、知識を教えて欲しいということだった。

 

「偉大なる御方が統べる魔法機関…………一体どのようなものになるか…………御方が教鞭に立たれるならば私も生徒として是非受けてみたいもんじゃ」

「――――そう、ですね」

 

 フールーダはどこか遠くを見るでもなく見ているように視線が宙に向く。そして、雰囲気が変わった気がした。

 

「さて、私から話せることは話した。次は私からも聞かせて欲しい」

「えっ、何をですか?」

「とぼけるでない! 我が神に関してじゃ! お主魔導国に暮らしておるんじゃろ!」

「ひっ!?」

 

 身を乗り出し、今にも掴みかかりそうな剣幕で迫って来る。

 

「あのお方はどうしておられる!? 未知の魔法を行使されたか!? それは何位階の魔法じゃった!? どんな魔法じゃった!?」

「あ、あ、あの…………」

「ええい、じれったい! さっさと質問に応えんか!」

 

 魔導国で暮らしていても、アルシェは魔法が得意なだけのただの一般人。一国の王にそうそう会えるものではない。町で聞く噂ぐらいしか知らないと説明して、なんとか解放してもらえたのは結構な時間が経過してからだった。

 

 

 

「パラダイン様って、あんな人だったっけ?」

 

 アルシェの知っているフールーダ・パラダインは、深い叡智を持つ賢者然とした態度を崩すことのない、尊敬に値する人物だったと記憶していた。

 事実、アルシェと話していた時はそんな感じであったのだが、魔導王の話になるとまるで人が変わったような変貌を見せつけられた。

 あれが本当の姿なのだとしたら正直引いてしまう。控えめに言っても目が狂気染みてて怖かった。

 

 魔導王に魔法学院のことならばフールーダが適任なのではと聞いた時、乗り気じゃなかった理由が分かった気がしたアルシェだった。

 

 それから三日かけて、魔法学院と魔法省に顔を出して仕事をすすめる。

 

 

 

 帝国でやるべきことは全て終えた。

 明日には魔導国へと帰ることになる、その最後の夜。

 アルシェは与えられた部屋で、他に何か忘れていることがないか最後の確認を終え、安堵の息を吐く。

 

「――――ちょっと張り切り過ぎたかも」

 

 両腕を前に伸ばすと肩の関節から音が鳴る。

 魔導王の期待に応えるべく奔走し続けた結果、かなりの疲労が溜まってしまったようだ。

 アルシェが出かけている間のクーデリカとウレイリカは、ニンブルが遊び相手をしてくれていたので、夜には何をしていたかなど、笑顔で話してくれていた。

 今に始まったことではないが、二人とあまり一緒に居られないのはやはり寂しい。

 

「――――でも、その甲斐はあったかな」

 

 学園を運営する上で必要な制度はほぼ決まった。

 帝国魔法学院から派遣されるのは教師だけではない。学院というものがどういうものか分かっている帝国の一部の生徒にも、『留学』という形で魔導国の学園に通ってもらう手続きも済ませた。

 学園の大まかな規模から、建設期間は二か月ほどはかかるだろうと魔導王から聞いている。

 留学してくれる生徒には、それを目安に引っ越しの段取りを済ませてもらう。学園のすぐ近くに寮も建てられるので、家族全員でなく、生徒だけが来てもらっても構わない。

 あとは魔導王陛下に報告して、細かな調整をすれば素晴らしいものが出来上がるだろう。

 

 我ながら良く出来たと、自分を褒めてやりたくなってくる。

 満足げにしていると、メイドの人から夕食の準備が出来たと報告を受ける。

 メイドに案内されたのは、これまで妹たちと三人で食べていた部屋ではなかった。

 少しだけ不思議に思って部屋に入ると、そこにはクーデリカとウレイリカが先に来ていたようで、テーブルに座って待っていた。

 そしてもう一人、見覚えのある女性が妹たちと同じテーブルに座っていた。

 

「――――貴方は……ロクシー様」

「今晩は、アルシェさん。お待ちしておりました」

 

 それは舞踏会の時に少しだけ話したことがある皇帝の内縁の妻だった。

 

 

 

 夕食は貴族時代にもそうそう食べたことがないくらいにとても豪華で美味だった。

 一品一品出されるたびに料理の説明を受け、魔導国から輸入した特別な食材を使用しているのだと分かった。

 とても高価なものなのだろう。客人として本気でもてなされていると思うと、なんだか微妙な気分になる。

 なにせ自分は皇帝に対して、あまり良い印象を持っていないのだから。

 

 クーデリカとウレイリカはフルコースの一品一品が来るたびはしゃいでいた。マナーが良くないと注意しようとしたが、ロクシーから正式な場ではないから気にする必要はないと言われてそれに甘えた。

 彼女の妹たちを見る目は慈母のようで、何故か逆らう気になれなかった。

 

(――――嫌な訳ではないけど、どうしてロクシー様が?)

 

 何故か始まった四人での食事も終わり、食後のお茶をいただく。

 

「さて、食事も終わりましたし、そろそろ本題に入りましょうか。今日、私が来たのは貴方に会わせたい人がいたからです」

「――――会わせたい人?」

 

 疑問に思っていると、ロクシーは手元のベルを鳴らす。

 合図と共にドアが開き、入って来たのは――――。

 

「――――えっ!?」

「ああ~!? お父さま!」

「お母さま!?」

 

 そこにはアルシェが切り捨てたはずの両親がいた。

 

 

 

「わあ~お父さま~」

「お母さま~」

 

 クーデリカとウレイリカは久しぶりに会った両親の元へ駆け寄る。

 

(ど、どうしてここに?)

 

 舞踏会の時に家を没収されて行方不明だと聞いていた。 

 その二人が何故か帝城に居て、妹たちを愛おしそうに、そしてどこか申し訳なさそうに抱きしめている。

 

 意味が分からず困惑していると、母が二人を奥の部屋へと連れて行く。続いてロクシーも別のドアから出ていく。

 残った父がこちらに歩いてくる。

 一言も発せずにいると目の前で立ち止まり。

 

「アルシェ……………………すまなかった」

「っ!?」

 

 腰を九十度に曲げて謝罪の言葉を口にする。

 あの父が。

 貴族の見栄ばかり気にして、目下の者には決して低い姿勢を取らなかったあの父が娘に謝罪をしてきた。

 

「私は…………何も見えていなかった。過去の栄光に囚われて現実を見ることもせず、貴族位を剥奪されて当然なのに、筋違いな怒りを皇帝陛下にぶつけていた」

 

 頭を下げたまま、父は言葉を続ける。

 

 貴族に返り咲けると盲信していたこと。

 そのために意味のない、無駄な浪費をしていたこと。

 クーデリカとウレイリカを使って金の工面をしようとしたこと。

 自分は本当に愚か者だったと。

 以前にアルシェが正そうと指摘してきた父の行動や考え方の数々。それら全てが間違っていたと父自身が認め、そのことを後悔していると告げてくる。

 

 最後に、娘のアルシェに大変な苦労をかけたことを謝ってきた。

 父の足元に水滴が落ちる。

 

(――――っ涙? お父様、泣いているの)

 

 全身を震わせ、言葉も震わせ、まるで懺悔のようだ。

 目の前の父は罪という名の幹。

 罰という名の斧はアルシェの手元にあった。

 

「――――お父様、顔を上げて」

 

 アルシェの言葉にゆっくりと顔を上げる父。

 怯えを含んだ表情。しかし、自分のしてきた事を本当に反省しているのか、アルシェがどんな判断をしても、それを受け入れる覚悟のような雰囲気があった。

 

「――――私は……今はお父様を簡単に許すことは、出来ない」

「っ!?…………当然、であろうな。私はそれだけの事をしてしまったのだから」

「――――勘違いしないで。私は『今は』と言った。だからこれからの行動で私たちに示してほしい」

 

 斧は振り下ろさない。

 確かに本当に苦労させられた。魔法学院を辞めて、夢を諦める羽目になってしまった。

 でも、その代わりに大切な仲間が出来たし、今は魔導国で一定の幸せを感じている。

 それに――――。

 

「――――私の方こそ…………ごめんなさい」

 

 両親を見捨てたことがずっと心の中でわだかまっていた。

 何がどうあれ、親は親なのだ。小さい頃に可愛がってもらっていた記憶まで忘れた訳ではない。

 

 一時は父を憎む気持ちもあった。

 それがため、切り捨てたはずなのに、何故か涙が溢れて来る。

 

 二人して涙を流しながら謝り合う。

 

 

 

 その後、父と交代する形で母とも話し合う。

 母も父を止めることをせず、ただ流されていた自分を恥じ、謝罪してきた。

 

 

 

 両親と和解することになった。

 しかし、取り合えずと言った形が正しい。突然のことでこういう結果になってしまったが、父の変貌ぶりはちょっとおかしい。

 心の底から反省しているのは感じ取れたが、父の言葉を全て信じ、何もかもをも許すことは出来なかった。

 だから最終的な判断として、しばらく様子を見ることにした。

  

 クーデリカとウレイリカは久しぶりに会った両親と一緒に居たいと言いだしたので、四人は寝室へと向かい、アルシェは一人呆然としていた。

 あまりに急な出来事だったので頭の整理が追い付いていない。

 両親と和解したことに後悔はしていないが、どうしてこのような状況になったのかが分からない。

 二人に何があって、どんな経緯で帝城にいるのかの説明は聞いていない。と言うより聞けてない。

 それよりも、謝罪することに頭が一杯だったように感じた。

 

 妹二人を遠ざけてくれたのは有難かった。

 これはアルシェと両親の問題だ。

 幼い二人には聞かれたくなかった。

 

「仲直りは出来たみたいですね」

「っ!? ロクシー様」

 

 どこかへと行っていたロクシーが部屋に戻って来た。みっともない出来事を知られていることが、少し恥ずかった。

 

「――――あの、どうしてこの場を用意して下さったのですか? それに、父と母は……」

「そうですね。まずはアルシェさんが帝都を去った後の、残されたフルト夫妻がどうなっていたかから、お話ししましょうか」 

 

 ロクシーはアルシェが“フォーサイト”の仲間たちと一緒に帝都を出た後のことを語ってくれる。

 

 フルト家の屋敷は、噂で聞いた通り国が預かることになった。

 世間的には、両親は行方不明となっているそうだが、実際は帝城に連れ去られたのが真実。

 

 そして、皇帝の指示の下始まったのが、あの貴族の見栄ばかり執着する父を、文官として使える様にするための教育。

 いや、話の内容を聞く限り、教育と言うよりも『調教』が正しいだろう。

 まず始めに行われたのが、父の貴族としての在り方やプライドを完膚なきまでに粉砕すること。

 父よりも十以上も年若い者から浴びせられる罵倒の数々。帝城に囚われている状態で、反論を一切許さない環境の中、毎日毎日続けられる父の考え方や存在の全否定。

 

 そうして完全に心を叩き折ったら次の工程。

 「貴方は本当は出来る男だ」「新たに生まれ変わった気持ちで頑張りましょう」などと優しく語りかけて、語り手の言うことこそが正しいのだと認識させる。

 

 再教育を受けた父は、本当の意味で帝国の益となる文官見習いとして帝城で働くことになったそうだ。

 

(うわ~、ちょっと可哀そう)

 

 心が完全に折れるまで毎日罵倒され続ける日々は、父の性格からすればきっと地獄の苦しみだっただろう。

 思わず同情してしまうが、逆に言えば、それぐらいしなければ父の考えを正すことは出来なかったのだろう。小娘のアルシェが何度言っても効果がなかったのは当然だったのかもしれない。

 

 母は父のような仕打ちは受けていなかった。

 元々頭が悪い訳ではなかったので、軽いカウンセリングだけに留まり、今は父の補佐を務めていた。

 

 アルシェが魔導国に移ってからの両親がどうなっていたかは分かった。

 しかし、まだ分からないことがある。

 

「――――何故、皇帝陛下は両親にわざわざ教育をしたのですか?」

 

 フルト家は無能のレッテルを貼られたから貴族位を剥奪されたのだ。“鮮血帝”とまで言われている皇帝が再教育なんて面倒なことをするなんて考えにくい。

 

「……これは陛下から他言無用と言われていたんですが……貴方方が“邪神教団”を捕えた時のことは覚えていますね」

「――――はい。勿論です」

 

 記憶にまだ残っている。生贄にされそうになったクーデリカとウレイリカを助けた時のことだ。

 

「あの時、皆様には報奨金が支払われた訳ですが、冒険者モモン様には別のもので支払われました」

「――――別のもの?」

「ええ、モモン様は金銭の代わりにフルト夫妻を助けるよう、陛下にお願いをしたのです」 

「…………えっ」

「細かく申せば、貴族位を戻すのではなく、夫妻が今後不自由することなく暮らせるよう取り計らう。ですがね」

 

「――――どうして、モモンさんが……そんなことを?」

「さあ? 私も陛下から聞いただけですからね。モモン様の真意は分かりかねます。お金に困るようなことはないでしょうし、夫妻が今後どういった末路を辿るか見抜いて、貴方方を不憫に思ったのかもしれませんね」

 

 つまり、モモン(魔導王陛下)は両親から切り離されてしまった妹たちを憂えて手を打っていたのだろうか。

 

(――――クーデリカとウレイリカへの自責の念で、私が苦しむのも見通していた?)

 

男同士(モモンとジルクニフ)の約束だから他言無用だなんて陛下は仰っていましたが、何も知らずにいる者のことも考えるべきだと思うんです。私は受けた恩は返すべきだと考えています。この話を貴方にしたのも、アルシェさんが恩があることを知らないままでいるのが、同じ女性として我慢出来なかったからかもしれません」

 

 彼女は言っている。

 受けた恩をそのままにしておいて良いのかと。

 

「言うまでもありませんが、この場合の恩人は皇帝陛下ではありませんよ。陛下は支払うべき報酬の代わりに教育したに過ぎないのですからね」

 

 モモンへの報酬金額と、人間二人の教育にかかる経費では、ある程度の手間はかかっても後者の方が圧倒的に安価だったとも説明してくれる。

 

「さて、貴方はどうするのかしら」

「――――私は……」

 

 

 

 その夜、ベッドの中でずっと寝付けずにいた、

 頭の中では一人の男性のことばかりが浮かんでいた。

 

「……………………アインズ様」

 

 

 

 




大分前の伏線をようやく回収出来た。
昔はきっと良い親をやっていたんだろうなぁと思う。
屑親とよく言われるけど、現実が何も見えていないただの馬鹿なだけだったと、軽く擁護しておこう。
人の性格を変えるのは容易ではない。それが年くってるならなおさら。
アルシェの父が受けた仕打ちは、相当キツイものです。
ナザリックと比べてはいけませんよ。

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