鈴木悟の異世界支配録   作:ぐれんひゅーず

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5話 エ・ランテルへ

「おはよう。エンリ」

「おはよう御座います。ゴウン様。・・・あの、後ろの方達が昨日話されてた」

「その通りだ」

(すごく綺麗な人だなぁ)

 エンリは幾人かいる、同性の自分でも見惚れてしまいそうな美貌の持ち主に目が釘付けになっていた。

 

 カルネ村に来たアインズの後ろには村の改革の為に連れて来たナザリックの僕達がいっぱい居た。

「昨日村長・・いや前村長か・・・とも大まかに話したが改めて簡単に説明と紹介をしておこう」

 

 最初にプレアデスのユリ・アルファ──彼女には麦畑を拡大させ巨大な穀倉地帯を開墾する指揮を任せた。

 作業要員に多数のゴーレムとスケルトン。

 このスケルトンだが、ナザリックに自然POPする最弱モンスターに茶色のローブに手袋とブーツを装備させており、フードを被れば魔法効果で顔が見えなくなり真っ暗になる。妖しさ満点だが、骨がモロに見えるよりはマシだろうと思った処置だ。まずこの状態で慣れてもらい、いずれは抜き身でも活動出来るようになるだろう。

 さらにアインズが考案した『アンデッド三原則』がPOPスケルトンに施されている。

 

1──アンデッドは他者に危害を加えてはならない。

 

2──アンデッドは『原則1』に反しない限り、登録された者の命令を聞かなければならない。

 

3──アンデッドは『原則1』『原則2』に反しない限り、己の身を守らなければならない。

 

 原則2の登録された者には、現在ナザリックの者、カルネ村の者が登録されている。

 エ・ランテルや王国から人がくる場合、村の南から通ってくる為、新たに開拓する場所は、村から森に沿って北東に進めていく事になる。これはここが開拓村で領土が相当曖昧な為、どこからどこまでが『カルネ村』なのか定義されていないと、前村長から聞いた為、これを機に拡大してしまおうと試みたのだ。

 

 

 プレアデスのシズ・デルタ──彼女には村を守る為の防護壁の強化。以前より頑丈になったとはいえ未だ未知の多いこの世界では何が起こるか分からない為、心配性のアインズが過剰になり過ぎない様制限をかけてシズに命じた。

 シズはナザリックのギミックの全てを記憶している為、本来は外に出したくなかったのだが、アインズから勅命を受けるのを至上の喜びとしている皆を思って、思い切っての抜擢である。

 それにシズはナザリックのギミックに精通している特性から建築関係にも一家言あるかもしれないと思ったのもある。

 保険として80レベルを超える隠密に特化した忍者系モンスター『ハンゾウ』が村に居る間常にシズに付いているが、この事実を本人は知らない。信頼していないと思われないようにする為だ。ユリもそうだがシズに今回の任務を頼んだ時のいつもの無表情が明らかに喜んでいる様を思うと「心配だ」などと言えるはずもなかった。

 

 階層守護者のマーレ・ベロ・フィオーレ──以前、モモンが受けた希少薬草の採取の依頼中、トブの大森林でザイトルクワエを倒した際に配下に加わった森精霊ドライアード達とトレント達。代表は『ピニスン・ポール・ペルリア』。第六階層で林檎農園をしていたのを作りかけの農園ごとカルネ村に引越ししてもらったのだ。行ったり来たりになったが、本人は生まれ故郷の森林傍だという事でむしろ喜んでいた。林檎だけでなく、他の果物や野菜等も村の人間に手伝ってもらい栽培してもらう。

 マーレには畑の開拓だけでなく、森祭司(ドルイド)の能力で、定期的に土地に栄養を与える役目がある。もちろん、小麦畑にもその力を振るってもらう。これにより土地の栄養を気にする事なく夏に大麦。冬に小麦と常に畑に実りが出来るだろう。

 

 下水道設備や、希望する者に住居の改築、増築。新たな入居者の為に4~8人ぐらいが住めるログハウスをいくつか造る為に、ドラゴン・キンが複数に、鍛冶長の部下(見た目は蜥蜴人に近いが炎を纏っている)等がいる。

 ちなみに畑やログハウス等のモデルは最古図書館(アッシュールバニパル)で司書長達に探してもらった本からだ。

 

 他にもあるのだがあまり長々と立ち話していても仕方が無いと思い。

「さて、とりあえず紹介は以上だ」

「はい。はじめまして。エンリ・エモットと言います」

 

 主に指揮をする、ユリ、シズ、マーレに頭を下げ、他の者にも丁寧に挨拶し始める。

 そのやり取りを見て、ユリ、シズ、マーレ、三人の反応が割りと友好的に感じられ、今後さらに仲良くなれるのも期待出来るかもしれない。

 そして、村人から了承を得られているからとはいえ、あまり迷惑をかけないよう作業に入ってもらった。

 

「ところで、エンリ。昨日採取した薬草を売りにエ・ランテルまで行くのだろう」

「あ、はい。もう積荷は馬車に積んで準備は出来てます」

「では、護衛代わりに私が同行しよう。それとゴブリンから代表として一人だけ連れて行こう」

「ゴウン様がそう仰るなら。分かりました。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 そして、アインズは今、エ・ランテルから少し離れた街道を馬車で進んでいる。隣に御者としてエンリが座り。荷台に薬草が入った壷と一緒にゴブリンリーダーのジュゲムが座っている。・・・漆黒の全身鎧を着た冒険者モモンとして。

「まさかゴウン様があの時の冒険者だったなんて」

「全くでさぁ。あの時感じたプレッシャーも今では納得も出来ますがねぇ」

「この辺りの情報が殆ど無かったからな。情報収集の為の偽装なんだが、当然この事は秘密だぞ」

「勿論です」

「分かってまさぁ」

 

「ところでエンリ。私としてはゴウンよりアインズと呼んでくれる方が嬉しいんだが」

「え!?・・・分かりました。これからはアインズ様と呼ばせて頂きますね。あ、今はモモンさんですね」

 

 エンリは自身の敬愛する恩人をファーストネームで呼べる事に一瞬の戸惑いの後、嬉しさと、胸に暖かい何かが沸き起こっていた。当のアインズは『アインズ・ウール・ゴウン』とはこの三つで一つの名称であり、呼びやすいように頭だけとってアインズと皆に呼ばせているだけだ。それが下のゴウンと呼ばれるのはなんとなく変な気分になるので、ある程度親しくなれたと思える相手にはアインズと呼んで欲しいかなぁ、という軽い気持ちだった。まぁこれも偽名なのだが。

 

 エンリとジュゲムの三人で村を出て、転移魔法で馬車ごと移動した後。自身が冒険者として活動しているモモンだと話した。これはンフィーレアも知っており、新しく村長になったエンリにも知っておいてもらった方が良いと思った為だ。そして今回の目的。

 

 エンリを冒険者として登録するのが一番の目的だ。そしてゴブリンやオーガを使役獣としている事実をある程度近隣に広めてもらう。ハムスケを使役しているモモン含め他にもテイマーが居るので、これで村に来た者の混乱を防いでくれるだろう。尤も、亜人が居るという事で入居希望者が減る可能性が高くなるかもしれないが、事実を完全に伏せておく方が問題ありと判断した為だ。これにはエンリも納得済みだ。

 いきなりゴブリンを都市に入れたら大騒ぎになるだろうから、モモンがカルネ村と懇意にしているとして、門番から冒険者組合までをも納得させるつもりだ。

 

 そうこうしている内にエ・ランテルが見えて来た。

「ジュゲム。町の人間に忌避の目を向けられたりするだろうが我慢してくれ」

「分かってますよ。姐さんの為にも何があっても耐えて見せます」

「ジュゲムさん。ごめんね」

「姐さんの為ですからね。あっしの事は気にせんで下さい」

 

 無事にエ・ランテルに入れた。

 予想していた通りにジュゲムが門兵に武器を向けられたり、検問でエンリが持つ角笛で一悶着(これは完全に想定外)あったが、モモンの進言により収束する事が出来た。

 検問所に居た魔法詠唱者(マジック・キャスター)に角笛が金貨1000以上の価値があると言われたエンリが戦々恐々としていたが、アインズにとっては価値がなく、一度譲った物を取り上げる気などサラサラ無かった為「売っても構わない」と言ったが。「アインズ様に貰った大切な物です」と、首をブンブン振り、大事な宝物を扱うように両手で握り締めていたので、アインズはそれ以上なにも言わなかった。

 

「お待ちしておりました。モモンさ~ん」

「殿~。このハムスケ。お迎えに来たでござるよ」

 

 エ・ランテルに来る事を<伝言>(メッセージ)で伝えておいたナーベとハムスケが門を抜けた所で待っていた。

 ナーベラルには冒険者チーム『漆黒』としてエ・ランテルで待機してもらっている。

 ハムスケはナザリックでの訓練を一時きりあげ、ナーベと一緒に居てもらった。

「よく来てくれた。詳細はすでに伝えてあるが、一緒に行くか」

「はっ!お供致します」

「了解でござるよ。殿」

 

 まず最初に登録しようと、冒険者組合に向かう道中にエンリとジュゲムの紹介を済ませる。その合間にエンリが「ルプスレギナさんやユリさん達と同じぐらい綺麗」と言ったのに対し「ありがとう」とお礼を言ったナーベラルに思わず『ギョッ』としてしまった。あの人間嫌いのナーベラルが礼を言うとは。アインズに恩義を持ち、ナザリックの者に好意的に接しているエンリには友好的に話せるのかもしれない。

 

 冒険者組合に到着した。

 ハムスケには馬と馬車と一緒に外で待機してもらう。

 先頭からモモン、エンリ、ジュゲム、ナーベと並んで受付のカウンターに向かう。ジュゲムは緊張しているのか、前後に隠れて周りから見えにくいように歩いている。

 朝一は新たに精査された依頼が張り出される、その為冒険者はおいしい依頼の取り合いが起こり非常に混雑するのだが、今はそういった争いもなく冒険者の数は少ない。目ざとい者がジュゲムの姿に驚いていたが、モモンが一緒に居る為、特に騒いだりはしなかった。

 それらを見越してこの時間に着くようにしたのだが。

 比較的モモンとのやり取りが多いイシュペンという受付嬢は他の冒険者の相手をしている為、空いているもう一人の受付嬢の所に向かう。

 

 実は受付嬢の間でエ・ランテルで唯一のアダマンタイト級冒険者の英雄、『漆黒』のリーダーであるモモンの相手をするのは一種のステータスになっていた。実力のある冒険者は傲慢で粗野な態度が目立つ事が多いが、漆黒のモモンは強さは当然として、その人格も謙虚だが自信に溢れた立ち振る舞いはまさに英雄然としており、少しでもお近づきになりたいと常に競い合っていた。

 そういった裏側があり、ハルシアはカウンターの下でガッツポーズをし、平均より大きめのお尻を揺らし姿勢を正した。他の受付嬢からの嫉妬の視線を無視して美人だと言われる自身の最高の笑みを浮かべて。

「ようこそモモン様。本日はどういったご用件でしょうか?生憎、指名依頼は御座いませんが」

「今日は仕事ではなく、私の紹介で冒険者登録をして欲しい人物を連れて来た」

 

 ここに居る全員に聞こえるよう大きめの声で受付嬢に説明しつつエンリとジュゲムを前にだす。

「え!?ゴ、ゴブリン!?」

「心配する必要は無い。このゴブリンは彼女、エンリ・エモットの支配下にある。決して人に危害を加える事は無いと私が保証する」

 

 今回連れて来てはいないが、他にもオーガやホブゴブリン等、複数体使役している事を伝えておく。

 困惑したハルシアだが。エ・ランテルの英雄の推薦を蹴る事が出来るはずもない。

 今までにもベテラン冒険者が、自分の認めた者を組合に推薦してくることは何度もあった。

 『漆黒』も森の賢王と呼ばれる恐ろしい魔獣を使役している、あの強大な大魔獣に比べたらゴブリンやオーガ等はかわいいものかもしれない。ハルシアも野生のゴブリンを見た事はあるが、目の前のゴブリンはハルシアの知るのよりも明らかに屈強でいかにも鍛えられた戦士と感じられた。

 組合長であるアインザックも断りはしないだろう。モモンの薦めであれば尚更だ。

 

 登録料と代筆料をモモンが払い。冒険者講習もモモンが行うとしてエンリの冒険者登録は恙無く終了した。

 

 組合を後にした一行は、冒険者プレートは翌日に用意出来るそうなので次に薬草を売る為にリイジー・バレアレに紹介してもらった薬師の店に向かう。

「あのモモンさん。本当に良かったんですか?登録料まで出していただいて」

「その事か、問題ないさ。むしろああした方が良かったと思っている」

「「「?」」」

 

 モモンの言葉に何が良かったのかよく分かっていない様子のエンリ、ナーベ、ジュゲムの三人。ハムスケは馬と一緒に鼻歌を歌いながら馬車を引いており話に加わっていない。

「つまりだ」

 

 モモンが登録料や講習を立て替える事により、カルネ村と懇意にしている事を大々的にアピールする事で村に移住する者が増える可能性があり、犯罪者やロクデナシな輩の来訪を抑止する効果も有ると自身の考えを語る。講習についても実際にエンリが依頼を受けたりする必要はなく、モンスターを登録するだけなのでそもそも要らない。もしエンリが依頼を受けたいのならルールを教えるつもりだが。

「村の為に・・・本当にありがとう御座います。モモンさん」

「さすがです。モモンさ~ん」

「なるほどなぁ」

「本当に効果があるかは分からんがな、ないよりマシと思っておいてくれ」

 

 

 リイジーに紹介された店に着く。ここはエ・ランテルでバレアレ家に次いで二番目だった薬師がいる店だという。バレアレ一家がカルネ村に引越した為、今ではエ・ランテル一となっている。

 

 エンリがリイジーの紹介状を渡し、ジュゲムが率先して薬草の入った壷を卸していく中。前日配下に加わったリュラリュースに自分達が使っている薬草等をいくつかを献上させており、それを鑑定してもらっていた。

 西の魔蛇が支配していた地域は南、東と同様、奥地は人が殆ど入らぬ魔境と言われており、薬師にとって希少な植物が多かった。ゴミ同然の物も在ったみたいだが、それを除いて買い取ってもらった結果。かなりの値段が付いてありがたい臨時収入に心の中でガッツポーズをとっていた。

 エンリも十分な額を手に満足しているようでなによりだ。

 

 次に向かうのは武器屋だ。

 薬草を売った金で、ジュゲム達の装備を整えたいというエンリの希望だ。正直アインズがナザリックから低位の(それでもこの世界では一級品)装備を用意しても良かったのだが、エンリから「全てをアインズ様に頼るのは良くない、出来る事は極力自分達で行いたい」と気概を見せてきたので、アインズはその心意気に感心していた。

 向かう道中、エンリをハムスケの背に乗せて街中を歩いている。後ろで御者をジュゲムが勤め、ハムスケの左右に、モモンとナーベが並んで歩く。

「エンリ殿。落ちないよう、シッカリと掴まっているでござるよ」 

「はい。思ってたより、乗り心地が良いんですね」

「立派な姿ですぜ。姐さん」

 

 少々危なっかしいかとも思ったが、意外に身体能力が高いのかエンリがハムスケの上で堂々としている。その姿はアインズからしたら非常に微笑ましく見える。この世界の住人はナザリックの者含め、英知ある、力強い目と感じ、随分立派な魔獣に見えるらしい。ハムスケがただデカイハムスターで可愛く見えるのは今のところアインズのみなのだ。

(やっぱりハムスケに乗るなら、女の子か子供が似合うよなぁ)

 アインズがただそんな微笑ましい姿を見たかっただけではない。これも村長になったエンリのアピールになると思い勧めてみたのだ。

 効果があったのか、街の人々は冒険者『漆黒』よりエンリに注目が集まっている。「あの森の賢王に乗った女は何者だ」といった声がチラホラ聞こえる。明日になれば、組合からの情報が噂話として都市全体に広まるのも時間の問題だろう、とアインズは自分の考えがうまくいくだろうと兜の下でほくそ笑んでいた。

 

 途中で露天の串焼きをアインズが振舞ったり、エンリがネムの土産を選んだりとブラブラしていると、もう太陽が沈み始めていた。

「さて、エンリの冒険者プレートを受け取る為に一晩宿をとる必要があるが。私達が泊まっている宿に来るといい」

「あ、そういえばそうでしたね。でも、ご一緒させてもらってもよろしいんですか?」

「問題ないさ。私達はその宿の常連でもあるしな」

「あっしは馬小屋とかでお願いします。それで十分ですし、その方が良いでしょう」

「そうか・・・分かった。ちゃんと食事が出るように手配はしておこう」

「へへ。ありがとうございます」

「では、私が受付に言っておきます。モモンさ~ん」

「頼んだぞ。ナーベ」

 

 『黄金の輝き亭』に着くと村にはない立派な建物に驚いているのか、エンリとジュゲムがあんぐりと口を開けて呆けている。

 早速ナーベが受付で話をして、従業員にハムスケと同じ馬小屋にジュゲムと馬を連れて行ってもらう。ついでに馬車とエンリが買った荷物をフロントに預けて部屋に向かう。

「ふわあぁ。すごい部屋ですね」

 

 案内された部屋に入るなりエンリが落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見渡している。

「とりあえず疲れただろう。そこのソファーにでも座って寛ぐとしよう。直に夕食を運んでくるだろうし」

「あ、はい。では、御言葉に甘えて」

 

 エンリはソファーのフカフカした感触にご満悦のようだ。

 『黄金の輝き亭』はエ・ランテル一の宿屋であり、家具一つにしても王国内で最高級を謳っている。基本村から出る事の無かったエンリにしてみれば貴重な体験なのだろう。

 アインズもエンリの対面に腰を下ろし寛いでいると。扉からノックの音が鳴る。男性ウェイターが料理を運んできてくれ、テーブルに並べていく。ナザリックのメイドと比べると粗があるが、アインズは特に気にならない。以前ナーベが「なっていない」と酷評していたが、そもそもナザリックと比べるのが間違いだ。

 

「モモンさん。私はカルネ村に赴き、ユリ姉さま達の手伝いに向かいます」

「うむ。ご苦労だったナーベよ。皆によろしく伝えておいてくれ」

「はっ!失礼します」

 

 綺麗な所作で礼をとり、転移魔法で消えたナーベを見送る。アインズの護衛には、

『ハンゾウ』

 幻術に秀でた『カシンコジ』

 肉弾戦・特殊技術に秀でた『フウマ』

 武器戦闘に秀でた『トビカトウ』

 それぞれLV80超の忍者モンスターが宿屋の外に隠れて警備している。アインズ自身がプライベートの空間が欲しかったので、四六時中見られているのは耐えられなかった為、アルベドと協議した結果、ナザリックを出た時から少し離れての警備配置となっている。

 

「あ、あの。ナーベさん帰られましたけど・・・その・・・この部屋って・・・」

 「二人部屋ですよね」の言葉が言えず恥ずかしそうにモジモジし始めたエンリになんて事ないようにアインズが答える。

「ああ。問題ないさ。私もここの料理を食べたら家に帰るつもりだ。気にせず泊まると良い」

 アインズもいきなり若い女性と相部屋に泊まる気はなかった。一度経験(あれを経験とは呼びたくないが)したといっても女性の扱いがまだよく分かっていない身としてはこのまま立ち去り、朝に迎えに来ようと思っていた。

 

「そ、そんな。こんな豪華なところに一人でなんてとてもいられません。お願いです。一緒に居てくれませんか?」

 

 捨てられた子犬のような目で懇願してくるエンリにたじろぎつつ

「そ、そうは言っても私は男だぞ。エンリのような若い女性とだな・・・」

「お願いします。あれから一人でいるのが怖いんです」

 

 あれから、と言う言葉にアインズは思い当たった。平和に暮らしていた時に訳も分からず騎士に襲われ、両親を失ったのだ。幼い妹と二人になり毎晩不安で過ごしていたのが容易に想像出来た。悟自身あまり覚えていないが、母親を亡くした時はどんなに心細かったか。

 そんな過去を思い出したアインズに、ここでエンリを一人残すのはかわいそうだと首を縦に振るしか選択肢はなかった。

「分かった。私もここに泊まろう。・・・さ、料理が冷めてしまう前に頂こう」

「は、はい。」

「食事マナーも気にする必要は無い。私も完璧に出来る訳ではないしな」

 リアルで上司に連れられ、取引先と食事したこともあり。一通りのマナーを知ってはいるが、本来食事は楽しむモノ。マナーを気にし過ぎていては満足に食事を楽しめないと思う。

 

 そうして食事をする為に魔法で創った鎧を解き素顔を晒した。もはやアインズには人として大事な事を教えてもらったエンリに隠し事をする気はなかった。徐々にナザリックの事も話していこうと思うぐらいエンリに心を開いていた。

 アインズの素顔を初めて見たエンリは顔を赤くし、チラチラとアインズの素顔を見て、耳まで赤くなっていく。二人でエ・ランテル最高の食事を楽しんだ。エンリは勿論だが、ナザリックの味を知ったアインズにしてもリアルで食事とは呼べない環境に長く居たせいか十分過ぎる程に食事を楽しめた。

 

 空になった皿をウェイターに下げてもらった後(アインズは全身鎧姿で)、紅茶を飲んで寛ぎながらユリに<伝言>(メッセージ)でネムの世話を頼む。ユリならば面倒見も良く頼りになるからとエンリにも安心させる為に教えておく。

 

 

 エンリは村を出る時に、ネムの世話を前村長夫妻に頼んではいたが、ユリという名にあの時の母性を感じさせる美人を思い出す。アインズの信用する人という言葉を信じ、甘える事にした。

 エンリからすればこちらの事を色々気遣ってくれるアインズに感謝しかなかった。

 

「そうだ、風呂に入ったらどうだ。後で私も頂くから先に入るといい。使い方は分かるか?」

「はい。以前母から聞いたことがありますから大丈夫だと思います」

 

 

 

 

 エンリは風呂上りに自分に宛がわれたベッドの端に座り、上気した体を冷ますように手で扇いでいる。持ってきていた寝巻きを着ており、色気のあるような物ではなく、膝まで丈のあるワンピースに近い装いだ。香油を使っていたのか良い香りのする湯を楽しみ隅々まで念入りに身を清め、ついつい長湯をしてしまった。もっとも体が熱を持っているのは敬愛するアインズの事が頭から離れなかったからなのだが。

 エンリには一つ決心した想いがあった。

 

 しばらくしてアインズが黒いスウェット姿で出てくる。見た目に特徴はないがその材質は見たことがないぐらい上質に感じる。エンリはアインズが何も無い空間から色々な物を取り出しているのを知っており、高価なマジックアイテムを村娘にくれる程の財を持っているだろうし、今更驚く事はなかった。

「少し早いがそろそろ休もうか」

「は、はい。」

 

 

 二人がベッドに横になり数分経った頃。

 

 エンリがアインズのベッドに忍び寄り、布団の中に入っていく。

「!?・・・どうした?」

「あ、あの。色々助けていただいてありがとうございます。アインズ様の援助がなかったら、今頃は村自体無くなっていたと思います。私もネムと離れ離れに・・・」

「・・・気にするな。元々私が深く考えずにゴブリンを呼ぶ角笛を渡したのが原因だ。それによって起こる問題に対処したに過ぎないからな。それに、まだ解決した訳でもない」

「それでも。なにかお礼がしたいんです。だから・・・その・・・私を抱いてくれませんか?」

「(うえぇ)い、いや・・・それはだな」

「結婚とかを望んでる訳じゃないんです。ただ・・・アインズ様の女にして欲しいんです。・・・私じゃ魅力ありませんか?」

 

 そんな事はなかった。そういう目で見てはいなかったが、エンリは十分に魅力的だとアインズは、いや鈴木悟は感じていた。ここで拒否したらエンリを深く傷つけてしまうかもしれない。

 ペロロンチーノさんによくエロゲの話を聞かされ、「こういうふうに女性から迫っているのに手を出さない主人公はただのヘタレ野郎です。ホモです。男として終わってます。エロゲでもたまにあるんですよね、そんな主人公が」等々と熱く語ってきて、そのたび姉であるぶくぶく茶釜さんにどつかれていたのを思い出してしまう。

 

「そんな事はない。エンリはかわいいさ」

「アインズ様♡」

 

 

 

 宿屋の一室で、二人は長い間肌を重ね合った。

    

 

   

 

 

 

 

 




その頃、ンフィーレア君はおばあちゃんと一緒にずっとポーション作成にのめり込んでましたとさ。

人間になったことと、アルベドとシャルティアのせい(おかげ)で、このアインズさんは少しタガが外れています。
アインズとエンリをくっつけてみたかったのもあります。

アニメ8話のラスト。知ってたけどやっぱちょい鬱になる。だがそれがオバロの魅力だとも思う。

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