IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第12話 夜明け

ヤンがグレネードを構える。 

グレネードが叩き込まれる。

そもそも白式に盾はついていない。

詰み、だ。

この攻撃を耐えるすべはない。

轟音が響き、黒煙が満ちる。

 

そして、一条の光が黒煙を貫く。

 

「っは! バレバレなんだっつーの」

 

ヤンは軽やかにかわし、黒煙の中に突入する。

わずかに残ったセシリアのエネルギーを0にするために。

動けなくしてしまえば――殺すも犯すも自由。

そして。

 

「おおおおおおおおお!」

 

一夏の叫び声。

エネルギーが0になり動けなくなっても、声は出せる。

これは意味もなく無力に泣き叫ぶ声――ではない!

気合の入った、必殺の声だ。

だが、あの場で耐え切る手段なんてなかった。

盾など持っていなかったはず。

 

「んな!? 織斑一夏! お前、くたばったはずじゃ――」

「セシリアにかばってもらったのさ――。終わりだ【零落白夜】!」

 

そう、攻撃が当たる一瞬。

その時に、セシリアは目の前の一夏を引き釣り倒して盾になった。

 

在り得ない話ではあるが、逆に一夏がセシリアを盾にしようとしても間に合わなかった。

それが盲点。

初めから友情や愛など頭にない自己中心的なヤンには自己犠牲など想像もできない。

それが、この“あり得ない”状況をつくりだした。

 

「くぉの!」

 

かわそうとする。

――が、かわせない。

速すぎる動きは、時として自らを縛る。

そう、車は急には止まれないのだ。

 

「俺達の勝ちだ」

 

零落白夜がヤンのISのシールドを切り裂き、絶対防御が発動――しない。

赤いものが飛び散る。

 

「――な!?」

 

血しぶきが舞う。

明らかな致命傷。

それを負わせたのは一夏。

 

だが、そんな後悔に浸る暇などなく――

 

「甘いんだよォ! この糞ガキどもがァァァァ」

 

至近距離で銃口を向ける。

逃げられない。

かわせない。

そして、エネルギーも保たない。

“詰み”だ。

 

「一夏さん!?」

 

セシリアの顔に絶望が浮かぶ。

 

「ひゃは!」

 

悪魔的に嘲笑うヤンの顔が――真っ二つに割れた。

いや、顔だけではない。

体ごと一刀両断にされ、絶命する。

 

「ツメが甘いな、この馬鹿者共」

 

二人がかりで苦戦して、倒したと思ってもなお復活してきて一夏を襲った敵は突如姿を表した織斑教諭によって殺された。

理由は一夏の攻撃は致命傷であったが、人を殺したという重荷を彼に背負わせないために自分がわかりやすく殺してみせたというところだろうか。

少なくとも、万人が納得できる理由にはなる。

 

だが、一夏が衝撃を受けなかったかと言われれば、そんなわけがない。

人を切った感触は未だに手からはなれない。

そして、セシリアも。

 

「織斑先生、何時から見ていたんですの?」

「山田先生がこの場から退避したあたりからだ」

 

顔を青くしたセシリアが尋ねる。

人が真っ二つにされた様を直視させられたのだ。

当然――いや、褒め称えられても良いほどだ。

むごたらしく殺された他殺体など生まれてこの方見たことなどなかったのだから。

 

「ほぼ最初からじゃありませんの……」

 

始めから助けて欲しかった、という視線。

この闘いは経験値にはなったが、あの死体を見たことで収支は見間違えのないほどの赤字。

 

「ふん。この私があの程度の敵に1秒以上の時間をかけなければいけないとでも思っているのか?」

 

さらりと受け流して答える。

とんでもないことを涼しい顔で行っているが、これが彼女だ。

世界最強の名をほしいままにする女。

彼女の闘いは一瞬過ぎて、描写する価値すらなかったということか。

 

「――ええ。私達は二人がかりでもあそこまで苦戦いたしましたのに。……もしかして、こちらの敵のほうが強かったんですの?」

「さあな。雑魚は雑魚だ。どちらが強いかなど私は知らんよ」

 

実際はヤンとは比べ物にならないほど彼女が相手したルークは強かった。

第4世代に匹敵するほどの速さに振り回されるだけのヤンとは違って、ルークは完全に速さを己が武器としていた。

1秒で倒されてしまったのだから、何の意味もないが。

 

「凄いことをおっしゃいますのね。さすがは世界最強(ブリュンヒルデ)

「そんなお世辞を言っても訓練は優しくしてやらんぞ」

 

心からの尊敬を切って捨てる。

そんなものにはうんざりだ、とでもいいたげな。

 

「問題ありませんわ。むしろ、もっと厳しくしてくれても構いませんのよ」

「ならば、とびっきり厳しくしてやろう」

 

戦闘の緊張がだんだん溶けてきて調子を取り戻してくるセシリア。

そこまで甘くはありませんのね、と舌を出してみせる程度には回復した。

織斑教諭もまた、そんな彼女を見て柔らかい微笑みを浮かべる。

 

 

 

「そんなことより、千冬姉。――殺したのか?」

 

そんなあったかい空気の中でひたすらに手を握って閉じてを繰り返して、その中の何かを見ようとでもしている一夏。

表情はかたく、何かを悔い改めている。

人を切った感触は彼の精神を深く傷つけた。

そして、傷つけた相手に謝ることもできなくした――殺した人間に是非を問う。

 

「織斑先生と呼べと言っただろう、この馬鹿者。――ああ、そうだ。殺したよ」

 

ふるふると首を振って言う。

まるで、“悪いことだが仕方ないんだ”とでも言うかのように。

彼女もまた悔いている。

もっと良い解決法はなかったのか。

成長を促すなど悠長なことは考えずにさっさと殺しておいたほうが良かったのか。

そう――考えずにいられない。

 

「それ以外に方法はなかったのか?」

「なかった。あのISに絶対防御は搭載されていない。殺す以外に止める方法など存在せんのだ。貴様が説得してくれるのなら話は別だがな――。しかし、奴らは警備員を殺している。まともに話ができるとは思えんがな」

 

だが、殺したことについては後悔も懺悔もなかった。

それは仕方ないことだ。

理想ではなく現実、その視点に立った時、答えはそれが一番だった。

 

人を殺さない、というのは理想論だ。

そう、漫画の世界ですらない妄想。

都合の良い現実しか見れない愚か者の理論。

ただペンと紙のみを持って世界に相対するならそれでも良いだろうが――。

 

「――そうなのか。いや、わかった。それなら、いい」

 

圧倒的な現実を受け入れる。

一夏は現実から目をそらせるほどには気楽な思考を出来なかった。

後は、どうにかして自分の心に折り合いをつけるだけ。

 

「……ふん? あまり思いつめるなよ。奴らは所詮人をなんとも想わないテロリストでしかない。戦争屋気取りの、ただの異常者だ」

 

そんな彼に、姉はただ気にするなという。

いずれは慣れるだろう。

しかし、それは果たして正しいことなのか。

 

「それでも、人は人なんだよ。……あの感触。人を斬った感触が手から消えないんだよ」

 

震える手で言う。

――助けを求めている。

この残酷な世界で。

 

「なら、篠ノ之に稽古でも付けてもらったらどうだ? 竹刀でも握れば気が紛れるだろう。――いいか。くれぐれも妄想だけはするな」

 

突飛な言葉で締めた。

体を動かせば嫌なことは忘れられる。

なるほど、それは正しい。

おまけに体の健康にもいい。

――だが、妄想するなとは?

 

薄暗い部屋にこもって一人考え事に沈めば、たしかに気は落ち込む。

だが――。

それならそうと言えばいい。

妄想するな、なんて迂遠にも程がある。

なら、そのままの意味――本当に妄想を禁止するというだけなのだろうか。

だが、妄想禁止など何をしたいのか。

妄想をさせないことが何を意味するのか全くわからない。

……以前にも同じことを言われた。

だが、その時も異身は判然としなかった。

 

「今日はもう遅い。さっさと寝てしまえ。寝不足は集中力に悪影響を与えるぞ。……オルコットもな」

 

疑問に何の回答も示すこともなく消えていく。

襲撃を受けたのだから教師にはやることが一杯あるのだろうが、一夏の気持ちは宙ぶらりんだ。

もっとも、それは落ち込みがちな心を他の物事にそらしてくれるということでもあったが。

 

「はい。おやすみなさい、織斑先生。一夏さんも」

 

セシリアが追従して去っていく。

もう夜も遅い。

いい加減に寝たいのだろう。

 

「ああ。お休み、セシリア」

 

手を上げてふらふらと部屋に戻ろうとする一夏。

もう織斑教諭は消えている。

セシリアはきょろきょろと当たりを見渡すと――。

 

「あの、一夏さん?」

 

戻ってきて声をかける。

何だか妙に頬が紅潮している。

――緊張している。

 

「え? もどったんじゃ……」

「そんなものは織斑先生の前のポーズですわ。実は私、怖くて一人じゃ寝られそうにありませんの。……一緒にいてくださる?」

 

しなを作って身を寄せる。

セシリアにそんなことをされたらさすがの一夏も顔を真っ赤にせざるを得ない。

彼女は誰もが美人と認めざるをえない容姿を持っている。

そんな彼女が身を寄せてきたことで、腕に柔らかいものの感触まで感じてしまって――。

 

「いや。男が女と寝るなんて、その……まずいだろ?」

「私、一夏さんとだったらかまいませんわ」

 

きっぱりと断言する。

不安とかは全くなかった。

ただ、顔を真っ赤にしているが。

 

「いや、やっぱりまずいって」

「なぜです?」

 

「いや、ほら――。専用機持ちは国家の機密情報を抱えていることがあるから、他の人間を部屋にいれてはいけないって、奈落が」

「なら、一夏さんが私の部屋に来ればよろしいのですわ。それなら問題無いですわよね」

 

「で、でも――」

「もう! デモもストもないですわ。私が勇気を出して迫っているのですから、貴方の度量を見せてください。懐の浅い殿方はモテませんのよ」

 

「そういう問題じゃなくてだな――」

「ええ。そういう問題ではありません」

 

「は?」

「早く行きますわよ。このままだと夜が明けてしまいます」

 

「お、おい――」

 

セシリアが一夏と腕を組んで。強引に引っ張っていく。

その足取りには微塵も恐怖が見られない。

 

 

 

朝には目を隈に縁取らせた一夏と、覚悟は済ませておきましたのに……とうなだれるセシリアの姿があったとか。

 

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