IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第13話 第2の幼なじみ

「何時間待たせるわけよ――?」

 

不機嫌に眉を寄せる少女が不機嫌そうに腕を組んでいる。

妙にちびっこくて、ちんちくりんと言う言葉が似合いそうな背格好をしている。

だが、その小さな体には自負と、それに苛立ちが詰まっている。

 

まったく、もう――。

この分じゃ夜が明けちゃうわね。

客を何時間も玄関で足止めするって、いつの間に日本の常識は変わったのかしら?

まあ、なんだかスタッフが忙しそうに動いていて、なにかが起こったのはわかるけど。

こっちは中国から来てるんだから、さっさと休ませなさいよ。

久しぶりに帰ってきたらこれよ、もう。

 

そう、胸中でつぶやく。

いい加減我慢の限界であった。

事情も知らされず何時間も足止めを食って、もう朝だ。

こちらはわざわざ夜に来たと言うのに。

 

「お、お待たせしました。こちらへどうぞ」

 

私の不機嫌なオーラに当てられたのか、案内してくれる人は微妙に顔を青くしている。

言っちゃなんだけど、ちょっとスカっとするわね。

まあ、そんなことより早く寝たいんだけど。

ただ、まあ――

 

「なんでこんなに警戒が厳重なのよ?」

 

ここに来たことはなかったけど、今が厳戒態勢なのはさすがに見て取れる。

あたしは一夏ほど鈍感じゃない。

いくらこの凰鈴音(ファン・リンイン)様が来るからって、これはおかしい。

異常なほどの警戒心を随所から感じる。

絶対に何か不測の事態が起こったはずだ。

私は中国の代表候補生だから、原因を調べあげて本国に報告しなくちゃいけないんだけど――今日は無理ね。眠い。

 

この質問だって、まともに答えてもらえるとは思ってない。

なにか拾えたら儲けもの。

反応を見るだけで十分価値がある。

 

これは世間話ではない。

れっきとした闘いだ。

情報戦という名の。

まあ、面倒臭いことは高官連中がやればいいけど。

 

「それは――、中国の代表候補生様が来るというのに不手際があってはいけませんから」

 

「待たせるってのも十分不手際じゃない?」

 

下手ないい訳ね。

こんなの信じるわけないじゃない。

ま、自分で調べるしかないか。

 

どうやら、及第点は与えられないらしい。

明らかに嘘をついたそぶりがあった。

日本人は明らかに情報戦というものに無知だが、IS学園の職員ですらそうだった。

 

「そ、それにつきましては――」

「まあ、それはいいのよ。待ち時間は終わったわけだし。一つ聞きたいんだけど、いいかしら?」

 

ここに来たのは、高官共に言われたからだけど、それだけじゃない。

一夏に会える。

そう思ったからこそ一も二もなく引き受けた。

あたしは一夏のことが、そう――、あれよ。

ああ、もう!

考えただけで恥ずかしくなってきた。

 

こっちはこっちで自分のことに夢中になってしまった。

馬鹿な日本人からいくらでも情報を引き出すチャンスだというのに。

まあ、彼女は高校生だ。

それも正式な訓練は受けていない、半年前まではただの一般人だった普通の。

きっちりと職業訓練を受けた公務員とは違う。

 

「は、はい。私が知っていることなら何でも――」

「じゃ、織斑一夏ってやつのことを教えてちょうだい」

 

彼女は赤くなった顔を隠すように胸を張る。

まあ、そもそも胸なんて殆ど無いのだけど。

 

一夏はここで何をしてるのかしら?

きっと趣味は変わってないわよね。

少しは強くなったりしてるかな。

ただ、心配事もあるのよね――。

この学院は女ばかり。

だけど、まさか手を出すことはないでしょう。

だって、私と約束したんだから。

そう、あの約束。

絶対に忘れたなんて言わせない。

待ってなさい、一夏。

このあたしが来てあげたわよ。

 

「この学院で二人きりの男子生徒ですね。では、基本的なことから――

 

本国の方では聞けなかった一夏の様子。

その貴重な情報に耳を傾ける。

 

 

 

「なるほど、参考になったわ。ありがと。で、これからあたしはどうしたらいいわけ? 徹夜のまま授業に参加する?」

 

さすがに、それは勘弁して欲しいのだけど。

このままだと居眠りしそうだ。

流石に初めの授業で堂々と居眠りするほど恥知らずではない。

――ないけれど、やっぱり辛い。

 

「いえ。凰様に置きましては、今日一日はお部屋で休んでもらい、授業には明日から参加するようにと言付かっております」

 

そ、良かったわ。

これで寝れる。

あたし、あまり徹夜ってしたことないのよね。

 

「じゃ、さよなら。あんたも、もう少しはっきり喋りなさい」

「は、はい。気をつけます。それでは……」

 

スタッフが出て行くのを見届けて、ぱぱっと荷物を片付けてしまう。

なにせ荷物はボストンバッグ一つだけなのだから。

花も恥じらう女の子がこれでいいのかって気もするけど――ま、性分だし。

 

さて、さすがに眠いわ。

シャワーをあびるのがまだだけど、まあいいわ。

起きたら浴びましょう。

この後すぐに用事があるわけでもないし。

 

 

 

こんこん、と扉を叩く音が聞こえる。

来客?

それも、入居初日からなんて。

いや、

 

「一体、誰よ? 私がこの部屋に入居してきたことなんて知ってる人はほとんどいないはずなんだけど――」

 

そう言って扉を開ける。

言っては何だが、私は不用心だったのだろう。

治安の良い日本に帰ってきて気が抜けたのかもしれない。

だから――

 

「きゃあ!」

 

扉を開けた先にあった銃口に悲鳴を上げてしまった。

なんて、不覚!

 

「こんにちは。こんなことで悲鳴を上げるようでは、この学園でやっていけるかは怪しいな。別に一夏に関わらないというなら、その程度で構わないのだろうが」

 

相変わらず銃口を向けている相手は全然知らない男だ。

……男?

つまり、こいつがこの学園のもう一人の男……!

高官共が耳にたこができるくらい、こいつには気をつけろとうるさかったけど――。

まさか、初対面の私にいきなり銃を突きつけてくるようなイカれた奴だったとはね。

 

「あんた、一体何? いきなり人に銃を突きつけて――。代表候補生に向かってそんなことをするってことは、それ相応の覚悟をしているんでしょうね」

 

代表候補生であれば、専用機を持っている。

そんな人間に銃を突きつけるなんて、殺されても文句は言えないわよ。

女ならなんとか言い訳もつくかもしれないけど、男じゃあね――。

 

「相応? たかが女子供に銃を向けるだけで、何を覚悟しなければいけないのかな。聞けば、君のISは第三世代機だそうだが――君ごときでは適当に動かしてそこそこのデータを提供する程度が関の山だ。まあ、一般人であれば君にすら敵わないのかもしれないね」

「へぇ? あたしがISの性能におんぶにだっこされているような素人って言っているわけね。……上等じゃない、表に出なさい。叩き潰してあげるわ、神亡奈落」

 

キレた。

ぶん殴ってやる。

 

「ほう? 私の名前を知っているか。少し驚いたよ、君に人の名前を覚えられる頭があったとはね。これは安心だ。返り討ちにしても三秒で忘れられては面白くない」

「ふふん。いい度胸してるわ。このあたしにそこまで言えるなんてね。アリーナはどこよ?」

 

「こっちだ。ついてきたまえ」

 

とことんまでムカつかせてくれるやつね。

いいわ。

その女々しい顔が膨れ上がるくらい殴ってやる。

泣いても許してやらないんだから。

 

 

 

 

しかし、こうして歩いていると不気味ね。

生憎と私は「きゃー」とか言う人種じゃないけど。

 

「実を言うと、君の能力はそれほど酷いものではない」

 

は?

いきなり何言い出してんのよ。

ってか、前言撤回に見えて全く撤回してないわね。

あたしのことを馬鹿にするのもいい加減にして欲しいんだけど。

 

「――で? 強い奴がいなくてつまらないとかそんな話? 安心なさい、あんたの馬鹿馬鹿しい自惚れはあたしが叩き折ってあげるから」

「そう、問題は君が弱いことではなく――誰も彼もが弱すぎるということでしかない。全員が弱いのだから、別に無理してまで強くなる必要はない。……特殊な事情がなければ。運が悪いのはまさに――そう、不運としか言いようがない。……最悪だ」

 

あたしのことをさらっと無視して話し続けやがった。

今からでも、ぶん殴ってやろうかしら。

 

「そう、特殊な事情。亡霊が一夏を狙っているということ。別にそれだけなら問題なかった。問題は今生きている人間全員、誰も彼もひっくるめて運が悪いこと。強さも何も関係ない。幸せに生きられるかなど、それこそ運次第でしかないのに」

「――は?」

 

え?

なに?

一夏が怪しい奴らに狙われている、なんて、そんなこと――。

いや、あいつは世界でただ二人の男性IS操者だ。

そんなこともあるかもしれない。

どんな手段を用いて乗ったのかわからないコイツを研究するよりも、よっぽど価値がある――!

 

「だが、奴らは宣戦布告まで出しやがった……! もはや、運が良い方に転がることはない。これはもう、“ざまあみろ”と言わんばかりだ。ならば、わずかな石ころを投げこんでやろうではないか。貴様の思い通りになど、絶対にさせてなるものかよ!」

「待って! 一夏が狙われている、って。宣戦布告って何の話よ? あたしは聞いてないわよ!」

 

冗談にしても洒落にならないものばかり。

こいつは何を知っているっての?

それよりも、一夏は……。

一夏は無事なの!?

 

「――は! 彼は無事だよ。あと少しで敵を殺れたらしいがな、血にビビったところを姉に助けられた。まあ、慣れないうちに殺しを体験して心をやられるよりかはマシだが。しかしこれでは何もかも少佐の思い通りだ。まったく腹立たしいことに」

 

――少佐?

そいつが亡霊とやらを率いてるの?

これは失言ね。

後できっちりと少佐とやらを調べさせてもらうわ。

それに、ひとまずは一夏も無事みたい。

 

「へぇ。あんたはその少佐ってやつにしてやられたみたいね。ふふん、無様なこと」

 

あれだけ私をあざけってくれたのだ。

反撃してもいいだろう。

 

「くっくっく。そのとおりだよ、してやられたのさ。だが、最期に勝つのは私だ」

 

その顔は絶対の自信に満ちていて――、人間のようではなかった。

屈辱や敗北ですら楽しんでいる。

ありえない。

屈辱は嫌だからこそ、経験すらしたくないと思うからこそ屈辱と呼ばれるのだ。

自分が嫌だ、と思う気持ちを楽しめるなど人間ではない。

思考そのものが矛盾している。

面白くないものを面白く思う。

この絶対矛盾こそを人は奈落と呼ぶのだろう。

 

「さて、ここがアリーナだ。ISを持って来ていないなんてことはないだろう?」

「――当然」

 

待機状態のアクセサリーをかざしてみせる。

腕を振りかぶって――

 

「「勝負!」」

 

ISを装着。

目と鼻の先から双天牙月で斬りかかる。

青龍刀の一撃をどう避ける? 神亡奈落――!

 

「は?」

 

あろうことか、そいつは手榴弾を放ってきた。

――正気!?

確かに基本装備の一つには含まれていたと思うけど……それじゃ自爆じゃない。

動きを止める。

それから腕をかざして防御態勢に。

 

「やはり、この程度の戦術にすら対応できんか」

 

ムカつく声が聞こえた。

そして、爆発。

 

「――ぐっ! そうか……! あのまま斬りかかっていれば、斬れたのに」

 

後悔は後。

別に大したダメージは受けてない。

神亡はどこに行った?

自爆まがいまでして距離を離したのだ。

射撃が来る。

なら、龍咆で向かい撃つ!

 

「来なさい!」

「ならば、行かせてもらおうか」

 

声が聞こえてきたのは――、後ろ!?

爆風に乗って距離を離したんじゃ……?

 

「あがっ!」

 

重厚な音とともに大口径の弾丸が幾発も背中を叩く。

衝撃が体を貫いて――かなり痛い。

あいつ、後ろをとったからって馬鹿でかい機関銃なんて。

まずは迎撃より、射線から逃れなきゃ……!

 

「それで逃げているつもりか? 龍咆はどうした――。空間に圧力をかけて射出する見えない銃弾。たとえ空気を圧縮しても、ハイパーセンサーがある限り普通の銃弾と同じように見える。だが、空間そのものを弾にする龍咆なら話は別。見えない銃弾をかわすという経験を一度くらいはしてみたかったものだが――」

 

野郎! ふざけんな。

そっちがそう言うなら、見せてやろうじゃない。

龍咆の力を!

 

銃弾の雨の中で強引に体をねじって集中。

龍咆を起動。

 

「喰らえぇ! 喰らって堕ちろぉ」

 

そして射撃。

 

「ええ――?」

 

かわしてる?

見えない砲弾を……。

何発撃っても全然当たらない。

だけど、アイツの銃弾はあたしのエネルギーを着実に削っていって――。

 

「やはりな。操縦者が狙っているなら、回避は可能。操縦者が狙っているエリアに入らなければいいだけの話。狙っても当たらないなんて基本的なことを、なぜ知らないでいられるのか――」

 

奴には独り言をぼやくだけの余裕がある。

あたしの龍咆をかわし、さらには機関銃でエネルギーを着実に削っていながら――そんなふざけた真似ができるなんて。

 

「――え?」

 

機関銃を捨てた?

何のつもりよ。

まだ弾は十分余っているでしょうに。

だって、弾切れになるほど私はかわせてない。

 

「まあ、これだけで仕留めるのもアレだろう。お前が弱いことを証明するには、これだけでは足りんだろうからな。負けたのを龍咆の性能のせいにできてしまう」

 

つまり、あたしを舐めてるってことじゃない。

絶対に一撃は入れてやる。

ここまで舐められてあっさりとやられたんじゃ、あたしの女が廃る!

 

「はあああ!」

 

二本の青竜刀――双天牙月を連結。

龍咆を撃ちまくりながら、手に持った双天牙月を回転させる。

――接近戦なら!

 

「適当に撃つのは正解だ。しかし、技能が足りん」

 

予想通り、龍咆は全部かわされる。

けれど、それくらいは予想済み。

本命は接近戦よ!

突進して、そのまま最高速を維持しながら突く。

 

「……っ!」

 

最速の一撃。

――あたしができうる限りで最高の。

これなら……!

 

「――あ?」

 

私の全力の一撃は、あっけなくかわされた。

あいつの手には青龍刀。

あたしと同じ武器。

どこまで馬鹿にするのだ。

 

けど、あたしの体勢は先ほどの一撃を放つので崩れきっていて。

あいつの攻撃をどうすることも出来ない。

何もできない。

あいつの持つ青竜刀が閃く。

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