IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第14話 強者となること

「さて、お前たちもしっかりと見ていたな?」

 

奈落がそう言うと、一夏、セシリア、ついでに箒が出てくる。

鈴音は呆然として――

 

「はは。一夏、感動の再開のはずがこんな無様な姿を見せることになるなんてね。笑いたければ笑うといいわ。せっかく代表候補者になったのに、この様よ」

 

崩れ落ち、自己嫌悪に身を沈める。

その姿は悲哀に満ちている。

小さい矮躯が更に小さく見える。

 

「いや、奈落は強すぎるから仕方ないと思うぞ。俺としてはあれだけ喰らいつければ十分すごいと思うんだが。――ああ。忘れてたけど、久しぶり、鈴音」

 

慰める一夏。

やはり顔を掴まれて飛び回られたり、殴られたりしたことは精神に深く刻み込まれているようだ。

認識の上ではブリュンヒルデと同格だったりする。

つまり、敵うわけがない。

 

「なんで、そんなにあっけらかんとしてるのよ――。もういいわよ、どーでも。あんた、何がしたかったの?」

 

うんうんとうなずき、同類の視線を向ける一夏に毒気を抜かれる。

同じならまあいいか――なんて、思ったりする。

 

「君たちを強くしようと思ってね」

 

そんな微笑ましげな空気を無視して奈落は自分の用事を果たす。

あまり前後の会話との整合性が取れていないが、彼にとっては筋が通っているのだろう。

 

「はぁ? そんなちょっとやそっとで強くなれんなら誰も苦労しやしないわよ」

「そう思うかな、鈴音。まあ、それも状況次第だ。一夏の例では簡単だ。一夏、鈴音に白式のことを教えてやれ」

 

何を思ったか、いきなり変なことを言い出したかと思ったら、すぐにまた訳の分からない方向へ会話をねじ曲げる。

もはや何をしたいのだか、てんでわからない。

 

「おお。俺の白式の特徴はなんて言っても雪片弐型で、一撃必殺の【零落白夜】が使えるんだ。――こいつだな。けど、一撃必殺の代わりにシールドエネルギーを使っちまう。さらにはこれ以外の武装がない。……これでいいか? 奈落」

「まあ、そんなものだ。で、改善案はあるか?」

 

それでも律儀に答える一夏。

 

「へ? いや、俺が強くなればいいんじゃないかな」

「それは簡単ではないな。もっと根本的で身も蓋もない方法がある」

 

強くなるには、そのまま強くなればいい――。

単純だが、真理だ。

しかし、奈落が求めているのはそれではない。

強い奴は強い。

それはアタリマエのことであって、他人を強化する手段ではない。

 

「「「?」」」

 

全員が首をひねる。

そもそも質問の意義自体わかっているか怪しい。

いや、奈落の言い方が悪いのだが。

 

「総エネルギーを増やしてしまえばいい。具体的にはジェネレーターの交換だ。競技では使用禁止だが、軍用のものを使えば三倍は行くぞ」

 

身も蓋もない――それはルール違反だった。

まあ、ルールに違反しなくとも今のジェネレーターよりも出力が高いものはいくらでも存在するが。

 

零落白夜という必殺技はエネルギーを大量に使い、それで負けようともおかまいなしだ。

だから、元々のエネルギー自体を増やしてしまえば使用時間が増える。

使用時間が増えれば当然、一撃必殺が当たる可能性も高くなる。

 

「へぇ。そんなことできるのか?」

 

一夏が期待に目を輝かせる。

使いにくいと思っていた自らの機体に、そんな簡単な解決法があるなど想像だにしていなかった。

出来ることなら今すぐやってもらいたい、それが素直な感想。

 

「いや。そこらへんは倉持技研やら日本の許可が要る。まあ、正当にやるのは難しい。違法改造していいなら楽なのだが」

「いやいや。それってどうよ?」

 

とはいえ、世の中にそんな甘い話が転がっているわけがない。

一夏に与えられた専用機とはいえ、その管理責任は倉持技研にある。

さらに、ISの改造は一人でぱっぱとやれるものではない。

世界の軍事バランスを動かす兵器なのだ。

――他国への配慮など色々な枷がある。

「改造しちゃいました」で済むわけがない。

 

「だろうな。まあ、こちらは採用する気はない。そんなものはいざという時になってからでも遅くない。これを見ろ」

 

手を差し出す。

何も起こらない。

――いや、手の上にノイズが走る。

 

素数変換方程式(ホワイト・スネイク)

 

手のひらに一枚のディスクが現れる。

それはなんだか、突然現れるという酷く現実離れした登場の割になんの変哲もないただの円盤型記憶装置だった。

ようするにDVD、もしくはCD。

そこら辺のショップで50枚1000円くらいで買えそうな。

 

「これは?」

「これを使えば強くなれる。そうだな――、例えるなら経験値取得薬(ふしぎなアメ)ということにでもなるのかな? とにかく、こいつで経験値を得られる。ISの操縦にあたって経験は何よりも優先する」

 

才能などというどうしようもないものを除けば、結局は経験値がモノを言う。

慣れておかないと戦闘兵器を手足のようになんて使いこなせないのだ。

 

「便利ですのね。……でも、ドーピングには副作用が付き物ではないですこと?」

 

疑わしげなセシリア。

まあ、相手が相手で――何ができてもおかしくないような人物ではあるが。

この口上はまるで麻薬を勧める売人だ。

 

「ドーピングに副作用などない。ただ、作用に体が負けただけだ。正しい作用なのだから、別に副作用ではないよ。これも同じ。負ければ廃人になる。勝てば強くなる。ただ――それだけだ」

 

疑わしいものを見る目つきのセシリアにさっさと全貌を教えてやる。

 

「ちょっと! 負けたら廃人になるって――。そんなの、使えるわけないじゃない!?」

「なぜだ? 負けなければいいだけの話だろう」

 

悲鳴をあげる鈴音を疑問の目で見る。

負けたら失うのは当然のことで、それにとやかく言う方が間違っている。

 

「そんな簡単に言わないでよ!」

「何かを得るためにはリスクは受け入れなくてはならないだろう?」

 

セシリアも。

そこまで警戒する理由がわからない。

 

「……奈落。それで強くなれるのか」

「ああ。お前らならば負ける理由がない」

 

一夏。

お前は受け入れたか。

そう、覚悟なくして強くなることなどできない。

ここで一歩を踏み出す事こそ、強者たる資格なのかもしれない。

 

「――だが、こいつをやるのは困るし、一枚だけではどうしようもない。だから」

 

投げ上げたディスクは四枚になって落ちてきた。

片手で全てつかむ。

 

「増やした。で、これはこう使う」

 

ディスクを頭に差し込むと、そのまま頭の中に消えていった。

 

「おお!」

 

凄いものを見た、と喜ぶ一夏だが――。

 

「「は?」」

 

セシリアと鈴音は怖いものでも三鷹のように呆然としている。

――当然だ。

この世界のどこに物質を通り抜けるディスクがあるというのか。

眼の前にあるわけだが、そんなものは見たことも聞いたこともなかった。

話に聞くだけなら、一笑に付すだけだが。

見てしまった以上、信じるほかない。

 

「こういうことだ。しかし、私は特別でそもそも元が私のだ。拒否反応が出ることはなかったが、お前らは違うぞ。脳が破裂するかと錯覚するような負担がかかる。これに耐え抜けたら、強くなれるぞ。――とても、な」

「――なあ、奈落。お前は始めからこれを使わせるつもりだったのか?」

 

「ふん? 珍しいことに核心をついてきたか。――ああ、こんなつまらないものは使うつもりはなかったよ。けれど、思った以上に時間がないようだからな」

「何が起きるんだ?」

 

全く、忌々しいやつだよ、少佐。

お前がもう少し愚鈍であったならば、な。

 

「――戦争だよ。一心不乱の大戦争だ。亡霊が世に現れるまで、私達がこの学園を卒業できるくらいの余裕があると思っていたのだがな。どうやら、もう何ヶ月もない。いや、一ヶ月すらあるかどうか」

「「「戦争!?」」」

 

驚くか。

まあ、ISが登場して以来戦争なんて起きてないしな。

まあ、女尊男卑社会になって男がした過ちを繰り返さなくなったといえば聞こえはいいが――実際にはどこの国家にもそこまでの余裕がないだけだ。

その国家が戦争に巻き込まれる時……

ふん、どいつもこいつも愚かだな。

 

「そうだよ。その通り。第三次世界大戦さ」

「そのこと、IS委員会には――」

 

私をどんな冷血だと思っているのだ?

人を助けるような行為など絶対にしないなど、それはもはや正義の領域だ。

こんなことを黙っていればペナルティを喰らうのは当然のことで――信じないやつを“それみたことか”と嘲笑えないではないか。

 

「信じてもらえてないようだね」

「――っ! まあ、そのような荒唐無稽な話、信じるほうがどうかしておりますわ」

 

口に出した言葉とは反対に苦り切った、眉をひそめる顔。

戦争が起きたらどんな悲惨なことが起きるか、考えたくもないようだ。

だが、戦争を荒唐無稽と笑うならこんな顔はしない。

脳天気に笑っていればいい。

 

「セシリアは信じるか?」

「もちろん。先生の言うことは聞くものでしょう?」

 

沈んでいた顔を一変させて気丈に笑う。

やれるものならやってみろ。

私達がそんなことさせない、とその顔は言っていた。

まあ、根拠の無い自信だが。

 

「――あんたら、おかしいわよ! なんで、平然とそんな話ができるのよ? 戦争なんて、絶対に起こしちゃいけないわ。どれだけの人々が戦争によって悲惨な目にあったと思っているのよ!?」

「それは問題ではないな、鈴音」

 

駄々をこねる鈴音を両断する。

そんなものは問題とはされていない。

そう、被害者の気持ちなど――誰も気にしちゃいない。

気にしているように見えるなら、それは自分のために利用しているだけだ。

 

「そんなふうに切り捨てないでよ! なんとか戦争を回避する手段だって――」

「あるならお目にかかりたいものだし、そのためなら力を貸すことも惜しまないよ、私は。けれど、戦争を起こすのは彼らだしね。私達にできるのは無抵抗を叫ぶことではなく、力を蓄えることだ。勝てない奴に挑む馬鹿はいない」

 

そう、戦争を起こすのは少佐たちだ。

自分たちは武器を持ってないと言っても気にしちゃくれない。

彼らは人を殺したくてたまらないのだから。

 

それでも、戦争を防ぎたければ暴力しかない。

実際に使う必要はない。

自分たちはこれだけの力を持っているぞ、と誇示すれば攻められない。

戦争がなくならないのは武器があるからではない。

そもそも武器などどこにでも――銃を禁止する日本の中でさえいくらでもある。

 

銃がなければ爆弾を。

爆弾がなければ包丁を。

包丁がなければ棍棒を。

棍棒がなければ拳を。

 

つまるところ、どんなものでも人は殺せる。

 

戦争が起きるのは戦力の不均衡が生じた時だけだ。

弱い奴と強い奴がいなければ成立しない。

武器がなければ戦争は起きないとかいう奴は、間違っている以前にこの世界に住んでいない。

何処か別の――見かけだけは花畑のような場所に住んでいる。

 

「――でも」

「くどい。どうしようもないと言った。戦争をどうしても回避したいのなら、奴隷になるしかない。自分の富や家族を差し出し、死ぬまで奴隷で居続ければ――少なくとも相手が自分に殺されることはない」

 

そして、戦争を回避する手段はもうひとつ。

日本人ははからずもこれを実行するのかな?

 

「そんなの、あんまりよ」

「それが現実だ。嫌なら首をかっ切れ。案外、良い夢が見られるかもしれんぞ?」

 

臨死体験とかいうやつだ。

何回か死んでみた者として言わせてもらうが、あれは単なる幻覚の一種だった。

救いようのない話だ。

救いは夢の中にしかないとはな。

だが、我々が居るここは現実だ。

だからこそ私達は変えなければ――、いや。これは蛇足だ。

 

「なによ、それ――」

 

それを言いたいのは私の方だ。

現実は現実であって、受け入れられるかとかいう以前に――すでに己が中にあるものだ。

どうして現実を酷いとかそういうことを言えるのだろう?

 

「奈落、ディスクをくれ」

 

手を差し出したのは一夏。

震えている。

だが、その目には覚悟がある。

――リスクを受け入れたか。

見上げた根性だ。

 

「「一夏(さん)!?」」

 

驚く面々。

どうせ、リスクを受け入れるのが嫌なだけだろう。

 

「俺は、平和に暮らしている人々が不幸になる姿なんて見たくない。――お前は人々の敵を潰すつもりなんだろう? なら、俺も手伝う。お前のいう強者となって」

 

うなずいた。

決意は全く揺れもしない。

彼女たちにはもはや止められない。

 

「良かろう。くれてやろう、力を! そして、ともに亡霊共を墓場ごと砕いて燃やし尽くしてやろうではないか」

 

ああ、嬉しいよ。一夏。

この程度で怖気づくようなら私は君を見捨てていた。

初めてできた友達を見捨てないで済んで――本当に良い気分だ。

 

「おう。やろうぜ。そんな悪魔はいっしょにぶっ潰してやろう」

「よろしい。さあ、祝福と――試練だ」

 

ディスクを差し出す手、しかしその手に持ったディスクは奪い去られた。

物陰から見ていた箒によって。

――ち。

ここで出てくるか。

この喜びに水を差すとは、無粋なやつ。

 

「――ああ、なんだ? 箒、今更出てくるのか。私が呼び出したのは専用機持ちだけなのだが、隠れているお前を見逃してやっていたのは私だし、それはいいとしよう。しかし、なぜ奪う? お前も欲しかったのか」

「そんなわけがない! こんなものに頼って得る力など、本当の力ではない」

 

「ふむ、努力して得た力というやつか。――それは純粋に才能の力でしかない。ゆえに、正しい力というのは、いつだって弱者に向けられるものだ。一夏は邪悪の道に進もうとも平和の敵を倒そうとしているのだぞ。その気持ちを汲めないか」

「馬鹿馬鹿しい! 何が邪悪でもって弱い人々を救う、だ。そんなものは努力することに耐えられなかったものの妄言だ。それで誰かが救えると本当に思っているのか!?」

 

「悪い、箒」

「な? 一夏――」

 

さっと奪ってディスクを頭に差し込んでしまう。

 

「なんてことを!? お前、これが織斑先生に知れたら……」

 

頭を抱える箒を無視して、二人に問いかける。

 

「どうする? 力を得るか、それとも引き下がるか。しかし、私は弱い奴が一夏の隣にいることを許さない。その場合は君たちの本国に工作して連れ戻してもらうようにする。まあ、こちらのほうがまだ安全だ」

「私をなめないでくださるかしら、奈落さん。ここで怖気づくような私ではございません。殿方に勇気を見せられ、なお進む勇気を持てないなど淑女ではありませんもの。――さあ! そのディスクをお渡しください」

 

「ふ。中々の心意気だ。魅力的だな、君は」

「当然ですわ」

 

放ってやったディスクを躊躇うことなく自らの頭に突き刺した。

 

「ああ、もう! こんなことをやられて引き下がれるわけないじゃない。頭がしっちゃかめっちゃかだけど、いいわ、神亡奈落。貴方の策略に乗ってあげる。――別に一夏がやったからなんかじゃないんだからね」

「よろしい、では、君も」

 

鈴音の方はこちらは恐る恐るとディスクを差し込んで、痛みや不快感がないとわかるとそのまますべて入れてしまった。

 

「なあ、奈落。入れたけど、別にどうにも――」

 

言いかけたところで異変が始まる。

頭が割れるように痛み出したのだ。

 

「ああ。書き込み(ダウンロード)が終わって適応(インストール)が始まったか」

 

「ちょっと!? 奈落さん。これは一体――。っぐ!」

「なに? なんなのよ、もう――。っ痛!」

 

這いつくばる。

頭の痛みが立っていられないレベルまで増大したのだ。

膨大な苦痛の中で息を荒くする。

 

「二人共ディスクを差しこんだろう。当然そうなる。――さて、箒。三人を運ぶのを手伝ってもらえるか」

「――神亡」

 

「そんなに睨むな。それとも、放置するのか?」

「……っち」

 

舌打ちしながらも一夏を背負う。

ということは、私が背負うのはセシリアと鈴音か。

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