IS 第三次世界大戦   作:Red_stone

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第15話 実感

「インストールが完了するまでに一夏が一晩、オルコットは三日、鈴音は一週間かかったか。まあ、鈴音は発狂しながっただけましだと思おう」

 

脳に無理やり記憶をインストールして経験値を増やすなんてのは初歩の初歩だと思うのだが。

まあ、これでも心の弱い人間は苦痛に心をやられてしまう。

それに、ぎりぎりで間に合ったしな。

 

「酷いこと言うわね。……で、病み上がりの私にそんなことを言いに来たの? 一夏たちまで連れてきて。そっちの子は誰よ?」

 

この部屋にいるのは全部で五人。

その中で唯一専用機を持っていない人物。

ニコニコと無邪気な笑顔を振りまいている。

 

「こいつは布仏本音だ。別に気にしなくていい。悪いが――病み上がりだのと悠長なことを言っている暇はない。さっさと本題を話すぞ」

「……何の話? もしかして、戦争がどうたらってやつ」

 

戦争か。

まあ、そちらはそちらで心配要素だ。

しかし、それにばかり気を取られてもしょうがない。

イベントは着実に消費しなくてはな。

――だが、こいつは中国の代表候補だ。

知らないわけがないのだが。

 

「君はそれに合わせて転入したのではなかったのか? 明日からISのリーグマッチがあるだろう。すでに君は二組の代表となることが決定していると聞いたが」

 

例によって中国からの無理矢理な横槍だが、二組の代表者がすんなりと受け入れたことで話がスムーズに進んだ。

もしかしたら色々と中国の役人の方で根回しをしておいたのかもしれない。

 

「――ああ。そんなんもあったわね。で、それについての話ってわけ?」

「その通り。まあ、代表ではないオルコットにはそれほど関係がないし、本音にはもっと関係がないのだが、本人が希望したからな」

 

「……そんな理由で私の部屋は溢れかえりそうになってるわけね。――いいの? 専用機持ちじゃない子を話に入れて」

「別に構いやしない。そんなことより、そこまで苦しんで得た力を使ってみたくはないか?」

 

「つまり、リーグマッチで新しい私を見せてみろってことね。――上等。私の相手は誰かしら?」

「一夏だ」

 

「――なるほど。そういうことね。やってやろうじゃない」

 

「鈴。よろしく頼むぜ」

「ええ。当日はお互いに全力をつくすわよ。――でないと、ぶっ殺してやるんだから」

 

「はは。怖いな。――でも、安心しろよ。女だろうが手は抜かない」

「結構変わったもんね、あんた。それはアタシもだろうけど。ま、よろしく」

 

両者は闘士をたぎらせているのに、視線そのものは温かいという熟練した戦士の気配がそこにはあった。

 

 

当日、アリーナで。

 

「さて、当日ね。随分と早く感じるわ」

 

位置についた鈴音は観客席の方を見渡しながらしみじみと語る。

とても落ち着いていた。

戦闘が始まるまでは気力を温存しておく。

それが闘いの巧者の在り方。

 

「それはお前が授業に出ずに寝てたからだろ。あの後すやすやとぐっすり寝やがって。あの後俺達は遅刻したんだぞ」

 

しかし、落ち着いているのは一夏も同じ。

遠い目をしている彼女とは違って、こちらは完全にいつもどおりの授業の休み時間みたいな感じである。

 

「そ、ご愁傷様。――ご愁傷様ついでに負けてみる?」

「言ってろ」

 

両者が位置につき、カウントが始まる。

 

「――で、あんた、奈落の言う力とやらを試してみた?」

「いいや。脳を休めておけだってよ。お前との闘いが初めてだ」

 

世間話のような気楽な調子。

だが、奥底にはふつふつとたぎるものがある。

まるで噴火を目前にした火山。

 

「そう。条件は互角。なら――」

「――初めから全力勝負!」

 

――ピー――

 

試合が始まる。

 

ゴングが鳴らされた瞬間の瞬時加速。

一夏の高速突撃。

だが、鈴音も後ろへ下がっていた。

彼女はまだ瞬時加速を使えない。

だが普通に後退することで、距離を詰められるまでの時間を一瞬伸ばした。

 

「そう来ると思っていたわ」

 

一目散に突っ込んできた的に龍咆を打ち込む。

空間に圧力をかけることで銃身を作り、衝撃を飛ばす特殊兵装。

目線を読んで避けようにも、そもそも狙ってすらいない。

ただただ相手がいる方向にばらまいている。

それに加えて弾どころか砲身すら見えない。

これではかわせない。

 

「……っぐ! 見えない攻撃。なんて厄介な。だが、威力は低いぜ」

 

回避することができないとわかった瞬間、一夏は再度の突撃を決意する。

かわせないなら、よけない。

すさまじいまでの決断力。

突撃など普通であれば躊躇してしかるべきだ。

 

「行っけえええ!」

 

連続した瞬時加速で加速方向を連続的に変更し軌道を読みづらくする。

――稲妻のように駆け抜ける。

そのUFOじみた動きは、人間の目で対応できるものではない。

 

「……っ!? そんな軌道、人間業じゃ――。いえ。そんな常識はいらなかったわね」

 

元々適当に撃っていて一秒に2,3発も当たれば良いほうなのだ。

当たらなくても別に構わない。

ばらまくことが重要だ。

牽制にさえなればいい。

 

「「勝負は接近戦でつける!」」

 

ついに一夏の刃が鈴音に届く。

だが、その刃は青龍刀に受け止められた。

 

「双天月牙。生憎とあたしは接近戦が得意なのよ」

 

切り返し、さらに斬撃を加える。

 

「っち――!

 

さらなる猛攻。

――突き。

――切り上げ。

――横薙ぎ。

――振り下ろし。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

あるときには攻撃がそのまま次の攻撃に繋がり、あるときには強引に位置を変えて反撃の芽を摘む。

少しずつエネルギーが削っていく。

 

そして――チャンス。

猛攻のうちに一夏の握力がわずかに緩んだ。

鈴音はそれを見逃さない。

 

「は!」

「くぅ!」

 

鈴音の一撃は雪片弐型を打ち上げた。

彼は無防備な状態をさらしてしまう。

 

「もらった――!?」

 

腹に双天月牙を叩き込もうとした瞬間、顎に凄まじい衝撃が走り――武器を取り下ろす。

頭がクラクラして混乱する。

とにかく、状況を把握することにつとめる。

 

(今眼の前にあるのは――足? つまりは顔を蹴り上げられたってことで……まずい!)

 

罠にかかったのは鈴音の方だった。

頭は仰け反り、手は下ろした状態で武器すら持ってない。

急所をさらけ出されたのは自分のほうだった。

 

(わざと隙を作って攻撃を誘い、攻撃を受けたふりをして誘い込んだ……まんまとしてやられた)

 

鈴音の目にちらりと蒼い光が映り――。

 

「やるわね、あん――

 

爆音が響いた。

 

「なんだ!?」

 

零落白夜を停止させて叫ぶ。

音は真上から降って湧いた。

 

「あれは、黒いIS? アリーナのバリアを粉砕したっての? 何処の馬鹿があんなもの繰り込んできたのよ」

「それは俺にもわからない。けど――」

 

それは黒く昏く、影のようで――それだけのIS。

全身装甲(フルスキン)タイプで操縦者の顔どころか肌さえ見えない。

暗殺者にしては目立ちすぎている。

 

「私達で止める、って? 上等」

 

ニヤリと笑う鈴音。

全く敵を恐ろしく感じてはいない。

だが、敵の脅威は十分に認識している。

戦闘というものを完全の己のスキルとしている証だ。

熟練の戦士と呼ばれるに相応しい在り方である。

 

「お前は別に手伝わなくても……」

 

こっちは単純に鈴音のことを心配している。

戦士としての素質なら鈴音のほうが上かもしれない。

彼には勝てない相手でも向かっていってしまうような危うさがある。

 

「は。冗談じゃないわよ。あんたがやるならあたしもやるわ。嫌なら教師部隊に任せることね」

「わかった。なら、怪我しないように気をつけてな」

 

うなずき合って敵に向き合う。

敵は彼らを観察していたが、それは彼らも同じ。

隙ができたのに攻撃しないということは、敵の目的が彼らもしくはどちらか一方にあると見て間違いない。

ならば、生徒が逃げる時間を稼いで後は速攻で片付ける。

 

「あんたもね。じゃ、戦術は」

「俺が守りでお前が攻めだ」

 

あえて、前提となることは言わない。

二人共、やるべきことはわかっている。

今のは確認ではなく、合図。

 

「それじゃ、行きますか」

「ああ。――っふ!」

 

直後、一夏は瞬時加速で駆け抜け、突貫を実行する。

 

「――」

 

黒いISは一夏を認識し、両腕に付いたビームバズーカを発射する。

アリーナのバリアを破った武器だ。

まともに喰らえばエネルギーを一気に持っていかれる。

試合でエネルギーを消費した彼らは一発ももらえない。

 

「っうお!?」

「……バカ! せめて牽制してから突撃しなさい。――龍咆!」

 

狙いを定めて連射する。

黒いISはまるで見えているかのように造作もなくかわす。

 

「こっちだ!」

 

一夏は突撃と、攻撃を与えられなくとも離脱して注意を引こうとする。

今は様子を見ている段階だ。

うかつに近づくと何をされるかわからない。

それに、避難が完了するまでの時間を稼ぐ必要もある。

今は教師たちが避難を誘導、再びロックされたバリアをこじあけようとしている段階だ。

しかし、二人に助けを待つという選択肢はない。

 

しばらく龍咆の連打と瞬時加速の音が響く。

 

だが、黒いISはただビームバズーカを放つだけ。

一夏たちの動きに慣れてきてはいるが、決定打を出せずにいる。

 

彼ららの方もリスクを取らないだけあって全然攻撃を当てられていない。

そろそろ避難が終わる。

なら、遠巻きに様子を見る必要もなくなる。

 

「鈴! これなら行ける」

「無茶はしないでね。――あたしから仕掛ける」

 

と、いきなりリズムを崩す。

龍咆の狙いがぐちゃぐちゃになり、黒いISは鈴音を注視する。

何を馬鹿なことを。と言っているように鈴音には感じた。

だが、馬鹿をするのが作戦なのだから仕方がない。

そして、わかりきった突撃。

 

「甲龍の力はこれだけじゃあないのよね。双天月牙!」

 

ニヤリと笑いを浮かべて、連結した青竜刀を振りかざす。

当然、ビームバズーカを向けられるが、最大出力の龍咆でそらす。

 

「パターンが単純すぎんのよ――」

 

鈴音の攻撃が届く。

その一瞬前に――黒いISはいきなり加速する。

……後ろに回り込む。

腕に光が収束する。

 

「だから、あんたの動きはわかりやすすぎるって言ってんでしょ。――すでに狙いは定めてある。砲弾の狙いは前方だけだなんて、誰が決めたのかしら?」

 

後方で大きな爆発が起こる。

鈴音は一撃を打ち消した後、砲身を後ろに固定していた。

そして、相手が視界から消えた瞬間に最高出力で撃ち放ったのだ。

龍咆はエネルギーを充填している最中に大当たりし、自分の攻撃エネルギーが黒いISを襲ったのだ。

 

「――」

 

だが、龍咆の攻撃力は燃費を優先させているだけあって弱い。

たとえ最高出力でもこいつを倒すどころか、下がらせることすらできない。

だが。

 

「隙はできたでしょ? あたしの役目はほんの僅かの間、あんたの動きを止めること。とどめを刺すのはあたしじゃない。やりなさい、一夏」

「おうよ! 【零落白夜】……!」

 

蒼い光が黒いISを切り裂いた。

 

「ふふん。大したことなかったわね、こいつ」

「ま、そうだな。いやにゲームっぽい動きだったし。まあ、被害はアリーナのバリアくらいで良かった」

 

「どうかな? 避難行動中に何人か怪我人が出てるかも」

「嫌なこと言うなよ。それより、コイツは何なんだ? 学園に喧嘩を売ろうとしたのか、まるで意図が読めない」

 

「そうね。それに、こんな全身装甲のタイプのISなんて見たことないわよ。全身に装甲をまとうなんてそれこそ、第一世代くらいのものじゃない?」

「……そうかもしれない。だけど、こいつにはまるで不自然な挙動がなかった」

 

「さっきと言ってたことが違わない?」

「さっきのは行動ルーチンの話だ。まるでゲームの敵みたいな行動パターンだったんだよ。けど、今言ったのはこいつの動作そのものだ。――鎧をまとった人間の動きとは思えない。動きに制限がかかるから、第二世代以降の装甲は簡略化されたんだろ」

 

「そうかしら? 第一世代の動きなんてもうほとんど忘れちゃってるからなんとも言えないわね。ぎこちなかった気もするし、こんなんじゃないかって気もする」

「まあ、その辺は後で奈落にでも聞けばいいか」

 

「――あいつ、そんなことまで知ってるの?」

「……多分」

 

「何者よ?」

「……ええと――」

 

「ま、いいわ。それほど悪い奴ってわけじゃなさそうだし」

「ああ、けど」

 

「一夏!」

 

「――箒!? 何でお前が……」

 

キュイン、と僅かな音が響く。

黒いISはまだ――“生きている”。

再び光が収束し、その腕が向けられた先には箒がいる。

 

「やらせるか!」

「ちょ!? 一夏」

 

二人に油断はなかった。

いきなり活動再開されても全く問題はなかったはずだった。

雑談に興じているように見えて、敵から全然視線を逸らしてなどいなかった。

――が、いきなり現れた箒が注意をかっさらってしまった。

 

結果、一夏も鈴音も反応が一瞬だけ遅れた。

そして一夏は箒に盾になろうと己の身を危険に晒し。

鈴音は龍咆にエネルギーを集中させる。

 

「――」

 

龍咆が届く一瞬前に光は解き放たれた。

腕は潰されたが、放たれた光は残る。

――無防備な一夏にせまる。

 

「おおおおお!」

 

そして、零落白夜は光を切り裂いた。

 

「一夏! まったく、無茶するんだから」

「はは、悪い。体が勝手に動いてた」

 

「じゃ、そろそろバリアも開放されることだし、奈落に事の顛末を吐かせに行きましょうか」

「――そうだな。こいつのことはちゃんと知っとかないと後味が悪い」

 

二人の視線の先には潰された腕がある。

血も肉もない、機械でできた腕。

それはISのパーツ。

腕の付け根からもネジやら配線やらが覗いている。

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